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『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 東出宇宙人大活躍の巻

 『散歩する侵略者』のスピンオフドラマの劇場版。
 WOWOWにおいて全5話で放映されたものを140分にまとめたもの。

黒沢清 『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 主役の三人。東出の役は『散歩する侵略者』のときとは別のもののようだ。

 『散歩する侵略者』と設定は同じで、ほぼ同じころに別の場所で起きていたことを描いていく。主人公の山際悦子(夏帆)の周囲の人物が普段と何かしら違うように感じられるという描写から始まる。夫の辰雄(染谷将太)はベランダから遠くの空を見てぼんやりしているし、同僚のみゆき(岸井ゆきの)は家に幽霊みたいなものがいると助けを求めてくる。
 『散歩する侵略者』を観ている人ならば、彼(女)らは宇宙人に乗っ取られたのか、あるいは何かしらの“概念”を奪い取られてしまって腑抜けになったのだろうと推測することになる。なぜか勘の鋭い悦子は、そうした不穏な予兆を感じ取り怯えることになる。

 ※以下、ネタバレもあり!


『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 真壁(東出昌大)は悦子(夏帆)から“概念”を奪おうとするのだが……。

 夫の辰雄が何かしら怪しいように感じられたのは、実は彼は宇宙人のガイドであり、職場の医師・真壁(東出昌大)により支配されているからだ。辰雄は真壁に右手に苦痛を埋め込まれ、それによりガイドとなることを強要されている。辰雄は真壁が概念を奪うターゲットを選別する役割を担うことになり、辰雄が気に入らない人間から順に真壁の餌食となる。この状況を利用すれば神のように振舞うことすらできるかもしれないのだが、辰雄は人間ではなく宇宙人の側に味方することに耐えられなくなっていく。
 『散歩する侵略者』ではガイドの桜井(長谷川博己)がなぜか宇宙人と友情を育んでしまうことになっていたが、『予兆』の辰雄のほうがより一般的な態度なんじゃないかとも思う。桜井は一匹狼的存在だったから例外であり、人間としてはこっそり敵側のスパイとなるような状況は耐え難いからだ。

 もともと観客を劇場へと走らせるための壮大な予告編という意味合いもある『予兆 散歩する侵略者』だけに、『散歩する侵略者』と並べると目新しい感じもないのだけれど、『予兆』には最強の宇宙人たる東出昌大がいるところが見どころだろうか。
 東出の無表情は傍若無人な振舞いもよく似合うし、死の概念を知ってなぜか無邪気に喜んでみたりするところも妙におかしい。黒沢監督も東出宇宙人が気に入ったのか、真壁はほかの宇宙人にはないほどのしぶとさがあり、いつまでも悦子たちを苦しめることになる。悦子を演じる夏帆が激しくふっ飛んでいったときには、「東出、やり過ぎ!」とスクリーンにツッコミを入れたくなった。
 概念を奪うときの光の演出とか、風に揺れるカーテンなど、黒沢清らしさが十分に楽しめる作品になっている。冒頭に登場する山際夫妻のベランダのつくりもおもしろいし、いつものように廃墟も登場する。夏帆が銃を構えつつゆっくりとそこを移動していくのは、廃墟をたっぷり見せたいがためのものとすら感じられた。

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Date: 2017.11.14 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

是枝裕和の最新作 『海街diary』 「皆まで言うな」という感覚

 原作は吉田秋生の同名漫画(連載は現在も不定期に続いているらしい)。
 監督は『そして父になる』などの是枝裕和

是枝裕和 『海街diary』 幸はすずに鎌倉の家で一緒に暮らすことを提案する。


 鎌倉の古い一軒家に住む三姉妹に父の訃報が届く。父は15年前に離婚して家を出ていたのだ。葬式で初めて顔を合わせたのが、母親が異なる歳の離れた妹・すず。血のつながった父と母を亡くしたすずは、姉たちのいる鎌倉にやってくることになる。

