『寄生獣 完結編』 寄生生物による自己弁護?

 前作『寄生獣』を受けた完結編。
 監督は、第38回日本アカデミー賞では『永遠の0』で作品賞や監督賞などを総なめにした山崎貴(ちなみに最優秀アニメーション作品賞の『STAND BY ME ドラえもん』も共同監督)。

山崎貴 『寄生獣 完結編』 深津絵里演じる田宮良子の役回りは大きい。

◆“寄生獣”とは何か? (以下、さっそくネタバレしてます)
 田宮良子の存在は本作でもやはり大きい(深津絵里の哄笑がいい)。田宮良子は前作で冒頭ナレーションの役割を担わされていた。「地球上の誰かがふと思った。人間の数が半分になったらいくつの森が焼かれずにすむだろうか?」云々というやつだ。本作でもそうした田宮の問いは続いていて、「なぜ生まれてきたのか?」といった人間的な問いへとつながっていく。
 田宮の出した答えは、「寄生生物と人間は一つの家族だ。我々は人間の子供なのだ」というものだった。そのうえで田宮は「我々はか弱い。だからあまりいじめるな」と訴えつつ、自らの子供を新一に託して死んでいく。このエピソードと同時に進行しているのが、市役所でのSAT(特殊部隊)による寄生生物たちの駆逐の場面である。
 寄生生物は個体の存続しか考えない(ミギーが新一を助けるのもミギー自身の生存維持のため)。一方、人間にはそうではない部分がある。前作でもポイントとなっていた“母性”がそうだし、本作で“巨大な脳”と呼ばれるものもそうだ。“巨大な脳”というのは、人間は自分の脳以外にもうひとつの脳を持っているということ。つまり、人間は集団となって社会というものを構築して生きていく存在だということだ。そんな“種としての人間”が、か弱い寄生生物を選り分けて殲滅していく場面が、田宮の訴えと同時に描かれていく。「あまりいじめるな」という田宮の言葉に説得力を持たせる構成として素晴らしかったと思う。
 そして最強の寄生生物である後藤(浅野忠信)が田宮の言葉を引き継ぐ。冒頭のナレーションで「地球上の誰かが」という部分に対し、漫画以上に踏み込んで答えを提示している。寄生生物の誕生を望んだのは、ほかでもない人間たちということだ。人間が増えすぎて困るなどと考えるのは人間以外の動物ではないわけで、われわれ人間だけなのだ。だから間引きのために「人間を食い殺せ」という指令を受けた寄生生物が誕生した、そんなふうに後藤は語る。(*1)
 原作漫画の冒頭では、寄生生物が宇宙から飛来したようにも読める。しかし、映画版ではそれは海のなかから出現したことになっている。これは寄生生物が外部からもたらされたものではなく、地球の内部から生み出されたということだ。かと言って、地球が人間の駆逐を望んだわけではないだろう(地球に意志はないわけだから)。そのうえで万物の霊長を自認する人間が寄生生物誕生を望んだと意味づけしたことで、よりテーマが明確になったと思う。題名である“寄生獣”とは、地球という惑星に寄生した人間のことなのだから……。と言いつつも、新一はやはり人間の側(というよりも親しい人の側)に立たざると得ないということも。

