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『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 まだまだ人生もシリーズも続く

 監督は『スパイダーマン:ホームカミング』と同じジョン・ワッツ
 『スパイダーマン:ホームカミング』の続編であり、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)シリーズとして『アベンジャーズ/エンドゲーム』のその後を描く作品でもある。

ジョン・ワッツ 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 スパイダーマン=ピーター(トム・ホランド)とミステリオ(ジェイク・ギレンホール)。

 『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』では、人類というか地球の存亡を巡るような壮大な話になっていたわけだが、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では広げすぎた風呂敷を元に戻すような作品となっている。
 前作『スパイダーマン:ホームカミング』ではアベンジャーズに入りたくて仕方なくてうずうずしていたピーター(トム・ホランド)。本作では一変してニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)からの電話を無視したりもする。
 これまでの闘いでヒーローであることの辛さを学んだということなのかもしれない。ピーターも指パッチンで消えた側にいたわけだし……。それでも誰かがアイアンマン=トニー・スタークの代わりをしなければいけないという正義感もあって葛藤することになる。

 スパイダーマンは“親愛なる隣人”とされていて、地球の平和を守るといった壮大な目的とは縁遠い。そもそもピーターはまだ高校生だし、未だクラスメートの女の子に夢中。世界の平和よりも自分の幸せのほうが先に立つのは当然と言えば当然かもしれない。
 前作と同じようにヒーローものでありつつも、うぶな高校生の青春映画としても楽しめる作品となっていたと思う。前作のヒロイン・リズはフェイドアウトして、前作からピーターのことを見守っていたMJ(ゼンデイヤ)がヒロインとなる。ふたりの初々しいやり取りはとても微笑ましいものだったし、ネッド(ジェイコブ・バタロン)も棚からぼた餅みたいにベティ(アンガーリー・ライス)と仲良くなって幸せそう。ついでに言えば、後見人みたいな役割のハッピー(ジョン・ファヴロー)もメイおばさん(マリサ・トメイ)といい関係になってと、『インフィニティ・ウォー』では大変な事態になったけれど、まだまだ人生もこのシリーズも続いていくということらしい。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 MJ(ゼンデイヤ)とスパイダーマンは空中デート。

 今回の敵となるのはミステリオ(ジェイク・ギレンホール)。別の地球からきたヒーローを謳い、ピーターに近づきトニーから受け継いだAIを奪い悪巧みを企む。
 ミステリオはトニーの元部下で彼に恨みを抱いていたらしい。AIとドローンを駆使して幻覚を見せつつ実際に攻撃もするという技術は、本作ほど精巧ではないにしてもある程度現実的なものにも感じられる。フェイクニュースなどが溢れる昨今だからこそリアルな敵だったと言えるかもしれない。最後のオマケではピーターはフェイクニュースによって悪者にされてしまうのだが、続編ではどうなるのだろうか。

 MCU版のスパイダーマンは、スパイダーマンという存在が有名だからか、いろいろなエピソードを端折っているようだ。サム・ライミ版やマーク・ウェブ版ですでに描かれていることは前提になっているのだろう。
 本作ではムズムズ(スパイダーセンスと言うらしい)が失われたという設定だったが、前作ではそれに対する言及はない。原作漫画とかほかのバージョンでは描かれている、スパイダーマン・ファンにとってはお馴染みのネタなのかもしれない。スパイダーマンについて知っている人のほうがより楽しめる部分も多いのかも。
 オマケの部分に登場したJKシモンズは、サム・ライミ版でも同じキャラを演じていたわけで、今後のマルチバース的展開はあり得るということなのかもしれない。トビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールドの歴代スパイダーマンが揃い踏みするとしたら確かに盛り上がりそう。
 大昔に流行った連続活劇では「次に続く」というところで終了し、続きを見たさに観客は映画館に通ったらしい。MCUは一応単品でも完結しているが、「次にも続く」というのはうまいやり方だと改めて感じた。
 ついこの間までは『アベンジャーズ』シリーズのほとんどを観てなかったのだが、観始めたらあっという間だった(『キャプテン・マーベル』『エンドゲーム』も一応劇場で観た)。遅まきながらの参戦だが、フェーズ4も楽しみ。

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Date: 2019.07.03 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『ノクターナル・アニマルズ』 衝撃的な冒頭と味のあるラスト

 監督・脚本は『シングルマン』でデビューしたトム・フォード。トム・フォードは有名なファッションデザイナーで、『007』シリーズにもスーツを提供しているのだとか。
 原作はオースティン・ライトの同名小説。

トム・フォード 『ノクターナル・アニマルズ』 スーザン(エイミー・アダムス)はアートギャラリーのオーナーとして成功をつかんでいる。その後ろにあるのは……。
 

 アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、ある日、元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から彼が書いた小説が送られてくる。「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」というタイトルのその小説は、暴力的な内容のものだった。エドワードは20年も経ってなぜそんなものを送ってきたのか?

