『イレブン・ミニッツ』 イレブンの意味あるいは無意味

 『出発』『アンナと過ごした4日間』『エッセンシャル・キリング』などのイエジー・スコリモフスキ監督の最新作。
 
イエジー・スコリモフスキ 『イレブン・ミニッツ』 様々な場面がモザイク状に配置されたポスター。映画の中身もそんな感じ。

 5時に始まり5時11分に終わる物語。予告編でもそんなふうに宣言されているから、何か起きそうな予感は漂っている。それでも11分で何ができるのかと言えば、たいしたことはできないだろう。たとえばパウロ・コエーリョの小説『11分間』によれば、前戯とかピロートークとか一切の余分なものを省いたセックスの正味の時間が11分間なんだとか。とりあえず込み入った物語を綴るには短すぎる時間とは言えるかもしれない。
 『イレブン・ミニッツ』は11分間に起きる出来事を多数の人物の視点から描く群像劇で、無関係なエピソードの集積によって成り立っている。最新作の出演を餌に別のことまで要求しそうな映画監督(リチャード・ドーマー)と、彼が用意したホテルの1111号室にオーディションに来た女優(パウリナ・ハプコ)。嫉妬深い女優の夫(ボイチェフ・メツファルドフスキ)は心配を隠せない様子でホテル内をうろつく。ホテル近くではホットドッグを売る男(アンジェイ・ヒラ)と、その息子のバイク便の男(ダビド・オグロドニク)やホットドッグ屋の常連の犬を連れた女(イフィ・ウデ)などもいる。登場人物は場所と時間を共有していることぐらいで何もつながりはない。そして11分後に何かが起きる。
 よくありそうな題材ではある。けれども11分の話だけに登場人物についての情報は限られている。女優の夫がなぜ顔に傷を負っているのかは不明だし、質屋に強盗に入る青年の背景もわからなければ、その質屋が自殺していることにも説明はない。それぞれの登場人物は共通の目的意識があるわけでもなく、たまたま5時11分にホテルの周辺へと集合してくる。

 人は物事に何かしら意味付けをしてしまうものだ。この作品の11という数字を見ると、つい想起してしまいがちな出来事をわれわれは知っているわけだけれど、イエジー監督のインタビューの言葉をそのまま受けとればそうした意図はないようだ。10には「十戒」という意味付けをしてしまうし、12には「12使徒」などを思い浮かべる。13はキリストが処刑された日として忌み嫌われる。そうした意味付けを避けた結果として11という数字があるのだという。そういう意味では最後に起きる出来事も無意味に徹しているとも言える。
 それでもやはり観客としては散りばめられる不穏な事象に何かの前兆を読み取ろうとしてしまう。一部の登場人物にだけ見えてしまう空に浮かぶ黒い染み、「お前はもう何も改めることができない」という言葉、突然鏡に激突する鳥、なぜか壁を遡っていく水(『出発』では時間を逆回転させていたが、このシーンは一体何だろうか)。そうしたあれこれは世界の終わりすら呼び込みそうな雰囲気を感じさせる。
 そしてまた劇中の音も不安を駆り立てる。教会の鐘や街の喧騒、救急車のサイレンや何かしらの警告音、低空で飛んで行く飛行機の音。そしてパヴェウ・ムィキェティンの担当した音楽も次第に速度を増すようにしてカタストロフの到来を予告する。緊張感を増してラストへと突き進んで行く演出はさすがに見応えがある。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

『イレブン・ミニッツ』 いやらしい笑みを見せる映画監督とオーディションに来た女優。パウリナ・ハプコがとてもきれいでエロい。

 ラストの出来事は『ファイナル・デスティネーション』的な派手なものとなっていて、妙にエンターテインメント作品に寄せていっているようにも感じられる。最初のほうで『ダイ・ハード』のポスターが登場しているし、そのパロディめいた場面もあるのは監督のご愛嬌だろうか。
 この作品はスマホ動画とかWebカメラや監視カメラの映像など様々な映像が取り入れられている。なかには犬から見た視点もあって、極端な低い位置からの抑角はあまり見慣れない視点を生み出していておもしろい。
 ちなみに一部の登場人物が見ていた空の黒い染みは、劇中でそれが示されるわけではない。つまりは登場人物の気の迷いかもしれないし、視覚異常だったのかもしれないのだ。監視カメラには黒い染みが捉えられるわけだが、それはモニターの不具合と解釈されている。
 ラストではモニターのなかに映されたカタストロフの場面は次第に分割されていき、モニターのなかのひとつのドットの不具合(黒い染み)となっていく。それまで見ていたカタストロフは多くのドットのなかのひとつとなったわけで、作品そのものも一気に相対化される。そのほかのドットには別の時間があり、別のカタストロフがあるということなのかもしれない。ただ監督が意味付けを拒否していることから考えれば、ほかのドットには何でもない平穏な時間が流れているだけなのだろう。今回たまたま見ることとなったカタストロフは別段世界の終わりを意味するわけではなく、ごく狭い範囲の悲劇でしかなかったわけだし……。

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イエジー・スコリモフスキの作品
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Date: 2016.08.28 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (6)
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