園子温 『ラブ&ピース』とは、「愛と平和」ではなくて……

 『ヒミズ』『恋の罪』『希望の国』など園子温監督の最新作。

園子温 『ラブ&ピース』 主人公の良一を演じる長谷川博己と、寺島裕子役の麻生久美子。


 かつてはロック・ミュージシャンを目指していた鈴木良一(長谷川博己)は、今では冴えないサラリーマン。同僚の寺島裕子(麻生久美子)に想いを寄せるものの、声をかけることもできない。そんな良一の真の姿を知っているのはミドリガメの「ピカドン」のみだった。ある日、良一は会社の同僚たちにからかわれた末に、血迷ってピカドンをトイレに流してしまう。ピカドンは下水道を流れ、謎の老人のもとに辿り着く。

 今年はほかにも『リアル鬼ごっこ』『みんな!エスパーだよ!』という作品も控えている園子温。5月末から公開された『新宿スワン』みたいな請負い仕事は違って、この『ラブ&ピース』は園子温が好き勝手にやっているという感じが伝わってくる作品だった。『トイ・ストーリー』的ファンタジーと『ガメラ』のような怪獣特撮映画に加え、いじめられっ子が忌野清志郎のみたいなロック・スターに変貌するという展開もあり、ごった煮でハチャメチャな作品に仕上がっている。

 良一はロック歌手として成功するのだが、そのバンド名は「レボリューションQ」。このバンド名は現実世界で園監督自身がボーカルを務めるバンドの名前でもあるらしい(園子温は芸人みたいなことをしてみたりと、どこへ向かわんとしているのかは謎だ)。
 ところで「ラブ&ピース」と聞くと、ビートルズ好きならば、良くも悪くもジョン・レノンを思いだす。「ホワイト・アルバム」に入っているジョンの曲には「レボリューション9」という迷曲がある(前衛すぎてあまり聴かないけれど)。この曲が「レボリューションQ」の元ネタだろう。ここでは「9」が「Q」にズレているわけで、この作品では様々な言葉の意味合いも横滑りしていく。
 「ピカドン」は通常は「原爆」を意味するが、この作品ではミドリガメの名前でもある。良一はそんな「ピカドン」が忘れられなくて、「ピカドンを忘れない」と歌ったものだから、プロテストソングと勘違いをされて評判になってしまう。さらにバンドとしてメジャーデビューをするときには、あまりにも直接的すぎるというプロデュース側の判断で「ラブ&ピースを忘れない」にズレていく。(*1)
 良一の会社は楽器の部品を作っていて、会社名はうろ覚えだが「ピース(piece)・オブ・ミュージック」とかで、良一は「piece」という名札を付けている。また、巨大化したカメは「ラブちゃん」と呼ばれる。つまり「ラブ&ピース」とは、「愛と平和」ではなくて、「カメと良一」のことにもなるのだ。美辞麗句を並べ立てたスローガンを打ち出しながら、そこからは意味をズラして実はごく個人的なことを語っている作品なのだと思う。
 この脚本は園監督が25年前に書いたもので、自ら「魂の集大成」と位置づけているものだけに個人的なものになるのも理解できる。園映画のファンは、やはり園子温という存在そのものに興味を抱いているところがあるわけで、オリジナル脚本の作品はぶっ飛んでいるところがあっていいと思う(この作品は子供っぽい部分がちょっと苦手だけれど)。

(*1) ジョン・レノンの曲「ノルウェーの森」も本当は別の歌詞だったという話を思い出させる。「Isn't it good, Norwegian Wood」という歌詞は、実際には「Isn't it good, knowing she would(彼女がやらせてくれるってわかっているのは素敵だよね)」だったという。

『ラブ&ピース』 イラストで表現されているのが古代インドの世界観。

 地下に住む老人(西田敏行)は不思議なアメを調合して、オモチャたちに言葉を話させたりするのだが、ピカドンには間違って願い事が叶うアメをあげてしまう。ご主人様の良一が大好きなピカドンは良一の願いを叶えるのだが、叶えれば叶えるほどピカドンの身体は巨大化していくことになり、ガメラのようになって街を破壊していく。
 この作品のポスターでは、亀が世界を支えている。これは古代インドの世界観だ。なぜ古代インド人が亀の甲羅の上に世界があると考えたのかは想像もつかないが、園子温の解釈によれば、人間の欲望を一身に引き受けた亀が世界を支えるほど巨大化してしまったということになるだろうか。つまりは欲望が世界を支えているということだ。しかし巨大化した欲望を飼い馴らすことなどできるわけもなく、結局破綻はやってくる。
 ロック・スターから元のわびしい部屋に戻った良一は、もとの大きさに戻ったミドリガメと再会し、想いを寄せていた寺島裕子も姿を見せる。結局、成功以前のところへ戻ったわけで、ラストは巨大化する欲望を戒めるもののようにも感じられた。園監督版の仏教説話みたいな趣きもあるし、今では映画監督として成功を手にした園子温自身の郷愁にも感じられる。
 ただ、長谷川博己が冴えないサラリーマンからロック・スターに変貌して、怪演を披露しているのに、ヒロインである麻生久美子が最後まで変貌することなくダサいままだったのはちょっと残念な気もした。多分、帰るべきところの存在として地味な寺島裕子がいるのだろうとは思うのだけれど……。

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Date: 2015.07.05 Category: 園子温 Comments (0) Trackbacks (10)
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