『シン・ゴジラ』 ゴジラがスクラップしたものとは?

 国内産の『ゴジラ』シリーズとしては第29作目となる最新作。
 総監督・脚本は庵野秀明、監督・特技監督は樋口真嗣となっている。
 キャストは豪華で長谷川博己竹野内豊石原さとみなどなど。なぜか塚本晋也や原一男など映画監督も顔を出す。
 『ゴジラ』については第1作と、先日テレビで放映していた2014年の『GODZILLA ゴジラ』(ギャレス・エドワード監督)くらいしか観ていないので、これまでの多くの作品との違いは正直わからない。今回は『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明が監督ということで……。

総監督:庵野秀明 『シン・ゴジラ』 「ニッポン対ゴジラ」というのがキャチフレーズ。


 ある日、東京湾で大量の水蒸気が噴出する事態が発生し、近くの海底トンネルでは崩落事故が発生する。異常事態に官邸スタッフが集められ対策会議が開かれる。「海底火山の噴火だろう」と推定する多くの人に混じり、矢口蘭堂内閣官房副長官(長谷川博己)は「巨大不明生物」の仕業という説を展開するものの突飛すぎる話で相手にされない。しかし、その後「巨大不明生物」らしき何かが川を遡っていく姿がテレビカメラに捉えられる。

 第1作目の『ゴジラ』(1954年)は、人間が作り出した核兵器(水爆)がゴジラという怪獣を生み出してしまったという意味合いが込められていたわけだが、『シン・ゴジラ』はその第1作とは別世界の話だ。本屋に山積みとなっていた『シン・ゴジラ e-MOOK』樋口真嗣のインタビューによれば、これまでのゴシラは常に第1作を前提にしていたようで、それとは無関係のまったく新しいゴジラは初めてとのこと。題名の『シン・ゴジラ』というのは「新しい」という意味が込められているということだろう。(*1)
 たとえば2014年のギャレス・エドワーズ版のゴジラは何らかの意志や目的を持っているように感じられるのに対し、この『シン・ゴジラ』におけるゴジラは何を考えているのか皆目見当がつかない。ゴジラは何の前触れもなければ説明もなく突如やってくるのだ。これはゴジラが自然災害みたいなものとされているからだろう。そして、その災害とは否応なく3.11のそれを思わせるように描かれている。
 この映画はいわゆる怪獣映画というよりも、これまでに経験したことのない不測の事態に遭遇したときのシミュレーションをした作品となっているのだ。「巨大不明生物」の東京上陸という未曾有の事態に総理大臣以下官邸スタッフがどのように対応するか。これは3.11に官邸内で実際に起きていたであろう事態を想像させるし、騒然とする国内だけでなく外国からの干渉なども含めてとてもリアルな作品となっている。そして、やはり新しいゴジラの姿には驚かされる部分も多かったし、この夏見逃すのはもったいない作品だと思う。

(*1) 題名が似ていなくもない製作中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のことも気になる。『シン・ゴジラ』ではエヴァの音楽が使用されるし、ゴジラの形状にもエヴァっぽいものを感じさせる部分がある。


 ※ 以下、ネタバレもあり!


『シン・ゴジラ』 フルCGで作られたゴジラの勇姿。

 今回のゴジラは形態を次第に変えていく。何度かの進化を遂げ、ようやくこれまでのゴジラらしい形態へと姿を変える。最初は両性類の化け物のようなグロテスクかつユーモラスな姿で川を遡上していく(露払いとしてゴジラとは別の怪獣が先に登場したのかと勘違いするくらい別物)。川の水を押し戻すように進むそれはどうしても津波を思わせるし、その後の進化したゴジラが巻き起こす破壊活動は、原発事故への対処が遅れたことによる事態の悪化を思わせなくもない。
 総理大臣と官邸スタッフは会議を開いて何かを決めようとするわけだが、誰も事態を把握していない上に最終的な決定権を持つ者は決断することができない。もしかするとゴジラの進化の途中で攻撃を許可していたら事態の悪化は避けられていたかもしれないのだが、そのチャンスを逃してしまうのだ。最終的には国際社会の干渉を受け入れざる得ないほどに事態は大きくなり、アメリカはその脅威を消しさるために核兵器の投下を決断する。日本は自分たちの力でこの危機を乗り越えることができるのかというのが後半の見所となる。

