『ケープタウン』 アパルトヘイトの残滓が引き起こす復讐劇
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどで日本でも人気者のオーランド・ブルームが汚れ役に挑んだ作品。もうひとりの主役には『大統領の執事の涙』のフォレスト・ウィテカー。
監督はジェローム・サルというフランス人。原作はフランスでは推理小説大賞など多くの賞を受賞した小説「Zulu」で、この題名はズールー族のことを表している。

ケープタウンで撲殺された女性の遺体が発見される。捜査を担当するアリ(フォレスト・ウィテカー)とその部下ブライアン(オーランド・ブルーム)が犯人の足取りを探っていくと、背後には麻薬組織がいることがわかってくる。また、子供たちの失踪事件も相次いでいて、そちらでも新種の麻薬が見つかっていた……。
映画のなかに麻薬組織が登場すると、途端に血なまぐさい描写が多くなる。たとえばメキシコ/アメリカを舞台にした『野蛮なやつら/SAVAGES』や『悪の法則』でも、タイを舞台にした『オンリー・ゴッド』でも、麻薬組織に関わった人間は惨たらしい目に遭うことになる。南アフリカを舞台にしたこの映画も同様で、人がほとんどいない美しい浜辺で麻薬組織が登場すると、途端に血が流れることになる。
南アフリカを舞台にした映画『第9地区』では、エイリアンの姿にアパルトヘイト政策で虐げられる黒人の姿が重ね合わされていた。この映画でもそうしたことは根強く残っていることが感じられる。プール付きの豪邸に住む白人たちの地域と、貧しい黒人たちの住むバラック小屋が並ぶ地域が対照的に描かれている。『ケープアウン』はそうしたスラム街で撮影された初めての映画とのこと。
虐げられる側である黒人のアリは、マンデラ大統領の「もし敵と平和を作りたければ、敵と働け。そうすれば敵はあなたのパートナーになる。」という言葉を胸に、いけ好かない白人の上司ともうまくやろうと努力している。同僚たちには復讐してしかるべきだとけしかけられても、アリには「許してやる知能と勇気がある」からそんなことはしないのだと評されている。アリは融和的で模範的とも言える黒人なのだ。
※ 以下、ネタバレあり。

捜査の末に明らかになってくるのは麻薬組織の陰謀だが、マッド・サイエンティストが登場するあたりはリアリティがあるとは思えない。新種の麻薬によって凶暴さを増し、最後は自殺願望まで抱くようになるというのは、かなり荒唐無稽だと思う。マッド・サイエンティストが作っていた科学兵器は、黒人だけを殺す兵器だったというのだが、それは一体どんな効果で人種を区別するのだろうか?
ただ、映画の冒頭で空撮によっても捉えられるように、ケープタウンでは人種ごとに住んでいる地域が分断されているため、黒人の住む地域だけに麻薬を流入させることで、そうしたことも絵空事ではないのかもしれないとも思える。この映画では麻薬を流すのは子供たちだけに限定していた(冒頭の殺人事件はその決まりを破った売人の犯行で、彼は組織に殺されることになる)。それはホームレスの子供が失踪したり、勝手に殺しあったり自殺したりしても、誰も気にも留めないからだ。
この映画で悲惨なのは、裏で糸を引くのは白人なのにも関わらず、表立って犠牲になるのは黒人たちだということだ。アリたちはズールー族であり、麻薬が蔓延る地域を治めている黒人ギャング・キャットもズールー族だ。キャットはアリに追い詰められると「相手が違う」と指摘するが、確かに同じ民族で殺し合うことになってしまう原因を作っているのは、裏で糸を引く一部の白人たちなのだ。
アリを演じるフォレスト・ウィテカーは、『大統領の執事の涙』でも白人に従順な執事役を演じていたが、そうした面では融和的なアリというキャラクターも似たようなイメージを引き継いでいるとも言える。ただ物事には限度があるわけで、母親のことを殺されたときには復讐せざるを得ないのだ。
『ケープアウン』のラストの復讐劇は『眼には眼を』(1957年)を意識しているのだろう。(*1)アリの執拗なまでの追跡は、『眼には眼を』で主人公が引き回される姿と被ってくるのだ。逃げ場のない砂漠という場所の怖さは『眼には眼を』ほどのインパクトがあるわけではないが、『眼には眼を』では見せなかったふたりの結末を見せられたような気がするし、復讐がテーマとなっているだけに、このオマージュの挿入はうまかったと思う。
白人と黒人のバディムービーとも言えるこの映画。かたや女ったらしでかたや性的不能者、あるいはろくでなしと人格者と対照的なふたりだが、ブライアンの描き方はもの足りたりない。引き締まった上半身やおしりまで披露しているから、オーランド・ブルームファンへのサービスとしてはいいのかもしれないが、それ以上の役割がないような……。なぜブライアンが父の死にこだわっていたのかわからないから、最後はちょっと締まらない印象だった。
(*1) ラストが衝撃的な『眼には眼を』という映画は、『トラウマ映画館』(町山智浩)などで紹介されたのがきっかけとなって、最近になってDVDでも観られるようになった作品。



