『グレート・ビューティー/追憶のローマ』  聖なるものと俗なるもの

 監督は『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』などのパオロ・ソレンティーノ。アカデミー賞では外国語映画賞を獲得した。去年8月に劇場公開され、今月DVDが発売となった。
 主役のダンディな65歳を演じているのは『眠れる美女』トニ・セルヴィッロ。『眠れる美女』のときの枯れた感じとは違い、トニ・セルヴィッロは色艶のいいエロジジイになりきって派手なスーツを見事に着こなしている。

パオロ・ソレンティーノ 『グレート・ビューティー/追憶のローマ』 トニ・セルヴィッロ演じる主人公。黄色のジャケットを着こなせる人はそんなにいないだろう。


 主人公のジェップ・ガンバルデッラ(トニ・セルヴィッロ)は、ローマのコロッセウムを見下ろす豪華なマンションでメイド付きの一人暮らしをしている。かつては処女小説が評価されたジェップだが、今はジャーナリストの真似事のようなことをしつつパーティに明け暮れる日々を過ごしていた。

 かつて栄華を極めたローマという都市には、古代の建築物が未だそのままの形で残っている。ジェップは高級スーツに身を包み豪勢なパーティのなかにいても、そんな時代の名残を感じているのかもしれない。現代の喧騒もフェリーニ『サテリコン』で描いた酒池肉林の宴とはほど遠いわけで、古の人々と比べれば卑小な輩に過ぎないといった意識にも駆られることがあるのかもしれない。
 冒頭では神に捧げる聖なるミサ曲が流れるのだが、それは突然の悲鳴とともに俗っぽいトランス系ミュージックへと変化する。古代の建物と最新鋭のファッションがローマに混在するように、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』では「聖と俗」といった対照的なものが同時に存在している。
 エピソードは祝祭的で断片的なもので、フェリーニ作品の『甘い生活』あたりを思わせる。登場するキャラクターの多くはセレブ然としているが、ファニー・アルダンが一場面だけ優雅な姿を見せてくれるのも嬉しい。ソレンティーノ作品に特徴であるらしい縦横無尽な移動撮影もたっぷりと堪能した。

『グレート・ビューティー/追憶のローマ』 ヌードダンサーはガンに侵されている。

 ジェップはセレブリティのように振舞っているけれど、同時に俗物であることも自認している。パーティでは誰とでも親しく言葉を交わし、その場その場を楽しむ術に長けている。しかし時に辛辣になるときもあり、そんなときは嫌な奴になることもできる。ジェップが忌み嫌うのは自分が俗物であることを認めない人だろう。
 高尚な芸術家を気取る女や、社会主義リアリズム小説を書いていたと勘違いしている小説家、食べ物のことばかりに囚われている枢機卿などはジェップにやり込められることになる。自らを俗物ではないと虚飾を張りたがる人たちは、ジェップによって“俗”のほうへと引き落とされるわけだ。
 他方でジェップは世俗の人々に見せる態度はとても温かく、初恋の人の死を報せに来た彼女の夫にはとても親切だ。そんなジェップだから104歳になるという修道女の存在には何かしら共感するものがあったのだろうと思う。
 このマザー・テレサのような修道女は、生きてはいてもほとんどミイラのようにも見える。儀式のときは退屈なのか椅子の上で子供のように足をブラブラさせているという人で、ボケたババアなのかと思っていると、口を開けば至極真っ当なことを言う。彼女は法王に担ぎ出されて聖女にされているだけで、本人としては貧しい人と同じように床に寝て彼らに愛情を注ぐことだけを気に掛ける世俗の人なのだろう。そんな修道女にも促されてジェップは次の作品を書くことを決意することになる。

 この作品内では何人もの登場人物が死んでいく。冒頭に描かれる日本人観光客の突然死。初恋の人の死。友人の息子の自殺。そして新しい恋人であるヌードダンサー(サブリナ・フェリッリ)も病死する。それからイタリアで起きた豪華客船の座礁事故が登場するのも死を思わせる。
 ジェップは最後にこんなふうに語る。「幕切れは決まって死である。だが、それまでは生があった。…(略)…彼岸が存在するが、私は彼岸には関わらない。」俗物の王としては、あくまで俗世にこだわったものを書くという宣言なのだろうと思う。そうして出来上がるであろう作品がトリックだというのは、マジシャンがキリンを消すことと同じように、それがまやかしであっても人を楽しませようとする意図なのだろうか(最後の表情からしてそれが諦念とは感じられない)。

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Date: 2015.03.21 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)

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