『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』 「彫刻の森美術館」で会いましょう

 『ポネット』などのジャック・ドワイヨン監督(『少女ファニーと運命の旅』のローラ・ドワイヨンのお父さん)の最新作。
 今年の11月に没後100年を迎えたという“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダンの半生を描いた作品。

ジャック・ドワイヨン 『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』 ロダン(ヴァンサン・ランドン)のアトリエのシーン。陰影に富んだ撮影が印象的。

 誰でも知っている「考える人」などを製作したロダンの話。邦題では弟子であり愛人でもあったカミーユ(イジア・イジュラン)との関係がクローズアップされているようにも映るけれど、主役はロダン(ヴァンサン・ランドン)である。
 わざわざカミーユの名前が副題につけられているのは、1988年の『カミーユ・クローデル』(イザベル・アジャーニ主演)が映画ファンにはよく知られているからだろう。この『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』でも、カミーユとの関係はやはり重要なエピソードとはなっているけれど、カミーユが精神状態を崩してロダンの人生からフェイドアウトしていったあともロダンの人生は続いていく。
 『カミーユ・クローデル』で描かれたカミーユの生涯がドラマチックな展開をするのに比べると、ロダンの実生活は意外と普通なのかもしれない(女性関係は派手だったようだけれど)。カミーユが全身全霊を込めて彫刻とロダンとの関係に燃え尽きてしまったのとは対照的に、ロダンはカミーユと共に芸術に打ち込みつつも、内妻であるローズ(セヴリーヌ・カネル)とは平穏な生活を送っているようにも見えて、ロダンのズルささえも感じられる。芸術の名の下にそれは免罪されるということなのだろう。
 「ユーゴー像」製作のエピソードでは、ポーズをとることを嫌うユーゴーに対し、ユーゴー宅に居候してまで製作するとか具体的なエピソードはなかなかおもしろい。「バルザック像」の7年もの製作過程も、ロダンの彫刻作品に詳しい人が見ればさらに楽しめる内容を含んでいるのかもしれないとは思うのだけれど、エピソードにあまりつながりはなく伝記的事実の羅列に終わっているようにも……。陰影に富んだアトリエ場面の撮影は良かったと思う。

 なぜか最後は箱根の「彫刻の森美術館」で締めくくられる。ロダンの彫刻が世界中に広まっているということ証しなのかもしれない。ラストシーンでは「バルザック像」が箱根の森の緑のなかに据えられており、その向こうの空には「人とペガサス」という像が捉えられている。「人とペガサス」はロダンの助手であったカール・ミレスという彫刻家の作品で、個人的にちょっとは思い入れがある彫刻でもあったので、意外なところでロダンとつながりを感じたりもした。

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ジャック・ドワイヨンの作品
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Date: 2017.11.19 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (1)

『ノクターナル・アニマルズ』 衝撃的な冒頭と味のあるラスト

 監督・脚本は『シングルマン』でデビューしたトム・フォード。トム・フォードは有名なファッションデザイナーで、『007』シリーズにもスーツを提供しているのだとか。
 原作はオースティン・ライトの同名小説。

トム・フォード 『ノクターナル・アニマルズ』 スーザン(エイミー・アダムス)はアートギャラリーのオーナーとして成功をつかんでいる。その後ろにあるのは……。
 

 アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、ある日、元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から彼が書いた小説が送られてくる。「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」というタイトルのその小説は、暴力的な内容のものだった。エドワードは20年も経ってなぜそんなものを送ってきたのか?

 スーザンは今の仕事ですべてを手に入れているはずなのだが、それでも満たされないものがある。現在の夫ハットン(アーミー・ハマー)はほかの女と浮気をしており、スーザンとの関係は上辺だけのものとなっているのがその一因かもしれない。
 そんなときに元夫エドワードからの小説が送られてくる。タイトルの「ノクターナル」とは「夜行性の」という意味。エドワードはかつてスーザンのことを「夜の獣」と呼んでいたのだという。今現在のスーザンは不眠症で、ほとんど寝ていない状態にあるのも「夜の獣」という呼び名に相応しいとも言えるかもしれない。