監督はジェローム・サルというフランス人。原作はフランスでは推理小説大賞など多くの賞を受賞した小説「Zulu」で、この題名はズールー族のことを表している。

ケープタウンで撲殺された女性の遺体が発見される。捜査を担当するアリ(フォレスト・ウィテカー)とその部下ブライアン(オーランド・ブルーム)が犯人の足取りを探っていくと、背後には麻薬組織がいることがわかってくる。また、子供たちの失踪事件も相次いでいて、そちらでも新種の麻薬が見つかっていた……。
映画のなかに麻薬組織が登場すると、途端に血なまぐさい描写が多くなる。たとえばメキシコ/アメリカを舞台にした『野蛮なやつら/SAVAGES』や『悪の法則』でも、タイを舞台にした『オンリー・ゴッド』でも、麻薬組織に関わった人間は惨たらしい目に遭うことになる。南アフリカを舞台にしたこの映画も同様で、人がほとんどいない美しい浜辺で麻薬組織が登場すると、途端に血が流れることになる。
南アフリカを舞台にした映画『第9地区』では、エイリアンの姿にアパルトヘイト政策で虐げられる黒人の姿が重ね合わされていた。この映画でもそうしたことは根強く残っていることが感じられる。プール付きの豪邸に住む白人たちの地域と、貧しい黒人たちの住むバラック小屋が並ぶ地域が対照的に描かれている。『ケープアウン』はそうしたスラム街で撮影された初めての映画とのこと。
虐げられる側である黒人のアリは、マンデラ大統領の「もし敵と平和を作りたければ、敵と働け。そうすれば敵はあなたのパートナーになる。」という言葉を胸に、いけ好かない白人の上司ともうまくやろうと努力している。同僚たちには復讐してしかるべきだとけしかけられても、アリには「許してやる知能と勇気がある」からそんなことはしないのだと評されている。アリは融和的で模範的とも言える黒人なのだ。
※ 以下、ネタバレあり。

捜査の末に明らかになってくるのは麻薬組織の陰謀だが、マッド・サイエンティストが登場するあたりはリアリティがあるとは思えない。新種の麻薬によって凶暴さを増し、最後は自殺願望まで抱くようになるというのは、かなり荒唐無稽だと思う。マッド・サイエンティストが作っていた科学兵器は、黒人だけを殺す兵器だったというのだが、それは一体どんな効果で人種を区別するのだろうか?
ただ、映画の冒頭で空撮によっても捉えられるように、ケープタウンでは人種ごとに住んでいる地域が分断されているため、黒人の住む地域だけに麻薬を流入させることで、そうしたことも絵空事ではないのかもしれないとも思える。この映画では麻薬を流すのは子供たちだけに限定していた(冒頭の殺人事件はその決まりを破った売人の犯行で、彼は組織に殺されることになる)。それはホームレスの子供が失踪したり、勝手に殺しあったり自殺したりしても、誰も気にも留めないからだ。
この映画で悲惨なのは、裏で糸を引くのは白人なのにも関わらず、表立って犠牲になるのは黒人たちだということだ。アリたちはズールー族であり、麻薬が蔓延る地域を治めている黒人ギャング・キャットもズールー族だ。キャットはアリに追い詰められると「相手が違う」と指摘するが、確かに同じ民族で殺し合うことになってしまう原因を作っているのは、裏で糸を引く一部の白人たちなのだ。
アリを演じるフォレスト・ウィテカーは、『大統領の執事の涙』でも白人に従順な執事役を演じていたが、そうした面では融和的なアリというキャラクターも似たようなイメージを引き継いでいるとも言える。ただ物事には限度があるわけで、母親のことを殺されたときには復讐せざるを得ないのだ。
『ケープアウン』のラストの復讐劇は『眼には眼を』(1957年)を意識しているのだろう。(*1)アリの執拗なまでの追跡は、『眼には眼を』で主人公が引き回される姿と被ってくるのだ。逃げ場のない砂漠という場所の怖さは『眼には眼を』ほどのインパクトがあるわけではないが、『眼には眼を』では見せなかったふたりの結末を見せられたような気がするし、復讐がテーマとなっているだけに、このオマージュの挿入はうまかったと思う。
白人と黒人のバディムービーとも言えるこの映画。かたや女ったらしでかたや性的不能者、あるいはろくでなしと人格者と対照的なふたりだが、ブライアンの描き方はもの足りたりない。引き締まった上半身やおしりまで披露しているから、オーランド・ブルームファンへのサービスとしてはいいのかもしれないが、それ以上の役割がないような……。なぜブライアンが父の死にこだわっていたのかわからないから、最後はちょっと締まらない印象だった。
(*1) ラストが衝撃的な『眼には眼を』という映画は、『トラウマ映画館』(町山智浩)などで紹介されたのがきっかけとなって、最近になってDVDでも観られるようになった作品。
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