『海を感じる時』 セックス、キス、そして告白

 監督は『blue』『僕は妹に恋をする』の安藤尋。脚本は荒井晴彦
 原作は中沢けいが18歳のときに書いた『群像新人文学賞』受賞作。

『海を感じる時』 序盤のシーン。裸で髪が濡れているのは雨に降られたからである。

 原作が描かれたのは1978年で、当時、高校生の性といったスキャンダラスな部分で話題になったのだとか。私は原作を読んでいないが、この映画を観る限り、描かれていることは古臭いものに思えた。
 池松壮亮演じる男は女に手を出しておいて、ぶっきらぼうに「女の身体に興味があっただけ」などと言ってのける。この気取り方がカッコいいとも思えないし、それは古い映画で観た全共闘世代の活動家のそれに似ている。舞台としてはそんな時代はすでに過ぎている70年代後半なわけだし、難しい政治論が交わされるわけでもないわけで、どうしてそんなものが選択されるのかはよくわからない(原作に書かれているのか、脚本の意図か、監督の演出か、演者の役作りなのか)。
 背景とされる時代がノスタルジックに感じられるわけでもない。喫茶店でかかる曲(1976年に三木聖子が歌った「まちぶせ」)はそれらしい雰囲気だったし、毛沢東の名前や三島由紀夫の著作(『天人五衰』)が出てきたりもするのだが、それ以外に外部の世界について知らされることもない。ファザコン気味で母親との関係がうまくいっていない女の素性にも触れられるけれど、基本的にはふたりの関係ばかりに終始していく。
 閉じこもってセックスばかりの日々は、主演・市川結衣のヌードなどもあって退屈とは言わないけれど、度々の長回しに緊張感が漂うわけでもなく、ただただ情感もなく絡み合ったりする姿を漫然と眺めているといった印象。こんなふたりに誰が興味を抱くんだろうかというのが正直なところだろうか。嫌な男に馬鹿な女(市川結衣曰く“イタイ女”)という以上のものを感じられなかったのだ。

『海を感じる時』 高校生のころのふたり。

 序盤早々にふたりのセックスが描かれると、過去の場面を行き来しつつ、初めてのキス、そして告白の場面が描かれる。通常なら「告白⇒キス⇒セックス」という順を踏むところを逆に辿っているのは、男の女に対する関心がそうした順に進んで行ったからなのだろう。
 実際に男は映画の最後に女に告白することになる。そして男はそれまでの身体だけの関係から、ごく普通の同居生活を始めようともする。ご飯を炊いてふたりで食卓を囲んだりもするのだが、そのとき女は平凡な幸せらしきものを受け入れられなくなっている(冷たくあしらわれることが普通になり、被虐嗜好にはまったのか)。
 男と女との違い。求めるものとか、方向性とか、そのタイミングとか、そんなもののズレを描こうとしているのかもしれない(もっと深い何かがあるのかもしれないが、私には感じられなかった)。男が自分のほうを向いた途端に自らの愚かさに気づく女を見ていると、かえって哀れにも思えた。というのも、弄ぶ男はもちろんのこと、狂気を帯びて見える彼女の母親をはじめ、観客の誰もがそれに気づいているわけで、気づいていなかったのは彼女だけなのだから(あるいは気づいていてもどうしようもないのか)。

 ラスト、女が海へと向かう。海を感じて何事かが起きるわけではないが、そこから自分が住んでいた実家(=これまでの想い出なのだろう)を振り返って眺めるのだ。女はカメラに向けて初めて晴れやかな笑顔を見せるのだが、このシーンで意識していると思われるトリュフォー『大人は判ってくれない』みたいな鮮烈さは感じられなかった。

 ※ ラストに唐突に流れ出すのはこの曲。歌詞が妙に映画にマッチしている。


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Date: 2014.09.20 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (3)

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2014.10.06

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