三浦大輔監督 『愛の渦』 空回りする“高度なギャグ”

 監督は劇団「ポツドール」の三浦大輔。商業映画としては『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に続く2作目とのこと。『愛の渦』は三浦大輔が脚本・演出をし、岸田國士戯曲賞を受賞した戯曲で、今回はその映画化作品。
 出演は池松壮亮、門脇麦、新井浩文、柄本時生、窪塚洋介、田中哲司など。
 私が鑑賞したのはサービスデーの夜だったが、客席は8割くらい埋まっていた。“着衣時間はわずか18分半”というエロに惹かれたのか男性のほうが多いようだったが、池松壮亮の人気なのか女性客の割合もそこそこだった。

三浦大輔 『愛の渦』 主催者の店長(田中哲司)はパーティの開始を宣言する。左手には店員の窪塚洋介。

 舞台は都内のマンションの一室で開催された乱交パーティ。午前0時を回ると、主催者らしき男性が諸注意を述べて、「それでは5時までお楽しみください」とパーティの開始を宣言する。
 集ったのは、男性4人と女性4人。すでにそれぞれシャワーも済ませ、バスタオルを巻き準備万端。目的は“乱交”と決まっているわけで、どんなにかいかがわしいやりとりが開始されるのかと思うと、意外とそうでもない。仕切り役がいなくなったパーティは、急に静けさが支配してぎごちない雰囲気。実際のそうしたパーティのことは知らないから、意外なこともないのかもしれないが、ほとんど裸になってはいても、心までがあからさまになるわけもなく、そこから先の交渉は普通の人間関係とさして変らないようだ。
 『愛の渦』は、“乱交パーティ”が題材とされていても、変態チックな行為を描くという趣旨ではないようだ。「そういう行為を見られるのは平気?」と女性が訊ねる場面がある。交渉のあと「いざ」ということになると、交渉の場であるリビングから階下のプレイルームに降りていくのだが、その場所は4つのベッドが仕切りなどなく並んでいて、自分たちの行為もほかの組の行為も当然晒されることになる。
 しかし、この映画では同時にそうした行為を捉える場面はほとんどない(カメラが渦のようにぐるぐると回りながら、絡み合う4組を捉える場面くらい)。また他人の行為を傍から眺める場面も、それほど強調されるわけではない。この映画は乱交そのものよりも、特異な場所に集まった人たちの会話劇のほうに主眼があるし、無口なニート青年(池松壮亮)と大人しくて地味な女子大生(門脇麦)、そんなふたりの視線のやりとりに物語は焦点化していく。(*1)

 ※ 以下、ネタバレもあり。ラストにも触れています。


『愛の渦』女子大生(門脇麦)はニートに視線を向ける。


 まずフリーター(新井浩文)がOL(三津谷葉子)を誘って階下へ向かう。次に会社員(滝藤賢一)が保育士(中村映里子)と消え、常連の女(赤澤セリ)と童貞(駒木根隆介)の関係が決まり、残ったふたりがニートと女子大生だったわけで、ふたりは自分たちでは何の行動もせずに何となく相手が決まり、プレイルームへ向かうことになる。実は女子大生は地味で大人しいけれど、性欲が強いらしく、行為の最中には誰よりも大きなあえぎ声で応える。無口なニートはそんな女子大生に惹かれ、乱交のためのパーティなのに彼女を手放したくなく、フリーターには「恋なんかしてんじゃねえよ」と毒づかれることになる。

 “乱交パーティでの恋”がテーマかと思うと、ラストではひっくり返されることになるわけだが、その前にもそれは予告されている。一部では相手の交換(スワップ)も行われ、2回戦も終わったころ、途中参加のカップルが登場する。このカップルはそれぞれ違う相手を求めて参加してきたはずで、「スワップによって愛を深める」などと言いつつ、彼女のほうがニート青年に跨って行為を始めると、彼氏は途中でふたりに割って入ることになる。
 彼氏は彼女を試すつもりで、乱交パーティへの参加を話題に出したのだろうが、彼女にはそれが通用しなかったわけだ。彼氏はそれを“高度なギャグ”だと語る。それがギャグとして成り立つには、彼女の側がそれを冗談として受け止め、ツッコミを入れなければならないわけで、この場合は真に受けてしまっていてギャグになっていない。
 “高度なギャグ”は、一度は相手に下駄を預けなければならず、相手の反応まで考慮の上で初めて成り立つものなのだ。間抜けなカップルは何度も肌を合わせていても、結局は互いのことをわかっていなかったわけで、だからこそ“高度なギャグ”は空回りする。

 ニートと女子大生の関係も同様だ。ニートは恋する気持ちで彼女を見ているし、女子大生がニートに送る視線も同様のものとも思えた。しかし、見つめ合うふたりの意味合いは、ラストのエピソードで変容する。交渉場でのニートの秘かな視線に応えるかのように見えた女子大生だが、実はあまりに一途すぎるニートが、彼女のスワップを邪魔するのを恐れていたのかもしれないのだ。身体は裸になっても、心まではあからさまにはならなかったわけだ。(*2)
 ラストでは、パーティを離れたニートと女子大生が喫茶店で互いに自己紹介をする。「加藤何某」と「鈴木何某」という名前は、ニートのほうは本名だろうが、女子大生のほうは偽名のような気もする。彼女は周囲の友達を腐す発言もしていたし、恋なんてことも糞みたいに思っているのかもしれず、見た目の地味さとは違って苛烈な何かを秘めている様子でもある。門脇麦が演じた女子大生は実はひどい女なのだろう。でも、その振舞いは恐らく無自覚で、ひどさを微塵も感じさせないような世慣れない雰囲気がよかった。あの場では、ニート青年は自分がフラれたことに気がつかなかったかもしれない。
 劇団「ポツドール」のことは知らないのだが、三浦大輔が監督した映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』では、漫画版やドラマ版のそれとは異なる終り方をしていた。ここでも主人公はひどくフラれることになるのだが、“惨めな男”というのが三浦大輔のモチーフなんだろうか。

(*1) 上記の文章では便宜的に名前を付けているが、映画のなかでは誰も自己紹介をしない。だから、誰がほかの誰に呼びかけるときも曖昧な呼びかけで、周囲の人物の視線が集まることで呼びかけている相手が理解されることになる。
 また、主役のふたりがほとんどしゃべらないのにも関わらず、この映画の中心にいるのは、ふたりの視線のやりとり自体がドラマとなっているから。

(*2) たとえばフリーター(新井浩文)なんかの振舞いを見ていると、単純で心もあからさまなようでもあるけれど、これは彼がコミュニケーション・スキルに長けているからとも思える。「恋なんかしてんじゃねえよ」というけんか腰の言葉すら、後段で“高度なギャグ”としてしまう機転もあり、そんな人は空回りすることも少ないのかも。


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Date: 2014.03.16 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

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