『Mommy/マミー』 息子を守るための防御壁

 グザヴィエ・ドランの最新作(第5作)。カンヌではゴダールと共に審査員特別賞を受賞した。
 出演はアンヌ・ドルバル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリビエ・ピロンなど。今回はドラン本人の出演は1シーンのみ。息子役のアントワン=オリビエ・ピロンはどことなくマコーレー・カルキンみたいな風貌で、『ホーム・アローン』のパロディみたいなシーンもあって、ちょっとドランの茶目っ気も感じられる。

グザヴィエ・ドラン最新作 『Mommy/マミー』 画面のアスペクト比は1:1である。


 舞台は架空のカナダ。この世界では「S-14法案」というものが可決されている。これは「発達障がい児の親が、経済的困窮や、身体的、精神的な危機に陥った場合は、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障」するというもの。
 ダイアン・デュプレ(アンヌ・ドルバル)の息子スティーヴ(アントワン=オリビエ・ピロン)はADHD注意欠陥・多動性障害で問題を起こしがち。施設でも暴力を振るい追い出されてしまい、ふたりは新しい家を見つけることになる。たまたま隣に住んでいた教師のカイラは精神的な問題で休暇中で、彼女の助けも借りて母と子の新たな生活が始まる。

 特徴的なのは画面のアスペクト比が1:1であること。画面の縦と横の比率が一緒だから、正方形の画面になる。ビスタとかシネスコの横長の画面と比べるといかにも狭苦しい。ドランの処女作『マイ・マザー』では人物を横にふたり並べるという構図があったが、『Mommy/マミー』ではそうした構図はほとんどない。1:1の画面では、バストショットを撮るとそれだけで画面がいっぱいになり、ほかのものがほとんど入ってこないのだ。
 そんなこともあってかこの作品には息苦しいところがある。夫を病気で亡くした女が、問題児を抱えて新たな生活をスタートさせるという物語も息苦しい。しかもダイアンは仕事をクビになって職探しをしているし、スティーヴは暴れ出すと手の付けようがない。ダイアンはスティーヴを守るために近所の弁護士と仲良くしてみたりと必死だが、どう考えてもバラ色の未来にはほど遠い。しかし隣人のカイラ(スザンヌ・クレマン)が登場するとちょっとだけ事態はマシになる。
 『マイ・マザー』でも、ドラン演じる主人公の母親役をアンヌ・ドルバルが演じ、良き相談相手となる女教師をスザンヌ・クレマンが演じていた。この『Mommy/マミー』でも似たような関係があり、母親ダイアンは息子に似てガサツな感じで、カイラは母親とは違うあり方でスティーヴを見守っている。
 そんな3人の関係がうまく回りだすと、突然、画面のアスペクト比が変化する。(*1)このシーンはオアシス「WONDERWALL」という曲が流れるが、スティーヴが画面を狭苦しくしている両側の壁を押しやるように手を広げると画面サイズは横長に変化する。それまでの息苦しさがあるからこそ、この部分はやけに爽快な感じがする。しかしそれは長くは続かない。
 さらにもう一度繰り返されることになる画面サイズの変化は、今度はスティーヴの幸せな未来を母親ダイアンが妄想するシーン。ちなみにここで成長し結婚したスティーヴを演じ、一瞬だけ顔を出すのがドラン本人だと思う(どこかで確認したわけではないけれど)。

(*1) この手法は『トム・アット・ザ・ファーム』でも使っていたが、今回のほうがより効果的な使い方になっている。

『マイ・マザー』のときの画面はこんな感じ。

『Mommy/マミー』の画面はいかにも狭苦しい。

 ※ 以下、ネタバレもあり(ラストに触れていますのでご注意を)。

 母と息子の関係を扱った『マイ・マザー』(原題「I KILLED MY MOTHER」)では、精神的に母親を殺した息子が、両親によって寄宿学校に入れられるが、そこから逃げ出した息子が母親と再会したところで終わる。
 一方で『Mommy/マミー』の最後はより苦いものがある。ダイアンはスティーヴの未来を見据えたあと、「S-14法案」に頼りスティーヴを施設に入れることを決意する。ダイアンの見た未来があまりに現実とはほど遠い絵空事と感じられたからだろうか。あるいは、可愛い息子が自らの手を離れることが耐えられなかったからだろうか。
 しかも、ダイアンはその後のカイラとの会話で、なぜか「希望」という言葉を口にしている。『Mommy/マミー』のラストは、施設に入れられたスティーヴが隙を突いて逃げ出そうという場面で終わっているけれど、『マイ・マザー』の寄宿学校とは違うのだから逃げ出すことは到底無理と思え、どこに「希望」があるのかは私にはよくわからなかった。もしかするとスティーヴを守るための防御壁として、母親という壁だけではもう無理だからということだろうか。政府という巨大な壁のなかにスティーヴを委ねることこそが最善策ということだとすると、なかなか現実的で悲しい話ではある。

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Date: 2015.04.29 Category: 外国映画 Comments (2) Trackbacks (3)

この記事へのコメント:

ゆか

Date2015.05.02 (土) 21:28:30

ラストですが、逃げ出そうとした先はドアだったのでしょうか。
見間違いかもしれませんが窓かと思いました...

Nick

Date2015.05.03 (日) 14:03:14

残念ながらそこまで詳細な記憶はないのですが、
最後に「希望」を見出している人もいたようですね。
もう一度観たら、逃げ出した先に込めていた意味合いも違ってくるのかもしれませんが……。

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