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『アンダー・ザ・シルバーレイク』 青春のあとにたどり着いたところ

 『アメリカン・スリープオーバー』『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の最新作。

デヴィッド・ロバート・ミッチェル 『アンダー・ザ・シルバーレイク』 サム(アンドリュー・ガーフィールド)は近所に引っ越してきたサラ(ライリー・キーオ)に一目惚れしたものの……。


 サム(アンドリュー・ガーフィールド)は故郷を離れ、ハリウッド近くのシルバーレイクという街にやってきたものの現実は甘くない。仕事もなく怠惰な日々のなか、サムは近所に越してきたサラ(ライリー・キーオ)という女の子に一目惚れ。しかし、翌日、彼女を訪ねると家はもぬけの殻で、彼女もどこかに消えてしまっていた。

 失踪した女の子を捜すというプロットはさほど珍しくはないのだけれど、サムが迷い込んだシルバーレイクという街は迷宮のようであって、すべてが混沌としてくるようだった。頻発する犬殺し、フクロウのキス、誰かが残していった暗号、謎の作曲家など意味不明と思えるものが多々登場し、さらにはそれを見る側のサムの妄想なども交じり合って夢とも現実とも区別がつかない世界に入り込んでいく。
 さらに本作にはハリウッド映画やその他様々なポップカルチャーからの引用も盛りだくさんで、それらを見つけ出すという楽しみもある。デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督のデビュー作『アメリカン・スリープオーバー』も修正しつつ引用もされていて、そのなかの女優が『アンダー・ザ・シルバーレイク』の世界に登場しているという凝った演出もある。
 それから舞台となるのが『ラ・ラ・ランド』と同じ地域ということもあって、あのグリフィス天文台も登場し、『ラ・ラ・ランド』ではそこから主人公たちが天に昇っていくのに対し、『アンダー・ザ・シルバーレイク』ではサムは地下に導かれることになる(町山智浩の指摘)。そんなわけで『アンダー・ザ・シルバーレイク』はハリウッドの裏面を覗かせてくれるような作品ともなっている。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』 派手な出で立ちの女の子たち。彼女たちは映画にも出たりしている女優でもあり、バイト感覚で娼婦もしているらしい。

◆前2作を振り返ると
 監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは『イット・フォローズ』で一躍有名となり、本作が第3作目。
 過去の作品を振り返っておくと、デビュー作の『アメリカン・スリープオーバー』は日本では『イット・フォローズ』のあとに限定的に劇場公開された。この作品は原題が「The Myth of the American Sleepover」となっていて、直訳すれば「アメリカのお泊り会の神話」。高校生にもなればもう大人というわけで、通過儀礼のような性的体験は早めに済まさなければならないとされている。うぶな子供たちはそこに焦りを感じている。しかし、『アメリカン・スリープオーバー』が描くのは、実はそんなのは青春時代の神話であり、子供時代こそ素晴らしいんだということだった(個人的には一番好き)。
 次の『イット・フォローズ』はホラー映画となっていて、セックスを介して感染するという“それ”によって追い回されるという話。“それ”の解釈は様々だが、一般的には“死”そのものではないかとされている。セックスが未経験ならば“それ”はやってこないわけで、セックスによって“それ”(=“死”)に追い回されるということになる。
 セックスが“生”に結びつくのはわかりやすいが、なぜ“死”と結びつくのか。ここからは私の勝手な解釈だが、生物学の知見から考えるとわかりやすいと思う。たとえばアメーバーのような生物は分裂するだけで増えていくわけで、分裂した片割れはもう一方のコピーだから“不死”と言ってもいい。しかしヒトのような有性生殖の場合、オスとメスの遺伝子を組み合わせることで環境に対する対応能力を増したけれど、親の世代は必ず死んでいくことになる。つまりは有性生殖を選んだことで、“死”を抱え込むことになった(こうした議論は『自我の起原』という本に書かれているもの)。単なるホラー映画ではなく、生と死とセックスに関する洞察を感じさせる作品だった。

