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『アクアマン』 見た目はヒールなヒーロー

 監督は『ソウ』『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン
 『ジャスティス・リーグ』などのDCエクステンデッド・ユニバースの第6作目。

ジェームズ・ワン 『アクアマン』 ジェイソン・モモア演じるアクアマンは、トライデントを手に入れて大見得を切る。

 『ジャスティス・リーグ』で初めてお目見えしたアクアマン。そのマッチョぶりはほかのヒーローたちと比べても際立っていた。というか、ほかのヒーローが様々なコスチュームに身を包んで着飾っているのに対し、アクアマンは半裸だからそんなふうに見えるわけだが……。
 アクアマンを演じるジェイソン・モモアは、ハワイ生まれのアイオワ育ちで先住民の血をひいているのだとか。長髪にタトゥーという風貌はプロレスで言えばヒール(悪役)風でもあり、地元で寄ってくる連中もそうしたいかつい奴らばかりというのもおもしろいところ。
 ブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)との因縁が描かれるエピソードは、ジェイソン・モモアのマッチョな身体が活かされた場面だった。アクアマンの武器といえば矛なのだけれど、この時点では由緒正しき三叉槍(トライデント)は持っていないわけで、肉体そのものが武器と言わんばかりに海賊たち相手に肉弾戦を展開する。しかもプロレスラーのように“受け”を重視していて、パンチもまったく効かないし、銃弾すらも跳ね返して「何でもない」という表情。雑魚を蹴散らしていく闘いが気持ち良かった。
 物語は海のなかの七つの国を巡ったり、なぜか空を飛んでみたり、シチリアで大暴れしてみたりとあちこちへと飛ぶ。それぞれ独特の世界観を持つ七つの国の造形はそれなりに見せるし、『スター・ウォーズ』のストームトルーパーのような兵隊たち(登場の仕方がいい)とか、『インディ・ジョーンズ』のような謎解きもあって盛りだくさんな内容だった。トライデントを手に入れアトランティス王として大見得を切るあたりが一番の見せ場だろうか。最後に右手を突き上げるシーンはまるで猪木のようでもあった。さすがに140分は長すぎだけれど、楽しめる作品になっている。
 目が覚めるほどの赤い髪のアンバー・ハードも魅力的だし、貫禄で女王を演じたニコール・キッドマンもいい。大物みたいな雰囲気を漂わせつつ何もしなかったドルフ・ラングレンや、仏様のような髪型のウィレム・デフォーなど脇役も賑やかだった。
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Date: 2019.02.16 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『バーニング 劇場版』 “見えるもの”と“見えないもの”

 原作は村上春樹の短編「納屋を焼く」(『螢・納屋を焼く・その他の短編』所収) 。
 監督は『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』などのイ・チャンドン
 タイトルに劇場版とあるのは、昨年末にNHKでドラマ版が放映されたから。ドラマ版は劇場版の148分より50分くらい短いとのこと。

イ・チャンドン 『バーニング 劇場版』 ジョンス(ユ・アイン)の家の前で飲み明かす3人の姿。

 原作は30ページ程度の短編。小説家らしい主人公(映画ではジョンス)はある金持ちの男(映画ではベン)から「ときどき納屋を焼くんです」と聞かされる。そして次のターゲットの納屋はこの近くだと宣言されて、主人公は納屋を巡ることになるのだが、一向に焼けた納屋を見つけることはできないという話。
 80年代に発表された原作だが、映像化された作品は舞台が現在の韓国へと変更されている。私はドラマ版を観ていないのだが、ドラマ版は原作に忠実らしい。一方で劇場版では、原作では仄めかされる程度だった部分を明確に掘り下げていき、原作にはなかったラストを描いている。

