『パターソン』 a-ha?
ゲスト的な出演だけれど「a-ha?」というよくわからない相槌でおいしいところを持っていくのは、『ミステリー・トレイン』以来のジャームッシュ作品出演となる永瀬正敏。

舞台はニュージャージー州パターソン。その町と同じ名前の主人公パターソン(アダム・ドライバー)はバスのドライバーをしている。この作品は彼のなんてことのない一週間を描いていく。
妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)がまだ寝ているうちに仕事へと出かけていくパターソン。バスのなかで出発を待つ合間にはノートに詩をしたためる。同僚がいつものように出発時間を知らせると、それを合図に町へとバスを走らせ、仕事が終われば妻の待つ家へ歩いて帰る。夕食後は愛犬と共に散歩へと出かけ、バーでビールを一杯だけ傾ける。そうした平凡な日々の繰り返しだ。なぜか双子が何組も出てきたり、あちこちに詩人が登場したりもするけれど、他愛ないエピソードばかりなのだ。
ただ、そうした単調な日々も決して退屈なものではない。彼はバス・ドライバーであると同時に詩人であり、日常のなかの何気ない物事を詩に謳い上げる。お気に入りのマッチ箱ですら、彼にとっては詩の題材になってしまうのだ。
日々を楽しむ点では妻のローラも負けていない。ローラは専業主婦なのかもしれないのだけれど、毎日部屋の模様替えやらファッションやら何かしらアーティスティックな活動をしている。突然の思い付きでギターを旦那にねだったりするのは調子がいいのだけれど、パターソンはそんな奥さんのことが愛おしいらしい。

パターソンという町は名所と言えば滝があるくらいで、どちらかと言えば寂れた町に見える。この町のどこに詩情を誘うものがあるのかはよくわからないのだけれど、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズというアメリカを代表する詩人や、ビートニクの詩人ギンズバーグなんかも輩出しているとのこと。詩人の目には日常の風景すらも詩的なものとなるのかもしれない。
この作品では事件らしいことは何も起こらない。主人公のごく普通の生活が描かれていくだけなのだが、そこに詩情が感じられる。バスが走り出すとその窓に映り込む町の風景も流れていく。それがいつの間にかにパターソンの横顔と町の風景とのオーバーラップへと移行していくうちに、彼の構想する詩がかぶさってくる。そうした映像と音の推移がとても心地よいのだ。
語るべきテーマなんか何もなくても映画はいくらでもおもしろくなるということを改めて感じさせる作品だったと思う。そして、パターソンに手酷い仕打ちを喰らわせることになるバカ犬マーヴィンが何ともかわいらしく、その演技はカンヌ映画祭のパルム・ドッグ賞受賞も納得のうまさだった。
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