『アンダー・ザ・シルバーレイク』 サムはサラといい関係になりそうに……。しかし翌日彼女は失踪してしまう。

◆陰謀論的な見方
 さて、ようやく『アンダー・ザ・シルバーレイク』についてだ。サムはすでにいい大人であり、出会った人との挨拶のなかでは「仕事はどう?」といった言葉が社交辞令的に使われている。サムは適当に「順調だよ」などと誤魔化したりしているが、実は無職でありホームレス寸前の状態なのだ。それなのにサムは消えたサラを捜してばかりで、滞納した家賃のための金策に走ることもないダメな人間なのだ。
 かつてサムの彼女だった女の子は、今では看板広告に出るほど成功している。そんな彼女が語るのは「努力したから今がある」ということだった。一方でサムはと言えば、毎日、中庭から向かいの部屋を覗き見ているという体たらく(これは『裏窓』の引用)。ただ、サムには「こんなはずじゃなかった」という感覚はある。わざわざシルバーレイクまで来たのは成功したかったからで、こんなふうに怠惰な日々と過ごすためではなかったのだから。
 それが真っ当な方向へ行かないのがサムのダメなところ。サムは世の中には隠された秘密があって、一部のセレブたちだけがそれを共有しているといった妄想に囚われていく。そして、その秘密を解き明かすことができればすべてが解決する。そのヒントを教えてくれるのが失踪したサラなのかもしれない。そんなふうに物事をこじらせていく。

◆サムがたどり着いたところは?
 紆余曲折を経てサラの元にたどり着くが、サラはすでに手の届かない場所にいる。そのサラが語るのは「間違ってしまったのかもしれないけれど、今さら元に戻ることもできないし、ここでやっていく」といった言葉だった。これはその後に引用される『第七天国』(←未見なので推測)の「うつむかないで。上を向いて」という台詞とも物事を肯定的に捉える点では似ているけれど、『第七天国』が希望を感じさせるのに対して、本作のサラの言葉は諦めムードも漂っている。
 その後のサムも自分が間違っていたことに気づく。多分、サムは家を追い出され、老婆の家の居候としてしばらく過ごすことになるのだろう。サラが感じていたような諦めと共に……。
 これは某映画サイトで誰かが書いていたことだが、サムは死んでいるのかもしれない。そうでなくともサムは死んだように生きていくのかもしれない。というのは、サムは酷い悪臭がすると何度も指摘されているからだ。つまり悪臭はスカンクの臭いではなく、死臭ということだ。
 前2作を踏まえて考えると、サムはもう子供ではないし、過度なセックスの幻影に惑わされることはないけれど、やはり死の影は常につきまとっているということだろうか。一度観ただけでは到底追いつかないけれど、今度もまたなかなか痛いところを突いてきたなあと感じた。

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Date: 2018.10.14 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (5)

『ハクソー・リッジ』 地獄で見つけた奇跡

 『ブレイブハート』『パッション』などのメル・ギブソンの久しぶりの監督作品。
 アメリカで良心的兵役拒否者として初めて名誉勲章が与えられたデズモンド・ドスという人物の実話をもとにした作品。
 タイトルの「ハクソー・リッジ」とは「のこぎり崖」といった意味で、沖縄の前田高地がのこぎりのような崖になっているのを見てアメリカ兵たちが名付けたもの。
 アカデミー賞にも作品賞や監督賞など6部門ノミネートされた。

