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『パターソン』 a-ha?

 監督・脚本は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などのジム・ジャームッシュ
 ゲスト的な出演だけれど「a-ha?」というよくわからない相槌でおいしいところを持っていくのは、『ミステリー・トレイン』以来のジャームッシュ作品出演となる永瀬正敏

ジム・ ジャームッシュ 『パターソン』 変わらぬ朝の風景から1日が始まる。主人公には話題作に引っ張りだこのアダム・ドライバー。奥さん役は『彼女が消えた浜辺』のゴルシフテ・ファラハニ。

 舞台はニュージャージー州パターソン。その町と同じ名前の主人公パターソン(アダム・ドライバー)はバスのドライバーをしている。この作品は彼のなんてことのない一週間を描いていく。
 妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)がまだ寝ているうちに仕事へと出かけていくパターソン。バスのなかで出発を待つ合間にはノートに詩をしたためる。同僚がいつものように出発時間を知らせると、それを合図に町へとバスを走らせ、仕事が終われば妻の待つ家へ歩いて帰る。夕食後は愛犬と共に散歩へと出かけ、バーでビールを一杯だけ傾ける。そうした平凡な日々の繰り返しだ。なぜか双子が何組も出てきたり、あちこちに詩人が登場したりもするけれど、他愛ないエピソードばかりなのだ。
 ただ、そうした単調な日々も決して退屈なものではない。彼はバス・ドライバーであると同時に詩人であり、日常のなかの何気ない物事を詩に謳い上げる。お気に入りのマッチ箱ですら、彼にとっては詩の題材になってしまうのだ。
 日々を楽しむ点では妻のローラも負けていない。ローラは専業主婦なのかもしれないのだけれど、毎日部屋の模様替えやらファッションやら何かしらアーティスティックな活動をしている。突然の思い付きでギターを旦那にねだったりするのは調子がいいのだけれど、パターソンはそんな奥さんのことが愛おしいらしい。

『パターソン』 主人公パターソン(アダム・ドライバー)と愛犬マーヴィン。背景には滝が見える。

 パターソンという町は名所と言えば滝があるくらいで、どちらかと言えば寂れた町に見える。この町のどこに詩情を誘うものがあるのかはよくわからないのだけれど、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズというアメリカを代表する詩人や、ビートニクの詩人ギンズバーグなんかも輩出しているとのこと。詩人の目には日常の風景すらも詩的なものとなるのかもしれない。
 この作品では事件らしいことは何も起こらない。主人公のごく普通の生活が描かれていくだけなのだが、そこに詩情が感じられる。バスが走り出すとその窓に映り込む町の風景も流れていく。それがいつの間にかにパターソンの横顔と町の風景とのオーバーラップへと移行していくうちに、彼の構想する詩がかぶさってくる。そうした映像と音の推移がとても心地よいのだ。
 語るべきテーマなんか何もなくても映画はいくらでもおもしろくなるということを改めて感じさせる作品だったと思う。そして、パターソンに手酷い仕打ちを喰らわせることになるバカ犬マーヴィンが何ともかわいらしく、その演技はカンヌ映画祭のパルム・ドッグ賞受賞も納得のうまさだった。

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ジム・ジャームッシュの作品
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Date: 2017.08.30 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (7)

『ベイビー・ドライバー』 現実逃避のススメ

 『ショーン・オブ・ザ・デッド』などのエドガー・ライト監督作品。
エドガー・ライト 『ベイビー・ドライバー』 脇役のケビン・スペイシーとジェイミー・フォックスとなかなか豪華。


 幼いころの交通事故で耳鳴りが続き、それを消すために常にiPodで音楽を聴き続けている青年ベイビー(アンセル・エルゴート)。ベイビーは天才的なドライビング・テクニックで犯罪組織の「ゲッタウェイ・ドライバー(逃がし屋)」として活躍中だが、ある日、デボラ(リリー・ジェームズ)という女の子と出会い……。

