『ソニはご機嫌ななめ』 ホン・サンス・ズームとは?
『3人のアンヌ』のホン・サンス監督の最新作。
私が観に行った日はサービス・デーということもあって劇場内は満席だった(小さな劇場だけど)。
上映後には『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督のトークショーも行われた。

主人公ソニは3人の男を翻弄する。教授には留学先への推薦状を書いてもらう(しかもダメ出しして二度も書かせる)。元彼にはたまたま街であい酒を酌み交わす。先輩である映画監督ともそうなる。この映画も今までのホン・サンスのスタイルだが、さらに一層先鋭化しているようで、余計なものはまったくないくらいに簡潔なものになっている。人が人と会って酒を酌み交わしながら向かい合って話す。ただそれだけなのだ。
構成としては繰り返しのコントみたいなもので、それぞれの場面の最後は、絶妙なタイミングで演歌調(?)の曲が流れて締めくくる。また台詞にも繰り返しが多いが、先の場面では人から聞かされていたはずの言葉を、次の場面では自分の言葉として語っているというおもしろさがある。ホン・サンスの映画では登場人物が大概酔っているから、そんなこともありそうだ(撮影現場で使われているのは本物の酒とのこと)。

上映後のトークショーでは、吉田大八監督はホン・サンス好きを公言して憚らなかったが、そのおもしろさを伝えるとなるとなかなか苦戦している様子でもあって、たしかにホン・サンスの映画のおもしろさをうまく語るのは難しいと思う。とにかく独特なスタイルで、明確な理論的背景があってそのスタイルが選択されているというよりは、デタラメにも見えるところがある。
たとえば吉田監督が「ホン・サンス・ズーム」と呼んでいた独特なズーム。ソニが男と会って酒を飲み始めると、カメラはちょっと遠目から向かい合うふたりの姿を見つめているのだが、ふとした拍子にカメラはズームしてふたりに近づく。しかし、それによって何か特別なことが語られることもなく、ダラダラとした会話はそのまま続くという……。
通常カメラがふたりに近づきたいならば、一度ふたりの切り返しショットなどを入れてから、次のカットでふたりに近づくというのが一般的で、それをせずに一気にズームでふたりに近づくというホン・サンスの手法はかなり珍しい。しかも通常ズームすべきと考えるところは絶対に外してくるというのも独特。ほかの映画監督が真似したら絶対に酷いことになるだろうというのが吉田監督の感想で、たしかに誰もやらない(やれない)だろうと思う。
吉田監督曰く『ソニはご機嫌ななめ』は、繰り返し観るとおもしろさがわかるような作品とのこと。同時に公開されている『ヘウォンの恋愛日記』のほうが、ホン・サンス初心者には受け入れやすりだろうという意見もあった。(*1)私としては『ソニはご機嫌ななめ』はあまりに決まったスタイルにはまっているため、ちょっと単調だとは思えた。でもDVDになったらまた観てみたい。
『トガニ』や過去のホン・サンス作品『教授とわたし、そして映画 』でも個人的にお気に入りのチョン・ユミは、主演にも関わらずあまり印象には残らないかもしれない。ご機嫌ななめでブスッとした表情なのもあるかもしれないが、ほとんどの場面で男と対面して語っているだけだから横顔ばかりだからだ。これはちょっと残念。もっとも吉田監督も「大事なことを話している人の顔が見えない」などと語っていたし、これもいつものホン・サンス映画といえばそうなのだが。
(*1) トークショーで吉田監督が指摘していたことだが、最後に3人の男が顔を合わせる場面では、2人の服が臙脂色となっていて、色が被ってしまっている。通常は差異をつけるべきところなはずだが、ホン・サンスはあまり気にならないのかどうなのか。同時に公開されている『ヘウォンの恋愛日記』(私は未見)のスチールを見ると、ソニの茶色のコートとまったく同じようなコートをヘウォンが着ている。意図的なものなのか、単に予算の関係で使いまわしただけのかは謎だ。
ホン・サンスの作品
私が観に行った日はサービス・デーということもあって劇場内は満席だった(小さな劇場だけど)。
上映後には『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督のトークショーも行われた。