 四人の美人姉妹が織り成す四季折々の生活はそれだけで絵になる。すず(広瀬すず)を呼び寄せたのは長女の幸(綾瀬はるか)だし、初めて四人が並んだときも中心は幸とすずになっていて、物語の中心にはこのふたりがいる。
 原作漫画をネットで試し読みすると、幸と異母妹のすずはその風貌からしてよく似ているし、どこか境遇も似ている。ちなみに姉妹を結び付けている父親は、次女・佳乃(長澤まさみ)と三女・千佳(夏帆)によれば「やさしい人」なのだが、長女の幸からすると「やさしくて、ダメな人」
 幸はそんな父が家を出た後、それをきっかけに姉妹を捨てて出奔した、これまたダメな母を目の当たりにして、妹たちのために母親役をやらざるを得なかった。そのため人当たりがきつい部分もある。片や、すずも父親の不倫の末にできた子供という厄介な身の上で、さらにすずを産んだ母親も亡くなり、新しい母親との生活を余儀なくされていたわけで、まだ幼いわりにしっかり者だ。
 幸たちからすれば、すずは家庭を壊した女の娘でもある。いくら血がつながってはいても「犬や猫じゃないんだから」という大叔母(樹木希林)の心配もわからないでもない。ただそんな厄介事を抱えていても、この家ではそれほど事態が深刻になることもないようだ。ムードメーカーといった感じの佳乃や、マイペースな千佳が自然と中和剤となっているからだろうか。

『海街diary』 漫画版と映画版のキャラはこんな感じ。三女だけ妙に雑な感じだが、いい味を出しているのだろうと推測する。

 雑誌「SWITCH」のインタビューでは佳乃役の長澤まさみが、この作品を評して「重い話がさらっと描かれている」と語っている。まさにその通りで、題材としては結構重い。しかし、鑑賞後はそんな重苦しさを感じさせないさわやかな印象が残る。
 原作漫画は未読だが、題名に「diary」とあるように、日記のような小さなエピソードが積み重なっていくのだろう。映画版『海街diary』も大きな主題があるというよりは、様々なエピソードが積み重なっていく。それぞれの恋の話とか、海猫食堂や山猫亭のエピソードなど、サブエピソードも重要な位置を占める。

 修羅場もある。一番の修羅場は幸たちを捨てて出て行った母親(大竹しのぶ)が顔を出す場面。幸と母親は家のことで言い争いを始めるのだが、大叔母の一言はその場を笑いに収めてしまう。次の日に再び顔を合わせた幸と母親は、気まずい雰囲気ながらもそろって墓参りに向かい、いつの間にかに仲直りをしてしまう。
 また、すずは自分の母親に対する批判として「奥さんがいる人を好きになるなんて、お母さんよくないよね」と語るのだが、それは意図せずに幸へ当て付けた形になってしまう(幸もまた妻子ある男性と付き合っているから)。ただ、そうした事態の解決は曖昧模糊としている。正面切って詫びたりするのではなく、次女の佳乃が関係ない与太話をしているうちにうやむやになっていく。ここでは「皆まで言うな」といった感覚が共有されていて、姉妹が互いを気遣っているということが伝われば丸く収まるのだろう。
 作品全体もそこはかとなく何かを匂わせる感じで、言い換えれば突っ込みが足りなくぼんやりしてもいる(個人的にはやや物足りない気もした)。その分、何気ない日常の風景が楽しく、鎌倉という場所の魅力もたっぷり詰まっている。観光地は外しているけれど、シラス丼とか海の見えるカフェなんかを見れば、一度は鎌倉に遊びに行きたくなるだろう。

 四人の女優陣は皆個性的でよかったと思う。何より浅野すずを演じた広瀬すずは、漫画のキャラそっくりだし、名前まで同じというのだからまさにぴったりの役柄(サッカーがうまいのも本当のことらしい)。そんな広瀬すずに惚れこんだのかどうかはわからないけれど、桜のトンネルの場面で彼女の表情をなめ回すように撮るところは、ほとんどアイドルのプロモーションビデオといった雰囲気すらあった。もちろん広瀬すずは掛け値なしに可愛らしいのだけれど……。

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SWITCH Vol.33 No.6 是枝裕和の20年 ”海街”へー ある家族の物語


Date: 2015.06.17 Category: 日本映画 Comments (2) Trackbacks (9)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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