『スノーデン』 国を裏切る愛国者

 『プラトーン』『JFK』などのオリバー・ストーン監督の最新作。
 アメリカの情報機関が世界中で通信傍受を行っていることを暴露して名前を知られるようになったエドワード・スノーデンが本作の主人公。スノーデンに関しては『シチズンフォー スノーデンの暴露』(ローラ・ポイトラス監督)というドキュメンタリーがあり、第87回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞している。

オリバー・ストーン 『スノーデン』 エドワード・スノーデンを演じるのはジョセフ・ゴードン=レヴィット。

 ドキュメンタリー作品である『シチズンフォー』はスノーデンが衝撃的な暴露をした現場が記録されている。インタビュアーを務めるジャーナリストのグレン・グリーンウォルドと、それを撮影するローラ・ポイトラス監督の前で、スノーデンはアメリカが国民すべてを監視していることについて語り出す。
 一方の『スノーデン』も香港のホテルで始まったインタビューから始まっているが、この作品はスノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の過去を振り返ることで、彼がなぜアメリカを敵に回してまでも内部告発しなければならなかったのかという点に焦点が当てられている。

 スノーデンは元々愛国者である。国を守るために志願兵として軍隊に入っていることにもそれが表れているわけだが、訓練中に足にケガを負い除隊を余儀なくされ、別の形での国家への貢献のためにCIAの仕事に就くことになる。
 そのころに知り合ったリンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)とのやりとりは、スノーデンが“賢い保守”ということを示している。リベラルなリンゼイが政府に対して批判的な言葉を発するのに対し、スノーデンは国を非難したくないと言い切っている。
 “賢い保守”は現実的で物事を理解しているという自負のために、夢見がちなリベラルのように無責任に政府を批判したりはしないのだろう。それでもスノーデンが政府の仕事の中枢に関わるような部分を垣間見ることになると、アメリカのために働くことが国民のためにも世界中の人のためにもならないということが明らかになってくる。

◆アメリカのやりたい放題
 テロを未然に防ぐためには情報収集が必要となることもあるのだろうし、監視対象となる者がいることも理解できる。テロ対策のためにはそれに役立つ特定の情報のみを取り出してくることが有効だ。スノーデンがCIA訓練センターで出会ったハンク・フォレスター(ニコラス・ケイジ)は、そうしたシステムを構築していたのだがCIAに採用されることはなかった。というのもテロ対策という名目ですべての情報を吸い上げてしまったほうが、アメリカにとって都合がいいという判断があったからだ。
 これによってアメリカは世界中すべての情報を監視することができる。電話による会話の内容から、メールやその添付ファイルまで、とにかくサイバースペースでやりとりされるあらゆる情報が覗かれていることになる。アメリカがその気になれば特定の個人を罠にはめ、その弱点をネタにして脅しをかけるなどやりたい放題が可能となる。
 『ドローン・オブ・ウォー』などで描かれているドローンでの空爆システムも、アメリカが世界中の情報を監視しているから可能となるシステムということだ。スノーデンは国のために働いていると考えていたわけだが、それは流用されて戦争の道具として使用されていたことになる。テロとは無関係の一般市民のプライバシーも丸見えだし、スノーデンの技術が戦争の道具としても使われていることにもなれば、彼が自分の国に反旗を翻すのも肯ける。

『スノーデン』 元上司リス・エヴァンス(コービン・オブライアン)の顔は極端な大きさで表現される。

◆愛国者として
 国家というのは巨大な存在だ。スノーデンはそれを敵に回す。それが端的に示されているのが、元上司リス・エヴァンス(コービン・オブライアン)とのテレビ電話のシーンだろう。
 映画の約束事として、スクリーンに映る人物の位置関係やそのサイズが登場人物の関係性を示すということがあるようだ(何かの本に書いてあった)。スクリーンの上段にいる男が、それより下段にいる男とやりとりをする場合、上段の位置にいる男は下段の位置にいる男よりも優位な立場にある。またスクリーンに映る人物のサイズにおいても同様で、スクリーン上で大きく示される人物はそれより小さく示される人物よりも優位にある。
 『スノーデン』では、テレビ電話の巨大モニターのなかに登場する元上司は、それを見つめるスノーデンにのしかかってくるほどの巨大な顔として表現される。スノーデンが感じている国家の力ということになるのだろうと思う。とにかくスノーデンの前に聳え立つような上司にはとても敵いそうにない。
 それでも“賢い保守”としてのスノーデンは国の悪事を知ってしまったからには、愛国者として内部告発をしなければならなかった。「国家とは何か」を一言で示すのは難しいけれど、とりあえず「国家は政府とはイコールではない」とは言えるだろう。だから愛国者だからこそ、スノーデンは政府を敵に回すことになる。

◆悪い冗談のような話
 監督のオリバー・ストーンはそんなスノーデンを共感を持って描いている。オリバー・ストーン自身が『プラトーン』で描かれたようなベトナム戦争を経験することによって、政府に対して批判的になったのと似たような経緯を辿っているからかもしれない。
 また、この作品ではオバマ前大統領も批判的に描かれていて、何も「米国第一(アメリカ・ファースト)」というのは新しい大統領だけではないらしい。というよりはアメリカ政府は国民ですら第一ではないようだし、他国など屁みたいなものなのかもしれない。
 スノーデンは日本の横田基地にも仕事に来ていて、日本のインフラも一気に潰せるようなウイルスをすでに仕込んでいるらしい。嘘みたいな話だし、まさかホントに実行するとは思えないが、脅しとしては十分に効果的に使えるネタだろう。悪い冗談だと思いたいくらいリアリティに欠ける話だけれど、国家のためという大義があればそんなことすら可能ということなのだろうか。

