『夏の遊び』 ベルイマン作品のDVDがレンタルにも

 以前、『リヴ&イングマール ある愛の風景』について書いたときも、ベルイマン作品のDVD化を望んでいたのだが、今までVHSばかりだったイングマール・ベルイマン作品も、ようやくTSUTAYAのDVDレンタルに登場した。今年1月7日からレンタル開始となったのは、『第七の封印』『野いちご』『処女の泉』『夏の遊び』『夏の夜は三たび微笑む』『冬の光』という充実の6作品。今回は前に一度観ただけの『夏の遊び』に関して。
 この映画はゴダールが「最も美しい映画」と絶賛したらしいし、ベルイマン本人もお気に入りだったようで、『第七の封印』は頭でつくったが、『夏の遊び』は心でつくったということを言っていたようだ。

イングマール・ベルイマン 『夏の遊び』 回想シーンの輝くような夏の想い出。


 主人公のマリー(マイ・ブリット・ニルソン)にある人の日記が届けられる。マリーはそれに導かれてある島へと渡る。その島は日記を書いたかつての恋人ヘンリック(ビルイェル・マルムステーン)とマリーが、若かりし頃にひと夏を過ごした場所だった。

 ベルイマン作品のなかでも特に評価が高い『野いちご』のように、現在と回想を行き来する構成となっている。マリーは現在ではバレエで主役を務めているけれど、もう若くはない。バレエは肉体を酷使する芸術だけに、いつまで続けられるかわからない。それでもマリーも今の恋人も互いの仕事ばかりに熱心で、相手のことを省みないために関係はうまくいっていない。そんな現在に対して、回想のなかのマリーとヘンリックの姿はいかにも輝いている。
 今回改めて観直して気がついたのは、マリーにより「宝石のような日々」とも表現され、“生の充溢”そのもののような回想シーンにも、ときおり死の影のようなものが漂っているということだ。マリーが島に渡ると、そこにはカラスの鳴き声とともに黒ずくめの老婆が歩いていて、その姿は『第七の封印』の死神のような風貌をしている。後半に登場するヘンリックのおばはガンで死を間近にしながらも、醜悪な姿で生に執着している。また、原因不明の臭いが二度登場するが、これは多分“死の腐臭”のようなものなのだろうと思う(だからそれに気がつく人とそうでない人がいる)。
 それから日記をマリーに送りつけたマリーのおじさんも、若くて「今を生きている」マリーと対照的な存在として配置されている。“現在”と“過去”、“生”と“死”、“若さ”と“老い”、そんな対比によってこの映画は成り立っている。
 おじさんは「出来ることなら教えてやりたい。人生の奥深さを。」と語るようにマリーの先達であり、かつてはマリーの母親の崇拝者だったらしいが、今ではそうした想い出のなかに浸って生きている。回想のマリーはおじさんと対照的な存在だったが、現在時のマリーは幾分か疲れて先行世代へと近づいている。“現在”は常に“過去”と移り変わるし、“生”は日々“死”へと近づき、“若さ”は次第に“老い”へと向かう。誰でもそうした時の流れには逆らえないのだ。

『夏の遊び』 現在のマリー(マイ・ブリット・ニルソン)は夜の劇場で不穏な何かを感じ取る。

 おじさんが日記を隠したのはなぜか? そして、今になってそれを送り付けた理由は? そのあたりに具体的な説明はない。ただ衰えを感じる時期だからこそ、日記によって想起された夏の想い出がより一層際立つ。多分、若いころにはその夏の素晴らしさには気づかない。もしかすると永遠にそんな夏が続くという勘違いをしているかもしれない。光が際立つのは闇があるからであり、生を感じられるのは死を身近に感じたからなのかもしれない。そして『夏の遊び』は陰鬱とした現在のパートがあるからこそ、回想部分の明るさのほうが印象に残る作品になっているのだと思う。
 北欧の太陽の輝きや、ローアングルで捉えられた穏やか湖畔の様子など、短い夏が美しく描かれているし、マリーとヘンリックの快活な戯れも微笑ましい。そしてベルイマン作品のなかでもとりわけほのぼのとしたアニメーション部分も忘れがたい。

夏の遊び 【DVD】


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Date: 2015.01.15 Category: イングマール・ベルイマン Comments (2) Trackbacks (0)

この記事へのコメント:

PineWood

Date2015.10.06 (火) 01:02:38

本の上に悪戯描きしたようなユーモラスなアニメーションのシーンも面白い!ゴダール作品で言うと(勝手にしやがれ)の冒頭のパリのシーンで新聞売り娘と会話する軽快なタッチは本作と何処か通じ合ってー。

Nick

Date2015.10.06 (火) 22:31:54

アニメのシーンはとてもかわいらしくて楽しいところですね。
それだけに現在との落差がまた激しい感じもするのだけれど。

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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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