◆ゴジラがスクラップしたものとは?
 今回の作品は「ニッポン対ゴジラ」ということが謳われていて、中心となるのは政治のリーダーたちの活躍だ。だから災害の被害者となる個人のことが描かれていないという意見も見受けられるようだ。
 たしかにそういう面もあるのかもしれないが、庵野監督の狙いは日本のシステムに対する批判のようにも思えた。今回は矢口以下の官邸スタッフやはぐれ者集団の知恵で何とかゴジラを撃退することになるわけだが、総理大臣以下の閣僚の多くはゴジラに餌食になる。
 しかし矢口はすべてが終わったあとで「せっかく壊した内閣だから」と旧体制を切り捨て、「スクラップ・アンド・ビルド」でこの国はやってきたのだからとまで言ってのける。不測の事態を前にして機能不全を起こして何も対応できなかった旧体制に対する苛立ちは明らかだろう。一方では矢口は「ヤシオリ作戦」に参加した面々など個々の力は信用してもいて、日本にはまだまだやれるだけの有望な人材はいるということも示している。
 ちなみにこの作品では矢口官房副長官ら官邸スタッフには異能で面白い顔ぶれが揃っているのだが、それ以外のごく小さな役にもネームバリューのある役者が使われている(全キャストは328人だとか)。たとえば自衛隊員にはピエール瀧斎藤工などが扮しているのだが、ヘルメットを被っているためにすぐにはよくわからない。ほかにもそういう例はいくらでも挙げることができるだろうし、冒頭の海底トンネル事故の場面では逃げ回る一般人として前田敦子が顔を出していたらしい(エンドロールを見るまで気がつかなかったけれど)。
 一度顔を出すだけの役にまでこうした役者を配するのは、日本の個々の力に対する信頼のようにも感じられた。小さな役でもよく見るとそれぞれが独自の存在感を持っているのだ。それに対してシステムは硬直化し、個々の力を吸い上げるどころかダメにしてしまっている。だから一度システムをスクラップして新たに仕切り直しをしなければこの国は危ない。そんな思いが込められているようにも感じられたのだ。庵野監督がゴジラにスクラップさせようとしたのは、個々人の生活基盤とかではなく日本のシステムのほうなのだろうと思う。

◆ゴジラの暴れっぷりとその後
 ゴジラが東京を徘徊する場面はほとんど棒立ちだとかも言われていて、確かにちょっと間が抜けて見える部分もあったのだが、一度覚醒してからの中盤の暴れっぷりは圧倒的なものがあった(ここだけでも劇場で観る価値があろうというもの)。
 庵野監督は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』とか『巨神兵東京に現わる』で世界をすべて破壊しつくすような場面を描いているわけで、今回の『シン・ゴジラ』にもそうした破壊衝動のようなものすら感じる。
 この作品では日本を「スクラップ・アンド・ビルド」する必要性を訴えたわけだが、作品内ではスクラップにするところまでしか描かれていない。同じことは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』にも言える。
 壊すだけ壊したけれどもどうやって立て直していくのかというところが難しいところとも言えるわけで、庵野監督自身が心身ともに追い込まれている部分もあるようだ。製作が難航しているらしい『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』では、その立て直す部分が描かれることになるのかもしれない。「次回作が早く観たい」とファンとして無責任に言ってしまいたい気持ちもあるのだけれど、首を長くして待つことにしたいと思う。

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Date: 2016.08.01 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (23)

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』 巨人の謎、世界の謎

 前篇『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』を受けての後篇。
 前篇からの期間が短いのはいいのだけれど、前篇が色々な意味で評判が悪かったので、その印象が薄れないうちに公開がかえって逆効果だったのか、公開初日にも関わらず空席が目立つあり様だった。

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』

 前篇のほうは突っ込みどころも満載だったけれど圧倒される部分もあった。しかし、この後篇は謎解きと物語を終わらせるのに精一杯で、狭い世界になってしまったように思えた。後篇では人間に見えてしまう通常サイズ巨人がほとんど登場せず、主要キャラ以外のエキストラの姿もなく、ごく限られた範囲の話になっているからだ。そして、エレン(三浦春馬)たちの目的が壁の穴を塞ぐことばかりで、巨人の強大な力を獲得してもやってる仕事に妙にこじんまりとした感があったのは否めない。
 原作はまだ終了していないということで、後篇は前篇以上に原作とは別のものとなっている。映画では脚本を担当した町山智浩が巨人の謎を解き明かす独自な展開を考えたようだ(今月の『映画秘宝』にはそのあたりが詳しく書かれている)。特にエレンの兄の存在は映画のオリジナルだ。ただ、それが誰のことなのかはうやむやになってしまう(大体の察しはつくのだがすっきりするわけでもない)。『2001年宇宙の旅』を思わせる白い部屋の場面で明らかにされる過去では、誰が巨人化するのかわからないなどという説明もあったのだが、どのようにしてそれが拡散したのだろうか(巨人化するのはウィルス性の病みたいなものなのだろうか)。