 カー・チェイスを売りにした映画はたくさんあると思うのだけれど、この作品はそれを見事に音楽にシンクロさせているところがすごいところ。カー・チェイスを撮影してからそれに音楽をかぶせるという方法ではなく、初めに音楽ありきで、音楽に合わせてすべての振り付けまでが練られていたものらしい。
 この楽しさは公開されている冒頭6分の本編映像を見てもらうのが一番手っ取り早い。とにかく見れば一目瞭然なのだ。登場人物の一挙手一投足が音楽のリズムに乗っているし、銃撃戦が始まればそれがドラムの音と一緒になって響いてくる。歌い踊り出したりはしないけれど、感覚的にはミュージカルと変わらないノリだから、大音量で音楽を響かせる劇場でこそ楽しめる作品となっているんじゃないだろうか。



 エドガー・ライトという監督はいつもジャンル映画のパロディ作品を撮っている人。『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではゾンビ映画を、『ホット・ファズ ‐俺たちスーパーポリスメン!‐』では刑事ものを、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ではボディ・スナッチものを下敷きにした作品を仕上げている。
 『ベイビー・ドライバー』は、『ザ・ドライバー』『ドライヴ』のような「ゲッタウェイ・ドライバー」を主人公とした作品となっているわけだけれど、それ以上に音楽にウェイトがあるとも言える。ジャンル映画にもそれなりに引き出しは多いかもしれないけれど、音楽はそれ以上に膨大なリストを持っているわけで、この作品は様々なジャンルの音楽を聴かせてくれる。

 iPodとサングラスで現実逃避していたベイビーが、デボラと恋に落ちることで現実と向き合いオトナとしての一歩を踏み出すことになる。結末を見れば、一応はそんな「ビルドゥングスロマン」とも「恋愛もの」とも言えるのかもしれないけれど、これは据わりのいい感じにまとめただけで、エドガー・ライト自身は過去の映画と多くのお気に入りの音楽でこの作品を彩っていくこと自体を楽しんでいる(そう言えば現実逃避を指摘した登場人物は最初に死ぬことになった⇒後日観直したらこれは勘違いで、現実逃避を指摘したバディは、ベイビーと最後に一騎討ちすることになる)。
 この作品では登場人物の台詞が過去の映画(たとえば『モンスターズ・インク』とか)から採られていたり、流れている曲の歌詞が物語ともリンクしていたりする。主人公の“ベイビー”という名前だって、彼が未熟者だということもあるだろうけれどそれだけではない。“デボラ”という名前を冠する曲はほとんどないけれど、“ベイビー”というニックネームを持つことで多くの曲が彼の曲となり、ネタとして使えることになるからだ。ちなみにタイトルはサイモン&ガーファンクルの同名曲から採られている。
 この作品はエドガー・ライトがオタク的に過去の映画や音楽を吸収することで生まれたものであり、現実に向き合うことで生まれたものではないはずだ。パロディをやること自体が好きなのだろう。ただ、作品には一応の結末がなければならないという現実もあり、後半やや失速ぎみだったようにも……。エドガー・ライトにはあまり現実なんかに目覚めずに、性懲りもなくベイビーであり続けてほしいという気もする。

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Date: 2017.08.26 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (6)

『スパイダーマン:ホームカミング』 スパイダーマンの青春時代

 『COP CAR コップ・カー』ジョン・ワッツの監督作品。
 『スパイダーマン』のリブートだが、今回は『アイアンマン』などのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の1作品となっていて、アイアンマンやキャプテン・アメリカなどのアメコミ・ヒーローとの絡みも。

