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『愛しのアイリーン』 国際結婚と姥捨て山

 原作は『ザ・ワールド・イズ・マイン』などの新井英樹の同名漫画。
 監督は『犬猿』『ヒメアノ~ル』などの吉田恵輔

吉田恵輔 『愛しのアイリーン』 岩男(安田顕)はフィリピンから嫁のアイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて帰ってくる。

 新井英樹の漫画が映画化されるのは『愛しのアイリーン』が初めてとのこと(今年『宮本から君へ』がテレビドラマ化されたようだが)。それというのも新井英樹の漫画が万人向けではないというか、人の神経を逆撫でするようなものがあるからなんじゃないかという気もする。『愛しのアイリーン』もその例に漏れずアクの強い作品になっていて、テレビの地上波なんかでは絶対に放送することはないだろう。主人公が放送禁止用語を連発するからだ。
 そんな主人公の宍戸岩男(安田顕)はもう42歳。片想いの女性に対する幻想を打ち砕かれ、なかばやけくそになって嫁をフィリピンから連れてくる。その嫁・アイリーン(ナッツ・シトイ)はまだ18歳の処女。自分が金で買われたことはわかっているけれど、初体験は好きな人という夢も捨てきれてはいない。そんなアイリーンを岩男の母・ツル(木野花)はまったく認めようとはせずに……。

 どのキャラクターも強烈だけれど、特に岩男と母ツルの関係性もきわどいものがある。岩男を溺愛するツルは、岩男の夜な夜なのオナニーを覗いていて、きちんとした嫁をあてがうのに必死で策を練る。外国人の嫁など受け入れられないとばかりに、岩男をこっそり別の女性・琴美(桜まゆみ)に会わせてみたりもする。しかも琴美には睡眠薬まで盛っていて、岩男が眠った琴美に手を出して既成事実ができれば、それを理由にアイリーンを離縁しようと企んでいる。しかし、そんな企みが厄介なトラブルを招くことになる。
 監督の吉田恵輔は本作のなかの愛が、すべて片想いとなっていることをインタビューで指摘している。岩男は職場の同僚・愛子(河井青葉)に想いを寄せているし、ツルは岩男を溺愛している。日本にやってきたアイリーンはフィリピンの母親のことを想っているし、愛子は愛情ではなくてセックスを求めている。そんなふうにそれぞれの想いはすれ違っていく。

『愛しのアイリーン』 岩男の母ツルはアイリーンを受け入れずに猟銃で威嚇する。ツルを演じる木野花のテンションがすさまじかった!

 本作はとっかかりは嫁探しから始まるけれど、よくある嫁姑問題を超えて変な方向へと転がっていく。主人公・岩男が途中で退場した後は、ツルとアイリーンのふたりが残される。そして、『楢山節考』などでも描かれた「姥捨て山」が主題として浮かび上がってくる。
 かつての日本では、働けなくなった老人たちが口減らしのために山に捨てられた。そんな伝説が「姥捨て山」のお話となっている(実際にそんな事態があったのかはともかくとして)。しかし、戦後の経済成長は日本に豊かさをもたらし、様々な事情で嫁の来手がない家では女をフィリピンなどの貧困に喘いでいる国から買ってくるまでに。ただ、逆にフィリピンで起きていることは、親や家族のために娘が犠牲になるということでもある。
 終盤でアイリーンとツルの間で和解のようなものが成立するのは、そんなふうに社会の犠牲者という点での共感だったのかもしれない(片や「姥捨て山」と、片や「国際結婚」という名の人身売買)。とにかく、ふたりとも姑にいびられながら宍戸家の子供を孕んだという点では一緒なのだ。
 ラスト、雪のなかを歩いていくアイリーンのその後のことはわからないまま終わる。だからこれを悲劇と見るべきなのか、ハッピーエンドと受け取るべきなのかは曖昧とも言える。しかし、個人的には希望があるものに感じられた。
 この作品では男どもは、皆、あっさり退場していく。岩男の父親(品川徹)はボケたまま死んでしまう。アイリーンを誘拐しようとしたヤクザ者(伊勢谷友介)は岩男の逆襲に遭って退場。そして岩男自身もアイリーンへの気持ちを木に刻みつけ自滅して退場していく。
 一方で女性陣はしぶとく生き残っていく。愛子は暴力夫に苦しみつつもセックスを楽しんでいるし、岩男を諌める関西弁が印象的なマリーン(ディオンヌ・モンサント)も売春しながらも生きている。ツルは宍戸家の大黒柱として、家族に手当たり次第に喚き散らす強い姑になって生きてきた。そして、アイリーンもフィリピンに帰るという選択肢だったあったはずなのに、日本に踏みとどまって生きている。彼女たちの境遇は恵まれてはいなくとも、決してそれに負けることなく生きている。「しぶとく」というのは称賛の言葉である。

