『恐怖の報酬【オリジナル完全版】』 フリードキン自身が最も愛する作品
もともとのこの作品のオリジナルはアンリ=ジョルジュ・クルーゾーの『恐怖の報酬』(1953年)で、ウィリアム・フリードキンがそれをリメイクした本作は1977年のもの。当時は大ヒットした『スター・ウォーズ』と同じ時期の公開となったこともあって、割りを食ってしまったところがあるようだ。【オリジナル完全版】と題されているのは、日本公開時には30分近くもカットされたバージョンとなっていたから。
原題は「Sorcerer」で「魔術師」という意味。

殺し屋に爆弾テロリスト、破産した投資家に、追われているアイリッシュ・マフィア。様々理由で南米にやってきた4人の男たち。そこでの酷い生活から逃れるために、命がけの仕事をすることになる。それはニトログリセリンを積んだトラックで320キロの密林のなかを進むというものだった。
とにかくハラハラドキドキの連続でスクリーンから目が離せない。説明的な台詞は廃して、ほとんど映像だけで描かれていく。本作公開時にはCGなどはなかったわけで、すべて本物である。
爆弾テロやカークラッシュの場面の破壊の凄まじさには目を見張る(ケガ人は出なかったんだろうか?)。廃車寸前のボロいタクシーも凄かったけれど、飛行機の薄汚さにもビックリだった(飛ぶ棺桶というか、掘り出してきたばかりの棺桶のようだった)。ジャングルの風景は実際に南米に行って撮影しているものだし、その緑の色合いと暑苦しい感覚はやはりセット撮影では出せないものだろう。
当初の計画ではスティーヴ・マックイーンやマルチェロ・マストロヤンニなどキラ星の如きスターたちの起用を検討していたようだが、こうした劣悪な撮影状況を嫌ったスターたちは出演を断ったらしい。確かに撮影現場が酷い環境であったであろうことは出来上がった本作からも窺える。それでも本作はそんな状況で撮影されたからこその、本物志向でなければ誕生することのなかった貴重な作品になっていたと思う。

本作のクライマックスは、トラックが暴風雨のなか壊れかけた吊り橋を渡っていくところ。CGでやったとしても似たような絵面はつくれるのかもしれないけれど、泥のような大河の上で実際に撮影したものとは伝わるものは違うような気もする。CGでは「よく出来たCGだな」と感心するのに対して、本物志向の場合は「よくもそこまで……」といった狂気のようなものすら感じるのだ。
最後にひとりだけ取り残されるアイリッシュ・マフィアのスキャンロン(ロイ・シャイダー)はトラックを捨ててニトロの箱を持ったまま目的地に向かって執念で進む。逃亡する前に「where am I going?」と訊ねていたスキャンロンだが、着いたところは地獄だったようだ。トラックが止まってしまう岩山の雰囲気は、表現主義の作家がつくった地獄谷のようで印象に残る。
原題には“魔術師”という言葉が選ばれている。これは“魔術師”というか意地の悪い神のようなもので、本作は何かに操られるようにして地獄に向かっていく4人を描いていく。ウィリアム・フリードキンはそこに運命的なものを込めたかったらしいのだが、映画が終わったあとの感覚は何とも言い難いものがあった。クルーゾー版すらもビデオで観たきりだったのだが、本作はぜひとも劇場の大きなスクリーンで観るべき作品となっていると思う。
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