◆作品の構成
 この作品は重層的な構成となっている。「スーザンの現在の生活」、「小説『夜の獣たち』の世界」、「スーザンによる元夫との回想シーン」、この3つのパートが絡み合う。満たされない生活の空虚さが小説を読ませ、その内容が現在の生活を脅かしたりもしつつも、それを書いた元夫との過去の出来事を想い起こしたりもしながら展開していく。
 おもしろいのはスーザンが眠れぬ夜を過ごすために読むことになる小説『夜の獣たち』のパートでも、その主人公をジェイク・ギレンホールが演じていることだろうか。小説『夜の獣たち』の主人公トニーと、それを書いているエドワードは同一人物ではないのだが、スーザンはほとんど同一視しているのだ(このパートはスーザンが小説を読み、頭のなかで映像化されたものということだろう)。
 エドワードが書いた小説について、スーザンは「自分のこと以外を書くべき」などとアドバイスをしていたりもしたわけで、スーザンにとってはエドワードが書く小説の登場人物はどうしてもエドワードの姿に思えてしまうということだろう(エドワードは未だに自分をモデルとした小説を書いているということでもあるかもしれない)。

 それからこれは単に私の勘違いなのだけれど、劇中劇である『夜の獣たち』においてトニーの妻を演じているのもエイミー・アダムスだと思っていたのだ。実際トニーの妻を演じているのはアイラ・フィッシャーという女優さんである。彼女はスーザン役のエイミー・アダムスとよく似ていて、ネットでふたりの名前を検索すると「まるで双子」などと出てくるから、似ている人物を選んでいるのだろう。スーザンは元夫が書いた小説のなかの主人公を元夫と同一視し、その主人公の妻を自分によく似た誰かと考えているのだ。
 とにかくスーザンはエドワードが書いた小説が、かつて夫婦であった自分たちをモデルとして描かれていると推測していることは確かだ。スーザンは小説のなかのトニーの妻とその娘が殺されたことに驚き、自分の娘に電話をして安否を確認したりもしているからだ。
 
 ※ 以下、ネタバレもあり!

『ノクターナル・アニマルズ』 劇中劇の『夜の獣たち』はテキサスが舞台となる。

◆小説『夜の獣たち』についてのあらまし
 トニーという主人公は妻と娘を乗せてハイウェイを走行中、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)と仲間たちに襲われる。舞台となるのは誰もいない夜のテキサスで、妻と娘は暴漢たち拉致されて残虐に殺されることになる。
 トニーは妻と娘を助けることはできなかったわけで、その弱さを悔やむことになるわけだけれど、肺がんで余命1年という保安官(マイケル・シャノン)の助けを借り、法律を犯してまで復讐を果たすことになる。しかし同時にトニーという主人公自身も死んでしまうことになる。

◆エドワードとスーザンの過去
 回想で描かれるスーザンはエドワードと同様に芸術に関心を抱く学生だったのだが、自分の才能を信じることができずに方向転換する。エドワードとの関係も同様だ。ゲイの兄を認めないような保守的な両親の考えを否定しようとして、スーザンは母親が反対するエドワードと結婚することになるのだが、ここでも方向転換することになるのだ。エドワードはいつになっても芽が出ずに、もとのブルジョアな生活が懐かしくなったのか、スーザンはエドワードとの子供を堕ろして彼を棄てることになる。

◆ラストの解釈
 ラストシーンではエドワードとの再会を約束したスーザンが寂しく待ちぼうけを食うことになる。エドワードは約束をしておきながら、それをすっぽかしたのだ。わざわざ小説を送りつけたのは“復讐”だったと考えるのが一番すんなりくるのではないだろうか。
 スーザンは小説『夜の獣たち』の完成度を褒め称えていたけれど、エドワードがそれに込めた意味合いにはその時点では気づいていない。スーザンは恐らく小説の登場人物のなかでは主人公トニーの妻と自分を重ね合わせている。それは小説のなかでは被害者の側となるわけだけれど、作者であるエドワードの意図は違う。エドワードはスーザンがやったことは小説のなかの暴漢レイがやったことと同じなのだと仄めかしているのだ。
 スーザンはエドワードの子供を殺すことで今の優雅な生活を手に入れた。それによってエドワードは小説のなかのトニーと同じように精神的には死んだということなのだろう。それと同時にトニーは自分の側に正義があると信じ復讐を完遂したのと同じように、エドワードも復讐をやり遂げることとなったわけで、エドワードはスーザンが自分のやったことの酷さに気がついていないことも復讐計画の一部に組み込んでいたということなのだろう。

