『エクス・マキナ』 ロボットも人間も内側のことはわからない

 監督は『ザ・ビーチ』の原作者で、最近は『わたしを離さないで』など脚本家として活躍していたアレックス・ガーランド。今回が初の監督作品だが、欧米では結構評判となっていた作品で、第88回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した。

アレックス・ガーランド 『エクス・マキナ』 アリシア・ヴィキャンデル演じるエヴァは人工知能を搭載されたロボットだった。


 IT企業で働くケイレブ(ドーナル・グリーソン)は社内での抽選に当たり、滅多に会えない社長と過ごす権利を獲得する。ヘリコプターで山奥の別荘まで送迎されたケイレブは、そこで社長のネイサン(オスカー・アイザック)から今回の滞在の目的を知らされる。検索エンジン「ブルーブック」を開発したネイサンの次の目標は人工知能で、検索エンジンで集めたありとあらゆる情報を取り込んだ人工知能を開発する。ケイレブはまだ誰にも知られていない人工知能のテストを任されるのだ。

 人工知能を取り扱った映画は最近でも『オートマタ』とか『her/世界でひとつの彼女』とか『チャッピー』など様々あって珍しいものではないけれど、ほかの作品の人工知能がいかにも機械という姿だったり、PCのOSという目に見えないものだったりするのに比べ、この『エクス・マキナ』のロボット・エヴァはビジュアル的にインパクトがあったと思う(エヴァを演じたアリシア・ヴィキャンデルのお人形さんのように整った顔立ちが無機質な役柄にとても合っていた)。
 インパクトとは言っても、身体の一部がスケルトン構造になっているというだけのアイディア勝負だ(マンガ『コブラ』のクリスタル・ボーイ風)。人間のような顔をもっているけれど、身体にはしっかりと機械仕掛けという証拠を見せている。それでもワンピースを着てカツラをつけたりすれば女の子にも見えてしまう。このビジュアルはその後の展開にも大いに関係するわけで、視覚的にもアイディアとしてもなかなか秀逸だった。

 ※ 以下、ややネタバレあり!

『エクス・マキナ』 エヴァとケイレブはガラスに隔てられながらもテストを行う。

 物語は二転三転していく。ケイレブはエヴァに対してチューリング・テストを行う。このテストは人工知能が人間と同じように知的か否かを調べようとするもの。ケイレブはガラス張りの部屋に閉じ込められているエヴァと向かい合って会話をし始めるのだが、その返答は人間を相手にしているようにしか思えない。
 だからチューリング・テストの結果としてはエヴァは合格ということになるわけだが、テストを仕掛けたネイサンには別の目的もある。人工知能エヴァと人間であるケイレブとの間で恋愛は可能なのかという、ネイサンの下世話な興味も混じっているのだ。ネイサンにはキョウコという口を利かないメイドがいて、キョウコは実はよくできたロボットなのだが、キョウコにしてもエヴァにしても性交渉は可能なのだという。つまりほとんど人間の女性と何も変わらないわけで、そうなれば恋愛だって可能だろうというわけだ。もしケイレブがエヴァを愛したとすれば、より一層人間に近い人工知能が完成したことになるとネイサンは考えたのかもしれない。

 エヴァに惹かれていくケイレブと、ネイサンを信用するなと訴えるエヴァと、ふたりの実験対象者を神のような視点から見守るネイサン。そんな3人の腹の探り合いは緊迫感があった。しかもその後にさらにひねりを加えてくる展開はなかなかスリリングで楽しめると思う。
 最後にはネイサンの別荘を抜け出して街の交差点に現れるエヴァだが、個人的にはその未来に恐ろしいものはあまり感じなかった。ネイサンから逃げ出すためには手段を選ばなかったエヴァとはいえ、人間を敵に回すようなことはしないだろう。外見的には人間のなかに紛れ込むことは可能なはずだから、監禁状態から抜け出した女の子の新しいスタートのように希望さえも感じてしまうのだ。しかしその反面では、うぶなケイレブが騙されたのと同じでエヴァの考えていることなど何も理解していないだけなのかもしれないとも思う。

 あまり物語とは関係ない部分だけれど、キョウコとネイサンのダンスシーンはちょっと見物(下の動画)。古臭い感じのダンスをふたりが真剣に踊りきるのが妙におかしい。キョウコを演じたソノヤ・ミズノは日系英国人のバレリーナだとか。
 キョウコはいかにもモデル的なスレンダーな体型で、これにはその生みの親であるネイサンの好み(使い古しのほかのロボットもみんなモデル体型だった)が反映している。一方、エヴァが完成体になったときの裸はちょっとロリータっぽい。これはネイサンが検索エンジンのログから盗み出してきたケイレブの趣味に合わせたものとなっている。現実でもそうした情報は筒抜けになっているわけで、知らない間に検索エンジンに人間の行動がコントロールされているということはすでに起こっていることらしい……。



