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『止められるか、俺たちを』 何者かになりたかった女性の青春

 2012年10月に急逝した映画監督・若松孝二を描いた作品。
 監督は若松プロダクション出身で、最近は『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』などでも活躍著しい白石和彌

若松孝二 『止められるか、俺たちを』 白黒のタイトルバック。門脇麦演じる吉積めぐみと、オバケと呼ばれている秋山道男(演じているのはタモト清嵐)。

 若松孝二の伝記映画だと勝手に思っていたのだけれど、実際にはちょっと違っていて、若松を中心とした若松プロダクションに集まった面々の一時期を描いた作品だ。主人公は助監督として若松プロに入ったばかりの吉積めぐみ(門脇麦)である。
 本作では当時の若松プロに出入りしていた人物が実名で登場する。中心となる若松孝二を演じるのは井浦新。実際の若松孝二がどんな人物だったのかは知らないが、井浦新の演じる若松は飄々として惚けた味がある。ほかにも後に日本赤軍に合流することになる足立正生や、『荒野のダッチワイフ』大和屋竺や、雑誌「映画芸術」編集長で『この国の空』の監督でもある荒井晴彦など、様々な映画人が顔を出す。
 それからめぐみを若松孝二に紹介したオバケは、その本名を秋山道男と言い、後には無印良品とかチェッカーズのプロデュースをした人物とのこと。『ゆけゆけ二度目の処女』では秋山未痴汚という名前でクレジットされていて、劇中で彼が口ずさむ歌がいつまでも耳に残る(『止められるか、俺たちを』でも使用されている)。この歌は中村義則という詩人が書いた「ママ 僕、出かける」から始まる詩に節をつけて歌ったものとのこと。
 とにかく当時の若松プロには様々な才能を持つ人物が出入りしていたということはよくわかる。そんな人たちが寄り集まって若松作品を生み出していったのだ。そんななか若松孝二に怒鳴られながらも、次第に若松組のなかで助監督としての地位を確立していっためぐみだが、その先のことは見えないでいた。映画監督にはなりたいけど、何を撮ればいいのかわからないという鬱屈を抱えることに……。

『止められるか、俺たちを』 手前の吉積めぐみ(門脇麦)と、中心にいるのが若松孝二(井浦新)。

 「政治と文学」という言い方があって、もはやそんなのは死語なのかもしれないけれど、文学をやることが政治ともつながっているということが信じられていた時代があった。そして、それは映画をやることも同様だったのだろう。元ヤクザで警官を殺すことができるから映画監督になったという若松孝二も、映画という武器で世の中と闘うことを目論んでいる。
 本作にも何度か顔を出す大島渚も元々全学連として学生運動に参加していて、後に『日本の夜と霧』(1960年)という政治的な作品を撮り、松竹を辞めて独立プロでやっていった監督だった。映画は単なる職業という以上のもので、映画を撮ることが世の中を変えていこうという運動でもあったということなのだろう。

 本作は若松作品で言えば、『処女ゲバゲバ』『ゆけゆけ二度目の処女』などが公開された1969年あたりから、『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』が出来上がった1971年あたりまでの出来事が追われる。この間、世間では連合赤軍事件があったり三島由紀夫の自殺があったりするが、本作がこの期間で区切られているのは主人公の吉積めぐみが亡くなってしまうから。若松プロでは「3年経てば監督に」と言われていたが、めぐみはその前に死んでしまうことになる。
 若松プロは厳しい世界で「男でももたない」と言われていて、実際に劇中でも辞めていく人はいる。しかし、その理由は様々だ。満島真之介が演じた真っ直ぐな男は、弱小プロダクションが生き残るために金儲けを狙った作品に幻滅して飛び出していくし、映画のなかでやれることはやったと感じたオバケは別の世界での再出発を求めることになるし、大和屋竺はテレビ作品(『ルパン三世』の脚本を書いていたらしい)に足場を移すことになる。
 めぐみのなかでは「何者かになりたい」という漠然とした望みはあっても、自分のなかから湧き出るような表現すべき“何か”は見つからない。周囲にエネルギッシュで才能ある人が多かっただけに、余計に焦燥感を覚えたのかもしれない。そして、同時期に若松プロの同僚との間に子供ができてしまったことも問題だった。ただ、めぐみは子供を堕ろすこともできなかったし、子供を産んで家庭に収まることも望まなかった。その結果がまるで自死のような最期だったということなのだろう。