 復讐が完遂したことでさすがに鈍感なスーザンだって自分の能天気さに気がついただろう。待ちぼうけの間にスーザンがどんなことを思い巡らしたのかはわからないけれど、エドワードはそれをどこかで見ていたのかもしれないし、あるいは小説同様に死んでしまったりしたのかもしれない。そのあたりを余韻のなかで感じさせるラストはなかなか味がある。
 それにしても冒頭のアレは衝撃的だった。スーザンの仕事のジャンクさを示しているのかもしれないのだけれど、そのインパクトに仰け反った。スーザン自身も回想シーンでは美しいのに、現在の場面では妙にけばけばしくてグロテスクにも見えてくるのもそのインパクトが効いているからだろうか。

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Date: 2017.11.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)

『ブレードランナー2049』 知りたいことはまだ残っている

 1982年公開の『ブレードランナー』の続編。
 監督は『メッセージ』などのドゥニ・ヴィルヌーヴで、前作の監督リドリー・スコットは製作総指揮を担当している。
 ちなみに前作の舞台は2019年という設定で、この30年の間に何があったかを示す短編3作品も公開されている。こちらも観ておくと理解の助けになる。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『ブレードランナー2049』 ライアン・ゴズリングと同等の扱いのようなハリソン・フォードだが、実際には最後のほうにしか登場しない。


 ブレードランナーのK(ライアン・ゴズリング)は逃亡していたレプリカントのサッパー・モートン(デイブ・バウティスタ)を解任(=殺害)するのだが、そこで地下に埋められた箱を発見する。そのなかにはレプリカントの遺骨が入っており、それには子供を出産していた形跡があった。

◆人間とアンドロイドの違いは?
 前作ではブレードランナーのデッカードがレプリカントのレイチェルを連れて逃亡するところで幕切れとなったわけだが、この続編はきっちりとそれを引き継いでいく。前作でも特別なレプリカントだと言われていたレイチェルは、自分のことを人間だとすら思っていた。本作『ブレードランナー2049』では、さらにレイチェルが子供を産んだことが判明する。
 この作品世界のレプリカントと呼ばれるアンドロイドはほとんど人間のよう。レプリカントは傷を負えば真っ赤な血が出るし、銃で撃たれれば死んでしまう。一応は人間がつくったものだからマシンに違いないのだが、数年経つと感情も生じてくることになる。そして、レイチェルのように子供を産むことまで可能となれば、レプリカントと人間の境界というものは限りなく曖昧なものとなってくる。
 本作ではその子供とその父親デッカードを巡って、Kの属する警察組織とレプリカントを製造するニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レト)率いるウォレス社が争奪戦を繰り広げることになる。警察は彼らを消そうとし、ウォレス社はレプリカント繁殖の秘密を暴くために彼らを追う。さらにレプリカント反乱軍などの存在も明らかになる。

『ブレードランナー2049』 撮影はロジャー・ディーキンス。

◆新旧ブレードランナー対決
 前作のブレードランナー・デッカード(ハリソン・フォード)と本作のKとで異なるところは、Kは自分がレプリカントであることを認識しているということだろうか。前作のディレクターズカット版やファイナル・カット版においては、デッカード自身もレプリカントなのではないかと思わせる描写がある。もしかするとデッカードは前作の最後にそれを悟ったのかもしれないのだが、Kは予めそのことを知っている。
 Kは自分がレプリカントだと知っているから何事にも動じない。Kが受けるトラウマテストでは、彼が人間的な反応を示すか否かが試されているようだ(ナボコフ『Pale Fire』の引用にも何やら意味が込められているのだろう)。Kが今回の一連の事件で自らのアイデンティティを揺さぶられ、とても人間的な反応すら見せるようになる。
 Kは自分がレイチェルとデッカードの子供なのではないかと考えて戸惑うことになるのだが、さらに一転してそれは間違いであることが判明する。レプリカントは自分が人間もどき(スキン・ジョブ)ではなく本物になりたいと感じているから失望は大きい。これは前作でデッカードやレイチェルが受けた衝撃と同様なものだろう。一度はぬか喜びしている分、落胆の度合いも大きいと言えるかもしれない。
 Kはそれでも人間以上に人間らしく大義のために生きることを選択することになるが、これは前作で反乱レプリカントのリーダーだったロイ・バッデイ(ルトガー・ハウアー)と同様の振舞いを繰り返しているとも言える。本作ではKが前作のデッカードの役目もロイの役目も果たしているのだ。
 私が何が言いたいのかと言えば、この作品ではKがその両方を担っている分、魅力的な敵役が存在しないようにも感じられるということだ。前作ではロイやプリスといったキャラが魅力的で、デッカードはハードボイルドな探偵ものの視点に過ぎなかったのではなかったのか。最後の戦いの場面など、どう見てもルトガー・ハウアーの独壇場になっていたのだから。
 一応本作にも敵役らしきラヴ(シルビア・フークス)というレプリカントが登場し、それなりに鋭い“かかと落とし”などを披露したりはするのだけれど、前作ほどのインパクトは感じられないのだ(ラヴが二度見せる涙の理由は謎)。