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Date: 2016.06.24 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (6)

『リリーのすべて』 トランスジェンダーの先駆者とそれを支えた人

 『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』のトム・フーパー監督作品。
 原作はリリー・エルベという実在の人物をモデルにした小説。日本語訳では『世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語』となっているが、原題は「The Danish Girl」となっていて、「デンマーク人の女の子」という意味。
 邦題に違和感はないし、『イヴの総て』など似たような題名の作品だって多いとは思うのだけれど、どこかで『リリイ・シュシュのすべて』のことを意識しているようにも感じてしまう。

トム・フーパー 『リリーのすべて』 アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)はモデルとしてバレエの服装を……。

 きっかけは些細なことから。デンマークでも指折りの風景画家と評価されているアイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)は、妻で肖像画家のゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)のためにバレリーナの服装を身に付けることになる。アイナーはそこで何かを感じてしまう。
 ストッキングの手触りとかシルクの肌着の光沢のようなフェティシズムを感じさせるが、それはあくまできっかけにすぎず、本当の自分探しというテーマのほうが重要なのだろう。アイナーは異性愛者の男性として生きてきたわけだけれど、本当に自分は異性愛者なのか、あるいはジェンダー・アイデンティティ(性自認)は本当に男性なのだろうかという疑問を抱くようになる。
 女装したアイナーはリリーを名乗るようになり、男性の同性愛者であるヘンリク(ベン・ウィショー)と親しくなったりもするのだけれど、アイナー=リリーの自己認識としてはあくまで自分は女性であり、ヘンリクと親しくすることはヘンリクの性的対象が男性であるから問題ないということになるらしい(何だか混乱するけれど)。
 アイナー=リリーの性自認が女性ということになると、アイナー=リリーの身体には余計なものがついていることになるわけで、アイナーが鏡の前で股間の余計なモノを太ももに挟んで女性になってみるという恥ずかしいシーンも切実なものなのだろう。自らそれを切り取って本当の自分の身体になろうとする勇気は尋常なものではないのだから。

 そんなわけでアイナーは性別適合手術を受けて男性器を切除し、女性器の形成を初めて行なった先駆者となる。ちなみにモデルとなったリリー・エルベはそれだけではなく、母親になることを求めて子宮形成の手術までしていたようだ。男性への子宮移植手術は未だに成功していないようで、リリーは前人未到の領域を切り開いたということになるのだろう。
 トランスジェンダーを描いた作品は今では珍しくはない。以前に取り上げた『彼は秘密の女ともだち』『わたしはロランス』などもそうした作品だが、リリーのような先駆者がいなければ後に続く者は現れなかった可能性だってあり得るわけで、先駆者の切り開いた世界は過小評価されているくらいなのかもしれない。

『リリーのすべて』 ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)と女装してリリーとなったアイナー。

 先駆者となったリリーだが、その隣にはそれを支える人物がいる。この作品の感動的な部分は、妻のゲルダの存在によるのだろうと思う。最初のきっかけを作ったのもゲルダだし、遊び半分で女装をさせてさらにそれを助長してしまうのもゲルダなのだけれど、ゲルダの予想を超えた領域まで行き着いてしまうリリーを見放すことがないし、最後までリリーの自由を尊重する。そんなゲルダの支えがなければリリーも先駆者にはなれなかったに違いない。
 原題の「The Danish Girl」というのはもちろんリリーのことを指しているのだろうが、一方でゲルダのことでもあるのかもしれない。この作品でアカデミー賞で助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルだが、ほとんど主演女優と言ってもいいくらいだった。ゲルダはタバコを片手に絵を描き、アイナーには自分から声をかけるくらい男勝りな女性なのだけれど、リリーの前で困惑して涙を流す場面では、ほとんど表情を変えないのに涙だけをポロポロととめどなく流していて妙に感心してしまった。

 監督トム・フーパーは『レ・ミゼラブル』での女優陣(アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド)の描き方があまりにみすぼらしかったのが印象に残っているのだが、『リリーのすべて』ではゲルダにしてもリリーにしてもとても美しく描かれていたと思う。ミュージカルでおとぎ話の『レ・ミゼラブル』のほうはリアルな人物造形で、逆に事実をもとにした『リリーのすべて』のほうは美しく飾り立てているということなのかもしれない。その意図に関してはちょっと測りかねるところもあるけれど……。脇役のウラ(アンバー・ハード)や、ハンス(マティアス・スーナールツ)なんかも妙に見目麗しくて、多分に美化されているところがある話なのだろうとは思う。

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Date: 2016.03.20 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (15)
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