 白石和彌作品としては毒気が薄まった感じではあるけれど、「何者かになりたい」ひとりの女性の青春映画として、吉積めぐみに対する愛惜の気持ちが素直に感じられる作品となっているところがよかったと思う。個人的には同じ時代に書かれた『二十歳の原点』という本を思い出したりした。この時代の若者は答えを性急に求めすぎてしまっていたのかもしれないなどと感じたりもした。現代の若者だって「何者かになりたい」とは感じているけれど、『ここは退屈迎えに来て』(門脇麦はこっちにも登場する)を観ると、そこまで切実な焦燥感はなさそうに見える。

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Date: 2018.10.28 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『ハナレイ・ベイ』 クールな女性の胸の内は?

 原作は村上春樹の同名短編小説(『東京奇譚集』所収)。
 監督は『トイレのピエタ』松永大司
 
松永大司 『ハナレイ・ベイ』 主役のサチを演じる吉田羊と、その息子役の佐野玲於、一番下は仲良くなったサーファー二人組のひとりの村上虹郎。

 シングル・マザーのサチ(吉田羊)は一人息子のタカシ(佐野玲於)の突然の死を知らされる。タカシはハワイ・カウアイ島のハナレイ・ベイで、サーフィンの最中にサメに襲われたのだ。現地まで向かったサチは、そこで片足を噛み千切られたタカシの遺体と対面する。
 サチは息子が死んでもあまり動揺というものを見せない。というのも、彼女はタカシのことがあまり好きではなかったとも感じていたから。もちろん愛してはいるのだけれど、嫌ってもいる。サチはタカシのなかにドラッグで死んだ旦那(栗原類)の姿を見ているのだ。
 サチはそれから毎年同じ時期に休みをとって、数週間ハナレイ・ベイに滞在する。タカシが亡くなった海でビーチチェアに身を預け本を読み、雨が降れば車のなかから海を眺める。そうした10年が過ぎ、サチはその海辺で日本人の二人組(村上虹郎佐藤魁)に出会い、“片足のサーファー”の噂を聞くことになる。

『ハナレイ・ベイ』 サチはタカシの亡くなった海の近くで毎年数週間を過ごすのだが……。

 冒頭にイギー・ポップ「The Passenger」に合わせてタカシが登場する。この曲のタイトルは「乗客」を意味し、運転免許を持っていなかったイギー・ポップがデビッド・ボウイの運転する車の助手席に乗っているときに生まれたものだという。
 タカシが何に乗っていたかと言えば、サーファーだから波乗りであり、その後にサメに襲われ自然の循環に乗って消えていくことになる。ちなみに「The Passenger」には「お荷物」という意味もあるとのこと。
 この曲はラスト近くでサチが涙を流しつつ聴くことになるのだが、この曲の入ったカセットテープはサチの旦那が遺したものをタカシが受け継いだもの。彼らがこの曲を好んで聴いていたのは、自分がサチにとっての「お荷物」だと感じていたからだろうか。そんなわけだからタカシとサチの関係もうまくいくわけがないのだ(断片的に登場する過去の場面では、ふたりのギスギスした関係が描かれるのだが、ハナレイ・ベイの自然の光と対照的な人工的な光のなかのふたりが寒々しい)。

