『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』 プップクプーを飲んでプリプリプーを

 スティーヴン・スピルバーグの最新作。
 原作はロアルド・ダール『オ・ヤサシ巨人BFG』
 『ブリッジ・オブ・スパイ』では信念を持つスパイを演じてアカデミー賞助演男優賞を獲得したマーク・ライアンスが表情豊かにBFGを演じている。

スティーヴン・スピルバーグ 『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』 何だか『E.T.』の名場面を思わせないでもない。


 孤児院に暮らすソフィー(ルビー・バーンヒル)は不眠症で、夜中にこっそり本を読んでいると、外の物音に気づく。そこには見たこともないような巨人がいる。それを目撃してしまったソフィーは巨人たちの国へと連れ去られてしまうのだが……。

 この映画は脚本を担当したメリッサ・マシスンに捧げられている。メリッサ・マシスンはあの『E.T.』の脚本を書いた人物で、この作品もソフィーという10歳の少女と巨人(人間とは違う生き物)との出会いを描いている。
 ソフィーをさらったBFG(=ビッグ・フレンドリー・ジャイアント)は巨人たちの秘密を守るために目撃者であるソフィーをさらったのだが、意外にも心根はやさしい。巨人たちの国にはBFG以外にも個性豊かな巨人たちがいる。この巨人たちは人間を丸呑みして食べてしまうような粗暴な輩で、巨人たちのなかでは小さいBFGは彼らにいじめられている。ソフィーは巨人たちが人間狩りを始めることを知り、ある人物の助けを借りることをBFGに提案する。

『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』 中央のチビがBFG。ほかの巨人はかなりデカくてなかなか個性豊か。

 ハラハラドキドキのスリルはほどほどだし、『E.T.』のような感動の涙もないけれど、ナンセンスな楽しさがある映画だった。そもそも「ビッグなジャイアント」というのは冗長だろうし、BFGは巨人たちの間では一番小さくて「チビ」などと呼ばれている。ほかの巨人たちの名前はニクスキー(英語名:ブッチャーボーイ)とか、チダラリン(ブラッドボトラー)とか、ダラリー(ミートドリッパー)などとダジャレっぽい。
 巨人たちにとっておいしい食べ物であるソフィーが「人間豆」と呼ばれているのは「human being」が間違って「human bean」になってしまったものらしい。この映画にはそうした言葉遊びみたいなものがいっぱいあるようだ(ネイティブだったらもっとおもしろいのかもしれない)。BFGは言葉を教わる機会がなかったらしく、しょっちゅう「言いまつがい」をしてソフィーに指摘されてばかりいるというのもおかしい。
 ソフィーが助けを借りることになるのは女王で、その客人であるBFGへの女王のおもてなしの場面がとても楽しい。人間界への危機が迫っているかもしれないのに、意外にのんきに豪華な朝食を食べているのも妙なのだけれど、みんなで“プップクプー(巨人国の炭酸)”を飲んで“プリプリプー(おなら)”を連発するというナンセンスが見所だろうか。ここでは女王やその飼い犬たちもマナー違反をやらかすことになるわけだけれど、しっかり者のソフィーは失敗からは逃れて澄ました顔をしていたような……。
 ラストで巨人の国と人間界と離れて暮らすことになるBFGとソフィーだが、BFGにはアリンコの話し声も聞こえるほどの聴力があり、ふたりは離れていても通じ合っている。ちょっと心温まる終わり方だった。BFGの主食である「おばけきゅうり」はゲテモノで、ゴーヤーはしばらく食べたくなくなるかもしれない。

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Date: 2016.09.22 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『ブリッジ・オブ・スパイ』 冷戦時代の知られざるヒーロー

 スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作。前作『リンカーン』と同じように歴史的な出来事を題材としている。また、脚本にはコーエン兄弟も名前を連ねている。

スティーヴン・スピルバーグ 『ブリッジ・オブ・スパイ』 ルドルフ・アベル(マーク・ライアンス)とジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)。ソ連のスパイを演じたマーク・ライアンスがとてもよい。


 冷戦時代、アメリカとソ連は互いに核兵器で威嚇し合って身動きがとれない状態。そんなときに暗躍していたのがそれぞれのスパイたちだった。優秀な弁護士であるジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は保険分野を専門に扱っていたが、彼に持ちかけられたのがソ連側のスパイを弁護するという仕事だった。

