『南瓜とマヨネーズ』 「迷子の誰かさん」って誰のこと?

 監督は『ローリング』などの冨永昌敬
 原作は『strawberry shortcakes』『blue』などの魚喃キリコの漫画。

冨永昌敬 『南瓜とマヨネーズ』 主要キャストの3人。臼田あさ美、太賀、オダギリジョー。


 ツチダ(臼田あさ美)は売れないバンドマンのせいいち(太賀)と暮らしている。バンド仲間とうまくいかず、職もなく、自堕落に過ごしているせいいちのために、ツチダはライブハウスのバイト以外にキャバクラの仕事も始め、尽くす女に徹している。さらにキャバクラで出会った客(光石研)と愛人契約をしてまで稼ごうとするのだが、そのことがバレてけんかになってしまう。その後、せいいちもようやく働き始め、生活も軌道に乗ったかと思うと、ツチダはたまたま出会ってしまった昔の男・ハギオ(オダギリジョー)との関係に夢中になってしまう……。

 ミュージシャンを目指しつつも迷いがあるのか悶々としているせいいちにしても、女にモテすぎるからかヒモみたいな生活をしているハギオにしても、あまり褒められた人間ではないのだけれど、主人公であるツチダのやっていることもまたよくわからない。せいいちに対して尽くす女を演じていたかと思うと、その関係修復もままならぬうちにハギオと一夜を過ごしたりしてしまうのだ。傍から見ていると「何をやっているんだろうか、この女は」と疑問を感じてしまう。
 すると、そんな観客の気持ちを見透かしたかのようにツチダのモノローグが響く。「自分のやってることがわからないよ」と。その後のツチダの行動はちょっと痛々しいものにも感じられる。ハギオとキャバクラの友達・可奈子(清水くるみ)を連れてわざわざ自宅でせいいちの帰りを待つのは悪趣味だし、ツチダはなぜか修羅場となるかもしれない現場で楽しそうな笑いを浮かべているのだ。
 ツチダの行動はせいいちとの関係の息苦しさからなのだろう。ふたりは終わっているのに、それでも居場所がないから一緒に居るしかない。また一方で、ツチダはハギオのことを未だに好きなのも確かなのだけれど、それがいつまでも続くものではないことも理解している。ハギオとの情事は、せいいちとの関係から目をそらすための逃避であり、どちらにも進むことができないツチダの破れかぶれにも映る。計算高くせいいちから別れの言葉を引き出そうというよりは、わけがわからなくてどうでもよくなってしまっているのだ。

『南瓜とマヨネーズ』 ツチダ(臼田あさ美)は売春がバレて、せいいち(太賀)とぶつかることになってしまう。

『南瓜とマヨネーズ』 オダギリジョー演じるハギオはそれほど顔がアップになるわけではないのだけれど、声のトーンやその振舞いでいかにもモテそうに見える。

 『パビリオン山椒魚』『パンドラの匣』『ローリング』などを観ると冨永昌敬は様々な語り口を持つ監督で、観客の興味を惹き付け、作品をリズムにのせることもできるはず。しかし、この『南瓜とマヨネーズ』はどこに向かうのかわからないような感覚がある。というのも、主人公ツチダ自身が自分がやっていることがわからない迷子の状態にあるからなのかもしれない。作品そのものも真っ直ぐに進むわけにもいかずにうろちょろすることになるのだろう。
 冒頭ではいくつかの断片が提示される。誰かが奏でるギターの音、シャワー室の足元のアップとそれに踏みつけられている黒いもの、ショートパンツ姿の女の子たちのおしり、業務用の掃除機の回る様子。これらの断片が何なのかは映画を観始めた観客にはよくわからない。
 断片を散りばめたとしても、たとえば「輝かしい青春の一場面」とか「若者たちの怠惰な日々」とか、何かしらの意味合いを持たせることは可能なはずだけれど、ここでは端的に意味不明なまま進んでいく。
 ギターを弾いているのが誰なのか不明だし、シャワー室で踏みつけられているものが何なのかもわからない(ツチダが客に着せられたスクール水着だろうか)。これらの断片は作品中の一場面なのだけれど、意味連関もなくコラージュされただけで、この作品が何を描いていくのか、どこに向かうのかまったくわからないのだ。
 もちろんこれは意図的なものなのだろう。作品中には劇伴は排除されているし、せいいちも最後の最後まで歌うことはないし、最後の歌ですらパーカッションによる“語り”のようにも聴こえるのだ。(*1)美しい旋律を奏でるように作品が流麗に流れていかないのも、迷子の登場人物を表しているのかもしれない。

