石井隆監督 『GONINサーガ』 19年前と今の違い?

 『死んでもいい』『フィギュアなあなた』などの石井隆監督の最新作。
 1995年公開の『GONIN』シリーズの3作目。このシリーズには『GONIN2』(1996年)もあるけれど、これは1作目の女性版としてのリメイクのようなものであり、この最新作『GONINサーガ』こそが『GONIN』の物語を引き継いでいる作品ということになる。
 出演は東出昌大、桐谷健太、柄本佑、土屋アンナ、安藤政信など。

石井隆監督 『GONINサーガ』 五人の面々。本当の五人目は根津甚八だろうか。

 『GONIN』では、暴力団五誠会大越組の金を奪った五人の男たちが、組織が雇った殺し屋(ビートたけし)に狙われて次々と殺されていった。壮絶な銃撃戦で死んでいったヤクザ者たちにも子供たちがいて、巻き込まれて死んだ警察官にも子供がいた。『GONINサーガ』は19年後の子供たちの物語である。
 さらに『サーガ』が『GONIN』から引き継いでいるものは、氷頭要を演じた根津甚八の存在だろう。死んだと思われていた氷頭は植物状態のまま生きていて、事件の唯一の証人として担ぎ出されることになる。
 石井隆作品には“村木と名美”というキャラクターが登場するが、根津甚八は“村木”的な男を石井作品で何度も演じてきた盟友である(『サーガ』の“名美”は土屋アンナ演じる“麻美”だが、読み方は“アサミ”となっている)。石井隆は病などで役者の引退を余儀なくされた根津甚八に、役者としての死に場所を用意して今回限りの復帰を準備したわけで、ラストで佐藤浩市の手助けを得て役目を果たす根津甚八の姿は見どころだろう。
 それからもうひとりの石井隆の盟友である竹中直人は、『GONIN』では落ちぶれたサラリーマン役だったが、『サーガ』では殺し屋として登場する。酸素ボンベを引きずりながらもほとんど不死身というやりすぎ感のあるキャラは竹中直人だからこそかもしれない。この殺し屋がハエを嫌うというのは、『GONIN』のキャラを受け継いでいるわけで、1作目を観ている人はちょっと笑える。

『GONINサーガ』 後方のスクリーンに登場人物の影が増殖している。手前は安藤政信。

 序盤は『GONIN』と『サーガ』とのつながりを説明しようとするあまりテンポが悪い。事件以来不遇な立場にあるヤクザの息子たちと、事件の巻き添えで殺された警官の息子が上位組織の五誠会に乗り込んでいくわけだが、それが親から受け継いだ因縁として描かれていく。
 ただ、そんな説明が必要だったのかとも思う。たとえば『GONIN2』では、宝石店強奪の現場にたまたま居合わせたのが五人の主人公だったわけだし。「破滅の美学」をやるためにはそれなりの理由が必要なのかもしれないけれど……。
 そうなると1作目の男たちの佇まいが「破滅の美学」へ突き進むのを納得させるような匂いがあったのに対し、本作の登場人物を演じた若い俳優たちがまだそこまでではなかったからかもしれないとも思う。決して悪くはないのだけれど、1作目の面々と比較するとちょっと分が悪い。

 石井隆の映画はいつも湿っぽい。今回も雨のシーンばかりである。シリーズすべてに登場するディスコ「Birds」のシーンでは、わざわざ室内にスプリンクラーからの大量の水を降らせている。五誠会三代目組長(安藤政信)の披露宴のために用意されたスクリーンには、水の反射なのか登場人物たちの姿が増殖するように映っていたのが印象的だった。
 エンドロールで映し出される東京の夜は、19年前のそれと比べても圧倒的に光の洪水になっているのに驚かされる。バブル崩壊後のころよりも今のほうがきらびやかな夜になっているとは……。

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Date: 2015.09.27 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (9)

石井隆監督 『フィギュアなあなた』 男と女の関係はどこに?

 『死んでもいい』『ヌードの夜』などの石井隆監督の作品。今年5月に劇場公開されたもの。残念ながら映画館では見逃したが、10月25日にDVDが発売となった。
 主役のオタク青年を演じるのは柄本佑。裸のシーンばかりのフィギュア役を演じたのはグラビアアイドルの佐々木心音

石井隆監督作品 『フィギュアなあなた』 健太郎(柄本佑)は廃墟のなかでフィギュアを見付ける

 今年は2本の石井隆作品が公開された。この『フィギュアなあなた』と、もう一本は9月から公開されている『甘い鞭』だ。『フィギュアなあなた』を撮影後約2週間の休みを入れ、さらに『甘い鞭』を撮影して2本の映画を完成させたのだとか。ちなみに『甘い鞭』で主役を演じる壇蜜間宮夕貴のふたりは、『フィギュアなあなた』にもちょっと顔を出している。エロさと暴力性では『甘い鞭』のほうがすごいが、男の妄想を叶えてくれる女(?)が登場する点では『フィギュアなあなた』のほうが石井隆らしい気もする(『甘い鞭』は原作が石井隆ではない)。


 ※ 以下、ネタバレあり。オチにも触れているので、要注意!