『ブレードランナー2049』 ジョイを演じたのはアナ・デ・アルマス。

◆デッカード=レプリカント説についての結論は?
 デッカードがネクサス6型のタイプのレプリカントだとすれば寿命は4年だから、本作のように30年経って生きているということは、そのこと自体でデッカードは人間だとする解釈もあるようだ。
 しかしそれほど単純でもなさそうだ。本作のなかでは、ウォレスがデッカードに対し「あなたが創られた存在ならば」と、あくまで仮定の話として語りかけたりもしている。これは人間として生まれたのではないという意味だろう。ウォレスの説ではレイチェルとデッカードは子供を産むように始めから計画されていたということになる。となるとデッカードもレイチェルと同様の特別なレプリカントであるのかもしれず、寿命だけでは結論としては弱い。ウォレスの言葉に対してはデッカードが明確な返答をすることもないために、結局のところ真相は謎のままということになる。

 しかし、そもそもそんなことに拘泥することに意味があるのか。『ブレードランナー』の世界においては人間もレプリカントもその境界が曖昧なものとなっていくわけだし……。続編である『2049』においては新たなキャラとしてKの彼女としてジョイというホログラム3Dの女の子が登場する。ジョイ(アナ・デ・アルマス)はウォレス社の商品であり、AIを搭載したヴァーチャルな存在だ。Kは自分がレプリカントと認識しているためか人間の女性を求めようとはせず、ジョイと生活することで満足している。
 本作ではそんな幻影であるジョイですらとても愛おしい存在として描かれることになる(というかアナ・デ・アルマスがとてもかわいらしいのだ)。ジョイはコンピュータープログラムの賜物であり、すべてを「0」と「1」という信号で把握するマシンに過ぎないはずなのだが、Kとジョイの間には互いに対する愛情があり、それは人間たちと何ら変わりないんじゃないかというのがこの作品世界の思想でもあるのだから。

 前作を受け継いだビジュアルは見応え十分なのだけれど、如何せん長すぎることは否めない。2時間以内に収めればもっと引き締まったものになったんじゃないだろうか。ハリソン・フォードが登場してからの部分は謎をさらなる続編へと先延ばししただけのようにも感じられた。「知る覚悟はあるか」というのが、本作のキャッチコピーだが、新しく知ったことは冒頭のレイチェルの出産以外に何かあったのだろうか? あちこち引き回された挙句散々な目に遭うことになるKの末路には同情を感じるのだけれど……。

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Date: 2017.10.31 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (13)

『婚約者の友人』 フィクションのなかで死に、現実において生きる

 『まぼろし』『17歳』『彼は秘密の女ともだち』などのフランソワ・オゾン監督の最新作。
 この作品はエルンスト・ルビッチが1932年に『私が殺した男』として映画化したものと同じ戯曲が原案となっている。
 原題は「Frantz」で、主人公アンナの亡くなった婚約者の名前。

フランソワ・オゾン 『婚約者の友人』 アンナを演じるパウラ・ベーアはオーディションで選ばれた新人だとか。


 第一次世界大戦後のドイツのある村が舞台。アンナ(パウラ・ベーア)はある日、婚約者フランツ(アントン・フォン・ラック)の墓の前で見知らぬ男性を見かける。その男アドリアン(ピエール・ニネ)は敵国のフランス人で、わざわざ墓参りに訪れたらしいのだが……。

 アドリアンは敵国の男である。この時点では戦争は終わっているものの、ドイツの村にはフランス兵に息子を殺された親たちが多く残されていて「フランス憎し」という感情が渦巻いている。そんな場所に現れたアドリアンはフランツの父親ハンス(エルンスト・ストッツナー)からは追い返されるし、村人からも白い眼で見られる。
 しかしアンナはフランツの墓の前で涙を流すアドリアンの姿を見て、勝手に彼をフランツの友人だと信じこんでしまい昔の話を聞きたがる。そして自分の知らなかったフランツの話を聞いていくうちに、アンナはアドリアンに親近感を抱くようになっていく。

 ※ 以下、ネタバレもあり!



