『さよなら歌舞伎町』 いろいろな人生が通り過ぎた場所

 監督はピンク映画でデビューした『ヴァイブレーター』『軽蔑』などの廣木隆一
 脚本は『赫い髪の女』など、日活ロマンポルノの脚本を多く執筆している荒井晴彦(最近では『共喰い』『海を感じる時』)。

 題名が『さよなら歌舞伎町』となっているのは、歌舞伎町がまさに再開発の時期にあるからだ。歌舞伎町の中心とも言える場所にあった新宿ミラノ座は、日本一の座席数を誇る映画館だったが、昨年末に閉館した。(*1)広場を挟んだ対面にあった新宿コマ劇場(新宿コマ東宝も)もすでになく、跡地にはTOHOシネマズ新宿が入ったビルが出来るようだ(ゴジラの顔がランドマークとなる予定とか)。
 そんなわけで歌舞伎町は多分これまでと一変するだろう。ちょっと前までのいかがわしくて猥雑な空間はもしかすると消えてしまうかもしれないわけで、そんな姿を残しておきたいという想いの感じられる映画だ。
 新大久保のコリアン・タウンから主人公が自転車に乗って歌舞伎町へと抜けると、映画の舞台となる実在するホテル・アトラスがあるラブホテル街が登場する。最後には新宿を離れるバスに乗った主人公からの新宿の風景も捉えられている。バッティング・センターや花園神社など歌舞伎町らしい場所もあちこち登場する。歌舞伎町を中心にした今の新宿の街が主役とも言えるのだ。新大久保でのヘイトスピーチとか、震災後の福島といった時事ネタが盛り込まれているのは、変わりつつある歌舞伎町の今を意識させるためなんだろうと思う。

『さよなら歌舞伎町』 主役のふたり染谷将太と前田敦子。ふたりは自転車で歌舞伎町方面へと向かう。

 ラブホテルを舞台としたグランドホテル方式の映画である。
 そうした映画の元祖である『グランド・ホテル』のように普通のホテルならば、様々な人が集う場所として客同士の交流なんかも生じたりするわけだけれど、『さよなら歌舞伎町』の場合はラブホテルだから事情がちょっと違う。そこを訪れるカップルはいそいそと情事のためにそれぞれの部屋と向かうわけで、この映画では狂言回しのラブホテルの店長(染谷将太)がそれらをゆるく結びつける役目を果たす。
 その日は店長にとって盛りだくさんな一日だった。フロアごと貸し切って行われたAVの撮影には、店長の妹(樋井明日香)が女優として参加していたり、ミュージシャン志望の彼女・沙耶(前田敦子)はメジャーデビューをちらつかせたプロデューサーとそのホテルにやってきて店長と鉢合わせをする。また従業員の女(南果歩)は実は指名手配犯を匿っていて(オウムの事件を思わせる)、たまたまやってきた刑事カップルと騒動を起こす。顔見知りのデリヘル嬢ヘナ(イ・ウンウ)は今日を最後の仕事に韓国へと帰るらしいし、家出少女は男に置き去りにされて店長は料金を取り損ねるかもしれない。

『さよなら歌舞伎町』 デリヘル嬢のイ・ウンウ。客からも愛されてプレンゼントを受け取る。

 群像劇がおもしろいのは、端的に言えば「人生いろいろ」を示せるからだろうか。たとえば韓国人カップルの話などはもっと膨らませて1本の映画にすることもできるかもしれない。ただそれでは1組のカップルだけの例にすぎないわけで、人生のある一面しか見えない。(*2)ほかのカップルが加わることで、言わば効率的に多くの人生のサンプルに触れることができる。
 韓国から来日し貯金のためにデリヘル嬢をしているヘナは、穢れてしまった自分のことを彼氏に謝ることになる。これはこれで殊勝な態度だが、そんな人ばかりではないわけで、この映画には別のあり方も描かれている。プロデューサーと寝ることでデビューを勝ち取った沙耶は、「枕営業なんだから仕方ないじゃない」と彼氏である店長に開き直ってみせるのだ。
 身体を売った点では同じでも、その捉え方は違うし、それぞれの背負う事情も違う。もしかすると後々の沙耶は今のヘナみたいな心境になるのかもしれないけれど、今はまだそうではない。それぞれの人生は相対化されることにはなるけれど、多くのサンプルが登場することで偏ったものにはならないという点はいいところだと思う。この映画ではどの人生にも暖かい眼差しが注がれているようで、「人生いろいろ」のそれぞれが肯定され、ちょっとだけ暖かい気持ちになる。