 サチはクールな女性で、度重なる不幸にも冷静に対処して前に進んでいる。それでもサチに屈折したものを感じるのは、亡き旦那が嫌いならば彼の荷物など捨ててしまえばいいのに、クローゼットの奥に取っておいたりするところがあるから。タカシのことを愛していたけれど嫌いでもあるという複雑な気持ちも、そうした屈折のなせる業だろう。
 タカシが亡くなった海には10年も通っているのに、サチのすることは海の近くに陣取って読書するばかり。親切な地元の女性が取っておいてくれている彼の手形を頑なに受け取らないのも、ハナレイ・ベイに“何か”がいるのは感じているのに、それを直視することは避けていたということだろうか。ただ、“片足のサーファー”の噂を聞くと居ても立ってもいられなくなり、ビーチを探し回ることになる。タカシのことを知りもしないサーファーたちに見えるのに、自分に見えないのは耐え難いということだろうか。

 本作はサチがタカシの死を受け入れるまでの過程をハナレイ・ベイの美しい自然をバックに丁寧に描いていく。チャレンジングなのは、サチの内面をほとんど説明しないところだろうか。たとえば『トイレのピエタ』には死んでいく主人公に付き添い話を聞いてくれる同行者がいたし、主人公の内面を感じさせる絵画もあった。しかし、本作ではサチが内面を打ち明けるような同行者はいない。サチはハナレイ・ベイの自然を相手に独り相撲を取るばかりなのだ。
 個人的にはこの禁欲的な描き方には好感が持てたし、ラストの振り返ったサチの柔和な表情もその目に映ったものが何なのかを能弁に示していたんじゃないかと思う。ただ、屈折したクールな女性の内面を慮るのはなかなか厄介だよという意見もあろうかとも思う。

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Date: 2018.10.26 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (1)

『デス・ウィッシュ』 ヴィジランテからグリム・リーパーへ

 監督は『ホステル』などのイーライ・ロス
 チャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』(マイケル・ウィナー監督)のリメイク。

イーライ・ロス 『デス・ウィッシュ』 ブロンソンの『狼よさらば』のリメイクにブルース・ウィリスが挑む。

 強盗たちに愛する妻(エリザベス・シュー)を殺され、娘(カミラ・モローネ)も昏睡状態にされたポール・カージー(ブルース・ウィリス)は、頼りにならない警察の仕事に業を煮やし、自らの手で悪党を懲らしめることを決断する。
 設定はオリジナルの『狼よさらば』(1974年)と同様だが、主人公の職業が建築技師から外科医に変更されていたり、SNSでの動画拡散など現代に合わせた改変もなされている。
 きっかけとなる強盗事件の描写はオリジナル版のほうがえげつないし、リメイク版は弟のフランク(ヴィンセント・ドノフリオ)とのやり取りもあって、暗い話の割にはどこかちょっと微笑ましい感じもする。あまりに激辛にしすぎると受け入れられないという判断からか、かなりマイルドな味付けになっていて(イーライ・ロス監督だけに一部ゴア描写はあるけれど)、ブルース・ウィリスが活躍するヒーローものとして楽しめる作品となっていたと思う。

『デス・ウィッシュ』 顔バレすると困るからフードを被ったまま仕事をする主人公。最初はつたなかった銃さばきもすぐに達人の域になってしまうのはブルース・ウィリスだからか。

 オリジナルは西部開拓民が持っていたような自警主義(ヴィジランティズム)が、現代においても必要なんじゃないか、そんな問題提起を意図していた部分もあるが、リメイク版ではあまりそうした側面は感じられない。自警主義を強く打ち出すことは銃社会を推進することになるわけで、銃社会への嫌悪感に対しての配慮が働いているかもしれない。
 だからオリジナルのポール・カージーがアマチュア刑事(ヴィジランテ)と呼ばれていたのに対し、リメイク版のポールは死神(グリム・リーパー)と呼ばれている(SNSで拡散された動画でポールがフードを被っていたからだろう)。そして、自警主義というよりも私的な怨みを晴らす方向に展開することでカタルシスのある話になっている。ラストの秘密兵器が通販番組なんかでも売っているお薦めの品だというのも笑わせるところ。
 ブルース・ウィリスのポール・カージーは、一気に街のヒーローに祭り上げられた動画を見てちょっと嬉しそうで、あまり悲壮感はない。銃など持ったことがないという設定なのに、初めて銃を構えるシーンがやけに決まってしまうのは、『ダイ・ハード』シリーズなんかで銃の扱いに慣れているブルース・ウィリスだから仕方ない。
 タイトルの『デス・ウィッシュ』「死の願望」を意味するのだと思われるが、オリジナル版のチャールズ・ブロンソンには自殺願望めいたものを感じさせる部分もあるけれど、リメイク版では昏睡状態だった娘も回復して「めでたし、めでたし」というスッキリしたラストだった。