『婚約者の友人』 アドリアン(ピエール・ニネ)はフランツアントン・フォン・ラック)にバイオリンを教えたと語る。映画ではカラーとなるシーン。

◆ミステリー?
 アドリアンはアンナにとって婚約者フランツの友人ということになってしまうのだが、実際にはフランツを殺した張本人であるというのが真相だ。ただ、アドリアンの雰囲気は何かしらの秘密めいたものを感じさせるのでそれほど驚くところではないのかもしれない。
 過去のオゾン作品を知っている人はフランツとアドリアンのふたりが同性愛なのかとちょっと疑ってみたりもするかもしれない。バイオリンの演奏シーンなどはそんな妖しさを感じないでもないからだ。
 ちなみにこの作品では登場人物の感情が高揚する部分となると、いつの間にかにモノクロの映像がカラーへと変化する。フランツとアドリアンのシーンもそうだし、アドリアンとアンナが親しくなっていく場面でもスクリーンが色づくことになる。

◆オゾン版とルビッチ版
 アドリアンは真相をアンナに告白する。戦争という非常事態のなかでやむなく敵であるフランツを殺してしまったこと、未だにアドリアンはその罪に苦しんでいる。そして赦しを乞うためにドイツまでやってきたものの、婚約者アンナの勘違いもあってフランツの友人のような形になってしまい、困惑しつつも嘘の芝居を続けることになる。そうするとフランツの友人だったというドイツの男をフランツの両親たちも受け入れるようになり、まるでフランツの代わりとなってアドリアンが現れたかのような不思議な関係性が生まれることになる。
 ルビッチ版は未見なのだけれど、どうやらこの嘘の関係性を続けるところで終わることになるようだ。すでにフランツの死で悲嘆に暮れた両親に対しさらに真相を知らせることで再び悲しみを大きくするよりも、嘘のほうがみんなのためになるということだろう。
 しかしオゾン版ではさらに先がある。アドリアンを追ってアンナがフランスへと渡ることになるのだ。ドイツのなかの異邦人だったアドリアンと同じように、フランスのなかの異邦人となったアンナは、アドリアンの立場を理解し、彼を赦すことになる。
 ドイツに留まっているだけではフランスに対する憎しみは薄れることはないのかもしれないのだが、フランスへと舞台が移行することで立場が相対化される。どちらも国を愛することは変わらないし、敵を恐れ憎む感情も同様だ。そして、どちらも同じくらい愚か。そんな反戦メッセージがあるのだ。

エドゥアール・マネの絵画「自殺」

◆生きる希望が湧くラスト?
 おもしろいのはラストでエドゥアール・マネの絵画「自殺」が重要なアイテムになっていること。(*1)アドリアンもアンナも自殺未遂をすることになるのだが、それは自分勝手なことだったとの反省がなされることになる。反省と言えば、フランツの父親ハンスは自分たちの世代が息子たちを戦場へと駆り立てたことを悔いてもいた。
 国のための戦争に行くことも否定され、自分勝手に自殺することも否定される。「社会と個人との関係」という様々な映画や小説で繰り返されてきた主題がこのあたりに顔を出している。結局、アドリアンの選択もアンナの選択も、親(社会)の願いと自分の希望との間で葛藤した微妙な部分へと着地しているように見えるのは「社会と個人との関係」が介在してくるからだろう。

 ラストではアンナがマネの絵画「自殺」を前にして「生きる希望が湧く」といった意味のことを語るのだが、自殺の絵を前にして語られる言葉としては逆説的な物言いだ。これはゲーテ『若きウェルテルの悩み』を書いたことと似たようなものなのかもしれない。
 ゲーテは実体験を元にその小説を書くのだが、そこで主人公ウェルテルを自殺させることになる。ゲーテは物語のなかで自分の分身たるウェルテルを自殺させることで、現実においてはその後の長い人生を生きることになる。マネの絵画に関してのエピソードはわからないけれど、アンナの気持ちもゲーテと同様のものだったのかもしれない。絵画のなかの自殺した人と自分を重ねることで、現実の自分はそれから先も生きていくことができるのだ。
 モノクロ作品だからというわけではないけれどクラシカルな雰囲気を持つ作品となっていたのは、ピエール・ニネのいかにも整った顔立ちが古風な出で立ちにもよく似合っていたからだろうか。口ひげはちょっと作り物みたいにも見えるけれど……。