ジョン・ワッツ 『スパイダーマン:ホームカミング』 スパイダーマンのスーツにはアイアンマンの技術が使われているという設定となっている。

 実は『アベンジャーズ』などのMCUを見ていないので途中参加に心配していたのだけれど、サム・ライミ版の『スパイダーマン』シリーズは見ているし、子供のころにテレビでやっていた巨大ロボを操る日本版のスパイダーマンは見ていた(あれは一体何だったのだろう)ので、設定等は何となくわかっているからそれほど違和感もなく『スパイダーマン:ホームカミング』も楽しめた。
 今回のピーター・パーカー(トム・ホランド)はかなり若い。まだ15歳の高校生という設定なのだ。ヒーローとして働きたいけれど今はまだ見習い中みたいなもので、アベンジャーズにお呼びがかかることもなくひとりで突っ走ってしまう。身体能力もあるし正義感もあるのだけれど、若さゆえかやることなすこと失敗ばかりなのだ。
 サム・ライミ版が確立させたニューヨークの摩天楼を飛び回る爽快感を受け継ぎつつも、高い建物のない郊外では能力が発揮できずに愚痴を言いながら走っていくほかないというズッコケぶりがかわいらしい。ヒーローのつもりが騒ぎを大きくして父代わりのアイアンマンに助けてもらうピーターはまだまだ未熟者で、この作品はピーターの成長物語となっている。そして、まだ学生でもあるピーターの青春を描く作品でもある。

『スパイダーマン:ホームカミング』 わざわざ『ブレックファスト・クラブ』のパロディまで撮影している。ジャド・ネルソンの位置にネッド(ジェイコブ・バタロン)というのは変な気もするけれど。

 途中で『フェリスはある朝突然に』が引用されている部分があるけれど、この作品は80年代に多くの青春映画で人気を博したジョン・ヒューズ作品がかなり意識されているようだ。ピーターが居残りをさせられる場面は『ブレックファスト・クラブ』を思わせなくもないし、この作品のピーターとリズ(ローラ・ハリアー)の関係が、「庶民とセレブ」という関係となっているのは『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(ジョン・ヒューズ脚本)とも似てなくもない。最後に「ホームカミング」と呼ばれるパーティが用意されているあたりも青春映画っぽい趣きだった。
 今回の敵役バルチャーとなるのはマイケル・キートン。トニー・スターク(=アイアンマン)に仕事を奪われてしまい、仕事仲間や家族を養うために悪事に手を染めることになる。決して大それたことはせず、夜陰に紛れて仕事をし、こっそり稼ぐ。悪役としては小物で、最後にはちょっといい奴なのかもしれないと思わせるあたり、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』でも英雄なのか怪物なのかわからない微妙な線を演じていたマイケル・キートンらしい役柄だった。

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Date: 2017.08.20 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (7)

『少女ファニーと運命の旅』 必死の逃亡者のノスタルジー

 『ポネット』などのジャック・ドワイヨンの娘さん、ローラ・ドワイヨンの監督作品。
 ファニー・ベン=アミというユダヤ人女性の自伝『ファニー 13歳の指揮官』をもとにした作品。

ローラ・ドワイヨン 『少女ファニーと運命の旅』 13歳の少女ファニー(レオニー・スーショー)とふたりの妹。


 1943年ナチスの支配下のフランスが舞台。13歳の少女ファニー(レオニー・スーショー)はふたりの妹と一緒に親元を離れ児童施設にかくまわれている。その時代、ユダヤ人は次々と収容所送りにされていたからだ。つかの間の平和があった児童施設も密告者によって危険な場所となり、マダム・フォーマン(セシル・ドゥ・フランス)というフランス人協力者に導かれ、ファニーたちはスイス国境を目指すことになる。しかし途中でマダム・フォーマンとも離ればなれになり子供たちだけになってしまう。

 小さな子供たちが事態をどこまで把握しているのかはわからないけれど、児童施設で人形劇を楽しんでいたときの笑顔がナチスの手が迫っていることを知ると一瞬にして不安にこわばる様子を見ると、何かしらよくないことが起きていることくらいは理解しているようだ。ただ「私たちはユダヤ人? 悪いことならユダヤ人をやめれば?」と無邪気に質問してしまうほど、世の中には知らないことも多い。
 「頑固だから」という理由でリーダーとされたファニーを先頭に前へと進んでいくものの、そこへ次々と危機が訪れる。捕まったら収容所送りという状況のなか必死で逃げているにも関わらず、ついつい遊びに興じてしまうところが何ともかわいらしい。森のなかでの水遊びとか、飛んでいった紙幣を競うように拾い集めたりとか、そんな場面の子供たちの表情がとても自然で、切羽つまった状況を一瞬忘れさせてくれるほど楽しそう。
 
