『ザ・トライブ』 聾唖者というトライブ

 カンヌ国際映画祭で批評家週間グランプリなどに輝いたウクライナ映画。
 監督・脚本のミロスラヴ・スラボシュピツキーの初の長編作品。出演者したヤナ・ノヴィコヴァグリゴリー・フェセンコなどは、すべて本当の聾唖者たち。

ミロスラヴ・スラボシュピツキー 『ザ・トライブ』 セルゲイはアナに入れ込んでいき……


 ろうあ者の寄宿学校に入学したセルゲイ。
 そこでは犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されており、入学早々彼らの洗礼を受ける。何回かの犯罪に関わりながら、組織の中で徐々に頭角を現していったセルゲイは、リーダーの愛人で、イタリア行きのために売春でお金を貯めているアナを好きになってしまう。(オフィシャル・サイトより)

 『音のない世界で』(1992)というドキュメンタリー映画では、聾唖者は健聴者とともに生活していた。その学校では、先生は健聴者で手話によって聾唖者とコミュニケーションもできるし、彼らに話すことを学ばせようともしていた。
 一方で『ザ・トライブ』においては、寄宿学校に一歩入るとそこには言葉を話す者はおらず、音のない静かな世界がある。もちろんそこで暮らす学生たちは手話で意思を通わせているわけだが、ごく普通の健聴者からすると不思議な世界を体験している気持ちになる(長回しが連続し、彼らの生活を追い続けているような感覚も)。
 オフィシャル・サイトの説明だと、聾唖学校の悪いグループを“トライブ”と呼んでいる。学校にはほかにもまともの人もいるのだろうし、聴覚以外にも障害を抱えている人もいたようだ(彼は悪いグループからいじめられている)。
 一般的な“トライブ”という言葉の使い方はよくわからないけれど、園子温『TOKYO TRIBE』あたりを観ると、様々なグループがそれぞれの場所で住み分けているようなイメージを持つ。『ザ・トライブ』における住み分けとは、オフィシャル・サイトの言うような悪いグループとその他聾唖者たちの住み分けを指しているのではなく、健聴者という大きな“トライブ”と、聾唖者というもう一つの“トライブ”の住み分けのことを指しているのだろう。

 妙に気になったのは、「この映画の言語は手話である。字幕も吹き替えも存在しない。」という設定だ。聾唖者の立場に寄り添って、聾唖者の世界を描くフリしながらも、実はそうではないのだと思う。手話という言語が飛び交っているのにも関わらず、それは無視されているからだ。手話が言語であるならば、聾唖者の世界はこの映画で描かれるような世界ではないはずだ。彼らが交わす手話の内容も含めたものが、聾唖者の世界であるわけだから。
 『音のない世界で』では、聾唖者がインタビューに答える場面などでは、その手話に字幕を付けて、彼らの手話の内容がわれわれが話す言葉と変わらない豊かな内容を持っていることを伝えている。その意味では『ザ・トライブ』は聾唖者の世界を描いているというよりも、健聴者の観客が聾唖者たちの姿を覗き見しているようなものなのだ。

 ※ 以下、ネタバレもあり。

『ザ・トライブ』 ウクライナのトイレはこんな感じ。アナはここで妊娠検査薬を試す。

 この作品を観ると、映画において音がいかに大切な要素であるかがよくわかる。たとえば最初に驚かされたのは、夜の駐車場で聾唖者の男がバックしてきたトラックにひき殺されてしまう場面。バックするトラックは警告音を出しているから、健聴者ならそれを回避することができるわけだが、聾唖者の場合には聞こえないからそれができない。“音のない世界”というのは、健聴者にはなかなか想像しにくい世界だが、聾唖者にとって世界はそんなふうであって、それは生きていく上で大きなハンデともなるのであろう。
 そしてこのシーンでは、トラックに巻き込まれる男は、叫び声を上げることもなく静かに死んでいく。だから衝撃的な場面ではあるけれど、ひどく素っ気ない感じもする。サイレント作品などほとんど観たことがなく、今の映画の音響効果とかに慣れすぎている観客としては、あまりのあっけなさに驚くのだ。
 逆に、ラストの衝撃的な場面では、印象的に効果音が使われている。ここでは聾唖者は音が聞こえないがために、隣で殺されている人がいるにも関わらず、それに気がつかず危機を回避することができない。この場面が衝撃的なのは、その音だ。この映画では聾唖者のハンデを、クライマックスを構成する要素としてうまく利用しているわけだ。
 ラストの衝撃はその音にあるわけで、もしも聾唖者がこの映画を観た場合、どのように感じるのだろうか(振動は伝わると反論するだろうか)。“音のない世界”でもそれは衝撃として受け止められるのだろうか。そんなことが気になった。つまり健聴者が観た場合と聾唖者が観た場合、この作品は同じものではないような気がするのだ。
 そんな意味では健聴者の監督は、聾唖者を被写体としてあざとく利用しているようにも感じられた(聾唖者があまりに暴力的で反社会的な行動ばかりしていることも含めて)。聾唖者の世界を描いたように装いつつも、ふたつの“トライブ”の大きな違いが強調されすぎているのだ。ふたつの“トライブ”は住み分けるしかないと感じさせるのが意図ではないと思うのだが……。

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Date: 2015.04.26 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

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