『フレンチアルプスで起きたこと』 ベタだけれど「男はつらいよ」と言いたくなるかも

 カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した作品。
 監督はスウェーデンのリューベン・オストルンド。ちなみに原題は「FORCE MAJEURE(不可抗力)」で、「TURIST」という題名で上映されたときもあるようだ。

リューベン・オストルンド 『フレンチアルプスで起きたこと』 いかにもそれらしい家族写真を撮ってみせる4人。


 アルプスの山々を臨むフランスのリゾート地にバカンスにやってきたスウェーデン人一家。仕事が忙しいトマス(ヨハネス・バー・クンケ)にとっては、年1回の家族サービスのときでもある。思う存分にスキーを楽しむ4人だが、2日目のランチで思わぬ出来事に遭遇する。白く聳え立つアルプスから雪崩が発生し、4人のいるレストランのテラス席まで雪崩が押し寄せてきたのだ。突然のことに、トマスは妻と子供たちを置いて逃げ出してしまう……。

 危機的状況に陥ったとき、平時と違う人の本性が見えてしまうということはあるのだろう。この作品のパンフにも資料を提示してそのあたりが詳しく説明されていて、オストルンド監督も「似たようなケースを調べると、生死にかかわる大惨事に見舞われた生存カップルの多くは離婚し、また生死がかかったアクシデントに遭遇すると、男性は女性に比べると、逃げ出して自分を守る傾向があるということがわかりました」と語っている。
 しかし、監督自身が男性に肩入れしてくれるからといって、逃げ出したことが男性の本能に備わっているものだからといった言い訳が通用するとも思えない。作品中では、冷静なマッツというキャラがそうした言い訳役を担っているが、それほど説得力があるわけではない。結局大事には至らずそのままランチの続きになるわけだが、妻も子供も席に戻ってきたトマスにかける言葉もない気まずい空気が流れる。
 町山智浩はこうした状況が「男にしか起こらない」「逆のパターンがない」と指摘していて、それはなぜかと言えば、女子供は守られるべき存在で、たとえ逃げ出したとしても許されることに何となくなっているからだ。それが社会の求める役割というものなのだろう。オスの動物的本能としては逃げ出すことが自然なのに、社会的存在としての父(夫)としてはそんなことは許されないわけで、そのあたりの齟齬がアクシデントによって明らかにされるのだ。

『フレンチアルプスで起きたこと』 人工的に起きたはずの雪崩は予想外に大きくなり、4人のいるテラスにまで襲いかかることに。

 トマスはこっぴどくやられることになる。最初は何ごともなかったかのように振舞うけれど、妻のエバ(リサ・ロブン・コングスリ)から糾弾されると「認識の違い」だと抗弁し、最後には追い詰められて泣きじゃくる。本当にひどいあり様なのだが、この『フレンチアルプスで起きたこと』では男のダメさ加減だけが取り上げられるわけではない。
 その後に生じる出来事は、ことごとく場違いで間が悪い。たとえば仲直りのハグをしたときに電話が鳴り、緊迫した議論の最中には子供の操縦するドローンが飛び込んでくる。後半で男ふたりがスキー後のビールを楽しんでいる場面では、女から誘われていい気分に浸っていると実は人違いだったとか、そんなふうに予測され期待される流れを裏切ることが起きることになる。
 そんなふうに出来事も予想を裏切るが、登場人物たちの振舞いも場違いなものだ。ここで“場違い”だと思うのは、その場に正しい振舞いがあるということが共有されているということだ。リゾートに来た4人の家族としては、それらしい振舞いというものがあって、夫婦や子供たちにもそれぞれ役割がある。しかし、彼ら(彼女ら)は期待された役割を裏切るようなことばかりしてしまう。トマスの逃亡もそうだし、妻のエバが会食の際にそのアクシデントを話題にし、友人たちを何とも言いようのない困った状況に巻き込むのもそうだろう。雪崩というアクシデントをきっかけに、そうした役割に沿わない行動が次々と生み出されていくのだ。