『少女ファニーと運命の旅』 ファニーは旅のなかで次第にリーダーとして成長していく。

 突然リーダーとされたファニーは戸惑っている。ふたりの妹の世話ばかりでなく、ほかの子供たちの命も預かることになったからだ。自分の決断がみんなを危険にさらすことになるかもしれないから余計に不安に駆られもする。それでもファニーは旅のなかで次第にリーダーとして成長していくことになる。
 ファニーたちを裏切ることになる青年エリー(ヴィクトール・ムートレ)の渡した手紙も重要な役割を果たしていた。生き延びてスイスに渡ることはもちろんのことなのだけれど、その手紙を渡すという目標がファニーを前に進ませる動機のひとつになっているからだ。歌舞伎の『勧進帳』の名場面のように、実は白紙だったその手紙に子供たちを励ます言葉をでっち上げることとなるファニーの成長した姿には目頭が熱くなった。

 ジャック・ドワイヨン『ポネット』は、あどけない少女ポネットがあまりにかわいらしくてヴェネツィア国際映画祭の主演女優賞まで獲得してしまった作品。その娘であるローラ・ドワイヨンも子供たちの撮り方がとても素晴らしかった。
 しっかり者のファニーお姉さんに甘えん坊の次女エリカ(ファンティーヌ・アルドゥアン)、先に引いた無邪気な言葉でみんなを驚かせる三女ジョルジェット(ジュリアーヌ・ルプロー)の三姉妹を含め、ユダヤ人だけれどカトリックを選択した少年ヴィクトール(ライアン・ブロディ)など、それぞれのキャラの描き分けもうまかったと思う。
 題材のわりにはシビアさに欠ける部分もあるし、ラストのエピソードはやり過ぎだとは思うけれど、実話である。もちろん青年エリーのように収容所送りになった人も多かったわけで、生き残った人たちには幸運が作用していた部分もあったのだろう。ファニーは逃亡のなかで壊れたカメラを覗いて両親と一緒だったころの想い出に浸っていたけれど、今になって振り返ればそうした必死の旅のさなかにもノスタルジックな想いに駆られる時間もあったということ感じさせる作品になっている。ファニーたちの姿を追っているだけでなぜか泣けてくる。個人的には大好き。

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Date: 2017.08.17 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『スターシップ9』 またまた宇宙でひとりぼっち

 『ヒドゥン・フェイス』などの脚本を手がけたアテム・クライチェ・ルイス=ソリヤの初長編作品。Netflixのドラマシリーズ「ナルコス」のチームが制作とのこと。
 原題は「ORBITA 9」

アテム・クライチェ・ルイス=ソリヤ 『スターシップ9』エレナ(クララ・ラゴ)はひとりぼっちで宇宙船の旅に。 


 公害で住めなくなった地球を捨て、別の惑星へと向かうエレナ(クララ・ラゴ)。エレナは宇宙船内で生まれ、両親はエレナのためにその宇宙船から降りた。その後、約20年もの間ひとりでの生活をしてきたエレナの前に、エンジニアの男アレックス(アレックス・ゴンザレス)が現れる。

 「宇宙でひとりぼっち」感を演出しているのか、エレナは体内スキャンの際に体育座りをしながら手持ち無沙汰でどこか寂しそう。宇宙船内はとても快適で、エレナも体調管理を怠らず、いかにも壮健な身体をしている。それでも「一体何のために生きている」といった疑問に駆られるときもある。宇宙船が新たな惑星へ到着するまでにはさらに約20年もかかり、人生を80年とすればエレナはその半分を宇宙船内で過ごすことになるからだ。
 宇宙での長旅をひとりで過ごすのが耐え難いというのは、最近の『パッセンジャー』とも似たような設定。アレックスはエレナにとって両親以外では初めて会う人間だ。他愛ない話をできるだけでも貴重だし、なかなかのイケメンなのだから興味津々なのだ。それでもアレックスは宇宙船内の機器の修理が終われば帰ってしまう。そうなるとまた20年もの間ひとりきりになってしまう。エレナはその夜、アレックスのベッドに忍び込むことになる。

 ※ 以下、ネタバレもあり! 重要な展開にも触れているので要注意!!