(*1) せいいちがギターの伴奏で歌うのは、風呂場でふたつの歌が交差するように歌ったもので、結局きちんと曲を歌い上げることはなかったような気がする。

 最後のせいいちの歌はツチダのためにつくったのではないと語られるのだが、その歌詞のなかに登場する「迷子の誰かさん」はツチダのことを指しているようにも思える。ともかくそれを聴くツチダの泣き笑いは、ツチダがその曲に自分のことが歌われていると感じたからだろう。
 ツチダは独りよがりにせいいちに尽くし、勝手に自滅したわけだけれど、彼の歌が好きなのは本当なのだ。そして、せいいちが自分のこと的確に把握していたことに涙したのだろう。もっとも、迷子なのはツチダの家を出て流浪状態のせいいちも一緒だし、さらに言えばあちこちの女を渡り歩くハギオも同様とも言えるかもしれない。
 途中まではイタい女にしか感じられなかったツチダだけれど、最後にせいいちの歌を聴くころには何ともいとおしい存在に感じられてもらい泣きした(臼田あさ美の泣き笑いの表情がとてもよかった)。何と言うか「迷子の誰かさん」をほかの誰かのことだと思える人はよっぽど満ち足りた人なんじゃないかと思う。とても身に染みる作品。

南瓜とマヨネーズ (FEEL COMICS)


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Date: 2017.11.22 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』 「彫刻の森美術館」で会いましょう

 『ポネット』などのジャック・ドワイヨン監督(『少女ファニーと運命の旅』のローラ・ドワイヨンのお父さん)の最新作。
 今年の11月に没後100年を迎えたという“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダンの半生を描いた作品。

ジャック・ドワイヨン 『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』 ロダン(ヴァンサン・ランドン)のアトリエのシーン。陰影に富んだ撮影が印象的。

 誰でも知っている「考える人」などを製作したロダンの話。邦題では弟子であり愛人でもあったカミーユ(イジア・イジュラン)との関係がクローズアップされているようにも映るけれど、主役はロダン(ヴァンサン・ランドン)である。
 わざわざカミーユの名前が副題につけられているのは、1988年の『カミーユ・クローデル』(イザベル・アジャーニ主演)が映画ファンにはよく知られているからだろう。この『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』でも、カミーユとの関係はやはり重要なエピソードとはなっているけれど、カミーユが精神状態を崩してロダンの人生からフェイドアウトしていったあともロダンの人生は続いていく。
 『カミーユ・クローデル』で描かれたカミーユの生涯がドラマチックな展開をするのに比べると、ロダンの実生活は意外と普通なのかもしれない(女性関係は派手だったようだけれど)。カミーユが全身全霊を込めて彫刻とロダンとの関係に燃え尽きてしまったのとは対照的に、ロダンはカミーユと共に芸術に打ち込みつつも、内妻であるローズ(セヴリーヌ・カネル)とは平穏な生活を送っているようにも見えて、ロダンのズルささえも感じられる。芸術の名の下にそれは免罪されるということなのだろう。
 「ユーゴー像」製作のエピソードでは、ポーズをとることを嫌うユーゴーに対し、ユーゴー宅に居候してまで製作するとか具体的なエピソードはなかなかおもしろい。「バルザック像」の7年もの製作過程も、ロダンの彫刻作品に詳しい人が見ればさらに楽しめる内容を含んでいるのかもしれないとは思うのだけれど、エピソードにあまりつながりはなく伝記的事実の羅列に終わっているようにも……。陰影に富んだアトリエ場面の撮影は良かったと思う。