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Date: 2018.10.21 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)

『日日是好日』 お茶の効能はマインドフルネス?

 監督は『光』『セトウツミ』などの大森立嗣
 原作は森下典子のエッセイ『日日是好日‐「お茶」が教えてくれた15のしあわせ‐』
 タイトルは有名な禅の言葉。後先考えずに始めてしまったこのブログのタイトルもこれをもじったもの。似たようなタイトルのブログを見かけたりもするのでありがちな言葉だったらしい。今となっては遅いけれど……。

大森立嗣 『日日是好日』 多部未華子、黒木華、樹木希林の主だった女優陣。


 「本当にしたいことが何なのかわからない」と感じていた典子(黒木華)は、親の薦めもあって従妹の美智子(多部未華子)と一緒に茶道を始める。茶道教室の武田先生(樹木希林)は、そのたたずまいからして人と違って見えるということで、その先生に教えを受けることになる。

 エッセイを元にしているからか物語らしい物語もなく、まったくの素人だった典子が茶道を通して成長していく月日を追っていく。武田先生曰く、茶道は「始めに形をつくっておいて、後から心が入るもの」とのことで、典子はわけもわからぬまま様々なお茶の作法を学んでいく。
 描かれるのはほとんどが茶室での出来事だが、四季折々に窓の外に見える自然の様子が美しい。途中で美智子が結婚したりもするし、典子も彼氏と別れたりもするけれど、そうしたことにはあまり触れられない。新しい彼氏も顔すら映らないくらいで、徹底的にお茶のことだけに題材を絞っている(あとは家族の話くらいだろうか)。そう言えば茶道教室の生徒にも男性は皆無だったし、お茶の道にはそうしたドロドロしたものは不要ということなのかもしれない。

『日日是好日』 典子(黒木華)は茶道を習う。窓の外の自然が美しく描かれている。

 「日日是好日」の意味は、「毎日がいい日」とかいう単純なものではないらしい。もともとは禅の言葉で、そこには深い意味があるのだとか。作品中には長い茶道の稽古の末に、典子がその言葉の意味を感得する場面もあって、簡単に言ってしまえば「一期一会」に通じるようなものになるだろうか。
 個人的にはこの場面で典子が感じていると思われるお茶の効能は、「マインドフルネス」などと言われるものとよく似ているように思えた。「マインドフルネス」とは簡単に言えば、「今ここで起こっていることに注意を向けること」だ。これはもともと仏教などで行われていた瞑想の効能であり、その宗教色を除いた西洋的な実践が「マインドフルネス」ということになる。
 典子は茶道によって、それまで見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえてくる。それまでは微妙過ぎて感じ取れなかった「お湯の音」と「水の音」の違いがわかるようになり、かつては「四季」というだけで済ませていた季節の移り変わりも「二十四節気」という細かい区分で感じられるようになる(「清明」なんて区分もあるのだとか)。かつてはつまらなかった映画『道』(この選択は“道”つながり?)が大事な作品と思えるようになったのも、典子の成長ということなのだろう。
 茶道は禅とは別のものだけれど、その境地には似たような部分があるのかもしれない。武田先生が達観しているように見えるのも、茶道の効能によって人生が豊かになっていることの表れなのだろう。
 この作品を観ることだけでは茶道の効能はないかもしれないけれど、のんびりと落ち着いた作風に癒しは感じられるんじゃないだろうか。先日亡くなられた樹木希林の演技はあまりに自然でアドリブかとも思われるようだったし、「毎年同じことができるってことが幸せ」という劇中の台詞は樹木希林自身の言葉のようにも響いた。それから『リップヴァンウィンクルの花嫁』に陶酔した者としては、黒木華の和服姿というのも見逃せないところじゃないんだろうかと思う。