『スターシップ9』 エンジニアの男アレックス(アレックス・ゴンザレス)にエレナは興味津々。

 一応予告編でも匂わされているのだけれど、それでもこの後の展開には驚かされた。終始エレナの視点だった映画は、アレックスが宇宙船を出るときにアレックスの視点へと移行する。宇宙船から出たアレックスが歩いていくのは、どう見てもどこかの地下通路みたいな場所で、別の宇宙船に乗り込むわけではない。一体どういうことなのかと言えば、エレナが乗っている宇宙船は実験用のシミュレーターだったのだ。
 アレックスは「オービター計画」と名付けられた別惑星への移住のための実験に参加するエンジニアであり、エレナは実験の被験者なのだ。計画に参加する人の人生の半分もの時間をかけてエレナたちの生体情報を収集し、その実験の成果が未来に予定されている本当のインターステラーのために利用されることになる。

 宇宙船内部の造形があまりに清潔すぎてリアリティに欠けるなあなどと思っていたら、これは宇宙船しか知らないエレナのためのシミュレーターなのだからなのだろう。コロンビアで撮影されたという夜の街の情景は、『ブレードランナー』を意識している部分もあって近未来の風景に見えなくもなかった。全体的に低予算の部分が見え隠れするけれど、最初の驚き以外にもひねった展開が用意されているなど考えられてつくられていて、色々と推測させる余白があるといった印象。
 ただそうした設定の細部が詰められていないように感じる部分もあった。たとえば実験用スターシップが設置された森のなかには「放射能注意」のマークがあり、エレナが宇宙船のなかで観ていた映画は『二十四時間の情事(ヒロシマ・モナムール)』だった(ような気がする)。何かしら放射能が実験に関わるのかと推測させるのだが、長期間に渡って何を経過観察しているのかはいまひとつわからなかった。
 さらに一番謎なのはエレナを実験から救い出したアレックスの本来の意図だろうか。「オービター計画」では10個の実験用スターシップが用意されている。エレナがいたのは9番目のスターシップ。アレックスは10番目のスターシップの点検作業を終えたあと、突然、思い立ったようにエレナを実験装置から救い出す。アレックスは10人の被験者と会いながら9番目のエレナを選んだということになる。
 同時にアレックスはカウンセリングにも通っていて、あまりに非人道的な実験に参加していることに疑問を感じていて、そのことが悩みともなっているようだ。しかし最終的にはほかの人たちを捨ててエレナだけを選ぶ。ということは実験に対する義憤よりも恋に駆り立てられたということなのだろう。
 まあそれはそれでいいとしても、アレックスはエレナを救い出したあとのことを考えていたのだろうか。エレナをコントロールすることもできずに行き当たりばったりみたいなラストはちょっと釈然としなかった。アイディアは悪くはないのだけれど何だか惜しい作品。

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Date: 2017.08.14 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』 リーゼントも乱れない

 監督は『テラフォーマーズ』などの三池崇史
 原作は荒木飛呂彦のマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部。

三池崇史 『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』 みんなキャラが濃い!