 なぜか最後は箱根の「彫刻の森美術館」で締めくくられる。ロダンの彫刻が世界中に広まっているということ証しなのかもしれない。ラストシーンでは「バルザック像」が箱根の森の緑のなかに据えられており、その向こうの空には「人とペガサス」という像が捉えられている。「人とペガサス」はロダンの助手であったカール・ミレスという彫刻家の作品で、個人的にちょっとは思い入れがある彫刻でもあったので、意外なところでロダンとつながりを感じたりもした。

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ジャック・ドワイヨンの作品
Date: 2017.11.19 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (1)

『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 東出宇宙人大活躍の巻

 『散歩する侵略者』のスピンオフドラマの劇場版。
 WOWOWにおいて全5話で放映されたものを140分にまとめたもの。

黒沢清 『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 主役の三人。東出の役は『散歩する侵略者』のときとは別のもののようだ。

 『散歩する侵略者』と設定は同じで、ほぼ同じころに別の場所で起きていたことを描いていく。主人公の山際悦子(夏帆)の周囲の人物が普段と何かしら違うように感じられるという描写から始まる。夫の辰雄(染谷将太)はベランダから遠くの空を見てぼんやりしているし、同僚のみゆき(岸井ゆきの)は家に幽霊みたいなものがいると助けを求めてくる。
 『散歩する侵略者』を観ている人ならば、彼(女)らは宇宙人に乗っ取られたのか、あるいは何かしらの“概念”を奪い取られてしまって腑抜けになったのだろうと推測することになる。なぜか勘の鋭い悦子は、そうした不穏な予兆を感じ取り怯えることになる。

 ※以下、ネタバレもあり!


『予兆 散歩する侵略者 劇場版』 真壁(東出昌大)は悦子(夏帆)から“概念”を奪おうとするのだが……。

 夫の辰雄が何かしら怪しいように感じられたのは、実は彼は宇宙人のガイドであり、職場の医師・真壁(東出昌大)により支配されているからだ。辰雄は真壁に右手に苦痛を埋め込まれ、それによりガイドとなることを強要されている。辰雄は真壁が概念を奪うターゲットを選別する役割を担うことになり、辰雄が気に入らない人間から順に真壁の餌食となる。この状況を利用すれば神のように振舞うことすらできるかもしれないのだが、辰雄は人間ではなく宇宙人の側に味方することに耐えられなくなっていく。
 『散歩する侵略者』ではガイドの桜井(長谷川博己)がなぜか宇宙人と友情を育んでしまうことになっていたが、『予兆』の辰雄のほうがより一般的な態度なんじゃないかとも思う。桜井は一匹狼的存在だったから例外であり、人間としてはこっそり敵側のスパイとなるような状況は耐え難いからだ。

 もともと観客を劇場へと走らせるための壮大な予告編という意味合いもある『予兆 散歩する侵略者』だけに、『散歩する侵略者』と並べると目新しい感じもないのだけれど、『予兆』には最強の宇宙人たる東出昌大がいるところが見どころだろうか。
 東出の無表情は傍若無人な振舞いもよく似合うし、死の概念を知ってなぜか無邪気に喜んでみたりするところも妙におかしい。黒沢監督も東出宇宙人が気に入ったのか、真壁はほかの宇宙人にはないほどのしぶとさがあり、いつまでも悦子たちを苦しめることになる。悦子を演じる夏帆が激しくふっ飛んでいったときには、「東出、やり過ぎ!」とスクリーンにツッコミを入れたくなった。
 概念を奪うときの光の演出とか、風に揺れるカーテンなど、黒沢清らしさが十分に楽しめる作品になっている。冒頭に登場する山際夫妻のベランダのつくりもおもしろいし、いつものように廃墟も登場する。夏帆が銃を構えつつゆっくりとそこを移動していくのは、廃墟をたっぷり見せたいがためのものとすら感じられた。
Date: 2017.11.14 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『彼女がその名を知らない鳥たち』 谷崎的マゾヒズムの世界?

