『リピーテッド』 前向性健忘というループに囚われる
監督・脚本はローワン・ジョフィ。原作はSJ・ワトソンのベストセラー「わたしが眠りにつく前に」。

クリスティーン(ニコール・キッドマン)は知らない部屋のベッドで目が覚める。しかも隣には見知らぬ男。一体何が起きたのかわけもわからずにその場を逃げ去ると、バスルームにはクリスティーンが結婚した証拠写真がある。隣に寝ていた男は実は彼女の旦那であり、クリスティーンは記憶障害ですべてを忘れてしまっているのだという……。
“前向性健忘”という障害を題材として扱った作品には『メメント』がある。この『リピーテッド』のクリスティーンの障害も“前向性健忘”である。『メメント』の場合は10分程度の記憶しか保てなかったが、『リピーテッド』は約1日という設定。夜眠ると次の日にはすべてを忘れてしまう。正確には20代くらいまでの記憶はあるのだが、それ以降の記憶はすべてなくなり、新しく覚えたことを次の日に持ち越すことはできない。
クリスティーンにとっては毎日が記憶障害と初めて向き合う1日になるわけで、邦題が『リピーテッド』となっているのは、この作品が“ループもの”のように見えるからだろう。“ループもの”は同じ時間が延々と繰り返されるという類いの作品のことだ。
有名なのは『恋はデジャ・ブ』で、主人公フィルはある1日に囚われ、そこから逃れることができない。フィルの記憶は継続していくわけだが、その世界はいつまでも同じ1日を繰り返す。フィル以外の人間はすべてがリセットされるから、フィルはループする時間を利用して悪事を働いたりもする。それでも次の日には誰も何も覚えていないから問題はない。
『リピーテッド』もそうしたルールに則っている。ただこの場合すべてがリセットされてしまうのは主人公のクリスティーンのほうで、世界の時間は普通に流れている。だから『メメント』にもあったように記憶障害を利用してクリスティーンに別の記憶を植え込もうとするような悪い人物がいないとも限らない。
あやしい人物はほとんどふたりに絞られている。まずはコリン・ファースが演じる夫ベンだ。結婚式の写真を見せられ、14年前に結婚したと説明されるわけだが、初めて知った男を急に信用できるわけもない。それでも記憶障害のあるクリスティーンの世話をし、毎日繰り返されているはずの朝の行事(記憶障害であることの告白)にも優しさが感じられなくもない。
半信半疑のうちに今度は医師を名乗る男ナッシュ(マーク・ストロング)から連絡がある。それによるとクローゼットの奥に記録用のカメラがあるのだという。ナッシュは夫には内緒でクリスティーンを治療しているのだとも語る。そしてカメラに残された映像からは過去のクリスティーンが、その記憶を失ったクリスティーンに語りかけている。

※ 以下、ややネタバレな部分あり!
夫の言葉は本当なのか? 医師の目的は治療なのか? そうした疑心暗鬼が渦巻く設定はとてもおもしろい。“前向性健忘”をうまく使って“ループもの”のジャンルに寄せているのはいいアイディアだと思うのだが、そこから先が何もなかった。『メメント』とか“ループもの”を観ている人には、あらかた予想がつくのではないだろうか。
結婚式の写真など作ろうと思えばどうにでもなるわけで、『メメント』の主人公が自分の身体に記録を刻み込んでいたのは今さらながらよく考えられていたものだと、別のことに感心してしまう(脚本はジョナサン・ノーラン)。映像から語りかけてくるのが記憶を失う前の自分だというのは、『トータル・リコール』あたりを思わせるのだけれど、映像のなかの自分が今の自分を騙そうとするような予想外の展開があるわけでもなく、真相が明らかにされてもそれほど驚きというものは感じられなかった。
“ループもの”は同じことが繰り返されるわけで単調になる部分もある。この作品では意味もなく観客を驚かせるような場面が挿入される。たとえばクリスティーンが車に轢かれそうになってクラクションを鳴らされるとか。このあたりは物語の展開でうまく引っ張っていけない苦渋の策みたいにも感じられた。
ニコール・キッドマンもさすがにもういい年齢だと思うのだが、朝起きたら見知らぬ男に抱かれているという驚きの部分は妙にうぶっぽく見えなくもない。クリスティーンはまだ20代というつもりだからかもしれないのだが、容貌にはやや衰えが見える(本当は40代だし、かすかに殴られた跡もある)のは、ニコール・キッドマン自身の衰えというよりはクリスティーンの驚きを表現したものだろうか。
『記憶探偵と鍵のかかった少女』でも記憶を探っていたマーク・ストロングは渋くていいのだけれど、ほとんどキャラが同じようにも見えるのが難点か。
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