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『グリーンブック』 骨はOK、カップはNG

 監督は『メリーに首ったけ』などのピーター・ファレリー
 アカデミー賞では作品賞と脚本賞と助演男優賞(マハーシャラ・アリ)を獲得した。

ピーター・ファレリー 『グリーンブック』 トニー・“リップ”・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)はドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)という黒人の運転手となる。

 トニー・“リップ”・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は職を失い困っていたところ、ある人物の運転手としてスカウトされる。ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)というその人物は、カーネギー・ホールの上に住む黒人のピアニストだった。彼は南部への演奏旅行に行くために、運転手兼用心棒のような人物を探していたのだ。

 トニーはイタリア系で腕っぷしが強いガサツな人間。一方でシャーリーは黒人でありながらホワイトハウスでも演奏しているという上流階級。そんなふたりが演奏旅行で旅を続けるうちに、というロードムービー。
 タイトルとなっている“グリーンブック”とは「黒人のために作られた施設利用ガイド」のこと。旅の舞台となるのは1962年のアメリカ南部で、登場人物は実在の人物がモデルとなっている。この時代は黒人は公共施設の利用を禁止されていたために、そうしたガイドブックがなければ快適な旅を過ごすことができなかったのだ。本作のなかでもシャーリーはVIPとして招待されているにも関わらず、黒人だからそのレストランを利用することはできないという理不尽なことが平気でまかり通っている。
 なぜシャーリーは黒人が差別されている南部へわざわざ出かけていくのか? これは作品の後半になって明らかにされることだが、シャーリーは自分の才能を理解しているがそれだけで満足する人間ではなく、人々の心を変えるために勇気を持って行動を起こしているということになる。

『グリーンブック』 トニーはシャーリーに対する差別に怒りを露わにする。

 長い旅を通してふたりもそれぞれに変化していく。トニーはシャーリーから美しい手紙の書き方を学ぶことになり、黒人に対する差別意識を捨て去ることになる。シャーリーはそのピアノの腕前で上流階級のなかで地位を築いたわけだが、逆に仲間であるはずの黒人たちとは距離があった。道中で畑を耕す黒人たちをただ見つめていたシャーリーは、後半では黒人たちが集まるジャズバーで即興を披露する。そして最後にトニーの家に現れることからも、自分から人に歩み寄ることの大切さを学んだということだろう。
 
 監督のピーター・ファレリー『メリーに首ったけ』などで品性に欠けるコメディ作品が売りだったファレリー兄弟の片割れ。しかし本作はシャーリーの説教が影響したのか、品格を持ってまとめている。情感に訴え過ぎるのではなく、ほどよく抑制が効いているところがアカデミー賞でも評価されたんじゃないだろうか。フライドチキンの骨は捨ててもいいけれど、ドリンクのカップはNGという絶妙な感覚がよかったのかもしれない。
 ただ、アカデミー賞作品賞の受賞には政治的なものを感じさせる部分もある。というのも監督賞においてピーター・ファレリーは無視されていることからすると、作品そのものの出来よりもそのメッセージのほうがハリウッドが思い描くものにほどよく合致していたからなんじゃないかとも思えるからだ。スパイク・リーあたりを筆頭に批判の声も出ているのもわからなくはない気もする。
 とはいえ普通のおじさんになりきったヴィゴ・モーテンセンは見どころだし、澄ました感じで大物の風格を見せるマハーシャラ・アリがフライドチキンのエピソードでちょっとかわいらしく見えたりするあたりなどはにんまりさせる。小ネタが効いた笑いもよかったと思う。

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Date: 2019.03.06 Category: 外国映画 Comments (18) Trackbacks (3)

『はじまりへの旅』 頑固ジジイになるよりは……

 監督のマット・ロスは、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞に輝いたとのこと。
 原題は「Captain Fantastic」

マット・ロス 『はじまりへの旅』 父親ベン(ヴィゴ・モーテンセン)と子供たちは亡くなった母親の葬儀へ出席するため山を下りる。

 現代社会から隔絶した山のなかで自然と一緒になった生活をしつつ、独自の訓練に明け暮れるちょっと変わった父親とその子供たちを描いた作品。
 「愛するが故に今のアメリカは見ていられない」とジャングルに新しくアメリカを創造しようとする『モスキート・コースト』によく似ているけど、『はじまりへの旅』の父親ベン(ヴィゴ・モーテンセン)はどこかで元の社会を意識しているように見える。『モスキート・コースト』の父親がほとんど何も持たずにジャングルへと向かったのと比べると、ベンは本や音楽などの教養に関しても、アスリート並みの身体能力についても、自分の子供たちが街中で暮らしている人以上であることを誇りにしているようでもあるからだ。
 ベンは有名な育児書の著者であるスポック博士に関する論文を書いていたこともあり、教育に関しては一家言を持つようで、子供たちへの教育も独自の理念に基づいている(それが一般的な社会に適合するかはともかくとして)。読書の感想にはあらすじではなく独自の考察を、権利章典を暗唱するだけではなくその意義を説明せよ、そういったベンの教育方針は実際に子供たちにものを考える力を植えつけることだろう。
 しかし山のなかの生活でそれが役に立つのかというと疑問もある。時代的にはズレがあるような気もするけれどヒッピー的な雰囲気もあるベンだから、そうした信条からの山ごもりなのかと思いきや、そもそものきっかけは奥さんの病にあったらしい。ベンは自信満々のようでいてブレがある部分もあるようだ。

『はじまりへの旅』 ベンたちは山のなかで自給自足の生活をしている。

『はじまりへの旅』 子供たちは優秀だがとても素直でかわいらしい。

 結局奥さんは躁うつ病のせいで自殺することになってしまうが、そのことが再びベンとその子供たちを社会に触れさせるきっかけになる。そして、子供たちは自分たちの暮らしがとても普通ではないことに気づいていくようになる。ハーバード大学にも合格した長男(ジョージ・マッケイ)も、女の子とのコミュニケーションのことは何も知らずに痛い目を見ることになる。

 奥さんの遺した言葉のなかにはプラトンの“哲人王”というキーワードがあった。これはプラトン『国家』において説いた理想国家の形に由来している。哲学を学んだエリートが支配する社会が最も理想的であるという考えだ(プラトンの後期には否定されるらしいが)。けれどもそんな“哲人王”も山のなかにいつまでもこもっていては何の意味もない。どこかで山を下りて社会と交わる必要が出てくるのは当然のことなのだろう。
 だから子供たちが社会とのつながりを欲したときに、ベンは自分の間違いを認めて妥協した道を行くことになる。ブレがあるというのはある意味では柔軟でもあるということであり、頑固ジジイにならなかったのは作品の展開としてはインパクトには欠けるけれど、人間的には真っ当なあり方だったように思えた。

 母親の弔いのために歌われるのはGuns N' Roses「Sweet Child o' Mine」だが、母親が好きだった曲として聴くと、母親が子供たちを想って歌っているもののように聴こえてくる。もとは恋人のことを歌った曲だったのだろうと思うのだけれど、独自のアレンジもあってまったく解釈が異なるものとして聴こえた。
 それから権利章典の意義を語る子供なんてこましゃくれたガキのように思えるけれど、本作の子供たちはみんな厭味がなく微笑ましく見ていられるところがよかった。



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Date: 2017.04.08 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (5)
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