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『町田くんの世界』  町田くんがうまく現実に着地できれば……

 『舟を編む』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』などの石井裕也監督の最新作。
 主役のふたりにはオーディションで選ばれた新人の細田佳央太関水渚
 原作は安藤ゆきの同名漫画。

石井裕也 『町田くんの世界』 フレッシュな新人細田佳央太と関水渚が主役。


 町田くん(細田佳央太)はあり得ないほどいい人だ。困っている人を見つけると助けないではいられない。そんな町田くんが「人が嫌い」な同級生・猪原さん(関水渚)と出会い……。

 こんなクソみたいな世の中で、なぜ町田くんは素直に善意の人でいられるのか。一応、物語上の説明はある。町田くんは幼いころに枯れた井戸に落ちて一度死に、新たに生まれ変わった。そのときの後遺症もあるのか、町田くんはちょっと愚鈍なところがあり、健忘症気味のところすらある。しかも勉強はできないし、走る姿はひどくみっともない。そんな欠点ばかりにも見える町田くんだが、それらの欠点を補うほどの善意に満ちている。

 偶然なのか時代の要請かは不明だが、町田くんのようなキャラクターが登場する作品がちょっと前に取り上げた『幸福なラザロ』。どちらも極端な善意の人を描いていて、一度死んで生き返るところまで一緒だ。
 ただ、このふたつの作品を比べてみると、それぞれの主人公が置かれた世界が異なっているとも感じられる。ラザロの場合は世間から隔絶された昔ながらのイタリアの村であり、村人たちは牧歌的な世界に生きている。それに対して、町田くんのいる現代日本では、世の中は悪意に満ちている。猪原さんは有名芸能人である母親が不倫をしたことで学校でも爪弾きにされているし、そうした芸能人を食い物にしている雑誌記者・吉高(池松壮亮)もクソみたいな世の中にうんざりしている。
 ラザロの村では村人たちはのんびりと生活していて、ラザロも特別に村人たちから乖離している感じはない。ラザロという善意の人も、「そういう人間もいるものだ」というくらいで違和感はなく、みんなの役に立つ(利用価値がある)人として村に受け入れられている。
 それに対して『町田くんの世界』の主人公はもっとファンタジックな存在だ。現代日本では清廉潔白な印象の芸能人も裏では何をしているかわからないし、一生懸命に頑張っても報われる世の中となっているわけでもない。いつも世間はギスギスしていて、多くの人が焦燥感に駆られている。そうしたなかで、ただひとり町田くんだけは、薄汚い世界を見たことがないかのように純粋さを保ち、善意を持って人々に接している。ほとんどあり得ないその姿に周囲の人々は驚かされ、「町田、マジか」(友人役の前田敦子の台詞)とつぶやかざるを得ない。
 「人が嫌い」と言ってみんなを避けていた猪原さんも、町田くんの素直の言葉と裏表のない純粋な行動に心を揺さぶられることになる。「大切な人」という言い方を町田くんはするのだが、これには町田くんにとっては深い意味はない。町田くんは人のことが大好きで、誰もが大切な人だからだ。しかし孤独な猪原さんにはそんな言葉が愛の言葉のようにも思え、勘違いを肥大化させていく。そうなるとそんな彼女と相対する町田くんもこれまで抱いたことのない感情に混乱していく。

『町田くんの世界』 最初は澄ましていた猪原さん(関水渚)もだんだんと崩れていくところがかわいらしい。

 ラザロのときに触れた“聖なる愚者”。こうしたキャラはラストに死んでしまう(あるいは死んだようになってしまう)運命にある。ラザロもそうだったし、ムイシュキン公爵もそうだ。なぜ彼らが死ななければならないかと言えば、あまりにも現実離れしているからかもしれない。そんなキャラがその作品世界でうまく居場所を見出だし「長らく幸せに暮らしましたとさ」という展開に着地させるのはなかなか難しい。
 そんなわけで町田くんだってそういう危機はあったはず。誰にでも優しい町田くんは、猪原さん以外の女の子でも、それこそ男の子でも、たまたま見かけたおばあさんでも、とにかく分け隔てなく接する。しかし誰にでも優しいということは猪原さんも特別な存在ではなくなるということで、彼女が不満気な表情を見せるのもその点だ。ちょっと頭が鈍い町田くんは猪原さんをほかの人よりも優先しなければならないということに気がつかないのだ。
 しかし町田くんが猪原さんへの愛に気づき、猪原さんを優先しほかの人を疎かにしたとしたら、町田くんは町田くんの存在意義を失ってしまうだろう。だから最後は奇跡という力技が必要だったということだろう。

 そもそも本作で「世の中をクソだ」と盛んに語っているのは雑誌記者の吉高。だが同時に彼は町田くんの素晴らしさの理解者でもある。吉高と町田くんが会話するシーンでは、なぜかふたりは似ていて兄弟のようにも見える。多分、吉高はスポイルされた町田くんなんだろうと思う。もともとの純粋さも世の中の悪意によって裏切られると、吉高のように世界をクソとしか思えなくなる。世界がみんな町田くんならそんなことはないはずなのに……。そうした想いが最後の奇跡には込められていたのかもしれない。
 前作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』の感想を読み返してみたら、前作のときも奇跡が起きるかも云々と書いていて、同時に青臭いとも書いている。青臭いのは本作も同様なのだが、誰かがそれを語り続ける必要があるのかもしれないとも感じなくもない。現実にも町田くんの居場所があればいいと思うからだ。