 原作は『ユリゴコロ』などの沼田まほかるの同名小説。
 監督は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』などの白石和彌

白石和彌 『彼女がその名を知らない鳥たち』 十和子(蒼井優)と陣治(阿部サダヲ)の関係は愛なのか?


 十和子(蒼井優)は陣治(阿部サダヲ)の家に居候している。働きもせずに陣治がくれるわずかばかりのお小遣いで自堕落な生活をしているのだ。彼女は8年前に別れた男・黒崎のことを未だに引きずっているようで、ある日、彼とよく似た水島という男と出会い、彼との情事に溺れていく。

 十和子と陣治の関係はちょっと不思議なものにすら感じられる。十和子からすれば陣治はかなり歳の離れたおじさんだし、何と言っても陣治は薄汚いからだ。食事の際には差し歯をはずしてテーブルの上に置いてみたり、臭ってきそうな靴下を脱いでみたりと、女性が嫌がりそうなことばかりしているのだ。
 十和子はそんな陣治に依存して生きている。家事などは何もせず水島(松坂桃李)との不倫関係に夢中になる十和子は、陣治のことを利用しているようにしか見えない。それでも陣治は「十和子のためだったら何でもできる」と言い切ってはばからない。
 陣治はなぜそこまで十和子に尽くすことができるのか。そこには過去の男・黒崎(竹野内豊)のことが関わってくるらしい。実は黒崎は失踪してしまったというのだが、その失踪事件には陣治が関わっているのかもしれない。陣治はいったい何をしたのか?

 ※ 以下、ネタバレもあり!
 

『彼女がその名を知らない鳥たち』 十和子は黒崎(竹野内豊)との再会を妄想するのだが……。

『彼女がその名を知らない鳥たち』 水島(松坂桃李)との情事に溺れていく十和子だが、結局都合のいい女なのかもしれない。

 それまでのふたりの関係が一変するしたようにも感じられるところは感動的でもあったのだけれど、陣治の最後の行動が予想外にも感じられて戸惑ってしまった。というのも、ふたりの関係を見ながら私が勝手に思い浮かべていたのは、『春琴抄』とか『痴人の愛』なんかの谷崎潤一郎の世界だからだ(谷崎の影響下にある映画『月光の囁き』なんかも)。
 『春琴抄』『痴人の愛』には谷崎潤一郎という男性作家による女性崇拝の色合いも濃く、どんなに酷い目に遭っても崇拝する女性によって恍惚とさせられる瞬間があったはずだ。しかし『彼女がその名を知らない鳥たち』の陣治にはそんな瞬間があっただろうか。ただひたすらに十和子に尽くすばかりで報われることが皆無だったようにも思うのだ。十和子の笑顔が見られればなどとは言うものの、陣治はちょっといい人過ぎないだろうか。
 もっともこの作品に谷崎的なマゾヒズムを読み込んだのは私の勝手な思い込みであって、単にそれは間違いだったのかもしれない。というのはこの作品の原作は沼田まほかるという女性作家によるものだから。ちなみに白石監督も原作を最初に読んだとき、ラストには疑問を持っていたようだ(この記事を参照)。白石監督は男性目線で原作を読んでいたのだろう。
 この作品の主人公はもちろん十和子であり、十和子の視点ですべてが描かれている。十和子はすでに死んでいる黒崎と幻想のなかで海辺に遊んだり、水島との情事の後ではタッキリマカン砂漠の妄想を抱いたりもする。そんな十和子の妄想のひとつとして陣治という男も存在しているのかもしれない。
 十和子は男にだらしなく、自制心にも欠けるどうしようもない女だ。それでも、そんなダメな十和子のことを真摯に気にかけてくれる陣治のような男に出会うこともある。そんな原作者の妄想がこの作品に結実しているようにも感じられたのだ。とはいえ陣治の行動が十和子の幸せにつながっていったのかどうかは微妙なところでもあるのだけれど……。