 連載を読んでいた子供のころは登場人物たちの背後霊のように現れるスタンドを、そのキャラの守護神のように理解していたのだけれど、『ジョジョ』は「超能力を視覚化した」などと評価されるのだとか。
 宇野常寛『ゼロ年代の想像力』の分析によれば、たとえば『ドラゴンボール』や『キン肉マン』はトーナメント型で、『ジョジョ』のようなマンガはカードゲームのようなバトルロイヤル型になる(まとめ方は違っているかも)。トーナメント型の強さは数値で表され、強さがどんどんインフレーションして際限がなくなっていくのに対して、バトルロイヤル型のほうは様々な能力のキャラが同時に立ち並ぶことになる。
 『ジョジョ』のなかに登場するスタンドは、登場人物ごとに使う特殊能力も異なる。たとえば「時を止める」とか、「念写する」とか、「炎を操る」とか、独自な能力があるところが子供心にも楽しかった。今回の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』の主人公仗助のスタンドは「人のケガや壊れた物を修復する」という能力で、単に修復するだけではなく、闘いのなかで策士らしいアイデアとともにそれを披露するところが見どころのひとつ。

 私自身は原作に関しては第3部の途中までは読んでいるという中途半端な状態。とりあえずは第4部へたどり着くまでの前提条件くらいは知っているけれど、細かいネタでは置いてきぼりになるところも。知っている人は楽しめるという部分も多々あるようで、この映画から入った人にとっては消化不良な部分もある。
 続篇ありきの作品だからラストで物語が完結するわけでもないし、途中から始まって途中で終わってしまったという感じは否めない。第4部から始まって、人気が続くようだったら遡って第1部から第3部もやろうという『スター・ウォーズ』のような商法を考えているかもしれない。個人的には第2部の波紋の闘いを見てみたい気もするけれど……。

『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』 仗助(山崎賢人)のスタンド(クレイジー・ダイヤモンド)はこんな感じ。

 スタンドの表現はCG技術の進歩もあって見栄えがするし、スタンド同士の闘いはマンガを知らなくても十分に楽しめる出来となっていたんじゃないだろうか(ぼんやりとした見え方がよかった)。さらに『ジョジョ』の独特な世界を生み出すためにわざわざスペインまで行って撮影しただけあって、奇妙な違和感がある世界となっていた。スペインの街並みをリーゼントの学ラン姿が闊歩するというのは何とも形容しがたい世界だった。それから役者陣のなりきりぶりも仗助のリーゼントと同様に気合いが入っていたと思う。國村隼は逆にコスプレを禁じられたかのように國村隼にしか見えなかったけれど……。
 
 テーマとしては“家族”を設定しているようだ。主人公の仗助(山崎賢人)は祖父・東方良平(國村隼)の「この街を守る」という意志を受け継ぐことになるし、最初の敵である片桐安十郎(山田孝之)は父親を恨み、父殺しまでやらかす。次の敵となる虹村形兆(岡田将生)と億泰(新田真剣佑)の兄弟は父親の存在に苦しんでいる。なぜかバケモノと化した父親は、過去も忘れ、ただ生きているだけで、殺そうとしても殺すこともできない。これは認知症を患った親を思わせる設定のような気もするのだけれど、続篇ではどんな展開となるんだろうか?

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『ジョジョの奇妙な冒険』


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Date: 2017.08.08 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (2)

『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』 なぜ彼だけに彼女が見えるのか?

 『素晴らしい一日』などのイ・ユンギ監督の最新作。
 主演は日本でも人気者らしいキム・ナムギルで、劇場は彼目当ての女性客ばかりだった。共演は『哭声/コクソン』チョン・ウヒ

『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』 イ・ガンス(キム・ナムギル)はタン・ミソ(チョン・ウヒ)という女性の霊に出会い……。


 保険会社の調査員をしているイ・ガンス(キム・ナムギル)は、ある事故の調査中にほかの人には見えない女性の姿を見てしまう。それは彼が調査していた事故の被害者であるタン・ミソ(チョン・ウヒ)という女性の霊だった。