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Date: 2018.10.18 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (2)

『アンダー・ザ・シルバーレイク』 青春のあとにたどり着いたところ

 『アメリカン・スリープオーバー』『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の最新作。

デヴィッド・ロバート・ミッチェル 『アンダー・ザ・シルバーレイク』 サム(アンドリュー・ガーフィールド)は近所に引っ越してきたサラ(ライリー・キーオ)に一目惚れしたものの……。


 サム(アンドリュー・ガーフィールド)は故郷を離れ、ハリウッド近くのシルバーレイクという街にやってきたものの現実は甘くない。仕事もなく怠惰な日々のなか、サムは近所に越してきたサラ(ライリー・キーオ)という女の子に一目惚れ。しかし、翌日、彼女を訪ねると家はもぬけの殻で、彼女もどこかに消えてしまっていた。

 失踪した女の子を捜すというプロットはさほど珍しくはないのだけれど、サムが迷い込んだシルバーレイクという街は迷宮のようであって、すべてが混沌としてくるようだった。頻発する犬殺し、フクロウのキス、誰かが残していった暗号、謎の作曲家など意味不明と思えるものが多々登場し、さらにはそれを見る側のサムの妄想なども交じり合って夢とも現実とも区別がつかない世界に入り込んでいく。
 さらに本作にはハリウッド映画やその他様々なポップカルチャーからの引用も盛りだくさんで、それらを見つけ出すという楽しみもある。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督のデビュー作『アメリカン・スリープオーバー』も修正しつつ引用もされていて、そのなかの女優が『アンダー・ザ・シルバーレイク』の世界に登場しているという凝った演出もある。
 それから舞台となるのが『ラ・ラ・ランド』と同じ地域ということもあって、あのグリフィス天文台も登場し、『ラ・ラ・ランド』ではそこから主人公たちが天に昇っていくのに対し、『アンダー・ザ・シルバーレイク』ではサムは地下に導かれることになる(町山智浩の指摘)。そんなわけで『アンダー・ザ・シルバーレイク』はハリウッドの裏面を覗かせてくれるような作品ともなっている。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』 派手な出で立ちの女の子たち。彼女たちは映画にも出たりしている女優でもあり、バイト感覚で娼婦もしているらしい。

◆前2作を振り返ると
 監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは『イット・フォローズ』で一躍有名となり、本作が第3作目。
 過去の作品を振り返っておくと、デビュー作の『アメリカン・スリープオーバー』は日本では『イット・フォローズ』のあとに限定的に劇場公開された。この作品は原題が「The Myth of the American Sleepover」となっていて、直訳すれば「アメリカのお泊り会の神話」。高校生にもなればもう大人というわけで、通過儀礼のような性的体験は早めに済まさなければならないとされている。うぶな子供たちはそこに焦りを感じている。しかし、『アメリカン・スリープオーバー』が描くのは、実はそんなのは青春時代の神話であり、子供時代こそ素晴らしいんだということだった(個人的には一番好き)。
 次の『イット・フォローズ』はホラー映画となっていて、セックスを介して感染するという“それ”によって追い回されるという話。“それ”の解釈は様々だが、一般的には“死”そのものではないかとされている。セックスが未経験ならば“それ”はやってこないわけで、セックスによって“それ”(=“死”)に追い回されるということになる。
 セックスが“生”に結びつくのはわかりやすいが、なぜ“死”と結びつくのか。ここからは私の勝手な解釈だが、生物学の知見から考えるとわかりやすいと思う。たとえばアメーバーのような生物は分裂するだけで増えていくわけで、分裂した片割れはもう一方のコピーだから“不死”と言ってもいい。しかしヒトのような有性生殖の場合、オスとメスの遺伝子を組み合わせることで環境に対する対応能力を増したけれど、親の世代は必ず死んでいくことになる。つまりは有性生殖を選んだことで、“死”を抱え込むことになった(こうした議論は『自我の起原』という本に書かれているもの)。単なるホラー映画ではなく、生と死とセックスに関する洞察を感じさせる作品だった。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』 サムはサラといい関係になりそうに……。しかし翌日彼女は失踪してしまう。