(*1) よく見ると手元には銃を持っている。何となくルイ・マル『鬼火』のラストを思い出させるような気もする。

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Date: 2017.10.24 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)

『エイリアン:コヴェナント』 エイリアンのつくり方

 リドリー・スコットの最新作にして『エイリアン』シリーズの最新作。
 タイトルの「covenant」とは「契約」の意味。

リドリー・スコット 『エイリアン:コヴェナント』 ダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)の格好はリプリーのそれを思わせる。

 『プロメテウス』は『エイリアン』の前日譚だったわけだけれど、この作品はその続篇であり、『エイリアン』のシリーズ第1作目へとつながる作品となっている。個人的にはごちゃごちゃしていて不明点も多かった『プロメテウス』よりも『エイリアン:コヴェナント』のほうが楽しめた。
 監督のリドリー・スコットは、一応の主役であるダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)にはリプリーのパロディのような格好をさせてみたりして楽しそう。前作の生き残りであるアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)にはウォルター(マイケル・ファスベンダーの二役)という瓜二つのアンドロイドを登場させて妖しい雰囲気で戯れてさせてみたりもする。『悪の法則』ほどではなくとも、それなりに嫌な気持ちになるラストも好みだった。

『エイリアン:コヴェナント』 デヴィッド(マイケル・ファスベンダー)誕生の場面。この場面は『プロメテウス』より前の話ということになる。

『エイリアン:コヴェナント』 今回登場するエイリアンの姿。第1作目に登場したエイリアンとよく似ている?

 冒頭はアンドロイドのデヴィッドと、それを生み出した創造主たるウェイランド(ガイ・ピアース)との会話となっている。創造主はデヴィッドにその力関係を見せつけようとしているのだが、その雲行きはあやしい。創造主と被造物の関係がこの作品のキモとなってくる点で『ブレードランナー』にも似通ってくる(『ブレードランナー』では、被造物であるレプリカントが創造主たるタイレル博士を殺すことになる)。
 前作『プロメテウス』では、人類の創造主がエンジニア(=スペースジョッキー)と呼ばれる宇宙人だったということが明らかになった。エンジニアは人類を創造し、人類はアンドロイドを創造した。『コヴェナント』ではそうした関係性のなかにエイリアンの存在も位置づけることになる。
 『プロメテウス』ではエイリアンはエンジニアが生物兵器として生み出したものであることは示されてはいるものの、『エイリアン』に登場したような完成態のエイリアンはまだ登場していなかった。『コヴェナント』ではエンジニアの星に到着したデヴィッドが様々な実験を経て、エイリアンを進化させていったことが語られる(エンドクレジットのなかには「The Selfish Gene(利己的な遺伝子)」と記載があったような気がするから進化論的な考えは前提となっているのだろう)。創造主である人間に「創造すること」を禁じられたはずのアンドロイド・デヴィッドが創造主になるのだ。
 思えば『エイリアン』シリーズの前四部作はエイリアンの退化の過程だったように思えなくもない。リドリー・スコットはこのシリーズの創造主でもあるわけだが、以後の作品の監督はそれぞれその時の旬の監督が担当することになった。雑誌のインタビューでは、『エイリアンVSプレデター』で『エイリアン』シリーズは燃え尽きてしまったなどとも語っているようだ。創造主としては複雑な想いもあったのだろう。
 シリーズの最終章に位置づけられる『エイリアン4』では、リプリーの遺伝子を受け継いだエイリアンが登場することになるのだが、その姿はグロテスクな失敗作にしか見えなかった。リドリーは新たに前日譚をつくることで、燃え尽きてしまった完成態エイリアンを再創造させたかったのだろう。
 実はこのシリーズの次作の製作も噂されているようで、その作品は『プロメテウス』と『コヴェナント』の間の話になるのだとか。今さら時間を遡って何を描くのかは謎だけれど、意外と楽しみな気もする。

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『エイリアン』シリーズ
リドリー・スコットの作品
Date: 2017.09.28 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (5)
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Author:Nick
新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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