『LOVE 3D』 3Dでの性描写という点はともかくとして……

 『アレックス』『エンター・ザ・ボイド』などのギャスパー・ノエ監督の最新作。
 3Dでのセックス描写という宣伝がエロ目当ての客を呼ぶよりもかえって敬遠されてしまったのか、劇場はガラガラだった。3Dでそんなものを見るなんて気恥ずかしいという人も結構多いのかもしれない。

ギャスパー・ノエ 『LOVE 3D』 マーフィー(カール・グスマン)とエレクトラ(アオミ・ムヨック)のくんずほぐれつを真正面から3Dで捉える。


 1月1日の朝、マーフィー(カール・グスマン)は電話の音で夢から醒める。電話の相手はかつての恋人エレクトラ(アオミ・ムヨック)の母親からで、しばらく連絡がつかない娘を心配する伝言が入っていたのだ。マーフィーはマーフィーの法則(「失敗する可能性のあるものは、失敗する」)を思い出して不安に駆られる。

 マーフィーは妻オミと息子と暮らしているが、その結婚は望まないものだったらしく、内心では妻に対して暴言を吐いている。オミ(クララ・クリスタン)が心ここにあらずといったマーフィーを放って息子を連れて外出してしまうと、マーフィーは音信不通となっているエレクトラとの想い出のなかへと入り込んでいく。
 この映画のなかでマーフィーはマンションの部屋から一歩も出ることがない。マーフィーはエレクトラの母親に連絡する以外は何もせず、脳内の記憶のなかへトリップしていく。最初はマーフィーのなかで強く印象に残っている場面が羅列される。エレクトラとのセックスや、現在の妻であるオミを交えた3Pの想い出もあり、そうした鮮烈な記憶をフックとして様々なエピソードが詳細に綴られることになる。

 話題を提供した3Dでのセックス描写に関して言えば、それほどインパクトがあったようには思えなかった。ひとつには日本ではボカシが不自然に画面を汚すことになるために、監督が意図したものが伝わっていないということもあるだろう(そそりたつ男性器も、迸る精液も隠されていてよくわからない)。しかしそれと同時に、現在の3Dの技術では人の顔の凹凸や女性の胸のふくらみまでを立体的なものと感じさせるものではないとも言えるかもしれない。
 たとえば、マーフィーとエレクトラが窓越しに隣人オミに声をかけるような奥行きのある場面では、3Dの効果はよく出ている。しかし、その後に3人がベッドに移行すると、ベッドに横たわる3人を真上から捉えることになり奥行きのない構図となってしまう。ベッドに横たわった人物と背景との距離はほとんどないわけで特段立体的に感じられないのだ。
 たとえば『ザ・ウォーク』みたいに背景との差異(『ザ・ウォーク』の場合は地上との距離)を際立たせるためになら3Dは効果的なのだけれど、ベッドを真上から捉えたことで奥行きをなくしたために3Dがほとんど意味のないものになってしまっているのだ。
 とはいえギャスパー・ノエがやろうとしているのはセックスの疑似体験ではないはず。題名も『SEX 3D』というわけではないわけで、セックス描写はたしかに長いのだけれど、それはあくまでもLOVEのなかの自然の営みとしてあるということなのだろう。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

『LOVE 3D』 マーフィーたちは隣に越してきたブロンドの少女を誘う。奥行きがある構図の場合は3Dの効果が……。

 この作品ではエレクトラがどうなったのかは最後まで明らかにされない。ただひたすらマーフィーは記憶にすがり、終いにはバスルームで息子に「人生は辛い」と語りながら泣き出すに至る。とても女々しいのだ。とはいえ『アレックス』『エンター・ザ・ボイド』ではどぎつい映像で隠されていた芯の部分が見える作品でもあるように思えた。
 『アレックス』は時間を遡る手法でなければ成り立たない作品だった。「後悔先に立たず」ということわざもあるように、今になって振り返るという視点がなければラストは意味を持たない。『アレックス』のDVDには時間軸通りに再生する機能もあるようだが、その場合、主人公が悲劇的な事件に翻弄されるというだけの話になってしまうだろう。
 「Irréversible(取り返しがつかない)」という原題を持つ『アレックス』では、最後に幸福だった瞬間にたどり着いたのは主人公ではなくて観客だったわけで、おそらく主人公自身は刑務所でかつての記憶のなかに逃げ込むことになったのかもしれず、それは『LOVE 3D』のマーフィーと変わらない。「永遠の今」的な何かを感じるのと、過去を悔いて女々しく泣くのは裏腹の関係にあって、過去に遡ってカタルシスを与えようとすれば『アレックス』になって、そこからまた現在へと戻り「取り返しがつかない」とクヨクヨすれば『LOVE 3D』になるのだろうと思う。

 『LOVE 3D』のラストで今まで見てきたものが映画作品であることを示しているのは、マーフィーがギャスパー・ノエの分身でもあるからだろう(ギャスパー・ノエの本名はギャスパー・フリオ・ノエ・マーフィーなのだとか)。マーフィーは映画監督になりたいと考える若者であり、「血と精液と涙の映画」を撮りたいと願っていたのだ。そして、この作品の息子役にはギャスパーという自分の名前をあてがっているし(ノエやフリオという登場人物もいる)、監督自身もカツラを被って出演までしているわけで、ギャスパー・ノエの素の部分がよく出ているところがあるように思えた。『アレックス』『エンター・ザ・ボイド』みたいな眩暈を誘うようなカメラワークもないし、極端に暴力的なシーンもなく、ごく普通の若者のLOVEを描いている点で意外にもこれまでで最もとっつきやすい作品なのかもしれない。

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Date: 2016.04.09 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (1)
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