 そんなわけでバカンスは惨憺たるものになるが、シリアスになり過ぎずに笑わせるところがこの作品の雰囲気を決定している。場違いな振舞いはその場を緊張させたりもするけれど、それ以上に周囲を呆れさせる。そんな白々しい空気が漂う部分が妙におかしい。トマスは子供たちに配慮して部屋から出てエバと話し合いをしていると、人の目もある場所にも関わらず「自分が嫌になった」とあられもなく泣きじゃくるのだ。このみっともなさにはもはや笑うしかないのだけれど、その後のエバの対応は結構冷めたもので、それもよく理解できるくらいひどい醜態なのだ。
 そんな妙におかしい部分がある一方で、今にも何か起きそうな雰囲気もある。ヴィヴァルディの響き(「四季・夏」)、人工的に雪崩を起こすための爆破音、今にも止まりそうなリフトはハラハラさせるし、ドローンや電動歯ブラシのモーター音は何かの不気味な予兆のようにも思える。
 だから最後に山を下るバスにも不穏なものを感じてしまう。突拍子がないことが起きてもおかしくないわけで、観客の期待を裏切るように、山からバスが滑落して全員死亡とかいった結末さえあり得るように思えたのだ。実際には、ぎごちない運転に恐怖を感じたエバが騒ぎ出して途中でバスを降りることになり、バスは無事に走り去っていく。エバの過剰な反応は、子供たちを守るという役割への執着から来ている。唯一バスに残って山を下りた女は、妻という役割など気にせずに、自由に不倫の恋を楽しんでいた女だった。その女だけは与えられた枠組みなどに囚われずに、事態を冷静に把握していたということなのだろう。

フレンチアルプスで起きたこと [DVD]


関連記事
スポンサーサイト
Date: 2015.07.08 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

この記事へのコメント:


管理人のみ通知 :

トラックバック:


>>その行動 1つで・・・ from 笑う社会人の生活
24日のことですが、映画「フレンチアルプスで起きたこと」を鑑賞しました。 ビジネスマンのトマス、妻エバ、娘ヴェラと息子ハリーは一家そろってスキー旅行にやってくる。しかし 昼食をとっていた最中 目の前で雪崩が発生 大事には至らなかったが、その時に取ったトマス... >READ

2015.08.24

>>フレンチアルプスで起きたこと from C'est joli〜ここちいい毎日を♪〜
フレンチアルプスで起きたこと '14:スウェーデン  デンマーク フランス ノルウェー ◆原題:FORCE MAJEURE ◆監督:リューベン・オストルンド ◆出演:ヨハネス・バー・クンケ、リーサ・ローヴェン・コングスリ、クラーラ・ヴェッテルグレン、ヴィンセント・ヴェッ... >READ

2015.12.01

>>フレンチアルプスで起きたこと from 1964大阪生まれのネタバレ全開映画駄話
2015/07/21 シネリーブル梅田 8/10 いやぁー 笑った笑った!久々のぶっちぎりコメディでっせ皆さん! 世界にはまだまだ凄い人がいるんですねこのスウェーデンの監督さんまず観せてくれる画面のことごとくが凄いことになってます50年代のハリウッドかと錯覚させるほどのど… >READ

2016.01.13

>>フレンチアルプスで起きたこと from 映画の話でコーヒーブレイク
映画館で予告編を見て興味を持った本作。 DVDがリリースされたので鑑賞しました。 2014年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞です。 フレンチアルプスで何が起きたって? 気になりますよねぇ〜。なんとも意味深なタイトルです。 夫婦の危機、いや、家族の... >READ

2016.01.23

プロフィール

Nick

Author:Nick
新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

最新記事
最新トラックバック
最新コメント
月別アーカイブ
06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03 
カテゴリ
カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

タグクラウド

広告



検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
このブログをリンクに追加する
Powered By FC2ブログ


ブログランキングに参加しました。

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

QRコード
QR