 多くの登場人物のなかでもっとも印象に残るのがイ・ウンウ(『メビウス』のときの表記はイ・ウヌだった)。『メビウス』でも一人で二役に化けてみせたのだが、この映画でも別人のように見える。たどたどしい日本語もかわいらしいし、脱ぎっぷりもよくデリヘル嬢のサービスをやってみせる(とはいえ一番エロいのは女刑事役の河井青葉)。それでもイ・ウンウの一番の見せ場は、デリヘル嬢としての最後の客となった彼氏(アン・チョンス)とのバスルームでのシーンだろう。極端な長回しでじっくりとヘナの後悔と謝罪を描いていく難所をうまく演じていたと思う。
 逆にほかのエピソードとも関わりがなくて、やや浮いていたようにも見えて残念だったのは、チキン・ナゲットが大好きな家出少女の話。我妻三輪子『こっぱみじん』『恋に至る病』)と忍成修吾(記憶にあるところでは『リリイ・シュシュのすべて』)の組み合わせはよかったのだけれど……。昨今の騒動もあって、チキン・ナゲットを積極的に食べたいという人はあまりいないんじゃないだろうか。そんな意味ではちょっと時期が悪かったかもしれない。

(*1) 最後に新宿ミラノ座で観たのは『ローン・サバイバー』だったろうか。最近は新宿ならほかのシネコンに行くことのほうが多かったので久しぶりだったのだが、カップルシートみたいな席があってびっくり。色々と差別化を図っていたのだろうが、やはりちょっと残念な気もする。あんなデカイ劇場は貴重だったと思うのだが……。

(*2) たとえばこの映画と同じ荒井晴彦脚本の『海を感じる時』でも、一組のカップルの行く末を追って行くわけだけれど、偏った特殊なふたりとしか見えない部分もあって、それにノレなければどうしようもない。

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Date: 2015.01.31 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (1)

『こっぱみじん』  木っ端微塵になっても、まだ大丈夫

 監督はピンク映画出身の田尻裕司
 出演は我妻三輪子、中村無何有、小林竜樹、今村美乃など。

『こっぱみじん』  主演の我妻三輪子。

 “こっぱみじん”なんて言葉は駄洒落くらいでしか聞かないだろうけれど、なぜ木っ端微塵になってしまうのかと言えば、この映画では人を好きになってもその想いが成就することがないから。なぜ成就しないのかと言えば、自分が勝手に好きになったとしても、好きになった相手が自分のほうを向いてくれることは滅多にないことだからだ。
 ヒロインの楓は一応彼氏も出来たのだけれど、実は幼なじみの拓也のことが気になっている。しかし拓也は実はゲイであり、彼の想い人は楓の兄貴なのだ。その兄貴は彼女の有希と生活しているが、有希には別の男がいて、その男の子供を妊娠している。4人はそんな関係にある。
 楓の好きになったのは、たまたま同性愛者だったからその想いは叶わない。その拓也の想い人である兄貴は有希とのトラブルで精一杯で、有希は二股を反省してひとりで子供を産むことを決心する。楓も実は彼氏の想いを袖にしているわけで、誰の想いもこっぱみじんになる……。

『こっぱみじん』 拓也は有希に対して怒りをあらわに……。楓は拓也の想いを知ることになる。

 舞台は小高い山が周わりを囲み、川が流れ、寂れた商店街と小さな美容室といった風景。あまりにありふれた風景で何の特徴もないと思うのは、私自身が似たような土地の出身だからなのかもしれないが、とにかく退屈そうな場所なのだ(自分もそう感じていたから言うのだけれど)。そんな普通の場所で、ごく普通の男女の、ごく普通の人間模様が描かれる。
 一応ゲイの登場人物が出てくるけれど、拓也がほかの登場人物たちと比べて特に変った存在というわけではない。拓也はゲイだから兄貴に気持ち悪がられるのを恐れていたわけだが、兄貴も自らの状況(同棲している有希がほかの男の子供を妊娠していたということ)のカッコ悪さを挙げて、ゲイという存在が特別にカッコ悪いわけじゃないと慰める。もちろんそれで拓也の想いが成就するわけではないのだけれど、大切な友達としては変らないのだ。

 登場人物たちはみんなそれなりにいい人で、「好きという気持ちを伝えられただけでも満足」という謙虚さは、ストーカーなんて存在とは対極にある。そのつつましさはとても好ましい。
 音楽でごまかすことも、奇を衒った演出もなく、坦々と人間模様を綴っていく。それでも退屈することはないのだけれど、ゲイの拓也が激高するあたりのトラブルを描くとなるとちょっと空々しい感じもした(若手の俳優陣は頑張っていると思うが)。日常のなかに突然生じる特別な出来事を描くには、やはり何らかの演出の工夫があってもよかったとも思える。冒頭の子供の頃のエピソードが、音声だけで処理されるという工夫がされていたように……。ああいう場面にリアリティを持たせるのは余程の演者でなければ難しいのだから。

 主演の我妻三輪子はPFFスカラシップ作品の『恋に至る病』で主役を演じていた子。この映画ではいわゆる“おこげ”とか言われる立場で(たしかそんな題名の映画もあったが)、色恋のトラブルからも離れた位置にあるのだけれど、穏やかなラストにはちょっと心温まる気がした。表情がくるくると変るような我妻三輪子はやっぱりかわいらしい。

