ギドク脚本作 『鰻の男』 中国産の食物は本当に汚染されているのか?

 キム・ギドクが脚本と製作総指揮を担当した作品。
 監督はギドクの弟子らしきキム・ドンフ『レッド・ファミリー』では製作を担当)。
 妙な邦題になっているが、原題は「Made in China」である。

キム・ギドク脚本 『鰻の男』 主演のパク・ギウンは韓国では人気者だとか。彼が演じるのは中国人チェン。


 中国で鰻の養殖業を営むチェン(パク・ギウン)は、韓国へ輸出した自分の鰻が検査で水銀が検出されたことを知る。自分の鰻にプライドがあったチェンは、生きた鰻を持って韓国へ密航する(通常のルートでは生きた鰻は持ち込めないらしい)。韓国の食品安全庁へ辿り着いたチェンは、再検査を求めて女性監視員ミ(ハン・チェア)に掛け合うことになる。

 『鰻の男』では、中国と韓国との関係が描かれる。さらに中国のなかの朝鮮族も登場する(中国にいながらも朝鮮語=韓国語を話すらしい)。韓国は資本主義国として中国からの出稼ぎ労働者を受け入れてきたようだ。密航船では中国人と朝鮮族が韓国に希望を抱いて渡ろうとする。
 それでも韓国は彼らに厳しい。中国はなりふり構わずに近代化を進めたが、その分環境汚染問題などはおろそかになった。隣国の韓国でも中国産の食物は汚染されたものとして、ゴミのような扱いを受けるのだ。主人公チェンの持ち込んだ鰻もそうで、再検査をしてみてもやはり水銀が検出される。
 チェンのプライドにも関わらず、中国産の食物は汚染されていたのだ。中国人としてのチェンは、そうした事実に自分も中国の人間として汚染されているのかと問いかける。一方で韓国のミは、中国産の鰻を閉め出しつつ、実は裏ではその廃棄すべき鰻で金儲けをしている(ヤクザ者も絡んでいる)。廃棄すべき鰻に群がって儲けようとする裏社会の人間、さらには安ければ何でも構わないという消費者もいる。
 しかも、監視員ミはチェンのことを気に入ってその体を求めてしまう。憐れみを覚えたのかもしれないし、若い男が欲しかっただけかもしれない。中国産の食品は毛嫌いしているのに、中国の男はいいのか? チェンはまた問いかける。
 そんな中国人チェンからの問いかけに、韓国のミは自己を省みつつ悩む。中国が汚染されているのではなくて、実は韓国の自分たちのほうが汚染されているのではないか。魂が汚れきっているのではないか。このへんの自虐的とも言える展開はギドクらしい気がする。

『鰻の男』 女性監視員ミを演じるハン・チェア。

 食品の安全をテーマにしているようにも見えるが、ギドクの意図はそれだけじゃないだろう。ギドクはこの作品について「食物に対する偏見は、食物が作られた国に対する偏見でもあるのではないか」と語っている。同じ食物でも「メイド・イン・チャイナ」とか「メイド・イン・コリア」など差別化がなされ、それによって評価が変わったりする。それはその国で生まれた人間も同じことであり、日本を含むアジアの国々でも、それぞれの国に対して偏見を抱いているのではないか。ギドクはそんな方向へ議論を進めようとする。
 ただ、ギドクがこの脚本を書いたのは約5年前とのことだが、その間に中国産食品に対する信頼はガタ落ちになってしまったのだ。たとえば、某ファストフードの中国の加工工場ではとんでもないチキンナゲットがつくられていた。これは大きな話題になったし、某ファストフードでは中国製のナゲットをやめてタイ製に変更した。事実としてこうした報道がなされるとさすがに偏見とだけも言えなくなるわけで、ちょっとタイミングが悪かったような気もする。
 「中国産の食物は本当に汚染されているのか?」という問いかけは、「いや、そうじゃない。」と反語的な意味合いを含んでいたはずが、現実を反映したためか「そうです、汚染されています。」という結論になってしまったわけで、妙に据わりが悪い。チェンは最後には鰻に対する愛情ばかりに支配されているように見え、他国に対する偏見というテーマは忘れ去られてしまったようだ。
 チェン役のパク・ギウンは韓国では人気者だとか(前売りを買ったらポストカードが付いてきた)。相手役のハン・チェアは最後まで厳しい表情を崩さないが、なかなか顔立ちの美人さん。

 『魚と寝る女』のように半身を切られた魚が泳いだりする場面がある。また、チェンは自分の汚染度合いを測るために、自らの肉を切り取り検査機にかける(『嘆きのピエタ』にもそんなシーンがあった)。こうした悪趣味さはギドクの脚本に書かれていたものだろう。
 最近のギドクは、あまり出来の良くない脚本を弟子に監督させているんじゃないかとも思える節もある。この脚本も出来がいいとは言えない。密航の際に助けられた男の恩返しのために、復讐に向かうというエピソードがあるけれど、あまりに説得力に欠けるし、偏見というテーマとも関わってこないので、監督も困ったんじゃないだろうか。弟子にチャンスを与えているのだろうが、その弟子たちがきちんと育っているのかまでは伝わってこないようだが……。

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Date: 2015.06.22 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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