◆陰謀論的な見方
 さて、ようやく『アンダー・ザ・シルバーレイク』についてだ。サムはすでにいい大人であり、出会った人との挨拶のなかでは「仕事はどう?」といった言葉が社交辞令的に使われている。サムは適当に「順調だよ」などと誤魔化したりしているが、実は無職でありホームレス寸前の状態なのだ。それなのにサムは消えたサラを捜してばかりで、滞納した家賃のための金策に走ることもないダメな人間なのだ。
 かつてサムの彼女だった女の子は、今では看板広告に出るほど成功している。そんな彼女が語るのは「努力したから今がある」ということだった。一方でサムはと言えば、毎日、中庭から向かいの部屋を覗き見ているという体たらく(これは『裏窓』の引用)。ただ、サムには「こんなはずじゃなかった」という感覚はある。わざわざシルバーレイクまで来たのは成功したかったからで、こんなふうに怠惰な日々と過ごすためではなかったのだから。
 それが真っ当な方向へ行かないのがサムのダメなところ。サムは世の中には隠された秘密があって、一部のセレブたちだけがそれを共有しているといった妄想に囚われていく。そして、その秘密を解き明かすことができればすべてが解決する。そのヒントを教えてくれるのが失踪したサラなのかもしれない。そんなふうに物事をこじらせていく。

◆サムがたどり着いたところは?
 紆余曲折を経てサラの元にたどり着くが、サラはすでに手の届かない場所にいる。そのサラが語るのは「間違ってしまったのかもしれないけれど、今さら元に戻ることもできないし、ここでやっていく」といった言葉だった。これはその後に引用される『第七天国』(←未見なので推測)の「うつむかないで。上を向いて」という台詞とも物事を肯定的に捉える点では似ているけれど、『第七天国』が希望を感じさせるのに対して、本作のサラの言葉は諦めムードも漂っている。
 その後のサムも自分が間違っていたことに気づく。多分、サムは家を追い出され、老婆の家の居候としてしばらく過ごすことになるのだろう。サラが感じていたような諦めと共に……。
 これは某映画サイトで誰かが書いていたことだが、サムは死んでいるのかもしれない。そうでなくともサムは死んだように生きていくのかもしれない。というのは、サムは酷い悪臭がすると何度も指摘されているからだ。つまり悪臭はスカンクの臭いではなく、死臭ということだ。
 前2作を踏まえて考えると、サムはもう子供ではないし、過度なセックスの幻影に惑わされることはないけれど、やはり死の影は常につきまとっているということだろうか。一度観ただけでは到底追いつかないけれど、今度もまたなかなか痛いところを突いてきたなあと感じた。

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Date: 2018.10.14 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (5)

『ブレイン・ゲーム』 あの作品の続編?