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Date: 2014.08.06 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『恋に至る病』とは何か? PFFスカラシップ作品

 木村承子監督・脚本。我妻三輪子、斉藤陽一郎、佐津川愛美、染谷将太出演。
 今「ぴあ」という名前がどんな影響力があるのかは知らないが、ネットが普及する前まで、雑誌『Weekly ぴあ』は一部の映画ファンにとっては必需品であった。「ぴあ」がその時映画館で観ることのできる作品の最新のガイドだったから。そして、PFF(ぴあフィルム・フェスティバル)は、ぴあの主催する自主制作映画の登竜門であり、映画サークルなどではひとつの高い目標として存在していたはず。園子温、橋口亮輔や矢口史靖など多くの映画監督を生んだのもPFFだ。この作品もPFFスカラシップ作品として製作されたものだ。去年劇場公開され、今月DVDがリリースされた。

『恋に至る病』 主役のツブラを演じるのは、かわいらしい我妻三輪子

 物語は、生物学教師のマドカと彼に首ったけの女子高生ツブラが性行為に及ぶと、互いの性器が入れ替わるという奇想天外な設定から始まる。
 大林宣彦の『転校生』なんかを思わせなくもないが、実はこれと同じ設定はグレッグ・イーガンのSF短編「祈りの海」にもある。イーガンの小説の場合は、別世界の性のあり方を描いたものだが、この映画ではツブラの妄想(の現実化)としてこの設定がある。「誰かが欲しい」ツブラが、対人恐怖症みたいで「誰もいらない」教師との関係で、不足を補い合うのだ。そして互いの恥ずかしい部分を交換し合うことで、ふたりは離れられない間柄になる。

 ツブラのキャラクターは、演じる我妻三輪子のすべて丸で描いたような容貌もあってマンガみたいだ。ツブラは誰にも覚えてもらえないからといって、永遠に腐りたくないために物を食べないという“不思議ちゃん”なのだ。“不思議ちゃん”の定義はともかく、昆虫好きのいじめられっ子みたいな教師マドカを好きになる時点でちょっと変わった女の子であることは確かだ。
 そんなツブラが理科準備室みたいな場所でなかば強引に性交渉を済ませ、ふたりの身体に異変が起きるまではあっという間。(*1)それらがコメディタッチな軽さで綴られて、忘れたころになってタイトルが登場する。ふたりは田舎へと逃亡するが、それまでのハチャメチャな展開と違って、そこからは意外と自主制作映画にありそうなテーマに落ち着いてしまった印象もある。

『恋に至る病』 エン(佐津川愛美)はツブラに想いを寄せる自分に戸惑う

 冒頭の教室シーンは、『恋に至る病』の人間関係をさらりと見せている。マル(染谷)の視線の先にいるのがエン(佐津川)で、エンが見つめるのがツブラ(我妻)、そしてツブラが一途に想いを寄せるマドカ(斉藤)が教壇にいるが、マドカは挙動不審で誰も見ようとしない。(*2)
 この映画の題名はツブラの病を指している。ツブラは恋に落ちるのではなく、寂しさを埋めるために恋をするに至る。病はほかの登場人物にもある。教師マドカは経験による学習からか欲望を切り下げ、かつて好きだったことさえ思い出せない。欲しいと思わなければ傷つくこともないからだ。エンは異性には不自由していないが、もう恋やセックスにドキドキしなくなり、退屈で仕方がない。本気になったと思うと相手は同性で自分でも戸惑っている。マルはこのなかではまともとは言えるけれど、やりたい盛りの童貞として健全な悩みに苦しんでいる。
 冒頭で魅力的な設定を用意したにも関わらず、それを忘れたかのような話になっていくのだ。結局のところ、行き着くのは田舎での4人の修学旅行みたいなものに留まっている。性器交換の顛末も曖昧だし、ラストにカタルシスがあるわけでもなく、ごく普通の日常が戻ってくるだけだ。でも若い監督である木村の意図したのは、そんなぐずぐずした若者の悩みのほうなのかもしれないとも思う。そんなものはすっきり片付くようなものではないのだから。
 緑豊かな田舎の夏休みの風景は、観ていても気持ちがいい。室内のシーンでもうまく外光を取り入れ(雪見障子の向こうから明かりが差してみたり)、いい画面をつくっているように思えた。撮影は『その夜の侍』では汗だくの暑い夏を撮った月永雄太

(*1) このシーンはあくまでかわいらしく、ツブラが描いた下手なマンガも加えて描かれる。
 木村監督はマンガも描けるようで、DVD特典にはツブラの絵とは異なり妙に完成度が高いマンガが付いている。

(*2) 登場人物は皆、「ツブら」「マドカ」のように、「円」に関係する名前になっている。


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Date: 2013.07.10 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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