『寄生獣 完結編』 染谷将太と橋本愛のラブシーンは無理やりねじ込んだ感も……。

◆エンターテインメント作品として
 前作の娯楽性に比べ、本作『寄生獣 完結編』は上記のようなテーマ性に重きを置いているようにも感じられる。たとえば後藤対SATや、三木対ヤクザなど原作でも特に血生臭い場面はまるごとカットされている。これは多分にレイティングの問題によるのだろう。『寄生獣』二部作はPG-12指定となっていて、私が『完結編』を観た劇場でも少年たちのグループが結構いた。そういう観客のもとでは、後藤が人間たちを散らかしたり、三木(ピエール瀧)が訓練と称してヤクザ狩りをする場面は無理だったということだろう。
 とはいえ、この作品はお子様向けのものではなく、寄生生物たちが人間を捕食するグロいシーンもあるし、新一(染谷将太)と村野里美のラブシーンも意外にもきわどい部分があった。里美を演じた橋本愛がこの作品でそこまでやるとは予想外だったのでちょっと驚いた。そんなわけで果敢に攻め込んでいる部分もあるのだけれど、レイティングの問題で描ききれない部分もあって、前作ほどの盛り上がりには欠けたかもしれない。
 前作は東出昌大の暴走や母親(余貴美子)との対決を中心にアクションが盛りだくさんだったわけだけれど、本作では新一とミギーが闘うのは後藤と三木だけだし、この部分のおもしろさはアクションというよりも、『遊星からの物体X』的なVFXの部分だった。三木の頭に足が生えたり、後藤が分裂して妙な姿に変形していくあたりは『遊星からの物体X』だったわけで、それはそれで楽しめたのだけれど……。
 だから最後の浦上(新井浩文)のエピソードがとってつけたみたいな印象になってしまっても、それを残しておいたのは、あのアクションシーンをやりたかったんじゃないかとも思えた。(*2)新一が浦上をなぎ倒し、次の瞬間にビルから落ちてゆく里美を間一髪で救い出すというものだ。この部分のスローモーションは安易に決定的瞬間を引き延ばすだけになっておらず、次のアクションへとつないでいて見応えがあった。

(*1) 一方で人間はどんな指令も受けておらず、「なぜ生まれてきたのか?」なども悩んだりもするわけだが……。

(*2) 人間の間引きのために寄生生物が必要だったとするならば、同様に快楽殺人者・浦上の存在も必要とされることになる。寄生生物と人間との中間に位置する新一に浦上が聞きたかったのは、そんな浦上の存在を肯定するような新一の言葉だったのだろう。


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Date: 2015.05.10 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (5)

『さよなら歌舞伎町』 いろいろな人生が通り過ぎた場所

 監督はピンク映画でデビューした『ヴァイブレーター』『軽蔑』などの廣木隆一
 脚本は『赫い髪の女』など、日活ロマンポルノの脚本を多く執筆している荒井晴彦(最近では『共喰い』『海を感じる時』)。

 題名が『さよなら歌舞伎町』となっているのは、歌舞伎町がまさに再開発の時期にあるからだ。歌舞伎町の中心とも言える場所にあった新宿ミラノ座は、日本一の座席数を誇る映画館だったが、昨年末に閉館した。(*1)広場を挟んだ対面にあった新宿コマ劇場(新宿コマ東宝も)もすでになく、跡地にはTOHOシネマズ新宿が入ったビルが出来るようだ(ゴジラの顔がランドマークとなる予定とか)。
 そんなわけで歌舞伎町は多分これまでと一変するだろう。ちょっと前までのいかがわしくて猥雑な空間はもしかすると消えてしまうかもしれないわけで、そんな姿を残しておきたいという想いの感じられる映画だ。
 新大久保のコリアン・タウンから主人公が自転車に乗って歌舞伎町へと抜けると、映画の舞台となる実在するホテル・アトラスがあるラブホテル街が登場する。最後には新宿を離れるバスに乗った主人公からの新宿の風景も捉えられている。バッティング・センターや花園神社など歌舞伎町らしい場所もあちこち登場する。歌舞伎町を中心にした今の新宿の街が主役とも言えるのだ。新大久保でのヘイトスピーチとか、震災後の福島といった時事ネタが盛り込まれているのは、変わりつつある歌舞伎町の今を意識させるためなんだろうと思う。

『さよなら歌舞伎町』 主役のふたり染谷将太と前田敦子。ふたりは自転車で歌舞伎町方面へと向かう。

 ラブホテルを舞台としたグランドホテル方式の映画である。
 そうした映画の元祖である『グランド・ホテル』のように普通のホテルならば、様々な人が集う場所として客同士の交流なんかも生じたりするわけだけれど、『さよなら歌舞伎町』の場合はラブホテルだから事情がちょっと違う。そこを訪れるカップルはいそいそと情事のためにそれぞれの部屋と向かうわけで、この映画では狂言回しのラブホテルの店長(染谷将太)がそれらをゆるく結びつける役目を果たす。
 その日は店長にとって盛りだくさんな一日だった。フロアごと貸し切って行われたAVの撮影には、店長の妹(樋井明日香)が女優として参加していたり、ミュージシャン志望の彼女・沙耶(前田敦子)はメジャーデビューをちらつかせたプロデューサーとそのホテルにやってきて店長と鉢合わせをする。また従業員の女(南果歩)は実は指名手配犯を匿っていて(オウムの事件を思わせる)、たまたまやってきた刑事カップルと騒動を起こす。顔見知りのデリヘル嬢ヘナ(イ・ウンウ)は今日を最後の仕事に韓国へと帰るらしいし、家出少女は男に置き去りにされて店長は料金を取り損ねるかもしれない。