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Date: 2018.09.21 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (2)

『犬猿』 キラキラとドロドロ

 『ヒメアノ~ル』などの吉田恵輔の最新作。
 脚本も吉田恵輔の『麦子さんと』以来のオリジナル。

吉田恵輔 『犬猿』 主演の4人。窪田正孝、新井浩文、江上敬子、筧美和子。

 二組の兄弟・姉妹を主人公としたコメディというのが大雑把な要約になるのだけれど、笑わせながらもシリアスな側面も感じさせる作品となっている。一組目は、印刷会社の営業担当の金山和成(窪田正孝)と、その兄で刑務所から出たばかりの卓司(新井浩文)。もう一組は、和成の仕事相手の下請け会社の女社長・幾野由利亜(江上敬子)と、その妹で芸能活動をしている美人の真子(筧美和子)。
 タイトルは“犬猿”となっていて、「犬猿の仲」という言葉通り、この作品の兄弟・姉妹はとても仲が悪い。それは同性だけに色々と比べられたりすることが多いからなのだろう。持たざる者は持つ者に憧れつつも、嫉妬し劣等感を抱く。「兄と妹」とか、「姉と弟」といった関係だったらそれほど問題にはならないような気がする。
 もちろん持って生まれたものに差があるということもある。由利亜と真子の容姿の差は歴然としているし、頭の良さでは優劣は逆転する。粗暴な卓司がデカい一発を狙ってばかりいるのに、和成が大人しくてコツコツやるタイプなのは性格もあるのかもしれないけれど、兄の失敗から何らかを学んだ結果ということもあるのかもしれない。そんな正反対の兄弟・姉妹だからことあるごとに衝突することにもなる。
 ただ兄弟・姉妹だけに縁は切っても切れないわけで、悪口を言いつつも憎みきれない部分もある。どちらかと言えば普通に見える和成が元犯罪者の兄・卓司を罵ったり、女の武器で世の中をうまく渡って行きそうな真子が堅物の由利亜を悪く言ったりもしても、それぞれの兄・姉を他人から非難されるとなぜか擁護してやりたくもなる。そのあたりの微妙な関係を自然な会話に乗せていく脚本がとてもうまい。

『犬猿』 和成はふたりに会わせたくなかった兄・卓司と食事を共にすることになってしまう。

 冒頭に“キラキラ映画”の予告編パロディがある。“キラキラ映画”の定義は明確ではないけれど、近頃よくある女子高生など10代の若者の恋を恥ずかしげもなく描く映画のことを指すらしい。この作品の冒頭ではそんな“キラキラ映画”を皮肉っているのだ。
 吉田恵輔の作品だって見た目ではそんなふうに見えなくもない。『さんかく』とか『机のなかみ』などはそうした類いとも見えるかもしれないのだが、“キラキラ”だけでは済まさないところが異なる部分だろうか。“キラキラ”の裏側には“ドロドロ”としたものが隠されているのだ。
 『ヒメアノ~ル』でも前半のコメディから、一気に転調してダークな部分を見せたように、この『犬猿』も登場人物の光の部分と影の部分をうまい具合に配合している。「人間“キラキラ”だけじゃないよね」という部分は結構ヒリヒリさせもするけれど、あまり深刻になりすぎないのは全体的には大いに笑わせてくれる作品となっているからだろう。
 藤山直美を思わせる女芸人の江上敬子は顔芸でも笑わせるし、身体に似合わぬ切ない恋心も微笑ましく映る(新井浩文との絡みでの「ノーチェンジの卓司」には爆笑)。バカな妹役の筧美和子は、脚本が彼女にあて書きされているのか、違和感なく作品に溶け込んでいたし、エロ担当としてのサービスカットもあり。あまり演技経験のない女優陣をうまく盛り立てた窪田正孝新井浩文もやはりうまかったと思う。吉田恵輔の作品にはハズレというものがないと改めて感じさせる1本だった。

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吉田恵輔の作品
Date: 2018.02.14 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『ヒメアノ~ル』 一寸の虫にも五分の魂、それでは殺人鬼には?

