『新宿スワン』 園子温の作品というよりは綾野剛の作品か
主演には『白ゆき姫殺人事件』『そこのみにて光輝く』で昨年度のキネマ旬報誌の主演男優賞を獲得している綾野剛。

人生の最下点にいた白鳥龍彦(綾野剛)は歌舞伎町にやってくる。帰る電車賃もない状況で、歌舞伎町は一から始めるにはぴったりのところ。チンピラに絡まれて大喧嘩をしていたところを、真虎(伊勢谷友介)という男に助けられスカウトマンとして働くことになる。
歌舞伎町のスカウト業界の裏側を描いた作品。女の子への声のかけ方を学ぶところから始まり、紹介した女の子の行く末や、業界内の縄張り争いなんかもあって、普段は見ることのない世界を垣間見られる。
物語の中心となるのは、真虎と龍彦たちのスカウト会社バーストと対立するハーレムとの抗争。スカウトたちの裏にはヤクザも絡んでいて、“殺し”まではしないもののやってることはかなり危ない。睨まれたら二度と歌舞伎町に近づきたくないくらいの痛い目には遭わされる。
それでも一応はスカウトという商売は、歌舞伎町に集まる女の子にキャバクラや風俗やAVの仕事を紹介すること。龍彦は彼女たちのすべてに幸せになってもらいたいが、そうでない場合もあって、リストカット癖のあった栄子(真野恵里菜)は自殺し、助けてやったアゲハ(沢尻エリカ)もクスリ漬けとなってしまう。

私は原作を読んでいないのでどれだけオリジナルを反映しているかはわからないけれど、映画版『新宿スワン』はスカウト陣の面々がバラエティに富んでいる。抗争を煽るために敵陣でボコボコにされるのを楽しんでいるみたいな関玄介(深水元基)は、バカと紙一重みたいだけれど意外にも会社のことを考えている(真虎に出し抜かれたりもするわけだが)。ハーレム側の幹部で頭がキレる葉山豊は、腹に一物ありそうな様子。演じるのは『東京難民』でも裏社会の人物を演じていた金子ノブアキで、またあやしい雰囲気を醸し出している。続篇ができたとすれば真虎と葉山豊の関係はもっと踏み込んで描かれそう(原作は38巻まであり、先は長そう)。
そんななかでも綾野剛演じる龍彦のキャラはよかったと思う。ほかのキャラのようにカッコよいわけではなく、直情径行型の甘ちゃんなんだけれど憎めないところがあった。半年だけ先輩の洋介(久保田悠来)をおちょくるあたりは、これまでの綾野剛のキャラと違って笑える。評判の高かった『そこのみにて光輝く』みたいな役柄ばかりではなくて、こんな役もできるのかとちょっと驚いたところ。
最後は昔の因縁が絡む南秀吉(山田孝之)との対決へと進んでいく。龍彦がビルの谷間を跳躍する場面は、『GO』の窪塚洋介みたいでカッコいいのだけれど、着地が決まらないでずっこけるあたりは愛らしい。ケンカしたあとに空を見つめて仲直りというベタな展開はどうかと思うけれど、そんな龍彦の甘さが悪いほうに転がるという意味では、あのベタさは龍彦の甘さそのものだったのかもしれない。
園作品は『地獄でなぜ悪い』『TOKYO TRIBE』とバカ騒ぎばかりが目立つ作品が続いたけれど、この作品もメジャー系のものとして園子温の独自色が強いものではない。それでも漫画が原作で脚本にもタッチしていない作品を、そつなくこなしてしまう器用さも感じられた。
最初のほうでは横長の画面の中央に龍彦の顔がアップになると、左右がスカスカなのが妙に気になったのだけれど、最後の階段でのアクションでは横長の画面をうまく使っていたと思う。
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