『さよなら歌舞伎町』 デリヘル嬢のイ・ウンウ。客からも愛されてプレンゼントを受け取る。

 群像劇がおもしろいのは、端的に言えば「人生いろいろ」を示せるからだろうか。たとえば韓国人カップルの話などはもっと膨らませて1本の映画にすることもできるかもしれない。ただそれでは1組のカップルだけの例にすぎないわけで、人生のある一面しか見えない。(*2)ほかのカップルが加わることで、言わば効率的に多くの人生のサンプルに触れることができる。
 韓国から来日し貯金のためにデリヘル嬢をしているヘナは、穢れてしまった自分のことを彼氏に謝ることになる。これはこれで殊勝な態度だが、そんな人ばかりではないわけで、この映画には別のあり方も描かれている。プロデューサーと寝ることでデビューを勝ち取った沙耶は、「枕営業なんだから仕方ないじゃない」と彼氏である店長に開き直ってみせるのだ。
 身体を売った点では同じでも、その捉え方は違うし、それぞれの背負う事情も違う。もしかすると後々の沙耶は今のヘナみたいな心境になるのかもしれないけれど、今はまだそうではない。それぞれの人生は相対化されることにはなるけれど、多くのサンプルが登場することで偏ったものにはならないという点はいいところだと思う。この映画ではどの人生にも暖かい眼差しが注がれているようで、「人生いろいろ」のそれぞれが肯定され、ちょっとだけ暖かい気持ちになる。

 多くの登場人物のなかでもっとも印象に残るのがイ・ウンウ(『メビウス』のときの表記はイ・ウヌだった)。『メビウス』でも一人で二役に化けてみせたのだが、この映画でも別人のように見える。たどたどしい日本語もかわいらしいし、脱ぎっぷりもよくデリヘル嬢のサービスをやってみせる(とはいえ一番エロいのは女刑事役の河井青葉)。それでもイ・ウンウの一番の見せ場は、デリヘル嬢としての最後の客となった彼氏(アン・チョンス)とのバスルームでのシーンだろう。極端な長回しでじっくりとヘナの後悔と謝罪を描いていく難所をうまく演じていたと思う。
 逆にほかのエピソードとも関わりがなくて、やや浮いていたようにも見えて残念だったのは、チキン・ナゲットが大好きな家出少女の話。我妻三輪子『こっぱみじん』『恋に至る病』)と忍成修吾(記憶にあるところでは『リリイ・シュシュのすべて』)の組み合わせはよかったのだけれど……。昨今の騒動もあって、チキン・ナゲットを積極的に食べたいという人はあまりいないんじゃないだろうか。そんな意味ではちょっと時期が悪かったかもしれない。

(*1) 最後に新宿ミラノ座で観たのは『ローン・サバイバー』だったろうか。最近は新宿ならほかのシネコンに行くことのほうが多かったので久しぶりだったのだが、カップルシートみたいな席があってびっくり。色々と差別化を図っていたのだろうが、やはりちょっと残念な気もする。あんなデカイ劇場は貴重だったと思うのだが……。

(*2) たとえばこの映画と同じ荒井晴彦脚本の『海を感じる時』でも、一組のカップルの行く末を追って行くわけだけれど、偏った特殊なふたりとしか見えない部分もあって、それにノレなければどうしようもない。

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Date: 2015.01.31 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (1)