 霊といってもタン・ミソは死んではおらず、交通事故で意識不明の状態にある。実はタン・ミソは視覚障がい者であり、事故の当日遠くの街まで出かけ、しかも白杖を持たない状態で車にはねられていた。なぜ彼女はそんな場所へと出かけて行ったのか、なぜ白杖を持っていなかったのか。イ・ガンスは事故の加害者の示談に持ち込みたいという意向もあって、タン・ミソのことを詳しく調べることになる。
 タン・ミソ本人は意識不明だから本来は代理人との交渉になるはずが、なぜかイ・ガンスの目の前にタン・ミソ本人の生霊が現れてしまう。となれば、本人に事故の詳細を聞けばいいわけだけれど、話は急には進まない。タン・ミソの霊はなぜか目が見えるらしく、病院内を歩き回って初めて見る世界の様子を楽しんでいるようで、イ・ガンスは次第に彼女のペースに乗せられていくことになる。それにしてもなぜイ・ガンスだけに彼女の霊が見えるのだろうか?

 ※ 以下、ネタバレあり! 結末にも触れているので要注意!!


『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』 後半は泣かせる話満載だった。

 この作品の設定では、個々の霊というものはなく、霊そのものはたったひとつのものなのかもしれない。それが生きている人それぞれに分有されていて、その人が亡くなるとまた元のひとつの霊へと戻っていく……。
 イ・ガンスには病気で亡くなった妻ソンファ(イム・ファヨン)がいて、その境遇はタン・ミソとよく似ている。だからかどうかはわからないのだけれど、ふたりの霊はつながっているようでもある。というよりはタン・ミソの霊とかソンファの霊という個々の霊というよりも、ひとつの霊が別の姿を見せているという解釈すらできるように描かれているのだ。
 タン・ミソとソンファの過去が語られるうちに、それまでタン・ミソの姿をしていた霊がソンファの姿に変わっていく。タン・ミソが初めてイ・ガンスの姿を見たのは、ソンファが瀕死の状態になったときである。これもソンファの霊とタン・ミソの霊は同じものという証拠なのではないか。
 霊が現れるのはこの世に未練があるからで、この作品でもタン・ミソはイ・ガンスに頼みごとをすることになる。しかもソンファの霊とタン・ミソの霊はふたりで協力し合い、イ・ガンスを妻の死から立ち直らせた上に、さらに新たな仕事を成就させることになる。多分、ふたりの霊はスッキリと成仏できたんじゃないだろうか。

 タン・ミソとソンファのエピソードはなかなか哀しいエピソードで泣かせる話だった。イ・ユンギ作品は、たとえば『愛してる、愛してない』では、男女が別れを切り出したあとの微妙で繊細な時間をじっくりと描いていた。そうした作品と比べると、この作品は色々と詰め込んでエンターテインメントを目指しているようにも思え、詰め込みすぎで大味になった感も……。視覚障がい者の事故と不治の病というダブルパンチはかなりヘビーで、片方だけでも胃もたれしそう。それでも霊となって登場するチョン・ウヒのキャラには妙に無邪気な明るさがあって、それがこの作品を救っているように思えた。

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Date: 2017.08.05 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 マクドナルドのセールスポイント

 監督は『ウォルト・ディズニーの約束』などのジョン・リー・ハンコック
 マクドナルドのファウンダー(創業者)についての実話をもとにした物語。
 『バードマン』『スポットライト 世紀のスクープ』などのマイケル・キートンの主演作。

ジョン・リー・ハンコック 『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 レイ・クロック(マイケル・キートン)の実話をもとにしたお話。 


 1954年、レイ・クロック(マイケル・キートン)はシェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回っていた。営業先で相手にされることもないむなしい日々なのだが、ある日、8台もの注文が入る。レイは驚いたものの、すぐに車を飛ばしいくつかの州を越え、はるばるその店へと向かう。