 アメリカの弁護士がソ連のスパイを弁護するのは、アメリカという国の素晴らしさを世界へ向けてアピールするためだ。スパイとして捕えられた者であっても、アメリカであるならば正当な権利が得られる。ソ連のような共産主義よりも、自分たちの資本主義のほうが優れている。そんなアピールによって勢力争いを優位に進めようと画策していたわけだ。
 ただ、国というものが常に一枚岩の結束があるわけではない。ほかの考えの人も当然存在する。というよりも大半は「スパイなど殺してしまえ」という立場だ。ドノバンは弁護士事務所の上司に請われてその仕事を受けることになるが、家族は反対する。敵国ソ連の弁護をするということは、アメリカ人からすれば裏切り者に見えるわけで、家族の心配は的中しドノバンは国中の嫌われ者になる。
 実際に仕事を始めたものの、敵国のスパイを弁護するのは大変なこと。陪審員によって有罪は決定し、あとは裁判官の決定による量刑だが、ドノバンはそこで策を弄する。スパイを殺してしまうよりも、アメリカ人が敵国につかまったときの切り札として生かしておいたほうが国益になると裁判官を誘導する。その勘は当たり、スパイはソ連の捕虜とされていた男との交換に使われることになる。さらに東ドイツに捕われている学生の問題も持ち上がり、アメリカを代表した形になるドノバンはソ連と東ドイツの2カ国を相手に交渉をすることになる。

『ブリッジ・オブ・スパイ』 築かれたばかりのベルリンの壁。ドノバンはたったひとりでソ連と東ドイツとの交渉に。

 50年代のブルックリンとか、東ドイツがベルリンに壁を建設する場面など、限りなくリアルに撮られている(撮影はヤヌス・カミンスキー)。CGではあそこまでリアルな質感にはならないはずで、実際に街を作り上げているものと思われ、そのあたりはとても丁寧でほかの追随を許さないほどの出来栄えだった。
 そんなリアルな映画のなかで嘘くさいものと言えば、主人公ドノバンの存在そのものであって、彼がなぜあそこまで“不屈の男”であり得るのかは信じられないくらいだった。でもドノバンは実在の人物であり、彼が成した功績に嘘偽りはないはず。ドノバンは普通の人には信じられないくらいの信念の持ち主だったということなのだろう。
 ドノバンはなぜ弁護士としての職業倫理に忠実なのだろうか。CIAとのやりとりのなかで移民の集まりであるアメリカでは、憲法を守ることこそがアメリカ人をアメリカ人たらしめるものだと演説をぶっている。しかし、それを言葉通り守ることはなかなかできることではない。家族を危険に曝しても、あるいは国や会社の利益よりも、もっと大事なものがあるということなのだろう。それは職業倫理といったものを超えた何かであり、それが憲法の示す理念なのかもしれない。
 この『ブリッジ・オブ・スパイ』にはほかにも強固な信念を持つ人間がいて、それはソ連側のスパイとしてアメリカに捕えられるルドルフ・アベル(マーク・ライアンス)だ。アベルもソ連を売ることはしない。スパイは捕まったら殺されるのが当然というあきらめなのか、職業倫理によるものなのかはわからないけれど、どんな状況に置かれてもうろたえることがない。ドノバンに繰り返し「不安に感じないのか」と訊ねられても、アベルの答えは毎度「何かの役に立つか?」というもので、強がっているわけでもなく飄々としているのだ。そんな意味ではふたりはほとんど超人的な存在に見えた。
 2時間半ほどを一気に見せてしまう作品はさすがスピルバーグというところなのかもしれないが、ドノバンにしてもアデルにしてもヒーロー然としているようにも見え、アベルがプレゼントしたドノバンの肖像画のように美化された部分があるんじゃないかとも思ってしまう。

(*1) 町山智浩はこの作品と『リンカーン』『アミスタッド』を合わせてスピルバーグの弁護士三部作だと指摘している。リンカーンにしても『アミスタッド』のジョン・アダムズにしても弁護士出身の大統領だからその仕事ぶりを理解できなくもないのだが……。

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Date: 2016.01.11 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (14)
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