主人公ソニは3人の男を翻弄する。教授には留学先への推薦状を書いてもらう(しかもダメ出しして二度も書かせる)。元彼にはたまたま街であい酒を酌み交わす。先輩である映画監督ともそうなる。この映画も今までのホン・サンスのスタイルだが、さらに一層先鋭化しているようで、余計なものはまったくないくらいに簡潔なものになっている。人が人と会って酒を酌み交わしながら向かい合って話す。ただそれだけなのだ。
構成としては繰り返しのコントみたいなもので、それぞれの場面の最後は、絶妙なタイミングで演歌調(?)の曲が流れて締めくくる。また台詞にも繰り返しが多いが、先の場面では人から聞かされていたはずの言葉を、次の場面では自分の言葉として語っているというおもしろさがある。ホン・サンスの映画では登場人物が大概酔っているから、そんなこともありそうだ(撮影現場で使われているのは本物の酒とのこと)。

上映後のトークショーでは、吉田大八監督はホン・サンス好きを公言して憚らなかったが、そのおもしろさを伝えるとなるとなかなか苦戦している様子でもあって、たしかにホン・サンスの映画のおもしろさをうまく語るのは難しいと思う。とにかく独特なスタイルで、明確な理論的背景があってそのスタイルが選択されているというよりは、デタラメにも見えるところがある。
たとえば吉田監督が「ホン・サンス・ズーム」と呼んでいた独特なズーム。ソニが男と会って酒を飲み始めると、カメラはちょっと遠目から向かい合うふたりの姿を見つめているのだが、ふとした拍子にカメラはズームしてふたりに近づく。しかし、それによって何か特別なことが語られることもなく、ダラダラとした会話はそのまま続くという……。
通常カメラがふたりに近づきたいならば、一度ふたりの切り返しショットなどを入れてから、次のカットでふたりに近づくというのが一般的で、それをせずに一気にズームでふたりに近づくというホン・サンスの手法はかなり珍しい。しかも通常ズームすべきと考えるところは絶対に外してくるというのも独特。ほかの映画監督が真似したら絶対に酷いことになるだろうというのが吉田監督の感想で、たしかに誰もやらない(やれない)だろうと思う。
吉田監督曰く『ソニはご機嫌ななめ』は、繰り返し観るとおもしろさがわかるような作品とのこと。同時に公開されている『ヘウォンの恋愛日記』のほうが、ホン・サンス初心者には受け入れやすりだろうという意見もあった。(*1)私としては『ソニはご機嫌ななめ』はあまりに決まったスタイルにはまっているため、ちょっと単調だとは思えた。でもDVDになったらまた観てみたい。
『トガニ』や過去のホン・サンス作品『教授とわたし、そして映画 』でも個人的にお気に入りのチョン・ユミは、主演にも関わらずあまり印象には残らないかもしれない。ご機嫌ななめでブスッとした表情なのもあるかもしれないが、ほとんどの場面で男と対面して語っているだけだから横顔ばかりだからだ。これはちょっと残念。もっとも吉田監督も「大事なことを話している人の顔が見えない」などと語っていたし、これもいつものホン・サンス映画といえばそうなのだが。
(*1) トークショーで吉田監督が指摘していたことだが、最後に3人の男が顔を合わせる場面では、2人の服が臙脂色となっていて、色が被ってしまっている。通常は差異をつけるべきところなはずだが、ホン・サンスはあまり気にならないのかどうなのか。同時に公開されている『ヘウォンの恋愛日記』(私は未見)のスチールを見ると、ソニの茶色のコートとまったく同じようなコートをヘウォンが着ている。意図的なものなのか、単に予算の関係で使いまわしただけのかは謎だ。
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