あの傑作漫画の映画化 『寄生獣』 母なる大地と母性と

 あの傑作漫画『寄生獣』の映画化作品。
 監督は『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『永遠の0』などで、そのVFXには定評のある山崎貴
 公開は11月29日から。今回は試写会にて鑑賞。
 作品名だけで観に行ったもので、詳細は知らなかったのだが、主催者からの上映前の説明でこの作品に続きがあることが知らされると、会場はちょっとざわついた。題名には“前編”とも“PartⅠ”とも謳っていないから、私以外にもこの作品が全2部作だと知らない人もいたようだ。今回は招待客だからまだいいのかもしれないが、知らずに劇場に観に行った客のなかには騙されたと感じる人もいるかもしれない。
 ちなみに完結編は来年4月に公開予定とのこと。

山崎貴 『寄生獣』 主役の泉新一には染谷将太。

 このブログでは漫画は一度しか取り上げていないのだが、その唯一の回には『寄生獣』の岩明均作品を扱っている。私自身は最近では漫画を頻繁に読むほうではない。それでも『寄生獣』は手元にあって何度も読み返している。そのくらい有名な漫画だし、クオリティの高い漫画だとも思う。『T2』の新型ターミネーターには『寄生獣』のアイディアが入っているという話もあるくらいだし、インパクトのある漫画であることは誰もが認めるだろう。
 今回の試写会の客層は、漫画を積極的に読んでいる層とは見えなかったのだけれど、あっけに取られるパラサイトの登場シーンや、ミギーと新一との滑稽なやりとりにも会場の反応はよかったし、漫画を知らない観客にもアピールする作品だったと思う。逆に漫画に愛着がある人ほど、漫画と違うところを発見して批判的なことをあげつらうことになるだろうが、これは人気漫画ほどそうなる傾向があるから仕方ないのかもしれない。
 題材としては、人間に寄生する生物(パラサイト)が人を乗っ取り、そのうえ餌として人を捕獲するというもののため、漫画では血生臭い場面が頻出する。しかし映画版ではそれほどグロい場面はなかった。撮影監督の阿藤正一中島哲也作品を撮っている人で、この『寄生獣』もどこか『告白』の教室の場面のようだ。画面が全体的に暗い印象で、彩度を抑えているように見える。これは血の色が鮮烈すぎないようにして、幅広い観客に受け入れやすいものにしているのかも。もしかするとミギー(声は阿部サダヲ)のノリが軽いのもそうした配慮かもしれない(批判のあるところだと思うが)。

 ※ 以下、ちょっとネタバレもあり。

『寄生獣』 パラサイトが変形する場面。

 映画独自の解釈としては、“母性”というものが大きく取り上げられている。新一(染谷将太)は母子家庭という設定になっているし、途中でパラサイトに寄生された新一の母親(余貴美子)は、新一を守るためにパラサイトの支配に抵抗しさえする。頭を切断されたはずの母親の何がそうさせたかと言えば、やはり“母性”ということになるのだろう。
 また、田宮良子(深津絵里)の役割が漫画以上に大きくなっているように感じられる。たとえば冒頭のナレーションは田宮良子の声で語られ、それは最後にも繰り返されることになるわけで、語り手が田宮良子だと思えなくもないという構造になっている。
 新一が右手をパラサイトに寄生されているのに対し、田宮良子は自分の支配している身体に別の生命(赤ん坊)を宿しているわけで、人間に寄生されているパラサイトと言えるかもしれない。新一が次第にミギーと交じり合って野生的な存在になっていくのに対し、田宮良子がどんなふうに変化していくのかというのも完結編の見どころだろう。

 パラサイトのキャラとしては、東出昌大の“笑顔”という仮面を貼り付けたような表情は、かえって不気味さを醸し出して特出していた。漫画で言えば三木というキャラがそんな笑顔だったのだが、三木は完結編でピエール瀧が演じるらしい。
 それからパラサイトたちの会合場面では、パラサイトたちがあさっての方を向きながら会話しているというのが奇妙でおもしろい。人間ならば多少は目を見て話すというのが礼儀だが、パラサイトにとっては意思の疎通ができれば問題ないわけで、会合の目的は達している。漫画にもそんな1コマはあったけれど、映像として観るとよりパラサイトと人間との感覚の違いが表れていたと思う。
 最後は大物の風格を漂わせた浅野忠信が登場し、次への期待を膨らませたところで終わる。この先がどうなるのか気になるところだし、ともかくも完結編が楽しみである。

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Date: 2014.11.27 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (4)
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