 レイ・クロックはマクドナルドの創業者として知られる人だ。しかし、マクドナルドの根本的なシステムをつくったのはマック(ジョン・キャロル・リンチ)とディック(ニック・オファーマン)のマクドナルド兄弟なのだ。兄弟はそれまでのドライブイン型の店をやめて、ファストフードの原型を作り上げた。
 メニューは限定され、皿などは使わず紙で商品を包み、食べたら捨てる。客の待ち時間を一気に短縮し、値段はかなり割安。今では当たり前でどこでも見る光景だけれど、その時代には革新的なシステムだったのだ。
 それではレイ・クロックは何をしたのかといえば、その店をフランチャイズ化して全米に広めたということになる。もともとマクドナルド兄弟もフランチャイズ化はしていたのだけれど、かなり範囲は限定されていた。職人気質のふたりはあくまで自分たちの目が届く範囲ということを重視し、商品の品質に関してレベルを落とさないように注意していた。レイ・クロックはそんな兄弟を説き伏せ、フランチャイズ展開を大々的に推し進めることになる。

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』 初期のマクドナルドの典型的店舗。Mのマークではなく、ゴールデンアーチと呼ばれる目印がある。

 マクドナルド兄弟もそれなりに金は稼いでいる。通常ならそこで満足してもいいはずなのだけれど、レイには大いなる野心がある。レイは兄弟を攻め落とすとき、マクドナルドを新しい教会にすると訴えかける。教会の代わりにマクドナルドに家族が押し寄せる。レイはそんな大きな構想を抱いている。これは単なる口説き文句以上のものであり、レイはほかの人が描けないような構想を抱いていたということなのだろう。
 町山智浩曰く、この時代はモータリゼーションの時代とのこと。誰もが車を持つ時代となり、知らない場所へと車で遠出することになる。知らない土地でもやはり腹は空くわけだけれど、どんな店かわからない店には入りづらい。そこに誰もが知っていて安心して食べられるチェーン店があれば必ず繁盛することになる。そんな時代背景もあってマクドナルドはどんどん大きくなっていくことになる。

 『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』はレイの成功譚だけが描かれるわけではない。契約関係にあるマクドナルド兄弟とレイとの間でトラブルも生じる。どんどん店舗を展開していきたいレイにとって、いちいち兄弟の承認を得なければならないのは足かせになり、最終的にはレイは兄弟からすべてを奪い、自分がファウンダー(創業者)だと名乗ることになる。
 そのやり方はかなりえげつない。この“えげつない”という表現はレイ本人が実際に語っていた言葉のようで、そこまでするのかといった反感を覚える人もいるかもしれない。ちなみにこの作品はマクドナルド本社から承諾を得ているわけではないらしく、レイは怪物のようにも見えるのだ。
 とりあえず普通よりも野心家であることは確かだろう。奥様のレセル(ローラ・ダーン)から「いつになったら満足するの?」と問われ、レイは「決して満足することはない」と即答する。さらにレイは奥様の内助の功を無下にして、自分と似た野心家の女性ジョアン(リンダ・カーデリーニ)を新たな妻に迎えることになる。レイはジョアンを女性として好きになったというよりも、その野心に惹かれているのだ。レイは常に満足することなく、この作品内でも稼いだ金を使う場面などひとつもない。稼いだ金は新たな事業に回し、さらに会社を大きくしようと考えるような人なのだろう。普通の人には怪物に見えるけれど、これこそ資本主義の精神というものなのだろう。

 この映画を見るとマクドナルドが食べたくなるかどうかはわからないけれど、マクドナルドの帝国のヒミツをテンポよく簡潔に描いていてなかなか楽しめる。マクドナルドは資本主義のお手本のような企業なのだと思うのだけれど、最近は色々とほころびも見えたりもするわけで、レイが生きていた時代とは違ってきているのかもしれない。
 レイは最後にマクドナルド兄弟すら気がつかなかったマクドナルド帝国最大のセールスポイントを指摘することになるけれど、妙に納得させるものがあった(そう言えば、フェイスブックの創設者を描いた『ソーシャル・ネットワーク』にも似たようなエピソードがあった)。
 マイケル・キートンの目はバットマンを演じてその闇を感じさせ、騒がしいキャラ・ビートルジュースをやっていてもその目は笑っているように見えなかったわけで、怪物とも英雄とも見える主人公レイによく合っていたと思う。レイに棄てられることになるエセルを演じたローラ・ダーンの苦々しい顔も忘れがたい。

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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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