 スーザンは今の仕事ですべてを手に入れているはずなのだが、それでも満たされないものがある。現在の夫ハットン(アーミー・ハマー)はほかの女と浮気をしており、スーザンとの関係は上辺だけのものとなっているのがその一因かもしれない。
 そんなときに元夫エドワードからの小説が送られてくる。タイトルの「ノクターナル」とは「夜行性の」という意味。エドワードはかつてスーザンのことを「夜の獣」と呼んでいたのだという。今現在のスーザンは不眠症で、ほとんど寝ていない状態にあるのも「夜の獣」という呼び名に相応しいとも言えるかもしれない。

◆作品の構成
 この作品は重層的な構成となっている。「スーザンの現在の生活」、「小説『夜の獣たち』の世界」、「スーザンによる元夫との回想シーン」、この3つのパートが絡み合う。満たされない生活の空虚さが小説を読ませ、その内容が現在の生活を脅かしたりもしつつも、それを書いた元夫との過去の出来事を想い起こしたりもしながら展開していく。
 おもしろいのはスーザンが眠れぬ夜を過ごすために読むことになる小説『夜の獣たち』のパートでも、その主人公をジェイク・ギレンホールが演じていることだろうか。小説『夜の獣たち』の主人公トニーと、それを書いているエドワードは同一人物ではないのだが、スーザンはほとんど同一視しているのだ(このパートはスーザンが小説を読み、頭のなかで映像化されたものということだろう)。
 エドワードが書いた小説について、スーザンは「自分のこと以外を書くべき」などとアドバイスをしていたりもしたわけで、スーザンにとってはエドワードが書く小説の登場人物はどうしてもエドワードの姿に思えてしまうということだろう(エドワードは未だに自分をモデルとした小説を書いているということでもあるかもしれない)。

 それからこれは単に私の勘違いなのだけれど、劇中劇である『夜の獣たち』においてトニーの妻を演じているのもエイミー・アダムスだと思っていたのだ。実際トニーの妻を演じているのはアイラ・フィッシャーという女優さんである。彼女はスーザン役のエイミー・アダムスとよく似ていて、ネットでふたりの名前を検索すると「まるで双子」などと出てくるから、似ている人物を選んでいるのだろう。スーザンは元夫が書いた小説のなかの主人公を元夫と同一視し、その主人公の妻を自分によく似た誰かと考えているのだ。
 とにかくスーザンはエドワードが書いた小説が、かつて夫婦であった自分たちをモデルとして描かれていると推測していることは確かだ。スーザンは小説のなかのトニーの妻とその娘が殺されたことに驚き、自分の娘に電話をして安否を確認したりもしているからだ。
 
 ※ 以下、ネタバレもあり!

『ノクターナル・アニマルズ』 劇中劇の『夜の獣たち』はテキサスが舞台となる。

◆小説『夜の獣たち』についてのあらまし
 トニーという主人公は妻と娘を乗せてハイウェイを走行中、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)と仲間たちに襲われる。舞台となるのは誰もいない夜のテキサスで、妻と娘は暴漢たち拉致されて残虐に殺されることになる。
 トニーは妻と娘を助けることはできなかったわけで、その弱さを悔やむことになるわけだけれど、肺がんで余命1年という保安官(マイケル・シャノン)の助けを借り、法律を犯してまで復讐を果たすことになる。しかし同時にトニーという主人公自身も死んでしまうことになる。

◆エドワードとスーザンの過去
 回想で描かれるスーザンはエドワードと同様に芸術に関心を抱く学生だったのだが、自分の才能を信じることができずに方向転換する。エドワードとの関係も同様だ。ゲイの兄を認めないような保守的な両親の考えを否定しようとして、スーザンは母親が反対するエドワードと結婚することになるのだが、ここでも方向転換することになるのだ。エドワードはいつになっても芽が出ずに、もとのブルジョアな生活が懐かしくなったのか、スーザンはエドワードとの子供を堕ろして彼を棄てることになる。

