『後妻業の女』 社会的な啓発としては有用かと
監督は『愛の流刑地』などの鶴橋康夫。
原作は直木賞作家・黒川博行の『後妻業』。

ちょっと前に夫に青酸化合物を飲ませて殺害したという「京都連続不審死事件」が世間を賑わせた。この映画の原作『後妻業』は、その事件よりも先に書かれていたということで、事件を予言していたとして一部では話題になったものらしい。
「後妻業」とは資産家男性の後添えに座り、その遺産をいただくお仕事のこと。遺産目当ての結婚ならば昔からないわけではない。ただこの映画の小夜子とか、例の事件の犯人などはそれを生業としていて、旦那を次々と乗り換えつつ遺産を巻き上げるということを繰り返していくわけでかなりあくどい。
また、この映画版は『後妻業の女』という題名となっていて、伊丹十三監督の『マルサの女』みたいな路線を思わせなくもないのだが、『マルサの女』にはお国のためという立派な理由があるわけだが、『後妻業の女』は単なる犯罪者である。主人公に共感することは難しいし、笑える部分よりも醜悪なものを感じる人も多いかも……。ちなみに「醜悪」と感じられるのは、いい年をした大人が(酸いも甘いも知ったはずの老人たちも)欲に目が眩んであまりにみっともないからだろうか。
そんなわけで大竹しのぶ演じる小夜子という女は、旦那を乗り換えつつ私腹を肥やしていくわけだが、そのことに罪悪感はまったくない。「老い先短いジジイの最後の楽しみとなっているのに何が悪い」と開き直るくらいの厚顔無恥な女なのだ。小夜子には男をたらしこむ天性の才能があるし、頭の回転も早い。場所や相手によって態度を変え、いざとなれば修羅場を潜り抜ける度胸もある。だが、それだけでは「後妻業」は成り立たない。
ターゲットを選別することが重要だし、知恵を授ける者がいなければならないからだ。そうした後ろ盾が結婚相談所所長の柏木(豊川悦司)だ。柏木は結婚相談所でターゲットを物色し、裏で小夜子のような後妻業の女たちを操る。なかでも小夜子はそのエースなのだ。
※ 以下、ネタバレあり!

原作者・黒川博行は直木賞受賞者で人気もあるらしく、今度はその直木賞受賞作『破門』も映画化されるらしい。そんなわけでおもしろい小説を書く人なのだろうと思うのだが、この『後妻業』に関して言えばあまり主人公のキャラに愛着を抱いていないんじゃないかという気もした。
原作では小夜子は最後にあっけなく殺されてしまう。改心することもなければ、救われたりすることもない。悪党が滅びるのは当然といった感じなのだ(オレオレ詐欺を題材にした『勁草』という小説もそんな印象)。原作者にとっては「後妻業」という悪事について広く世間に知らしめるのがひとつの目的で、罪のない高齢者やその家族の啓発のために作品を書いたのであって、役目を終えた小夜子をそれ以上のさばらせるわけにはいかないという事情があったのかもしれない。
ただ映画版では大竹しのぶが演じている小夜子という主人公をそんなにあっさり退場させてしまっては観客に申しわけが立たないし、後妻業の手練手管の情報提供だけでは味気ないわけで、原作から一部は改変されている。
そのひとつは父親・耕造(津川雅彦)を殺された朋美(尾野真千子)と小夜子との対決だろう。原作にはなかったこの場面では、尾野真千子と大竹しのぶが居酒屋のなかで大暴れをやらかす。父親を殺された娘の恨みが直接的に炸裂する場面なのだが、いかんせん大竹しのぶが大物だからか、尾野真千子のビンタの腕の振りは遠慮がちで、登場人物の恨みよりも業界の力関係が透けて見えるようなものになってしまっていた。
それから原作では小夜子の弟だった博というキャラを、映画版では息子に変更している。これによって「小夜子と博」と「耕造と娘ふたり」という二組の親子関係が対照的に据えられることになる。
耕造の長女・尚子(長谷川京子)は生来の人の良さから、耕造の生前を振り返って反省する。ふたりの娘が父親・耕造のことを構わずに放っておいたことが、小夜子のような女にひっかかる原因となってしまったのかもしれず、自分たちの親との向き合い方が間違っていたのかもしれない。そんなふうに小夜子よりも自分たちを責めるのだ。一方のわがまま息子の博(風間俊介)は、小夜子が自分を放っておいたのが悪いと難癖をつけ、いつまでも親の金にたかろうとする。
そんなわけで親子の関係を仄めかしてちょっとだけ感動的なものにしてみたりもするのだけれど、結局はそんな面倒くさい感情に小夜子が振り回されるわけもないわけで、幾分か消化不良な印象は否めなかった。とりあえず社会的な啓発という役目は果たしているとは思うのだけれど……。
豪華なキャスト陣で印象に残ったのが樋井明日香。以前に取り上げた『SHARING』では劇中劇の一人舞台を熱演していたのが記憶に新しいのだが、今回の役柄は新米ホステスで柏木を演じる豊川悦司とベッドシーンを演じている。とても脱ぎっぷりがよかったし、なぜか豊川の顔をペロリとなめ上げるところなど新米ホステスが無理して頑張った感があってよかったと思う。