 監督は『トゥー・ラビッツ』のアフォンソ・ポヤルト(もしくはポヤート)。
 製作総指揮には主演も務めるアンソニー・ホプキンスが名前を連ねている。
 原題は「Solace」「慰め」という意味。

アフォンソ・ポヤルト 『ブレイン・ゲーム』 クランシー(アンソニー・ホプキンス)は超能力者。犯人役のコリン・ファレルは作品中にはなかなか出てこない。


 証拠もなく行き詰った連続殺人事件の捜査ため、FBI捜査官ジョー(ジェフリー・ディーン・モーガン)と相棒キャサリン(アビー・コーニッシュ)はある人物に助けを乞う。ジョーの旧友クランシー(アンソニー・ホプキンス)は一種の超能力者であり、彼の能力を借りて犯人を見つけ出そうというのだ。

 クランシーの能力は、触れたものの過去や未来のことがわかってしまうというもの。一般的には「サイコメトリー」などと呼ばれるものらしい。クランシーはジョーと一緒にFBIで働いていたこともあったのだが、ある悲劇によって引退してひきこもった生活をしていた。
 その悲劇とは娘の死だ。クランシーは娘の未来を予知することができたわけだが、娘の病(白血病)は彼の能力によってもどうすることもできない。クランシーは娘の闘病を横で見つめるだけで何もできず、ただ娘が苦しんで死ぬのを見守るだけだったのだ。
 そんな状況のクランシーは捜査への協力を拒むものの、たまたま触れてしまったキャサリンの未来の姿(血を流した姿)を見てしまい、前言撤回してジョーたちに協力することになる。
 しかし連続殺人に証拠は何も残っておらず、被害者に共通点も見当たらない。犯人は一体どんな目的で犯行を続けているのか?

 ※ 以下、ネタバレあり! 結末にも触れているので要注意!!

『ブレイン・ゲーム』 紅一点のキャサリンを演じるのはアビー・コーニッシュ。金髪でセクシー!

 被害者に共通点は何もない。そう思われていたのだが、クランシーは被害者の共通点を発見する。それは被害者が不治の病によって死ぬ運命にあったということ。それがわかったのはクランシーの特殊能力があってのことであり、つまりは犯人も同じような能力の持ち主ということもわかってくる。そして、犯人はクランシーたちの動きをすべて読んでいると宣言するような挑発的な手紙を送りつけてくる。
 実は犯人役のコリン・ファレルはなかなか登場しないのだが、その犯行動機はちょっと珍しいタイプのもの。というのも犯人チャールズは快楽殺人とか自己顕示とは無縁だから。彼は自分の連続殺人を、病によって苦しむはずの患者を事前に救ってやっている“慈悲殺人”だと考えているのだ。さらには「大いなる善には痛みが伴う」みたいな妄言を吐いてクランシーを驚かせる。
 そんな言葉を聞いたクランシーはもちろん反論する。被害者たちの時間を奪う権利はないはずだと。しかし、クランシーは結局チャールズの手のひらの上で踊らされていたようにも見える。というのも回想シーンでわかるのは、クランシーにとってチャールズの行動が「慰め」のようになっているからだ。
 チャールズの考えは極端すぎるし、ほとんど世間に受け入れられることはないだろう。当然クランシーもそれを否定するのだけれど、実際にはクランシーは痛みに苦しむ娘の声を聞き、それが耐えがたくて娘に死の平安を与えていた。その意味ではふたりにはどこかに共感がある。だからクランシーの予知のなかでチャールズは十字架の前に立つ姿で現れる。クランシーにとってチャールズは傍迷惑な存在ではあるけれど、同時に救い主のように見えたのだろう。
 最後に思い出したのは『デッドゾーン』の主人公の孤独だ。彼は未来が見えるために、未来を変えるか否かで逡巡する。未来が見えるのは彼だけであり、彼の未来を変えてしまう行動は誰にも理解されることはない。そんな男の孤独を癒すために、『ブレイン・ゲーム』がつくられたんじゃないかとも思えた。実際には本作は『セブン』の続編として企画されたものとのことらしいし、主人公がアンソニー・ホプキンスだけに『羊たちの沈黙』シリーズを思わせたりもするのだけれど……。
 未来が断片的に描かれる短いカットの連続などはMTV的で派手さもあって悪くないのだけれど、カーチェイスのスピード感のなさにはガッカリさせられたりもしたり、超能力者ふたりが対峙する場面には拍子抜けしたのだけれど、総じて楽しめる作品となっていたと思う。

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Date: 2018.10.13 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『かごの中の瞳』 あなたしか見えないって?