 ラストに関しては微妙だけれど、登場してくるキャラは色合い豊かで楽しめる作品だったと思う。世間では不倫関係がバレただけでタレントなんかは散々な目に遭うことになっているのに、この作品でのキャラクターのクズっぷりはとんでもない(特に竹野内と松坂の演じた男ども)。世間の共感なんか「クソ喰らえ」とでもいうこの作品の姿勢にはかえって好感を抱く。
 白石監督はロマンポルノのリブート作品『牝犬たち』なんかも撮っているからか、結構艶かしい場面もあった。そんななかで蒼井優も大人になったということなのか、『オーバー・フェンス』以上にかなり際どい場面も演じている。蒼井優が女子高生役だった『リリイ・シュシュのすべて』は15年以上も前の作品なのだなあとちょっと感慨に耽ったりもした。

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Date: 2017.11.11 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『ノクターナル・アニマルズ』 衝撃的な冒頭と味のあるラスト

 監督・脚本は『シングルマン』でデビューしたトム・フォード。トム・フォードは有名なファッションデザイナーで、『007』シリーズにもスーツを提供しているのだとか。
 原作はオースティン・ライトの同名小説。

トム・フォード 『ノクターナル・アニマルズ』 スーザン(エイミー・アダムス)はアートギャラリーのオーナーとして成功をつかんでいる。その後ろにあるのは……。
 

 アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、ある日、元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から彼が書いた小説が送られてくる。「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」というタイトルのその小説は、暴力的な内容のものだった。エドワードは20年も経ってなぜそんなものを送ってきたのか?

 スーザンは今の仕事ですべてを手に入れているはずなのだが、それでも満たされないものがある。現在の夫ハットン(アーミー・ハマー)はほかの女と浮気をしており、スーザンとの関係は上辺だけのものとなっているのがその一因かもしれない。
 そんなときに元夫エドワードからの小説が送られてくる。タイトルの「ノクターナル」とは「夜行性の」という意味。エドワードはかつてスーザンのことを「夜の獣」と呼んでいたのだという。今現在のスーザンは不眠症で、ほとんど寝ていない状態にあるのも「夜の獣」という呼び名に相応しいとも言えるかもしれない。

◆作品の構成
 この作品は重層的な構成となっている。「スーザンの現在の生活」、「小説『夜の獣たち』の世界」、「スーザンによる元夫との回想シーン」、この3つのパートが絡み合う。満たされない生活の空虚さが小説を読ませ、その内容が現在の生活を脅かしたりもしつつも、それを書いた元夫との過去の出来事を想い起こしたりもしながら展開していく。
 おもしろいのはスーザンが眠れぬ夜を過ごすために読むことになる小説『夜の獣たち』のパートでも、その主人公をジェイク・ギレンホールが演じていることだろうか。小説『夜の獣たち』の主人公トニーと、それを書いているエドワードは同一人物ではないのだが、スーザンはほとんど同一視しているのだ(このパートはスーザンが小説を読み、頭のなかで映像化されたものということだろう)。
 エドワードが書いた小説について、スーザンは「自分のこと以外を書くべき」などとアドバイスをしていたりもしたわけで、スーザンにとってはエドワードが書く小説の登場人物はどうしてもエドワードの姿に思えてしまうということだろう(エドワードは未だに自分をモデルとした小説を書いているということでもあるかもしれない)。

