グザヴィエ・ドランの過去作品 『マイ・マザー』『胸騒ぎの恋人』

 以前に取り上げた『わたしはロランス』グザヴィエ・ドラン監督の過去作品(『マイ・マザー』『胸騒ぎの恋人』)が、6月4日にDVD発売となった。

グザヴィエ・ドランのデビュー作『マイ・マザー』

『マイ・マザー』

 グザヴィエ・ドランのデビュー作。原題は「I KILLED MY MOTHER」。母子家庭の母親と息子の物語。
 精神分析ではエディプス・コンプレックス(もしくはエレクトラ・コンプレックス)というものが重要視される。これは子供が異性の親に対して憧れを抱き、その邪魔となる同姓の親との間に葛藤が生じるということだ。これによれば異性の親と子には対抗意識は生じないことになってしまうが、現実にはそんなわけはない(特に反抗期の息子にとって、母親は何かしらウザい存在なのではないだろうか)。
 また、子供の性的対象が必ずしも異性となるわけではないわけで、この映画でドラン自身をモデルにしたと思わしき主人公も同性愛者だし、そうした場合は異性愛とは違ってさらに複雑な図式が必要となるのかもしれない。
 この映画のケースでは、父親はすでに離婚して家庭の外にいるために存在感は希薄で、単にそうした対象からは外れている。いない人は憎むことも愛することもできないという意味で。それに対して母親は常に一緒にいるわけで、現実的な存在にはどうしても複雑な感情が渦巻くことになる。
 グザヴィエ・ドラン自身が演じる主人公ユベールは、その母親(アンヌ・ドルヴァル)と事ある毎に衝突している。ユベールの甘えはもちろんあるのだけれど、母親もそれに対して子供じみた対応をするものだから、けんかは絶えることがない。
 それでもユベールはこんなふうにも語っている。

 母を愛している。でも息子だからではない。母を傷つけるヤツがいたら、そいつを殺したくなる。でも母より愛してる人はたくさんいる。これはパラドックスだ。母を愛せないが、愛さないこともできない。


 寄宿舎に出発する別れ際には、ユベールが「今日、僕が死んだら?」と試すように訊くのに対して、母親はユベールが去ったあとに「明日、私も死ぬわ」とつぶやく。ここはそれなりに感動的な場面だけれど、脚本を書いているのはドランだから、映画のなかの母親の台詞にはドラン自身の願望が投影されているのだろう。女教師(スザンヌ・クレマン)の役柄もそうで、ちょっと普通じゃない母親とは別の理想的な母親像とも見えるし、ドランが抱く母親への複雑な感情が反映された映画となっている。
 「僕が死んだら、後を追ってほしい」という願望は、主人公ユベールが17歳という設定にしても甘えん坊だけれど、映画そのものはドラン自身が19歳のときに撮ったとは思えないほどまとまっている。

『胸騒ぎの恋人』 中央がニコラを演じるニールス・シュナイダー

『胸騒ぎの恋人』

 男ふたりと女ひとり。ありがちな三角関係だが、中心にいて、ほかのふたりを惹きつけて離さないのは男性だ。ギリシャの彫刻に重ね合わせて描かれる金髪巻毛の青年ニコラ。ゲイのフランシス(グザヴィエ・ドラン)と幼なじみのマリー(モニア・ショクリ)はニコラに夢中になる。
 フランシスもマリーもセックスの相手はいるのだけれど、恋は別物らしく、ふたりは共にニコラに片想いして苦しみを味合うことになる。ニコラを演じるニールス・シュナイダーは『マイ・マザー』にも出ていたけれど、いかにもナルシストの美形といった感じ。ギリシャ神話に登場する神々みたいなイメージで、周囲の男女を翻弄するキャラクターとして説得力がある。
 「唯一の真実は愛の衝動だけ」(アルフレッド・ミュッセ)という言葉が冒頭を飾る。その言葉を表現するかのようなインタビューが何度も登場する。彼ら(彼女ら)は“愛の衝動”について語るのだが、なぜかほとんどが相手にフラれた記憶ばかり。フランシスもマリーも同様で、ニコラに抱いた“愛の衝動”はどちらも実ることはなく、その分、それは深く記憶に刻まれる。叶えられた欲望など“愛の衝動”と呼ぶには足りないということだろうか。
 フランシスとマリーが“愛の衝動”を感じると、ほとんど魔術にでもかかったかのように相手に引き寄せられる。「Bang Bang」という曲に合わせてのスローモーションは、そうした夢心地の感覚を表している。この選曲は結構微妙な感じもするのだけれど、最後の最後でまた「Bang Bang」が流れるころには何だかはまってきた。

 『胸騒ぎの恋人』でニコラの頭上からマシュマロが降ってくる場面とか、『マイ・マザー』での構図(人物を端に置いて余白を大きく残す)なんかは、『わたしはロランス』につながるものを感じさせる。また、どの作品でも性的マイノリティを扱っているけれど、親子関係や三角関係といった普遍なテーマに通じているため、多くの人が共感できるものを持っていると思う。

マイ・マザー [DVD]


胸騒ぎの恋人 [DVD]


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Date: 2014.06.09 Category: 外国映画 Comments (2) Trackbacks (0)

この記事へのコメント:

PineWood

Date2015.08.28 (金) 22:16:40

ダリダのバンバンが流れるスローモーションシーンが素敵♪POPな色調でスタイリッシュな映像センス!!(シェルブールの雨傘)のジャック・ドミー監督やアニエス・バルダ監督を思い出しました。

Nick

Date2015.08.30 (日) 01:32:06

『シェルブールの雨傘』はよかったですね。
バンバンという曲がフランスでは有名なのかはよく知りませんが、
ちょっと気になる曲ですね。
歌詞も思わせぶりでもあるし……。

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