『鈴木家の嘘』 重苦しい出来事を笑いに包んで
『まほろ駅前』シリーズや『舟を編む』などの助監督だった野尻克己の監督デビュー作。
脚本も野尻監督のオリジナル。

引きこもりの息子・浩一(加瀬亮)が首を吊って自死し、それを発見した母親(原日出子)も後追い自殺を図る。妹・富美(木竜麻生)がふたりを発見し、母親だけは命を救われることに……。
こんな鈴木家において嘘が必要だったのは、母親のことを守るため。母親は意識を取り戻したものの、逆行性健忘によって浩一が自殺した日のことをすっかり忘れている。再び浩一の死に直面することになれば大変なことになると考えた鈴木家の面々は、浩一は叔父(大森南朋)の仕事を手伝うためにアルゼンチンに行ったと嘘をつくことになる。

『鈴木家の嘘』はかなり重苦しい題材を扱っている。しかも兄の自死は野尻監督の実体験に基づいたものだという。人に言うことすら憚られるくらいの出来事だけに、本作では実体験をフィクションという嘘でコーティングして観客がすんなりと物語に入れるように配慮されている。
これは母親を息子の自死という衝撃から守るための嘘と同じで、苦々しい出来事を観客に何とか飲み込んでもらうための糖衣みたいなものだろう。実際、この作品はコメディであり、とっさの嘘を取り繕うために必死になる家族たちの姿がちょっと微笑ましいのだ。
一方で、フィクション=嘘でコーティングされた作品のなかにも、監督自身や自死遺族たちの本音らしきものが染み出して迫ってくる場面もある。多分、妹・富美の長台詞に託された感情が野尻克己監督自身の一番の本音なのだろう。家族を喪って悲しいというだけではなく、長年引きこもった末に自殺した兄・浩一のことを恥ずかしく思ってしまう気持ち。これを吐露するのは勇気がいることだろうと思う。
自殺した者は家族に様々な傷跡を残す。浩一が自殺したことで、家族は浩一に対する自分の態度や行動を反省せざるを得ず、それぞれが自責の念に駆られることになる。このあたりにも監督の実体験が反映されていると思われ、自死遺族のリアルな感覚が表れていて力作であることは間違いない。
とはいえ鈴木家の嘘が次第に綻びを増していき最後までそれを貫き通すことはできなかったように、作品の衝撃を和らげるためのフィクション=嘘も、それ自体に綻びが出てきて急に白々しくなってしまう部分もあったようにも感じられた。
浩一がソープ嬢に死亡保険金を残しているというエピソードはそうした嘘のひとつなんじゃないだろうか。このエピソードは岸部一徳演じる父親がソープ嬢をストーカーするというなかなか笑える内容になっているのだけれど、嘘だけにうまく着地点を見つけられなかったようにも見えた。やはり嘘をつくのは難しいという教訓ではないとは思うけれど……。


脚本も野尻監督のオリジナル。

引きこもりの息子・浩一(加瀬亮)が首を吊って自死し、それを発見した母親(原日出子)も後追い自殺を図る。妹・富美(木竜麻生)がふたりを発見し、母親だけは命を救われることに……。
こんな鈴木家において嘘が必要だったのは、母親のことを守るため。母親は意識を取り戻したものの、逆行性健忘によって浩一が自殺した日のことをすっかり忘れている。再び浩一の死に直面することになれば大変なことになると考えた鈴木家の面々は、浩一は叔父(大森南朋)の仕事を手伝うためにアルゼンチンに行ったと嘘をつくことになる。

『鈴木家の嘘』はかなり重苦しい題材を扱っている。しかも兄の自死は野尻監督の実体験に基づいたものだという。人に言うことすら憚られるくらいの出来事だけに、本作では実体験をフィクションという嘘でコーティングして観客がすんなりと物語に入れるように配慮されている。
これは母親を息子の自死という衝撃から守るための嘘と同じで、苦々しい出来事を観客に何とか飲み込んでもらうための糖衣みたいなものだろう。実際、この作品はコメディであり、とっさの嘘を取り繕うために必死になる家族たちの姿がちょっと微笑ましいのだ。
一方で、フィクション=嘘でコーティングされた作品のなかにも、監督自身や自死遺族たちの本音らしきものが染み出して迫ってくる場面もある。多分、妹・富美の長台詞に託された感情が野尻克己監督自身の一番の本音なのだろう。家族を喪って悲しいというだけではなく、長年引きこもった末に自殺した兄・浩一のことを恥ずかしく思ってしまう気持ち。これを吐露するのは勇気がいることだろうと思う。
自殺した者は家族に様々な傷跡を残す。浩一が自殺したことで、家族は浩一に対する自分の態度や行動を反省せざるを得ず、それぞれが自責の念に駆られることになる。このあたりにも監督の実体験が反映されていると思われ、自死遺族のリアルな感覚が表れていて力作であることは間違いない。
とはいえ鈴木家の嘘が次第に綻びを増していき最後までそれを貫き通すことはできなかったように、作品の衝撃を和らげるためのフィクション=嘘も、それ自体に綻びが出てきて急に白々しくなってしまう部分もあったようにも感じられた。
浩一がソープ嬢に死亡保険金を残しているというエピソードはそうした嘘のひとつなんじゃないだろうか。このエピソードは岸部一徳演じる父親がソープ嬢をストーカーするというなかなか笑える内容になっているのだけれど、嘘だけにうまく着地点を見つけられなかったようにも見えた。やはり嘘をつくのは難しいという教訓ではないとは思うけれど……。
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