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オリバー・ストーンの作品
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Date: 2017.02.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『ザ・ウォーク』 身体が自然に反応する、そんな映画

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズや『フォレスト・ガンプ/一期一会』ロバート・ゼメキス監督の最新作。
 今回は試写会にて一足先に鑑賞させていただいたのだが、劇場公開は本日23日から。
 主役のフィリップ・プティにはフランス語の堪能なジョセフ・ゴードン=レヴィット。サーカスの団長にはベン・キングスレーが扮している。

ロバート・ゼメキス 『ザ・ウォーク』 フィリップ・プティを演じるジョセフ・ゴードン=レヴィット。

 1974年にワールド・トレード・センター(ツインタワー)で綱渡りをしたフィリップ・プティの物語。実は彼の話はすでに『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリーになっているとのこと。ただ、プティの偉業の映像は残されていない(写真のみ残っている)ため、本人の証言などで作品を構成しているものと思われる(観ていないから推測だけど)。この『ザ・ウォーク』では、そんな滅多にない出来事をかなり忠実に再現し、観客にも地上400メートルの空中を体験させてくれる作品となっている。
 最近は3D作品も多いので、3Dの必然性があまりないように感じられる作品もなくもないのだけれど、『ザ・ウォーク』の場合は3D版がお薦めだと思う。この作品の場合、3Dでの奥行きの表現は“高さ”を感じさせるものとして機能している。綱の張られた空中と地面との距離がよりリアルなものとして感じられるので、プティが綱の上を歩き出す姿を真上から捉えたショットには足がすくむ思いがした。
 とにかくラストの綱渡りのシーンでは手に汗を握ることは間違いない。ここだけでも劇場で観るだけの価値がある。試写会の会場では入り口でわざわざ“おしぼり”が配られていたのだが、まんざら冗談でもなく“おしぼり”は必要かもしれない。そのくらいの嫌な感じの汗をかくのだ。
 ハラハラドキドキのサスペンスを見たい人にはたまらない映画だ。サスペンスとは“宙吊り”という意味だが、この『ザ・ウォーク』はいつ主人公が宙吊りになるのかという緊張感でいっぱいで、『ゼロ・グラビティ』みたいに直接身体に効いてくるような映画だったと思う。何度か観客を座席から飛び上がらせる演出があって、誰もが身体を動かして向かってくる物体を避けることになるだろう。あんなに身体がビクついたのは久しぶりだった……。

『ザ・ウォーク』 映画だとわかっていても生きた心地がしない。

 綱渡り師の物語と聞いて何となく思い出したのが、カール・ワレンダという人物の話。有名な綱渡り師であったカール・ワレンダは、こんな言葉を残している。

 私が生きていることを実感できるのは、綱渡りをしているときだけだ。
 それ以外の生活は、ただの待ち時間に過ぎない。


 カール・ワレンダはその綱渡りの最中に落下して亡くなることになるのだが、綱渡り以外は“待ち時間”と言えるような“何か”を誰もが持っているだろうか。そんなふうにまとめると人生訓としてなかなか興味深い。
 しかし『ザ・ウォーク』のフィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)はちょっと違う。誰かのお膳立てを待っていたら何も始まらないとばかりに行動的な人物なのだ。ツインタワーにワイヤーをかけるにはどうしたらいいか、補助ワイヤーはどうすればいいか、警備の目をかいくぐるにはどうすればいいか、それらの問題をツインタワー開業前までに解決するためにはどうすればいいか。物事を現実的に解決し、自らの狂気じみた夢の達成へと向けて進んでいく。綱渡りの晴れ舞台はそれほど長いものではないが、その準備のためには多くの時間を要する。プティにとっては夢の達成まで“待ち時間”などというものはなかったのかもしれない。

 先ほどは「晴れ舞台はそれほど長いものではない」と書いたのだが、プティの実際の綱渡りは45分にも渡ったのだという。準備の時間ほど長くはないけれど、地上400メートルに命綱なしでと考えると恐ろしく長い時間とも言える。
 作品内の晴れ舞台はそこまで長くはないけれど、プティが綱の上で警官たちをおちょくるように芸を披露するあたりでは、「早くやめてくれ!」と願うような気持ちにもなる。緊張感が耐え難くて生きた心地がしないからだ。
 プティは冒頭から映画の語り部として登場している。つまり生き残って物語を語っているはずなのだが、それすらも信用できなくなる。語り部のプティは、実際には落としてしまった衣装であるタートルネックを身につけて、自由の女神像のたいまつ部分という通常ではあり得ない場所から観客に向けて語りかけてくる。もしかすると死んでしまった彼の幽霊が語り部なのかとも思えてくるのだ。
 プティを支えていた恋人アニー(シャルロット・ルボン)が去っていったのもわからなくもない。プティの偉業の成功をただ待つばかりというのは生きた心地がしないだろう。映画のなかではアニーも夢を追うために去ったという話になっているのだが、恋人が常に不安定で死に近い場所にいるのが耐えがたかったんじゃないだろうか。プティのやったことは信じられないくらい危険なことだからだ。

 それまでは“書類棚”とか呼ばれていたツインタワーは、フィリップ・プティの偉業によってニューヨーカーに愛される建物となったのだという。プティは偉業へのご褒美としてツインタワー屋上へのフリーパスを進呈される。その有効期限欄には“永遠”と記されているのだが、それが“永遠”に続かなかったのは誰もが知っている。今、この作品が作られ、ツインタワーを見事にCGで甦らせたのには、9・11のことが念頭にあるのは言うまでもないのだろう。

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Date: 2016.01.23 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (18)
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