『フィギュアなあなた』 健太郎の窮地に立ち上がるフィギュアを演じる佐々木心音


 最初からオチをばらしてしまうと、『フィギュアなあなた』はリストラされた青年が見る夢である。主人公・内山健太郎が自ら夢オチを疑うくらい、あからさまにオタク青年の都合のいい夢なので、それほど隠すべきオチではないとは思うが……。
 人形に魂が宿る映画は、最近では是枝裕和監督の『空気人形』があった。『空気人形』では自意識に目覚めた女は人間のように振る舞うが、『フィギュアなあなた』はちょっと違う。それは魂を吹き込んだのがオタク青年だからかもしれない。“心音”と名付けられたフィギュアは自意識に目覚めたようでいて、好き勝手な行動はできない。意識はあっても身体の自由がなく、しどけなく横たわっているだけだ。
 健太郎が初めて心音を見付けたときも、健太郎はスカートの奥の秘部を心行くまで眺め、胸をまさぐり、絶頂に至るまでされるがままになっているフィギュアを楽しむ。健太郎は動かないままでいることを望んでいるようだ。動かず、黙って、好きにさせてくれる女、フィギュアが好きな彼が望むのはそんな女なのだ。
 ただ暴漢に追われ死にそうになったときだけ、心音に助けを求める。(*1)彼の窮地を救うため立ち上がった心音は、ロボコップみたいにぎこちない動きながらも暴漢を蹴散らしていく。心音は健太郎のなかの夢の女だから何でも可能なのだ。健太郎が望めば、心音は空も飛ぶ。ふわりと螺旋階段を降下しながら暴漢を殺し、股間から光を放ちながら再び空を舞うのだ(バイオレンスというよりもファンタジックで楽しいシーン)。
 死んでいった暴漢なども蘇っての雨降る夜の結婚式では、心音も人間らしい表情を見せるようになる。(*2)しかし、結局のところ心音は夢の女で、すべてはオタク青年の最期の夢に過ぎない。『ヌードの夜』もラストは夢オチだったが、『フィギュアなあなた』のようにおめでたい祝祭的な夢ではなかった。もっと具体的な男女の関係が存在した。観ていない作品もあるので早急な判断かもしれないが、石井隆の映画に何かしら変化が見られる気もする。(*3)
 『甘い鞭』では、冒頭の拉致監禁は男の手前勝手な暴走に過ぎないし、その関係はごく一時的なものに終わる。また、それによって傷を負った女(壇蜜)のその後の行動も、性的な研究には熱心なのに男との具体的でステディな関係には向かわず、事件の際に生じた「甘い味」を探し求めるというものだった。『フィギュアなあなた』においても、すべてはオタク青年の妄想的な夢だった。どちらの映画の主人公も独り善がりで、男女の関係などとは無縁なのだ。石井隆の映画と言えば、『天使のはらわた』シリーズや『ヌードの夜』のような“名美と村木”的などろどろした男と女の関係ばかりだと思っていたが、この2本の映画を観るとそうは言えないようだ。今のような時代では、もう以前のようなメロドラマを描くのは不可能だということなのだろうか。

(*1) 暴漢のひとり“ヨっちゃん”を演じているのが風間ルミ。ちょっと前の女子プロレスブームのころを知っている人には懐かしい顔だ。風間ルミは神取忍などを擁したLLPWという団体で社長をしながら、レスラーとしても活躍していた人物で、この映画でも往年の蹴り技で健太郎をボコボコにしている。実際は女性らしい風貌のレスラーだったが、ここでは長い髪をひっつめてオナベ役になっている。

(*2) この場面の「Love Me Tender」のメロディがいい。石井隆の映画には古くさい音楽がよく似合う。

(*3) 宮台真司はそうした変化を「石井隆による「頓馬な石井ファン」の排除」だと記しているが、ちょっとこれは難しくてよくわからない。多分、私も「頓馬な石井ファン」なのだろう。


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石井隆監督の作品
Date: 2013.10.31 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)
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