 原作は『ヒミズ』などの古谷実。
 監督は『さんかく』『銀の匙 Silver Spoon』などの吉田恵輔

吉田恵輔 『ヒメアノ~ル』 岡田(濱田岳)はユカ(佐津川愛美)と仲良くなって……。何だかとても初々しい。

『ヒメアノ~ル』 安藤(ムロツヨシ)はユカにフラれてこんな髪型に(これは原作通り)。もう恋なんてしないという宣言だとか。


 特に趣味なんかもなく退屈な日々を過ごしている岡田(濱田岳)は、ビル清掃会社のパートタイマー。底辺の生活で夢も希望もないのだが、同僚の安藤(ムロツヨシ)は「日々恋をしている」と言い放つ。安藤が想いを寄せるユカ(佐津川愛美)をひと目見ようと彼女が働くカフェに行くと、そこには岡田のかつての同級生・森田正一(森田剛)がいる。安藤によると森田は最近いつもユカの様子をうかがっているのだと言う……。

 恋の相談に乗ったら相談相手がその関係に巻き込まれるというのはよくあるパターン。この映画の安藤はどう控えめに見てもモテない男だし、そのこじらせ具合はギリギリのレベルに達している。とはいえ相談を受ける岡田のほうもまったく女には縁がなく、そんな岡田にかわいらしいユカが想いを寄せることなどあり得るはずもなく、端から自分は対象外と考えていたらしい。そんなだから突然降って湧いた幸せに岡田はそれが信じられない。
 ごく普通の日常生活というよりは、安藤の特異なキャラもあってかなりドタバタコメディっぽい雰囲気。そうした日常はずっと続くこともあるのかもしれないのだけれど、この作品では一気に転調する。中盤になって『ヒメアノ~ル』というタイトルがようやく登場すると、トップに名前が出てくるのは森田役の森田剛であり、真の物語はそこから始まるということが示される。

『ヒメアノ~ル』 殺人鬼・森田(森田剛)の様子。画面も急に暗くなる。

 そこまで脇役でしかなかった森田に焦点が当てられると、それまでののんびりとした空気は消え去り、暗く陰惨な場面が続くようになる。岡田とユカのベッドシーンと森田の殺人シーンがカットバックされるところで、日常とその陰に潜む暴力、そのふたつの流れが交錯することになる。四つん這いで岡田に攻め立てられるユカと、四つん這いで森田からの殴打を受けて失禁する女(山田真歩)が重ね合わせられる。ここでは平凡だけれど輝かしい日常が森田の暴力によって黒く塗り潰されていくようでもあった。

 原作の『ヒメアノ~ル』に関しては、以前別の映画のときにもちょっとだけ取り上げた。そのラストにかなり衝撃を受けたからだ。作者の古谷実はこんなことを書いてしまって大丈夫なんだろうかと勝手に心配になったりするくらいだった。
 この映画版では原作マンガで描かれたような森田の心の内側には迫れないため別のラストが用意されている。マンガでは殺人鬼の森田が自己憐憫的に自らを振り返ったように記憶しているが、映画版では殺人鬼を見つめる岡田を絡ませることでもっと観客にわかりやすい感情に落とし込んでいる。個人的にはマンガではその自己憐憫がおぞましい気もしたのだけれど、映画版は殺人鬼に同情してしまうようなつくりになっていると思う。
 タレントとしては知っていても映画では多分初めて見る森田剛はかなり危険な役どころ。たたずまいはダルい感じだが、やっていることはおぞましく、殺しに躊躇がないところが恐い。一方のコメディ班の3人も原作マンガのバカさ加減をとてもよく出していたと思う。『恋に至る病』にも顔を出していた佐津川愛美は顔立ちがいかにもかわいらしくてコメディに合っていたし、結構きわどい場面もあってちょっとドキッとさせる。

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吉田恵輔の作品
Date: 2016.06.05 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (5)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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