『マイ・サンシャイン』 暴動のなかにも楽しさあり?
『裸足の季節』のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の最新作。
原題は「Kings」。これは“王様たち”を意味するわけではなく、作品中で何度も映像が引用される“ロドニー・キング事件”から採られているらしい。

ロサンゼルス暴動に巻き込まれることになるごく普通の人たちの物語。主人公のミリー(ハル・ベリー)は身寄りのない子供たちを自分の子供として育てている。隣人のオビー(ダニエル・クレイグ)はかなりキレやすいタチで、子供たちの騒音にもうるさいが、意外とやさしいところもある。そんなミリーたちがロサンゼルス暴動に巻き込まれることに……。
1992年に起きたロサンゼルス暴動のことはニュースで見ていた記憶はあるけれど、黒人と白人との間の対立という認識だった。実際に暴動のきっかけになったのは“ロドニー・キング事件”の理不尽な判決だからそれでも間違いではないのだが、ほかにも住民の間に不穏な空気を醸成した事件があったらしい。それが“ラターシャ・ハーリンズ射殺事件”。これは万引きを疑われた黒人の少女が、韓国系アメリカ人の店で店主に射殺されたというもの。黒人対白人というだけではない様々な人種の対立があったということらしい。
とはいえ本作はそうした人種間の対立を問題化しようという意図ではなさそう。たとえば1967年に起きた「デトロイト暴動」を描いた『デトロイト』が黒人に同情的だったのとはちょっと趣きが異なるのだ。

ロサンゼルス暴動では、黒人は虐げられて暴動を起こす側にいることになるわけだが、『マイ・サンシャイン』では調子に乗って悪さをしている黒人たちがいることも描かれている。同時にそれを諌めるジェシー(ラマー・ジョンソン)のような黒人もいる。他方で白人警官たちのかなり偏った正義感も見せつつも、暴動でてんてこ舞いの白人警官の大変さも描写されている。どこかにいる悪者を糾弾しようというものではないし、黒人対白人といったわかりやすい対立の話に落とし込もうというものでもないのだ。
ロサンゼルス暴動はあくまで背景とでも言うかのように、ごく普通の人々が混乱のなかで右往左往する様子が描かれていく。印象に残るエピソードは黒人同士の嫉妬から来る諍いであり、暴動が直接的原因となったわけではない(混乱がそれを誘発したとしても)。さらにミリーの子供たちは略奪に参加してテレビ番組に登場したりもするし、ミリー本人は子供たちを助けるために暴動の只中に入っていくけれど、隣人オビーに助けられてロマンスっぽい雰囲気を醸し出すことに……。
監督のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンはフランスのトルコ系というマイノリティであり、暴動が起きたロスの黒人たちに共感を抱いている部分はあるようだ。ただ、そんな黒人たちを虐げられる側としてだけではなく、混乱のなかでもずぶとく生きている現実的な人間として描いていると言えるかもしれない。ミリーの子供たちが万引きした食べ物でパーティーに興じる場面など、やっていることは褒められないけれどいかにも楽しそうなあたりに監督の想いが感じられるような気もした。


原題は「Kings」。これは“王様たち”を意味するわけではなく、作品中で何度も映像が引用される“ロドニー・キング事件”から採られているらしい。

ロサンゼルス暴動に巻き込まれることになるごく普通の人たちの物語。主人公のミリー(ハル・ベリー)は身寄りのない子供たちを自分の子供として育てている。隣人のオビー(ダニエル・クレイグ)はかなりキレやすいタチで、子供たちの騒音にもうるさいが、意外とやさしいところもある。そんなミリーたちがロサンゼルス暴動に巻き込まれることに……。
1992年に起きたロサンゼルス暴動のことはニュースで見ていた記憶はあるけれど、黒人と白人との間の対立という認識だった。実際に暴動のきっかけになったのは“ロドニー・キング事件”の理不尽な判決だからそれでも間違いではないのだが、ほかにも住民の間に不穏な空気を醸成した事件があったらしい。それが“ラターシャ・ハーリンズ射殺事件”。これは万引きを疑われた黒人の少女が、韓国系アメリカ人の店で店主に射殺されたというもの。黒人対白人というだけではない様々な人種の対立があったということらしい。
とはいえ本作はそうした人種間の対立を問題化しようという意図ではなさそう。たとえば1967年に起きた「デトロイト暴動」を描いた『デトロイト』が黒人に同情的だったのとはちょっと趣きが異なるのだ。

ロサンゼルス暴動では、黒人は虐げられて暴動を起こす側にいることになるわけだが、『マイ・サンシャイン』では調子に乗って悪さをしている黒人たちがいることも描かれている。同時にそれを諌めるジェシー(ラマー・ジョンソン)のような黒人もいる。他方で白人警官たちのかなり偏った正義感も見せつつも、暴動でてんてこ舞いの白人警官の大変さも描写されている。どこかにいる悪者を糾弾しようというものではないし、黒人対白人といったわかりやすい対立の話に落とし込もうというものでもないのだ。
ロサンゼルス暴動はあくまで背景とでも言うかのように、ごく普通の人々が混乱のなかで右往左往する様子が描かれていく。印象に残るエピソードは黒人同士の嫉妬から来る諍いであり、暴動が直接的原因となったわけではない(混乱がそれを誘発したとしても)。さらにミリーの子供たちは略奪に参加してテレビ番組に登場したりもするし、ミリー本人は子供たちを助けるために暴動の只中に入っていくけれど、隣人オビーに助けられてロマンスっぽい雰囲気を醸し出すことに……。
監督のデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンはフランスのトルコ系というマイノリティであり、暴動が起きたロスの黒人たちに共感を抱いている部分はあるようだ。ただ、そんな黒人たちを虐げられる側としてだけではなく、混乱のなかでもずぶとく生きている現実的な人間として描いていると言えるかもしれない。ミリーの子供たちが万引きした食べ物でパーティーに興じる場面など、やっていることは褒められないけれどいかにも楽しそうなあたりに監督の想いが感じられるような気もした。
![]() |

![]() |

スポンサーサイト