『シシリアン・ゴースト・ストーリー』 「現実」vs「幻想」の結果は?
監督と脚本はファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァのコンビ。
1993年にシチリアで起きたある事件を元にした作品。

13歳のルナ(ユリア・イェドリコフスカ)は、ある日、同級生のジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)に自分の想いを告げる手紙を渡す。ふたりだけの楽しい一時の後に、不思議なことが起きる。ジュゼッペがいつの間にか姿を消してしまったのだ。
ルナはジュゼッペが失踪したことが信じられない。彼の実家を訪ねても母親は呆然としているばかりだし、学校の先生は特段心配している様子もない。実はジュゼッペが消えた理由をみんなが知っていて、それでも知らんぷりしているのだ。
この物語は実際の事件を元にしているとのこと。ネタバレになってしまうけれど、ジュゼッペはマフィアに誘拐されていたのだ。この事件は当時のイタリアでは結構話題になったらしいのだが、今では忘れられている事件でもあるとのこと。それを忘れさせてしまってはならないという気持ちからこの作品が誕生することになったらしい。
『ゲティ家の身代金』もイタリアのマフィアが絡む話だった。『ゲティ』は1970年代だが、『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の元となった事件は1993年。マフィアを根絶することは難しいらしい。
『ゲティ』においても誘拐が町ぐるみで行われていたが、本作のシチリアでも住民の多くが事情を知っていながらも何もしようとはしない。大人たちは見て見ぬフリで、警察も聞く耳を持たないとなれば、どうすればいいのか途方に暮れるほかない。そんななかでルナだけはジュゼッペを助けるために行動するのだが……。

冒頭は地下の洞窟のような場所が描かれる。ここは明るい光に溢れた地上の「生の世界」に対する「死の世界」ということなのだろう。そして、その両方に接するようにして湖があり、その水のなかは生と死との中間となっていて、本作は「生の世界」と「死の世界」が交じり合い、「現実」と「夢や幻想」も一緒くたになって展開していく。
現実世界ではジュゼッペは長い監禁の後に酸で溶かされ湖に捨てられるのだが、幻想のなかではルナは湖でジュゼッペのゴーストと出会うことになる(ゴーストと言いつつもドッペルゲンガーでもある)。この出会いには事件を忘れないためというよりは、あまりにかわいそうなジュゼッペに「せめてもの救いを」という製作陣の願いが込められているようだ。
ジュゼッペの生まれ代わりにも見えるフクロウとか、ルナが壁に描く暗い絵とか、「死の世界」から何かが覗いているようなカットなど、本作は不穏な雰囲気に満ちている。これらはジュゼッペの悲惨な運命から導き出された幻想的な要素なのかもしれないのだが、現実世界のあまりの無慈悲さを前にすると幻想世界を描くことすら虚しいものにも感じられた。
なかなかの美少年だったジュゼッペ役のガエターノ・フェルナンデスと、意志の強そうなルナ役のユリア・イェドリコフスカのコンビはとても初々しくてよかったと思う。


1993年にシチリアで起きたある事件を元にした作品。

13歳のルナ(ユリア・イェドリコフスカ)は、ある日、同級生のジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)に自分の想いを告げる手紙を渡す。ふたりだけの楽しい一時の後に、不思議なことが起きる。ジュゼッペがいつの間にか姿を消してしまったのだ。
ルナはジュゼッペが失踪したことが信じられない。彼の実家を訪ねても母親は呆然としているばかりだし、学校の先生は特段心配している様子もない。実はジュゼッペが消えた理由をみんなが知っていて、それでも知らんぷりしているのだ。
この物語は実際の事件を元にしているとのこと。ネタバレになってしまうけれど、ジュゼッペはマフィアに誘拐されていたのだ。この事件は当時のイタリアでは結構話題になったらしいのだが、今では忘れられている事件でもあるとのこと。それを忘れさせてしまってはならないという気持ちからこの作品が誕生することになったらしい。
『ゲティ家の身代金』もイタリアのマフィアが絡む話だった。『ゲティ』は1970年代だが、『シシリアン・ゴースト・ストーリー』の元となった事件は1993年。マフィアを根絶することは難しいらしい。
『ゲティ』においても誘拐が町ぐるみで行われていたが、本作のシチリアでも住民の多くが事情を知っていながらも何もしようとはしない。大人たちは見て見ぬフリで、警察も聞く耳を持たないとなれば、どうすればいいのか途方に暮れるほかない。そんななかでルナだけはジュゼッペを助けるために行動するのだが……。

冒頭は地下の洞窟のような場所が描かれる。ここは明るい光に溢れた地上の「生の世界」に対する「死の世界」ということなのだろう。そして、その両方に接するようにして湖があり、その水のなかは生と死との中間となっていて、本作は「生の世界」と「死の世界」が交じり合い、「現実」と「夢や幻想」も一緒くたになって展開していく。
現実世界ではジュゼッペは長い監禁の後に酸で溶かされ湖に捨てられるのだが、幻想のなかではルナは湖でジュゼッペのゴーストと出会うことになる(ゴーストと言いつつもドッペルゲンガーでもある)。この出会いには事件を忘れないためというよりは、あまりにかわいそうなジュゼッペに「せめてもの救いを」という製作陣の願いが込められているようだ。
ジュゼッペの生まれ代わりにも見えるフクロウとか、ルナが壁に描く暗い絵とか、「死の世界」から何かが覗いているようなカットなど、本作は不穏な雰囲気に満ちている。これらはジュゼッペの悲惨な運命から導き出された幻想的な要素なのかもしれないのだが、現実世界のあまりの無慈悲さを前にすると幻想世界を描くことすら虚しいものにも感じられた。
なかなかの美少年だったジュゼッペ役のガエターノ・フェルナンデスと、意志の強そうなルナ役のユリア・イェドリコフスカのコンビはとても初々しくてよかったと思う。
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