※ 以下、ネタバレもあり!

樋口真嗣 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』 巨人の姿は迫力があるのだけれど……。

 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』では、巨人誕生の謎は意外にもすぐに明らかにされる。巨人は人間が人間を薬で改造して作り上げた兵器のようなものだったのだ。しかし脚本の眼目は、それよりも巨人を利用した新たな世界の構築のほうにあるのだろう。
 かつては自由で日々進歩していく世界があった。そこでは人間は驕り高ぶって人と争い、他国と戦争を始めたりもする。だから進歩を生み出す科学技術を捨て、昔ながらの生活を取り戻すのをどこかの誰かが選択した。
 そのために必要とされたのが巨人の恐怖だ。人間を喰らう巨人という敵を避けるため、人間たちは自分たちを壁の内側へと閉じ込めることになる。そこでは貧しくても皆が平等な世界がある。これは例えれば、焼夷弾を避けて防空壕に逃げ込んだ人間たちが、狭くて不便な防空壕のなかで一時の平安を得ているようなものだ。
 しかし巨人の恐怖も長くは続かない。人間は人類の敵のことすら忘れてしまうからだ。恐怖を忘れた人間が外部に興味を抱き、調査兵団が壁の外側へ出ていくことになったとき、壁が壊され再び巨人たちが姿を現すのは、巨人の恐怖を改めて人間に思い知らせるためだ。そして子々孫々にまで恐怖を伝え、壁の外側へ出ようと考えることすらしないように人間を矯正するのだ。

 そんなわけで一部の人間が世界をコントロールして、家畜のように人類を飼育しているということが明らかになる。シキシマ(長谷川博己)はそうしたすべてをぶち壊して革命を起こそうと考える(前篇の反乱分子はシキシマの手下だったようだ)。クバル(國村隼)は世界の残酷さには人類は耐えられないからと、壁の内側の世界を保守することを選ぶ。
 脚本の町山智弘によれば、これは右と左の対立であり、この映画ではその両翼がぶつかってどちらもつぶれていくことになる。そしてエレンたち若者が未来を担うというのだが、映画ではエレンたちはどっちつかずで壁の穴はふさがれたけれど元の状態に戻っただけのようにも見える。もちろんエレンは壁の外の世界を見ることになったわけで、そこは違うわけだけれどエンドロール後のオチでも明らかなように、世の中を牛耳っているごく一部の人間がいなくなったわけではないのだから。

 “特定秘密違反”という言葉が作品のなかに登場するのは、「特定秘密保護法案」を意識しているのだろう。この作品の登場人物は日本人という設定なのだし、壁のなかの世界も日本を意識しているはず。特定の秘密は大衆には知らせずに、ときおり恐怖を煽って大衆をコントロールするというのはまさに日本の現状なのかも。
 そんな意味では巨人というのは戦争のメタファーなのかもしれない。それが忘れられてしまったから隣の国が攻めてくるかもしれないという空気を何となく醸成し、安保法案までもなし崩しに変えてしまおうする(あるいは外に出ることで戦争の恐怖を呼び込むつもりなのかもしれない)。壁の内側へ閉じこもるか、世界へ出て行こうとするかでは正反対なのだけれど、恐怖を煽り一部の人間が大衆を支配するという点では似ている。
 このあたりにこの作品の社会批判がほの見えなくもないのだけれど、出来上がった作品はあちこちで人間から巨人へと変身する者が現れて、登場人物たちはやたらに叫びまくるばかりといった感じで、つい冷めた目でスクリーンを見つめていたというのが正直なところだろうか。

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Date: 2015.09.21 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (7)

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』 巨人は何のメタファー?