メル・ギブソン 『ハクソー・リッジ』 アメリカ版のポスター。

 デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は敬虔なキリスト教徒として育ち、聖書の「汝、殺すことなかれ」という教えに忠実でありたいと願いつつ、第二次大戦で周囲の男たちが出兵していくのを見て自らも軍隊へ志願する。しかし、訓練に入ってもドスは銃を持つことを拒否することになる。
 良心的兵役拒否者というのは宗教上の理由などで戦争に行くこと自体を避けるのだろうと思うのだが、デズモンド・ドスという人物は愛国者でもあり、周囲が戦っているのに自分が安穏とした場所にいることも許せないらしい。愛国者としては国を守るためには敵を殺すことになるわけだけれど、戦場で誰もが殺し合うなかでひとりくらい助けて回る人間がいてもいいんじゃないかというのがドスの論理だ。
 ドスの信念は周囲を動揺させることになる。軍隊の上官や同僚たちは嫌がらせをして辞めさせようとするし、説得に現れた婚約者ドロシー(テリーサ・パーマー)がちょっとだけプライドを捨てればと勧めても、ドスは決して信念を曲げることはない。

 メル・ギブソンの作品は『パッション』でのキリストの受難のように、ほとんど度を越した“痛み”を嬉々として描いていく。『ハクソー・リッジ』での沖縄戦の描写もまさに地獄絵図だった。崖の上にはそれまでの激戦を物語る多くの死体が転がり、千切れた身体の一部が散乱する。戦闘が始まれば兵士たちは内臓や脳漿を撒き散らし、火炎放射で火だるまになりながら死んでいく。そんな場所を兵士と一緒に駈け回りつつも、自衛のための武器すら持たないというドスはちょっと正気とは思えない。
 この作品のなかで死んでいく兵士たちは米兵にしても日本兵にしても数多いのだけれど、日本兵がやられる場面は大方が背後から撮られていた。どちらかいえば無個性な日本兵のなかで、洞窟のなかで割腹自殺する場面だけが妙に丁寧に描かれているあたりは、単純に監督メル・ギブソンの趣味の問題なのだろう。

『ハクソー・リッジ』 死体が転がり銃弾が飛び交うなかを武器を持たないドスが駆け回る。

 この作品は一応史実に基づいているとされているのだけれど、誇張されている部分も多いのだろうと思う。手榴弾すら跳ね返してしまったりもするし……。ただメル・ギブソンが描きたかったのはドスという男の常軌を逸した信念なのだろう。それはほとんど奇跡のようなものに思えた。
 ラストでドスがハクソー・リッジから降ろされるとき、まるで彼が空を飛んでいるように描かれている。神々しく地上に降臨してくる姿にも見えるのだ。『パッション』で描かれたキリストの物語が今に至るまで語り継がれているように、ドスという男の物語も語り継がれるべきであるというのがメル・ギブゾンの信念ということなのだろう。
 ちなみに実在のデズモンド・ドスは自分が亡くなる寸前まで、映画化に許可を出さなかったのだという。「真の英雄は大地に眠る人たち」だとして自分が英雄として持ち上げられることを良しとしなかったらしい。何て謙虚な人なんだろうか。もちろん彼の行動が戦争の手助けになっているという意見もわからないのではないのだけれど、誰もがドスのようになれるわけではないし、こんな人がひとりくらいいてもいいんじゃないかと思う。

 メル・ギブソンの作品はしつこいほどの残酷描写でかなり偏っている印象だったのだけれど、この作品では戦争の地獄絵図だけではなく妙に泣かせどころがある作品になっている。アル中の父親(ヒューゴ・ウィーヴィング)が息子を想う気持ちを吐露する場面だとか、先頭に立ってデズモンドをいじめていた「すごく意地が悪い」スミッティ(ルーク・ブレイシー)との和解などあちこちでホロリとさせる。前半の薄気味が悪いほど健全なラブシーンから一転して血みどろの戦場へという急展開が、偏執的なところが薄れた分かえってアンバランスにも感じられるけれどエンターテインメントとしてはいいのかもしれない。
 主演のアンドリュー・ガーフィールド『沈黙 -サイレンス-』に続いて信念の男を演じている。しかもどちらも日本が舞台というのも不思議な縁。アンドリュー・ガーフィールドの童顔はヘラヘラしているようにも見えるけれど、それが純粋さにも感じられるところがいいのかもしれない。

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Date: 2017.07.02 Category: 外国映画 Comments (2) Trackbacks (12)
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