◆ラストの解釈
 ラストシーンではエドワードとの再会を約束したスーザンが寂しく待ちぼうけを食うことになる。エドワードは約束をしておきながら、それをすっぽかしたのだ。わざわざ小説を送りつけたのは“復讐”だったと考えるのが一番すんなりくるのではないだろうか。
 スーザンは小説『夜の獣たち』の完成度を褒め称えていたけれど、エドワードがそれに込めた意味合いにはその時点では気づいていない。スーザンは恐らく小説の登場人物のなかでは主人公トニーの妻と自分を重ね合わせている。それは小説のなかでは被害者の側となるわけだけれど、作者であるエドワードの意図は違う。エドワードはスーザンがやったことは小説のなかの暴漢レイがやったことと同じなのだと仄めかしているのだ。
 スーザンはエドワードの子供を殺すことで今の優雅な生活を手に入れた。それによってエドワードは小説のなかのトニーと同じように精神的には死んだということなのだろう。それと同時にトニーは自分の側に正義があると信じ復讐を完遂したのと同じように、エドワードも復讐をやり遂げることとなったわけで、エドワードはスーザンが自分のやったことの酷さに気がついていないことも復讐計画の一部に組み込んでいたということなのだろう。

 復讐が完遂したことでさすがに鈍感なスーザンだって自分の能天気さに気がついただろう。待ちぼうけの間にスーザンがどんなことを思い巡らしたのかはわからないけれど、エドワードはそれをどこかで見ていたのかもしれないし、あるいは小説同様に死んでしまったりしたのかもしれない。そのあたりを余韻のなかで感じさせるラストはなかなか味がある。
 それにしても冒頭のアレは衝撃的だった。スーザンの仕事のジャンクさを示しているのかもしれないのだけれど、そのインパクトに仰け反った。スーザン自身も回想シーンでは美しいのに、現在の場面では妙にけばけばしくてグロテスクにも見えてくるのもそのインパクトが効いているからだろうか。

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Date: 2017.11.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (7)

『ナイトクローラー』 人の血を求めるヴァンパイアの一種

 監督・脚本は『落下の王国』や『ボーン・レガシー』の脚本を務めていたダン・ギルロイで、今回が初監督作品。
 主人公ルーにはジェイク・ギレンホール。いつもなら二枚目のギレンホールだが、痩せこけて不気味な雰囲気を漂わせている。テレビ局のディレクターを演じるレネ・ルッソは監督ダン・ギルロイの奥様だとか。
 
ダン・ギルロイ 『ナイトクローラー』 主人公のルーを演じるジェイク・ギレンホール。何となくドラキュラを思わせるような……。

 最近では、素人が携帯のカメラで撮影した事件や出来事がニュース映像として流されることも多い。そうした映像が視聴者に求められているということなのだろう。とは言っても、突発的な事故がテレビ局のカメラが現場に到着するまで待っていてくれるわけではないわけで、アメリカではそんな凄惨な映像を狙って夜通し街を徘徊するような職業が存在するらしい。彼らの多くはフリーランスで、撮れた映像の衝撃度合いで金額を交渉する。
 買う側のテレビ局も視聴率を稼ぐために必死だから、さらに衝撃的な映像を求める(アメリカの一部のテレビでは、警告を出しつつ凄惨な映像を流すらしい)。フリーランスの“ナイトクローラー”たちは会社組織に属していないために、歯止めをかけるものがない。アクセルだけの車みたいなもので、会社組織のようにブレーキ役をする者はいないわけで、彼らは報道の領域を踏み越えていくことになる。

 もともと主人公のルー(ジェイク・ギレンホール)は法を守るという意識は薄い。夜を徘徊してコソ泥をするのが彼のなりわいだったわけで、警備員に見つかれば殴り倒して時計を奪うことくらいのことはやってのけるのだ。“ナイトクローラー”という職業は交通事故で瀕死の人にカメラを向けたりもするわけで、彼らの命よりも血にまみれた凄惨な絵を撮ることが優先される。見栄えをよくするためにちょっとだけ死体を移動させてみたり、強盗犯の情報を知っていてもそれを自分のために利用するのも厭わない。
 ルーが倫理感に欠けるのは、彼がテレビとネットの情報のなかで生きてきた人間だからだ。彼にとっては現実世界よりも映像としてフレームに切り取られたもののほうがリアルに見えるのだ。倒錯的かもしれないけれど、近所で目撃した事件をニュースとして見ることで初めて事実として認識するということは誰でもやっているわけで、それほどルーのことを異常だとも言い切れない。