 原作は発行部数累計4000万部を超えるという諫山創による人気漫画。
 監督は『ガメラ 大怪獣空中決戦』『ガメラ2 レギオン襲来』などの特撮監督であった樋口真嗣。樋口監督は来年公開予定の『ゴジラ』の新作でも監督をすることが決まっているとのこと。

樋口真嗣 『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』 大人気漫画の映画化!


 舞台は巨大な壁に囲まれた世界。その壁は100年以上前の巨人の侵攻をきっかけにして築かれたもの。100年の間に巨人たちは伝説と化していた。主人公のエレンたちも巨人の存在を信じることはなく、壁の外の世界に思いを馳せていた。しかし、ある日突然、巨大な壁をも越えるほどの巨人が現れ、それまでの平和な時代は終わることになる。

 テレビアニメやCMなど大々的なメディアミックス戦略もあってか、この映画版『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』もスタートダッシュでの興行収入もかなりなもので、予想では50億円を超えが見込めるとか。その反面、実際に映画を観た人の評価は著しく低い。ひとつには原作漫画を大きく改変している部分があるからだろう。
 原作では主人公エレン(三浦春馬)の守護天使だったミカサ(水原希子)だが、映画版ではエレンの想い人みたいな存在になっている。それをシキシマ(長谷川博己)に奪われ、エレンは頭を抱えて泣き叫ぶ……。そんなふうに登場人物の人間関係まで大胆に変更しているあたりは、原作ファンから集中砲火を浴びているようだ。
 私自身は原作漫画を一度だけ読んだという程度の生ぬるいファンなので、そのあたりは気にはならなかったのだが、巨人の造形が明らかになるところでずっこけた。最初に登場する超大型巨人は「人体の不思議展」の筋肉むきだし模型のようでカッコいいのだけれど、それが消えたあとに登場する通常サイズの巨人たちは裸の人間にしか見えなかったからだ。
 通常サイズ巨人が登場する場面では、それを見つめるエレンたちと見られる巨人とが「切り返し(リヴァース・ショット)」で捉えられている。人間も巨人も画面上では同じサイズとして登場するために、巨人たちも人間と変わらぬサイズに感じられてしまい、色艶の悪い妖怪みたいにしか見えなかったのだ。もちろん超大型巨人の穿ったデカい穴から入ってきたのだから、そのサイズ感は明らかだろうという言い訳もあるとは思うけれど、最初くらいはその巨大さを強調してもよかったんじゃないかと思う。
 巨人たちがエビフライでも食べるように人間をむさぼり喰らう場面は残酷なのだけれど、ふとした拍子に人間っぽいところが見えてしまう。油断するとちょっと笑えてきてしまい、薄気味悪い部分は感じられても、原作にあったかもしれない絶望的な気持ちにまでは至らなかった。

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』 ハンジを演じた石原さとみ。脇役だけれど場面を凍りつかせるようなところが……。

 そもそも脚本に参加しているのが映画評論家の町山智浩というあたりからも、この作品の方向性はマニアックな特撮映画といったあたりにあるのだろう(私は偏った映画ファンなので、そっちの方面はほとんど知らないけれど)。町山智浩は雑誌『映画秘宝』の初代編集長であり、『映画秘宝』は文芸作なんかよりも特撮ものだとかホラーやエログロなんかを特集しているわけで、そんな意味でもマニアックなファンに向けて作られた部分があるのだと思う(どことなく円谷プロの「ウルトラマン」みたいな懐かしさがあった)。そんな趣向の作品が、メディアミックスの超大作的な宣伝で登場したものだから、ハリウッドの娯楽作をイメージしていた一般的なファンはそのギャップについていけなかったのかもしれない。

 そんなわけで悪口ばかりが目立つようにも思えるけれど、後半になると立体機動装置が登場して、人間たちも巨人に対抗する手段を得る。その動きは日本版『スパイダーマン』のようでもあり、それ以上に自由に空中を飛び回り、巨人たちをズバズバと切り裂いていくあたりは爽快だった。
 とりあえずこれは前半戦。エレンに起きた出来事はいったい何なのか、爆弾を盗んでいった反乱分子たちはどこに関わってくるのか、そんな様々な謎を残したままだけに、9月の後半戦を楽しみに待ちたいと思う。原作漫画もまだ終わっていないなかで、巨人の存在の謎にどんなふうに答えてくれるのだろうか。

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原作漫画『進撃の巨人』
Date: 2015.08.05 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (5)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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