 監督は『プーと大人になった僕』などのマーク・フォースター
 原題は「All I See Is You」

マーク・フォースター 『かごの中の瞳』 目の見えないジーナ(ブレイク・ライヴリー)は角膜移植によって視力を取り戻し……。

 目の見えない美しい妻ジーナ(ブレイク・ライヴリー)と、彼女を献身的に支える夫ジェームズ(ジェイソン・クラーク)。ふたりはジェームズの赴任先であるタイのバンコクで満ち足りた生活を送っていた。しかし、ジーナが角膜移植によって視力を取り戻すとちょっと事情が変わってくる。
 作品内で詳細な説明はないのだが、ジーナとジェームズが出会ったのは、ジーナが交通事故によって視力を失った後のことらしい。つまりジーナはジェームズの顔を知らずに結婚したということ。だとすればジェームズは最初から角膜移植手術には慎重であってもよさそうな気もするのだが、なぜかジェームズは手術に賛成する。尤もそれはジーナの幸せを願ってのことなのかもしれない。ジェームズは彼女の世話を「自分の特権だ」と言うほど彼女のことを愛してやまないから……。
 そしてジーナの手術は成功し、彼女は次第に視力を取り戻していく。これまでと世界が一変するわけだが、ジーナは様々な色に溢れる世界に驚きつつも、久しぶりに見えるようになった世界は想像していたものとは違っていてちょっと失望したりもする。初めて見るはずのジェームズの顔についても、ちょっと想像と違うというだけであまり触れることもない。ジェームズなしでは不便だった日々の生活も自由になり、着飾ってメイクもするようになったジーナは今までとは違う生活を求めていくことになる。

 ※ 以下、ネタバレもあり! ラストにも触れているので要注意!!


『かごの中の瞳』 ジーナ(ブレイク・ライヴリー)は近所の子供と一緒に弾き語りをする。それはジェームズに向けた歌でもあった。

 
 ジェームズという支えがいなければ生活もままならなかったジーナは、視力を回復したことで自由になる。自由になった若くて美しい女性が、やさしいけれど堅物で退屈なジェームズから離れていくことは予想通りの展開だろう。
 ジーナはそれまで見えなかった分も楽しみたいという気持ちでいっぱい。それなのにジェームズは彼女のこれまでとは違う行動についていくことができず、彼女が誘ったダンスにも「ダンスなんてバカに見えるじゃないか」と嫌がるのだ。
 その後のスペイン旅行ではジーナの姉夫婦たちと再会するが、姉の旦那はどう見ても“バカ”そのもの。この“バカ”というのは、“バカ”になって人生を楽しむことができるという意味であり、ジェームズは堅物すぎてそれができないのだ。ジーナと姉夫婦の3人が覗き部屋で楽しむとき、ジェームズはそれを断るのも“バカ”になれないジェームズの哀しい本性が出ている。
 というよりはジェームズこそが真の覗き魔であり、覗きと同じように目が見えないジーナを相手にするのがよかったのであって、ジーナに見られていると萎えてしまうのだ。

 そうなるとジェームズは元の状態に戻ることを求めるわけで、ジーナの使う目薬に細工を施すことになる。ラストの展開は様々な解釈があり得るように思えた。ジーナは本当に再び盲目となったのか?
 本当に盲目となることを選んだのなら『春琴抄』的な愛の話ともなるのかもしれない。ジーナは原題にもあるように「あなたしか見えない」と歌っていたわけだし……。あるいは盲目のフリをしているだけだったとしたら、「あなたしか見えない」という意味は「お前を見張っているぞ」というメッセージだったのだろうか。私は前者かと思って見ていたのだけれど(ジェームズが恥じ入っているように見えたから)。どちらにしてもジェームズという男のあまりにも情けない姿には、かえってかわいそうになって同情してしまったくらいだった。

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Date: 2018.10.04 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (1)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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