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『ディストラクション・ベイビーズ』 共感はできないけれど、目を離すこともできない

 監督はこの作品がメジャーデビュー作となる真利子哲也
 暴力的な衝動がモチーフになっているところからも推測されるように、タイトルは村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』を意識しているようだ。そして、“ディストラクション”とはDistraction(気晴らし、動揺)とDestruction(破壊)という似た発音の言葉から発想されたものだとか。

真利子哲也 『ディストラクション・ベイビーズ』 

 泰良(柳楽優弥)は最初から最後までケンカばかりしている。街を徘徊して獲物を狙う目は獣のよう。しかし獣にすらあるはずのケンカのルールも、泰良にとっては関係ない。目的は金でもなければ弱い者をつぶすことでもない。骨のありそうな奴を探しては殴りつけ、殴り返される。血だらけになり這いつくばっても「まだやれるやろう?」と相手に向かっていくことが生きがいらしい。泰良は理解不能のバケモノなのだ。
 ケンカが強い男は人を惹きつけたりもするけれど、泰良はひとり彷徨っている。泰良のケンカは誰かに対する示威行動ではなく、ただケンカそのものが目的なのだ。そして時にはヤクザにこっぴどく打ちのめされても意味のないケンカをやめようとしない。そんな薄気味悪さが相手をたじろがせるのだ。泰良が何のためにケンカをするのか誰にもわからないし、泰良も「楽しければええけん」と言うだけで説明することもない。

 ケンカに明け暮れる泰良の姿を街で見かけた裕也(菅田将暉)は、そんな泰良に取り入って騒ぎを拡大させることになるけれど、そんな裕也でさえ泰良のことを理解できない。裕也は泰良の尻馬に乗ってうっぷん晴らしをするわけだが、泰良にとって裕也は眼中にないのだ。一方で巻き込まれて人を殺すことになったキャバ嬢の那奈(小松菜奈)の行動には興味を抱いている。それは殺人という暴力に対する興味なのかもしれない。裕也はうっぷん晴らしの仲間として共感できる部分があると考えていたようだが、それは泰良のことを見誤っていたに過ぎないわけで、泰良は誰の理解も超えているのだ。

 泰良が松山の中心地でケンカをする場面は、カメラはちょっと離れた位置からそれを捉えている。あまり近づきすぎると巻き添えを喰らうかもしれないが、何だか面白そうで目が離せないという野次馬の目線なのだ。共感はできないけれど、目を離すこともできない。そんな泰良を演じた柳楽優弥の存在感は素晴らしかった。


 ※ 以下、ネタバレもあり! 結末にも触れているので要注意!

『ディストラクション・ベイビーズ』 泰良は誰もいない細い路地でケンカをふっかける。迫ってくる柳楽優弥が不気味!

 「衝撃作!」というキャッチフレーズも大袈裟ではないくらい、日本映画では珍しく攻めている作品だと思うのだが、途中からその終わり方をどうするのかという点が気になっていた。
 中盤で裕也が加わってからは、泰良のやることはケンカというよりは通り魔として扱われ、世間でも注目を浴びてしまう。犯罪者となったからには最後は社会的制裁を受けることになるというのが一般的だろうが、この作品はそうした終わり方にはしなかった。それは泰良が着地する場所などどこにもないということのようにも思えた。

 冒頭では泰良の弟・将太(村上虹郎)が兄を見つける。そのとき将太は川の向こう岸に泰良を発見する。将太は泰良を追いかけるが捕まえることはできない。ここでは「此岸」に弟がいて、「彼岸」に兄がいる。「彼岸」というのは「あの世」ではないけれど、現実世界である「此岸」からは遊離した場所であるとは言えるかもしれない。
 泰良と将太の養父(でんでん)は、彼らの地元・三津浜にはルールがあると語る。三津浜では毎年恒例の喧嘩神輿では死者が出ることもあるというが、それは「ハレ」の日ということで大目に見られている。ケンカも祭りという行事の最中なら許されるというのが三津浜のルールだが、泰良はなぜかそうしたルールを逸脱して「ハレ」の状態に留まるのだ。これが泰良の居る「彼岸」ということだろう。
 そして、一連の騒ぎのあとのラスト。その日はまさに喧嘩神輿の当日だが、その日に一度は姿を消した泰良が再び姿を現す。今度は養父がその姿を対岸に発見することになる。向こう岸には泰良だけではなく、将太も泰良を思わせる風貌で姿を現すのだ。タイトルの“ベイビーズ”とは泰良と裕也のことだとばかり思っていたのだが、どうやら泰良と将太が“ベイビーズ”であったらしい。
 タガが外れたふたりの子供たちがどうなるかはわからない。けれどもこの作品では最後の最後まで泰良は社会のくびきに囚われることはない。なぜかと言えば、彼らを屈服させ彼らの死によって現実世界に着地させることは、彼らをわれわれの尺度で測ることだからだろう。理解できないバケモノは理解できないままに終わらせるというのがあの結末になったのではないだろうか。作り手としてとても誠実だけれど、それだけにこれまでになく危なっかしい作品となっている。柳楽優弥が演じた泰良と同じように、『ディストラクション・ベイビーズ』という作品も目が離せない魅力がある。それが到底共感できないとしても……。

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Date: 2016.05.27 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (6)
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