『犬猿』 キラキラとドロドロ
『ヒメアノ~ル』などの吉田恵輔の最新作。
脚本も吉田恵輔の『麦子さんと』以来のオリジナル。

二組の兄弟・姉妹を主人公としたコメディというのが大雑把な要約になるのだけれど、笑わせながらもシリアスな側面も感じさせる作品となっている。一組目は、印刷会社の営業担当の金山和成(窪田正孝)と、その兄で刑務所から出たばかりの卓司(新井浩文)。もう一組は、和成の仕事相手の下請け会社の女社長・幾野由利亜(江上敬子)と、その妹で芸能活動をしている美人の真子(筧美和子)。
タイトルは“犬猿”となっていて、「犬猿の仲」という言葉通り、この作品の兄弟・姉妹はとても仲が悪い。それは同性だけに色々と比べられたりすることが多いからなのだろう。持たざる者は持つ者に憧れつつも、嫉妬し劣等感を抱く。「兄と妹」とか、「姉と弟」といった関係だったらそれほど問題にはならないような気がする。
もちろん持って生まれたものに差があるということもある。由利亜と真子の容姿の差は歴然としているし、頭の良さでは優劣は逆転する。粗暴な卓司がデカい一発を狙ってばかりいるのに、和成が大人しくてコツコツやるタイプなのは性格もあるのかもしれないけれど、兄の失敗から何らかを学んだ結果ということもあるのかもしれない。そんな正反対の兄弟・姉妹だからことあるごとに衝突することにもなる。
ただ兄弟・姉妹だけに縁は切っても切れないわけで、悪口を言いつつも憎みきれない部分もある。どちらかと言えば普通に見える和成が元犯罪者の兄・卓司を罵ったり、女の武器で世の中をうまく渡って行きそうな真子が堅物の由利亜を悪く言ったりもしても、それぞれの兄・姉を他人から非難されるとなぜか擁護してやりたくもなる。そのあたりの微妙な関係を自然な会話に乗せていく脚本がとてもうまい。

冒頭に“キラキラ映画”の予告編パロディがある。“キラキラ映画”の定義は明確ではないけれど、近頃よくある女子高生など10代の若者の恋を恥ずかしげもなく描く映画のことを指すらしい。この作品の冒頭ではそんな“キラキラ映画”を皮肉っているのだ。
吉田恵輔の作品だって見た目ではそんなふうに見えなくもない。『さんかく』とか『机のなかみ』などはそうした類いとも見えるかもしれないのだが、“キラキラ”だけでは済まさないところが異なる部分だろうか。“キラキラ”の裏側には“ドロドロ”としたものが隠されているのだ。
『ヒメアノ~ル』でも前半のコメディから、一気に転調してダークな部分を見せたように、この『犬猿』も登場人物の光の部分と影の部分をうまい具合に配合している。「人間“キラキラ”だけじゃないよね」という部分は結構ヒリヒリさせもするけれど、あまり深刻になりすぎないのは全体的には大いに笑わせてくれる作品となっているからだろう。
藤山直美を思わせる女芸人の江上敬子は顔芸でも笑わせるし、身体に似合わぬ切ない恋心も微笑ましく映る(新井浩文との絡みでの「ノーチェンジの卓司」には爆笑)。バカな妹役の筧美和子は、脚本が彼女にあて書きされているのか、違和感なく作品に溶け込んでいたし、エロ担当としてのサービスカットもあり。あまり演技経験のない女優陣をうまく盛り立てた窪田正孝と新井浩文もやはりうまかったと思う。吉田恵輔の作品にはハズレというものがないと改めて感じさせる1本だった。


吉田恵輔の作品

脚本も吉田恵輔の『麦子さんと』以来のオリジナル。

二組の兄弟・姉妹を主人公としたコメディというのが大雑把な要約になるのだけれど、笑わせながらもシリアスな側面も感じさせる作品となっている。一組目は、印刷会社の営業担当の金山和成(窪田正孝)と、その兄で刑務所から出たばかりの卓司(新井浩文)。もう一組は、和成の仕事相手の下請け会社の女社長・幾野由利亜(江上敬子)と、その妹で芸能活動をしている美人の真子(筧美和子)。
タイトルは“犬猿”となっていて、「犬猿の仲」という言葉通り、この作品の兄弟・姉妹はとても仲が悪い。それは同性だけに色々と比べられたりすることが多いからなのだろう。持たざる者は持つ者に憧れつつも、嫉妬し劣等感を抱く。「兄と妹」とか、「姉と弟」といった関係だったらそれほど問題にはならないような気がする。
もちろん持って生まれたものに差があるということもある。由利亜と真子の容姿の差は歴然としているし、頭の良さでは優劣は逆転する。粗暴な卓司がデカい一発を狙ってばかりいるのに、和成が大人しくてコツコツやるタイプなのは性格もあるのかもしれないけれど、兄の失敗から何らかを学んだ結果ということもあるのかもしれない。そんな正反対の兄弟・姉妹だからことあるごとに衝突することにもなる。
ただ兄弟・姉妹だけに縁は切っても切れないわけで、悪口を言いつつも憎みきれない部分もある。どちらかと言えば普通に見える和成が元犯罪者の兄・卓司を罵ったり、女の武器で世の中をうまく渡って行きそうな真子が堅物の由利亜を悪く言ったりもしても、それぞれの兄・姉を他人から非難されるとなぜか擁護してやりたくもなる。そのあたりの微妙な関係を自然な会話に乗せていく脚本がとてもうまい。

冒頭に“キラキラ映画”の予告編パロディがある。“キラキラ映画”の定義は明確ではないけれど、近頃よくある女子高生など10代の若者の恋を恥ずかしげもなく描く映画のことを指すらしい。この作品の冒頭ではそんな“キラキラ映画”を皮肉っているのだ。
吉田恵輔の作品だって見た目ではそんなふうに見えなくもない。『さんかく』とか『机のなかみ』などはそうした類いとも見えるかもしれないのだが、“キラキラ”だけでは済まさないところが異なる部分だろうか。“キラキラ”の裏側には“ドロドロ”としたものが隠されているのだ。
『ヒメアノ~ル』でも前半のコメディから、一気に転調してダークな部分を見せたように、この『犬猿』も登場人物の光の部分と影の部分をうまい具合に配合している。「人間“キラキラ”だけじゃないよね」という部分は結構ヒリヒリさせもするけれど、あまり深刻になりすぎないのは全体的には大いに笑わせてくれる作品となっているからだろう。
藤山直美を思わせる女芸人の江上敬子は顔芸でも笑わせるし、身体に似合わぬ切ない恋心も微笑ましく映る(新井浩文との絡みでの「ノーチェンジの卓司」には爆笑)。バカな妹役の筧美和子は、脚本が彼女にあて書きされているのか、違和感なく作品に溶け込んでいたし、エロ担当としてのサービスカットもあり。あまり演技経験のない女優陣をうまく盛り立てた窪田正孝と新井浩文もやはりうまかったと思う。吉田恵輔の作品にはハズレというものがないと改めて感じさせる1本だった。
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吉田恵輔の作品

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