『素晴らしきかな、人生』 悪意転じて福と成る?

 『プラダを着た悪魔』デヴィッド・フランケルの最新作。
 キャストはウィル・スミス、ケイト・ウィンスレット、キーラ・ナイトレイ、エドワード・ノートン、ヘレン・ミレンと豪華。
 最近の『永い言い訳』とか『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』などと同じように、近しい人を亡くした者のグリーフワーク(喪の仕事)を題材としている(『雨の日』は主人公の壊れっぷりにちょっとついていけなかったけれど)。

デヴィッド・フランケル 『素晴らしきかな、人生』 主役のウィル・スミス以下、なかなか豪華なキャスト陣。

 主人公のハワード(ウィル・スミス)は愛娘を亡くして以来、自分で創業した広告代理店の仕事にも手がつかない。ほとんど周囲とのコミュニケーションすらできない状態で、職場には顔を出しても日がな一日ドミノをやっている(ドミノは一気にすべてが崩れ去ってしまったハワードの心情を示している)。娘が亡くなる前のハワードは広告マンとして従業員のカリスマだった。しかし娘の死で彼は腑抜けになり、その影響で会社自体も傾きかけている。
 ホイット、クレア、サイモンという同僚たち3人はハワードに立ち直ってもらいたいという願いと、会社を潰すわけにはいかないという義務感もあり、ハワードが心を病んでいる証拠を探偵に調べさせる。ハワードが取締役として適格性を欠いているという証拠があれば、会社を救うことができるからだ。
 探偵の調査で明らかになるのは、ハワードが「愛」「時間」「死」という抽象的概念に宛てて手紙を書いていたという事実だ。これだけでもかなり病的だということはわかるわけだが、同僚たちは「愛」「時間」「死」という概念を具現化した人物を役者に演じさせて、ハワードに揺さぶりをかけることになる。

 ※ 以下、ネタバレもあり!


『素晴らしきかな、人生』 ハワードの同僚の3人衆。

『素晴らしきかな、人生』 こちらは「死」「愛」「時間」を演じることになる役者たち。本当に役者だったのかは不明?

 役者たちが演じることになる「愛」「時間」「死」は、ハワードが従業員を前にした演説でも論じていた重要なキーワードだ。ハワードは「広告は人に伝えることがすべて。愛を渇望し、時間を惜しみ、死を恐れる。それこそが人々を繋ぐ要素である」といったことを語っていた(このサイトから引用)。そんなものが具現化して自分に語りかけてきたものだから、ハワードはさすがに自らの病気を自覚したのかもしれない。
 ただこの作品のミソはハワードが立ち直る部分よりも、一連の出来事によって同僚たちのほうがかえって救われるところにあるのだろう。原題は「Collateral Beauty」となっていて、字幕では「幸せのオマケ」という意訳がなされている。
 「Collateral」とは「副次的な」という意味。つまり、同僚たちが仕掛けた作戦はハワードを貶めるためのものだったはずだが、そのとばっちりがうまい具合に同僚たちに波及していくということが含意されているのだろう。「愛」「時間」「死」というキーワードは誰にでも共通することであり、それが人々を結びつけるというのがハワードの考えだった。そして、そうしたつながりこそが登場人物たちの救いの役割を果たしていくのだ。

 ハワードの親友でもあったホイット(エドワード・ノートン)は離婚して娘との関係に悩んでいる。クレア(ケイト・ウィンスレット)は仕事に専念しすぎたのか婚期を逸してしまい、子供を持つことで悩んでいる。サイモン(マイケル・ペーニャ)は自らの死期を知ったものの、それを家族に言い出すことができないでいる。
 そんな3人とペアを組む形になるのが、ハワードを騙すために雇った役者たちで、娘への愛情で悩んでいるホイットは「愛」役のエイミー(キーラ・ナイトレイ)と、婚期を逸したクレアは「時間」役のラフィ(ジェイコブ・ラティモア)と、死期を悟ったサイモンは「死」役のブリジット(ヘレン・ミレン)とやりとりするうちに、それぞれの状況を打破するヒントを得ることになる。

 「愛」「時間」「死」役の3人は、ホイットが拾ってきた役者だったのだけれど、登場の仕方はかなり胡散臭い。もしかすると3人は人間のフリをした天使のようなものだったのかもしれない。脚本全体がかなりご都合主義なのも、天使たちが仕組んだことならば納得がいくだろう。
 この作品の邦題は『素晴らしき哉、人生!』(原題「It's a Wonderful Life」)という名作からいただいてきている。その名作ではクリスマスの晩に天使が登場して主人公を救うことになるわけだが、この『素晴らしきかな、人生』(原題「Collateral Beauty」)もそのあたりはよく似ている。ただ、かつての名作と比べられるほど本作が「素晴らしい」とは言い難い気もする。それでも間違いなく泣かせる話であるとは言える。脚本のあざとさを気にせずに、存分に泣くのもたまにはいいんじゃないかと思う。

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Date: 2017.03.02 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (7)
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