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Date: 2019.06.15 Category: 日本映画 Comments (2) Trackbacks (3)

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 青臭くても無様でも……

 原作は詩集としては異例のベストセラーになっているという、最果タヒによる詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
 監督・脚本は『舟を編む』などの石井裕也
 新人の石橋静河原田美枝子石橋凌の娘さんとのこと。

石井裕也 『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 美香(石橋静河)と慎二(池松壮亮)は東京の街で出会う。


 主人公の看護師・美香(石橋静河)は病院で働きながらも、夜にはガールズバーでバイトをしている。もうひとりの主人公慎二(池松壮亮)は建設現場で日雇いとして働いている。そんなふたりが偶然出会って……。

 冒頭から東京の街の情景に美香の詩がモノローグでかぶさっていく。たとえばこんな感じ。

   都会を好きになった瞬間、自殺したようなものだよ。
   塗った爪の色を、きみの体の内側に探したって見つかりやしない。
   夜空はいつでも最高密度の青色だ。
   きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、誰も愛さない間、
   きみはきっと世界を嫌いでいい。
   そしてだからこそ、この星に、恋愛なんてものはない。


 美香は幼いころに母親(市川実日子)を亡くしているのだが、それが自殺だったのではないかという疑いを抱いている。だとすれば美香は母親から棄てられた娘ということになるというわけで、その辺が美香の屈託となり詩の言葉を紡ぐ要因ともなっているようだ。
 一方の相手役である慎二だが、彼にも抱えているものがあって、慎二は左目がほとんど見えない。慎二の視点へと移行すると、スクリーンの左半分が黒くマスクされ、外界はスクリーンの右半分に開かれた覗き穴から見たような状態となるわけで、こうした視野は慎二が自らの内面に閉じこもっていることを感じさせる。
 そんなふたりが何度かの偶然も重なったりしつつ近づいていくことになるのだが、美香は「この星に、恋愛なんてものはない」とも詠っているだけにふたりの関係もすんなりとはいかずに行ったり来たり繰り返すことになる。

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』 新人の石橋静河は池松壮亮を相手にしても存在感があった。

 舞台は東京で、ふたりは身近に「死」を感じつつ生きている。ちなみにウィキペディアによれば原作者の最果タヒ(さいはて・たひ)の「タヒ」とは、漢字の「死」から採られたらしい。看護師の美香は病院で死んでいく患者たちを目の当たりにするし、慎二は友人である智之(松田龍平)や隣人の突然死に遭遇したり、仕事の過酷さにズボンのチャックも上げられない同僚・岩下(田中哲司)の自殺を心配してみたりもする。そして、美香と慎二の最初の共通点というのが、「嫌な予感がする」という部分でふたりが深く納得したことだった。
 おもしろいのはふたりの恋愛(もしくは腐れ縁?)が、いつ成就したのかは描かれないということだ。ふたりの関係がそれなりに確固たるものとなっても、それによって世界がバラ色に変わるわけではないし、「嫌な予感がする」という状態も続いている。ただ、ふたりが一緒にいれば美香の内面の声は減り、慎二の自閉も解消され、自然と対話の場面が多くなる。
 元々詩を詠うことも誰かに何かを伝えたいということなのだろうし、隣に誰かがいれば自分の気持ちをその隣の人に伝えることになるのは当然だろう。そして、ときには予想もしないレスポンスが生まれる場合もある。「嫌な予感」はどんな悪いことでも起きる可能性であると同時に、「いいことだって起こるかもしれない」ことでもあるのだ。これは美香ひとりでは到達できなかったところと言えるのかもしれないし、そこには少しだけ希望がある。
 しつこいくらい何度も登場する路上歌手(野嵜好美)が最後に成功を勝ち取るのは、まさにそんな奇跡なのかもしれない。「それでもみんなガンバレ」みたいな応援歌を恥ずかしげもなく謳い上げる歌手は、その歌声も容貌も「中の下」(『川の底からこんにちは』の登場人物たちと同様に)で、絶対売れることはないという見方がごく普通だろう。しかし、その予想は外れることになるわけで、ふたりの未来だってもしかすると奇跡的ないいことだって起こり得るかもしれないのだ。

 詩から発想された映画ということで、繊細と同時に青臭くも感じられる作品で好みは分かれそう。私自身は青臭いのを自覚しているので、嫌いではない。
 池松壮亮の慎二はその微妙なバランスを醸し出している。弱味につけこまれるのを嫌い、読書で何かから自分を防御しているようでいて、カラオケではなぜか「CHE.R.RY」を歌って呆れられるという浅薄さ。だけどスレてないところが美点だろうか。
 新人の石橋静河は、最近の『PARKSパークス』にも顔を出していて、今の世代とは異質な昭和の女を演じていても違和感がなかった。まだまだ若い人なのだけれど流行りなどには影響されない人なのかもしれない。この作品でもポケットに手を突っ込んで歩くたたずまいが堂々としていて、新人らしからぬ雰囲気があったと思う。

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Date: 2017.05.19 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (2)
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