 それからこれは単に私の勘違いなのだけれど、劇中劇である『夜の獣たち』においてトニーの妻を演じているのもエイミー・アダムスだと思っていたのだ。実際トニーの妻を演じているのはアイラ・フィッシャーという女優さんである。彼女はスーザン役のエイミー・アダムスとよく似ていて、ネットでふたりの名前を検索すると「まるで双子」などと出てくるから、似ている人物を選んでいるのだろう。スーザンは元夫が書いた小説のなかの主人公を元夫と同一視し、その主人公の妻を自分によく似た誰かと考えているのだ。
 とにかくスーザンはエドワードが書いた小説が、かつて夫婦であった自分たちをモデルとして描かれていると推測していることは確かだ。スーザンは小説のなかのトニーの妻とその娘が殺されたことに驚き、自分の娘に電話をして安否を確認したりもしているからだ。
 
 ※ 以下、ネタバレもあり!

『ノクターナル・アニマルズ』 劇中劇の『夜の獣たち』はテキサスが舞台となる。

◆小説『夜の獣たち』についてのあらまし
 トニーという主人公は妻と娘を乗せてハイウェイを走行中、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)と仲間たちに襲われる。舞台となるのは誰もいない夜のテキサスで、妻と娘は暴漢たち拉致されて残虐に殺されることになる。
 トニーは妻と娘を助けることはできなかったわけで、その弱さを悔やむことになるわけだけれど、肺がんで余命1年という保安官(マイケル・シャノン)の助けを借り、法律を犯してまで復讐を果たすことになる。しかし同時にトニーという主人公自身も死んでしまうことになる。

◆エドワードとスーザンの過去
 回想で描かれるスーザンはエドワードと同様に芸術に関心を抱く学生だったのだが、自分の才能を信じることができずに方向転換する。エドワードとの関係も同様だ。ゲイの兄を認めないような保守的な両親の考えを否定しようとして、スーザンは母親が反対するエドワードと結婚することになるのだが、ここでも方向転換することになるのだ。エドワードはいつになっても芽が出ずに、もとのブルジョアな生活が懐かしくなったのか、スーザンはエドワードとの子供を堕ろして彼を棄てることになる。

◆ラストの解釈
 ラストシーンではエドワードとの再会を約束したスーザンが寂しく待ちぼうけを食うことになる。エドワードは約束をしておきながら、それをすっぽかしたのだ。わざわざ小説を送りつけたのは“復讐”だったと考えるのが一番すんなりくるのではないだろうか。
 スーザンは小説『夜の獣たち』の完成度を褒め称えていたけれど、エドワードがそれに込めた意味合いにはその時点では気づいていない。スーザンは恐らく小説の登場人物のなかでは主人公トニーの妻と自分を重ね合わせている。それは小説のなかでは被害者の側となるわけだけれど、作者であるエドワードの意図は違う。エドワードはスーザンがやったことは小説のなかの暴漢レイがやったことと同じなのだと仄めかしているのだ。
 スーザンはエドワードの子供を殺すことで今の優雅な生活を手に入れた。それによってエドワードは小説のなかのトニーと同じように精神的には死んだということなのだろう。それと同時にトニーは自分の側に正義があると信じ復讐を完遂したのと同じように、エドワードも復讐をやり遂げることとなったわけで、エドワードはスーザンが自分のやったことの酷さに気がついていないことも復讐計画の一部に組み込んでいたということなのだろう。

 復讐が完遂したことでさすがに鈍感なスーザンだって自分の能天気さに気がついただろう。待ちぼうけの間にスーザンがどんなことを思い巡らしたのかはわからないけれど、エドワードはそれをどこかで見ていたのかもしれないし、あるいは小説同様に死んでしまったりしたのかもしれない。そのあたりを余韻のなかで感じさせるラストはなかなか味がある。
 それにしても冒頭のアレは衝撃的だった。スーザンの仕事のジャンクさを示しているのかもしれないのだけれど、そのインパクトに仰け反った。スーザン自身も回想シーンでは美しいのに、現在の場面では妙にけばけばしくてグロテスクにも見えてくるのもそのインパクトが効いているからだろうか。

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Date: 2017.11.06 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (3)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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