 ※ 以下、ネタバレもあり。

『ナイトクローラー』 ルーは救護の名目で強盗にあった邸宅に忍び込み惨劇を撮影する。

 悪いやつらが最後に破滅していくのが勧善懲悪を旨とするハリウッド映画だが、『ナイトクローラー』はルーのサクセスストーリーになっているのがおもしろい。ネットで聞きかじった成功哲学によって武装したルーは、実際に仕事の覚えが早く、警察無線の符丁なども学んで、誰よりも早く真っ赤なダッジチャレンジャーで現場へ急行することを実践していく。ルーは努力家なのだ。地元のテレビ局のニナ(レネ・ルッソ)からは視聴者が望む映像を学んで、確実に成功を手中に収めていく。
 ルーにはほとんど葛藤もないし、怒りを表すこともない。はした金で雇っていた助手(リズ・アーメッド)が欲を出してルーとギャラ交渉をしたときも、彼を動かす方法を考えているし、あわよくば邪魔者としてうまく片付ける方途も探っている。
 そんなルーが一度だけ狂気の片鱗を見せるのが、鏡の前で歪んだ顔で絶叫する場面。この場面は作品全体からすると幾分浮いている感じで、いつものルーは冷静に状況判断をしている(ちなみに『キネマ旬報』によれば、この場面はギレンホールのアドリブだったようだ)。計算高く人の道に外れたことをやっているわけで逆に怖いとも言える。
 もしかするとこの映画ではルーは人間としては描かれていないのかもしれない。冒頭とラストには大きな月が顔を覗かせている。そんな夜に痩せて落ち窪んだギレンホールの目が暗闇のなかであやしく光る。どこか怪奇映画の雰囲気もあり、事件を追っていない場面での彼の歩き方はほとんどゾンビめいている。ルーを焚き付けてエスカレートさせていくニナとの場面では、ふたりの姿はヴァンパイアに見えるのだ(ニナのどぎついメイクもあってそんなふうに見えるのかも)。人の血を求めているという意味では、“ナイトクローラー”もヴァンパイアも似た種族と言えるわけだし……。

 最後にはルーがお膳立てした舞台設定のもとに、突発的な事件がカメラの前で生じることになる。観客としては何だかんだ言ってもドキドキしながらその瞬間を待ってしまうわけで、やはり衝撃映像というのは世間が求めてしまう見せ物なのかもしれない。そんな欲望が“ナイトクローラー”という職業を支えているということになるわけだが。
 新たな設備投資で新事業を展開していく際のルーの演説がすごい。「自分がしないことは君たちにはやらせない」と偉そうに言うのだが、これはもちろん悪い冗談でしかない。エンドクレジットの音楽も妙にポップな印象で、皮肉が効いていたと思う。

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Date: 2015.08.30 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (11)

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『複製された男』 女という蜘蛛の巣

 原作はノーベル賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴ。監督は『灼熱の魂』『プリズナーズ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『複製された男』 アダムとアンソニーの二役を演じわけるジェイク・ギレンホール


 歴史教師のアダム(ジェイク・ギレンホール)は同僚に薦められた映画を観て、自分とそっくりの役者を発見する。アンソニー(ジェイク・ギレンホールの二役)というその男は、身長・体重や声までアダムと瓜二つなのだ。アンソニーとは一体何者なのか?

 たとえば一卵性の双子ならばもともとの遺伝的形質は同じだが、アダムには兄弟すらいないはずだ。万が一、母親が嘘つきで本当は双子だったのだとしても、アダムはもう30代の大人であり、それだけの長い年月があれば、環境により違いが生じそうなものだが、ふたりは胸にできた傷痕までそっくり同じなのだ。だからこれは生き別れた双子の話ではない。彼らはまるでついさっき複製されたような存在なのだ。
 どこか哲学者・永井均が論じるような思考実験を思わせないでもない。自分とまったく同じ肉体と記憶を持つコピーが作製されたとして、それを自分と同じ存在として考えられるのだろうか? 自分が自分であることのすべてをそのコピーは持っているはずなのだけれど、やはりそれを自分とは認められないだろう。理由はともかく何となく嫌な感じがするからだ。そんな不気味な存在と出会ってしまうのが、『複製された男』という映画だ。
 果たしてどんな理由によってその男が複製されたのだろうか?

