『ぼくらの家路』 子の心親知らず
ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品され、主人公の子役イヴォ・ピッツカーの演技が絶賛されたという作品。
監督・脚本はエドワード・ベルガー。
原題は主人公の名前を採った「JACK」。
昨年9月に劇場公開され、今月にソフトがリリースされた。

10歳のジャック(イヴォ・ピッツカー)は弟マヌエル(ゲオルク・アルムス)の世話で慌しい日々を送っている。母親はいつも留守がちで、家事をこなすのはジャックの役目だからだ。ある日、事故でマヌエルが火傷を負い、母親は管理責任能力を問われ、ジャックは施設に預けられる。年上のいじめっ子がいる施設を抜け出したジャックは、知り合いの家に預けられていたマヌエルと一緒に母のところへ向かうのだけれど……。
朝から甲斐甲斐しく弟の世話をするジャックには「偉いなあ」と感心しきり。朝食を用意したり、靴紐を結んでやったり、車道を渡るときにはしっかりと手を取る気遣いを忘れないあたりにも世話焼きぶりが滲み出ている。そんなふたりが並んで歩いていく姿はそれだけでかわいらしいのだけれど、母親の行方が知れずベルリンをさ迷う様には「不憫だなあ」とますます感情移入してしまう。
ふたりを酷い目に遭わせる母親には怒りを感じなくもないのだけれど、母親も悪気があるわけではないらしい。ふたりの子持ちとはいえ遊びたい年頃でもあるし、男遊びが真実の愛を求めるという勘違いであったとしても、そのことが母子家庭からの脱出とさらには子供たちの幸せにもつながると考えている部分もあり、かえって始末が悪いのだ。

ジャックは母の彼氏たちのことをあまり快くは思っていない。夜中に寝室に闖入して彼氏を驚かすのも、母親が指摘する嫉妬というよりは抗議の一種であったようにも思う。まだ大人の助けが必要だという訴えは、家に入れずに母に宛てた手紙にも切々と感じられる。3日間の放浪生活のあとでも母親を信じきっているマヌエルは覚えたての靴紐結びを披露して安穏としているほど幼いけれど、ジャックは再会の嬉しさもほどほどに先を見据えている。子供を愛していても子育てというものが苦手な親もいるわけで、ジャックの大人びた表情はそんな残酷な事実を悟ってしまった故なのだろう。
主人公の行動を逐一カメラが追って行くという手法はダルデンヌ兄弟のそれを思わせる。『少年と自転車』の主人公のようにジャックも赤い上着を着ているし、脇目もふらずに突進していくような姿は『ロゼッタ』を思わせなくもない。ダルデンヌ兄弟の作品が好きなので惹かれるところも多かった。
イヴォ・ピッツカーの演技はもちろんよかったけれど、演出として素晴らしかったと思うのはジャックの感情を動きで示しているところ。ジャックはとにかく忙しなく動き回る。立ち居振舞いがガサツな感じなのは母親のそれとよく似ている。迎えに来る約束を反故にされたときのぶつけようのない思いは乱暴にバッグを片付ける仕草に充満しているし、母親に向かっての全力疾走は身体中で喜びを発散しているようだった。ヘタに怒りや悲しみを表情のなかに捉えようとせず、動きですべてを表していているところに好感が持てた。

監督・脚本はエドワード・ベルガー。
原題は主人公の名前を採った「JACK」。
昨年9月に劇場公開され、今月にソフトがリリースされた。

10歳のジャック(イヴォ・ピッツカー)は弟マヌエル(ゲオルク・アルムス)の世話で慌しい日々を送っている。母親はいつも留守がちで、家事をこなすのはジャックの役目だからだ。ある日、事故でマヌエルが火傷を負い、母親は管理責任能力を問われ、ジャックは施設に預けられる。年上のいじめっ子がいる施設を抜け出したジャックは、知り合いの家に預けられていたマヌエルと一緒に母のところへ向かうのだけれど……。
朝から甲斐甲斐しく弟の世話をするジャックには「偉いなあ」と感心しきり。朝食を用意したり、靴紐を結んでやったり、車道を渡るときにはしっかりと手を取る気遣いを忘れないあたりにも世話焼きぶりが滲み出ている。そんなふたりが並んで歩いていく姿はそれだけでかわいらしいのだけれど、母親の行方が知れずベルリンをさ迷う様には「不憫だなあ」とますます感情移入してしまう。
ふたりを酷い目に遭わせる母親には怒りを感じなくもないのだけれど、母親も悪気があるわけではないらしい。ふたりの子持ちとはいえ遊びたい年頃でもあるし、男遊びが真実の愛を求めるという勘違いであったとしても、そのことが母子家庭からの脱出とさらには子供たちの幸せにもつながると考えている部分もあり、かえって始末が悪いのだ。

ジャックは母の彼氏たちのことをあまり快くは思っていない。夜中に寝室に闖入して彼氏を驚かすのも、母親が指摘する嫉妬というよりは抗議の一種であったようにも思う。まだ大人の助けが必要だという訴えは、家に入れずに母に宛てた手紙にも切々と感じられる。3日間の放浪生活のあとでも母親を信じきっているマヌエルは覚えたての靴紐結びを披露して安穏としているほど幼いけれど、ジャックは再会の嬉しさもほどほどに先を見据えている。子供を愛していても子育てというものが苦手な親もいるわけで、ジャックの大人びた表情はそんな残酷な事実を悟ってしまった故なのだろう。
主人公の行動を逐一カメラが追って行くという手法はダルデンヌ兄弟のそれを思わせる。『少年と自転車』の主人公のようにジャックも赤い上着を着ているし、脇目もふらずに突進していくような姿は『ロゼッタ』を思わせなくもない。ダルデンヌ兄弟の作品が好きなので惹かれるところも多かった。
イヴォ・ピッツカーの演技はもちろんよかったけれど、演出として素晴らしかったと思うのはジャックの感情を動きで示しているところ。ジャックはとにかく忙しなく動き回る。立ち居振舞いがガサツな感じなのは母親のそれとよく似ている。迎えに来る約束を反故にされたときのぶつけようのない思いは乱暴にバッグを片付ける仕草に充満しているし、母親に向かっての全力疾走は身体中で喜びを発散しているようだった。ヘタに怒りや悲しみを表情のなかに捉えようとせず、動きですべてを表していているところに好感が持てた。
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