『ビッグ・アイズ』 ファンタジックな嘘つき野郎
かつてブームを巻き起こした“ビッグ・アイズ”シリーズを描いた実在の画家についての物語。脚本は『エド・ウッド』のスコット・アレキサンダー&ラリー・カラゼウスキーが担当。
“ビッグ・アイズ”シリーズの絵は、60年代アメリカのポップアート界を席巻し、批評家には貶されもしたけれど、今でも様々なところに影響を与えてもいるようだ(絵画のコピーを安価で売るという手法もここから)。
たとえば、アンディ・ウォーホルも褒めていたとも言われるし、町山智浩も指摘していたことだけれど、世界的にも評価されているという奈良美智の絵も“ビッグ・アイズ”にどこか似ている。ディズニーのアニメーターでもあったティム・バートンの絵も、このシリーズに影響を受けているわけで、“ビッグ・アイズ”が好きだからこそこの映画を手がけたということなのだろう。

マーガレット(エイミー・アダムス)は旦那の下を離れ、自由なサンフランシスコにやってくる。そこでウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)という画家崩れと出会って再婚することになる。マーガレットの絵が売れたとき、たまたまウォルターが作者のフリをしたことがきっかけとなり、旦那は表の顔になり、妻は裏でゴーストペインターとなる。
ウォルターは外交的で親しみやすく、商才にも長けている。そんなウォルターがいればこそ“ビッグ・アイズ”シリーズの成功もあった。しかし、実際に絵を描いているマーガレットはそれを自分の娘にすら秘密にしなければならず、苦しむことになる。日本でも話題になったあのゴーストライター騒動と同じようなことが描かれていく。
意外にいい奴とも思えたウォルターだが、次第に化けの皮がはがれていく。画家だと名乗っていたウォルターだが、自分の作品が売れないことにも傷つく様子もない。マーガレットの絵で稼ぐことばかりに熱心なのが奇妙だったのだが、実はウォルターはまったく絵なんて描いたことがないことも判明してくる。

ティム・バートン映画がジョニー・デップ主演の『シザーハンズ』『チャーリーとチョコレート工場』『アリス・イン・ワンダーランド』みたいなファンタジックな作品が特徴だとすれば、この『ビッグ・アイズ』はバートンらしくはないのかもしれない。箱庭のように作り上げた世界や、奇抜でカラフルなキャラクターもない、ごくごくリアリスティックな世界だからだ。実在の映画監督を描いた『エド・ウッド』ですら、B級映画の撮影現場そのものがファンタジックだったわけで、『ビッグ・アイズ』はちょっとこれまでとは毛色が違う作品とも見える。
ただこの映画では、後半に到ってファンタジックな相貌を見せ始める。それはウォルターの驚くべき嘘つきぶりにある。マーガレットがゴーストであることを世間にばらし、事態は裁判へともつれ込むわけだが、ウォルターは自ら弁護を買って出て聴衆を唖然とさせる。“ビッグ・アイズ”誕生物語も、ウォルターは「ベルリンで戦争後の孤児たちの目を見て」などと感動を煽り世間の耳目を集めたわけで、嘘の才能があるのだ。結局、真実は明らかにされてしまうわけだが、そこに到っても厚顔無恥に言い訳をかますあたり、ウォルターは世間もびっくりのファンタジックなほどの嘘つき野郎なのだ。
そんなこんなで、どちらかといえばウォルター演じるクリストフ・ヴァルツのほうに興味を惹かれてしまう。嘘がばれてからのウォルターのとぼけた感じをクリストフ・ヴァルツがうまく演じている。彼が何のために画家だと言い張っていたのかは最後までわからず仕舞いだったのだが、そんなわけのわからなさもファンタジックだった。
一方で、バートンが愛情を持って描いたはずのマーガレットのほうはインパクトが弱かったような気もする。もっとも“ビッグ・アイズ”という絵をさらに世の中に知らしめるには十分だったわけで、最後にはマーガレット本人が彼女を演じたエイミー・アダムスと一緒に画面に収まる姿を見せてくれている。
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ティム・バートンの作品

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