 ※ 以下、ネタバレもあり。

『複製された男』 トロントの街に巨大な蜘蛛が出現。画面の色合いも特徴的。

 この映画はそんな問いに答えるつもりはまったくないようだ。そもそも「複製された男」という題名すらミスリードなもので、アダムは複製などされていないのだ。『プリズナーズ』でも犯人探しとは別のところに物語の真意があったわけで、この映画も「複製された男」について最後まで合理的な説明があるわけではないし、そうした謎解きとは別なところに主題はあるようだ。私も観終わった直後は狐につままれたような感覚だったが、振り返ってみれば同じ写真をふたりが共有していたり、ヒントも与えられているし、濃密に構成された“わからなさ”には魅かれるものがある。
 公式サイトには、「ラストは口にするな」と言いながらも、監督自身の解釈が丁寧にも載せられている。たしかにそのように解釈すれば納得できるところも多いのだが、それですべて矛盾がないというものでもない。「カオスとは未解読の秩序である」というのが最初に引用される言葉だが、この言葉通り、この映画もカオスのままに留まっているのだろう。

 監督はこの映画を「1+1=1」という等式で説明している。この等式は『灼熱の魂』を説明することも可能なものであり、『複製された男』ではアダムもアンソニーも実は同じ人間だというのがオチだ。つまりアンソニーはアダムの幻想なのだ(だからといって辻褄が合うわけではないが)。
 冒頭の秘密クラブから始まって、蜘蛛のイメージはアダムを捕らえて離さない。この蜘蛛はラストでも唖然とさせてくれるわけだけれど、その象徴するものは女の存在に関わっている。アダムは歴史の授業で「支配の方法」について語っている(同じ台詞は二度も繰り返され強調される)。支配には教育や情報統制など様々な方法があるが、母親(イザベラ・ロッセリーニ)の手段は愛情と言えるだろう。アダムにとってそれは束縛であり、アダムは母親という女に支配されている。
 ちなみにレンタルビデオ屋のシーンでは、『妖怪巨大女』というC級映画のポスターが貼られている。この選択はもちろん監督の意図的なものだ。この巨大女というのは母親のような女であり、作品中に何度も現れる蜘蛛と同様のイメージなのだろう。
 母親はブルーベリーを食べることをアダムに勧めるが、アダムはそれを嫌っている。一方でアンソニーはブルーベリーを好んで食べている。アダムは母親の支配から逃れようと思い、アンソニーは受け入れているということだろう。また、メアリーという彼女(メラニー・ロラン)はいるけれども独身を通しているアダムに対して、アンソニーは結婚していて妻ヘレン(サラ・ガドン)が妊娠しているのも、アダムの支配から逃れようとする欲望を感じさせる。(*1)
 アダムはアンソニーとホテルで初めて相対したとき、「これは良くないことだ。間違ったことだ」と拒絶しているが、これは自分と同じ存在がいるという不快感ではなく、自分の隠された欲望を見せつけられたような不快感だったのだろう。最後には妻という蜘蛛の巣に絡め取られることを選ぶわけで、アダムがため息と共に安堵の表情を浮かべているようにも見えるのは、さらに逸脱していきそうな自分の欲望を、支配されることで押さえつけることに成功したことの安堵だったのかもしれない。

 砂塵にまみれたような黄色い画調が印象的な『複製された男』は、蜘蛛という象徴もあって、『渦』というヴィルヌーヴの過去作品を思い出させる。“渦”という象徴と青い水のイメージが鮮烈だった『渦』は、一度劇場で観ただけで詳細はほとんど覚えていないのだが、アマゾンでも中古品しか扱ってないようだ。昨年閉館した銀座テアトルでは、最後のラインナップに『渦』が入っていたし、やはり評判はよかったのだろう。ドゥニ・ヴィルヌーヴがこうして注目されていることだし、再ソフト化してほしいものだ。多分レンタル屋ではエロチック・サスペンスといった棚にひっそりと置かれることになるのかもしれないけれど……。

(*1) アダムとアンソニーの女の趣味は似通っている。妻役で妊婦ヌードを披露するサラ・ガドンも、彼女役のメラニー・ロランも、金髪碧眼という点は共通している。ただ妻はこれから母親という蜘蛛=巨大女になる存在であり、アダムはそうした支配から逃げ出したかったのだろう。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴの作品
Date: 2014.07.26 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (8)
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Nick

Author:Nick
新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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