原作は直木賞作家・黒川博行の『後妻業』。

ちょっと前に夫に青酸化合物を飲ませて殺害したという「京都連続不審死事件」が世間を賑わせた。この映画の原作『後妻業』は、その事件よりも先に書かれていたということで、事件を予言していたとして一部では話題になったものらしい。
「後妻業」とは資産家男性の後添えに座り、その遺産をいただくお仕事のこと。遺産目当ての結婚ならば昔からないわけではない。ただこの映画の小夜子とか、例の事件の犯人などはそれを生業としていて、旦那を次々と乗り換えつつ遺産を巻き上げるということを繰り返していくわけでかなりあくどい。
また、この映画版は『後妻業の女』という題名となっていて、伊丹十三監督の『マルサの女』みたいな路線を思わせなくもないのだが、『マルサの女』にはお国のためという立派な理由があるわけだが、『後妻業の女』は単なる犯罪者である。主人公に共感することは難しいし、笑える部分よりも醜悪なものを感じる人も多いかも……。ちなみに「醜悪」と感じられるのは、いい年をした大人が(酸いも甘いも知ったはずの老人たちも)欲に目が眩んであまりにみっともないからだろうか。
そんなわけで大竹しのぶ演じる小夜子という女は、旦那を乗り換えつつ私腹を肥やしていくわけだが、そのことに罪悪感はまったくない。「老い先短いジジイの最後の楽しみとなっているのに何が悪い」と開き直るくらいの厚顔無恥な女なのだ。小夜子には男をたらしこむ天性の才能があるし、頭の回転も早い。場所や相手によって態度を変え、いざとなれば修羅場を潜り抜ける度胸もある。だが、それだけでは「後妻業」は成り立たない。
ターゲットを選別することが重要だし、知恵を授ける者がいなければならないからだ。そうした後ろ盾が結婚相談所所長の柏木(豊川悦司)だ。柏木は結婚相談所でターゲットを物色し、裏で小夜子のような後妻業の女たちを操る。なかでも小夜子はそのエースなのだ。
※ 以下、ネタバレあり!

原作者・黒川博行は直木賞受賞者で人気もあるらしく、今度はその直木賞受賞作『破門』も映画化されるらしい。そんなわけでおもしろい小説を書く人なのだろうと思うのだが、この『後妻業』に関して言えばあまり主人公のキャラに愛着を抱いていないんじゃないかという気もした。
原作では小夜子は最後にあっけなく殺されてしまう。改心することもなければ、救われたりすることもない。悪党が滅びるのは当然といった感じなのだ(オレオレ詐欺を題材にした『勁草』という小説もそんな印象)。原作者にとっては「後妻業」という悪事について広く世間に知らしめるのがひとつの目的で、罪のない高齢者やその家族の啓発のために作品を書いたのであって、役目を終えた小夜子をそれ以上のさばらせるわけにはいかないという事情があったのかもしれない。
ただ映画版では大竹しのぶが演じている小夜子という主人公をそんなにあっさり退場させてしまっては観客に申しわけが立たないし、後妻業の手練手管の情報提供だけでは味気ないわけで、原作から一部は改変されている。
そのひとつは父親・耕造(津川雅彦)を殺された朋美(尾野真千子)と小夜子との対決だろう。原作にはなかったこの場面では、尾野真千子と大竹しのぶが居酒屋のなかで大暴れをやらかす。父親を殺された娘の恨みが直接的に炸裂する場面なのだが、いかんせん大竹しのぶが大物だからか、尾野真千子のビンタの腕の振りは遠慮がちで、登場人物の恨みよりも業界の力関係が透けて見えるようなものになってしまっていた。
それから原作では小夜子の弟だった博というキャラを、映画版では息子に変更している。これによって「小夜子と博」と「耕造と娘ふたり」という二組の親子関係が対照的に据えられることになる。
耕造の長女・尚子(長谷川京子)は生来の人の良さから、耕造の生前を振り返って反省する。ふたりの娘が父親・耕造のことを構わずに放っておいたことが、小夜子のような女にひっかかる原因となってしまったのかもしれず、自分たちの親との向き合い方が間違っていたのかもしれない。そんなふうに小夜子よりも自分たちを責めるのだ。一方のわがまま息子の博(風間俊介)は、小夜子が自分を放っておいたのが悪いと難癖をつけ、いつまでも親の金にたかろうとする。
そんなわけで親子の関係を仄めかしてちょっとだけ感動的なものにしてみたりもするのだけれど、結局はそんな面倒くさい感情に小夜子が振り回されるわけもないわけで、幾分か消化不良な印象は否めなかった。とりあえず社会的な啓発という役目は果たしているとは思うのだけれど……。
豪華なキャスト陣で印象に残ったのが樋井明日香。以前に取り上げた『SHARING』では劇中劇の一人舞台を熱演していたのが記憶に新しいのだが、今回の役柄は新米ホステスで柏木を演じる豊川悦司とベッドシーンを演じている。とても脱ぎっぷりがよかったし、なぜか豊川の顔をペロリとなめ上げるところなど新米ホステスが無理して頑張った感があってよかったと思う。
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