◆“見えるもの”と“見えないもの”
 原作でも劇場版でも印象に残るのはヘミの言葉。ヘミ(チョン・ジョンソ)はパントマイムを習っていて、それをジョンス(ユ・アイン)の前で披露する。何もない居酒屋のテーブルでみかんを食べるというパントマイムをしてみせるのだ。ヘミは一番大事なのは「(みかんが)ないことを忘れる」ということなのだと言う。
 みかんをむいて食べるということは、実際にみかんがあればもちろん誰にでもできる。それをパントマイムでやろうとするときは、実際にはないみかんを「あると信じる」ことで成り立つと考えるのが一般的なのかもしれないのだが、そうではなくて「ないことを忘れる」ことが秘訣なのだとヘミは語るのだ。
 「あると信じる」ことと、「ないことを忘れる」こと。この違いが何なのかは私にはよくわからないのだが、イ・チャンドンはこれを“見えるもの”と“見えないもの”の対比と解釈している。劇場版にはそうした対比があちこちに顔を出す。ヘミの飼っているネコは人見知りで、ジョンスがやってくるとどこかに隠れてしまって見えなくなってしまう。それから韓国の南北問題はベン(スティーヴン・ユァン)の暮らす都会ではほとんど見えることがないのだが、ジョンスの暮らす田舎では見えやすい。ジョンスの家は山ひとつ越えたところに国境線がある地域にあり、北朝鮮が韓国に向けて流しているプロパガンダ放送が常に聞こえているからだ。そして後半になるとヘミも姿を消して見えなくなってしまう。

『バーニング 劇場版』 ヘミ(チョン・ジョンソ)は夕暮れのなかで踊りだすことになる。山の向こうは北朝鮮らしい。

◆韓国の3人の若者像
 ジョンスがギャッツビーのようだと評するベンは、洒落たマンションとポルシェなど、金で買える物ならすべてを持っている。ただそれだけでは飽き足らないのか、「ときどきビニールハウスを燃やしている」ことをジョンスに告白する。
 ヘミはアフリカでベンと知り合うことになったわけだが、ヘミはアフリカの部族からリトルハンガーとグレートハンガーの違いを学んでくる。リトルハンガーとは空腹な人であり、グレートハンガーとは人生の意味を探している人のことだ。
 ベンが物だけでは飽き足りず放火という犯罪に手を染めるのは、“見えないもの”を追い求めていることになるのだろうし、ヘミはグレートハンガーとして“見えないもの”を追って彷徨っている人と言えるだろう。
 もうひとりのジョンスは母親には捨てられ、父親は裁判沙汰になり拘束されている。その父親は、弁護士曰くプライドが高すぎて失敗したということになっている。プライドとはもちろん“見えないもの”であり、ジョンスはそうした血を受け継いでいることになり、3人が3人とも“見えないもの”に囚われているとも言えるのかもしれない。

◆曖昧さ? 複雑さ?

 劇場版独自の結末について触れておけば、ジョンスはヘミの失踪をベンの放火という行為に結びつける。「ビニールハウスを焼く」というのはメタファーであり、ヘミはベンによって殺されたのではないかと考えるのだ。
 ちなみに原作ではジョンスは「ないことを忘れる」というヘミの言葉通り、ヘミの失踪そのものを忘れかのように、追跡をあきらめてしまったままで終わっている。それが劇場版では、“見えないもの”であったはずのネコが姿を現したことで、ジョンスはヘミの失踪をベンの殺人行為へと結びつける。“見えないもの”は一時的に見えないだけで探せば出てくるはずで、いつまでも“見えないもの”のままというのはヘミは消されてしまったということなんじゃないか。そんなふうにジョンスは考えたのかもしれない。
 ただ、そうした解釈は多くの読みのなかのひとつでしかない。小説家志望のジョンスは消えたヘミの部屋で小説を書き始めているわけで、ラストのエピソードはジョンスが描いた小説の話という可能性もあるからだ。ほかにもそうした曖昧さは見られ、ジョンスが幼いころにビニールハウスを焼いているという場面は、ジョンスとベンが同一人物なんじゃないかという疑いすら抱かせたりもする。実際には、ジョンスが出て行った母親の服を父親に焼かされたというエピソードと、ベンの話が奇妙に交じり合ってそうした幻想になっているということなんだろうと思う。
 ジョンスのベンに対する気持ちは、当然ながら愛しているヘミを奪われたという嫉妬はあるだろうし、貧困層であるジョンスから富裕層であるベンに対しての羨みもある。ただそれだけでは足りなくてジョンスは、ビニールハウス巡りをしているうちにベンの悪癖である放火を自らもやってしまいそうにもなる。ここではジョンスはベンと一体化していくようでもあり、そうした複雑なあれこれが最後の行為へと結びついていくことになる。

 イ・チャンドンは信頼できる監督であり、どの作品も傑作揃いと言ってもそれほど言いすぎではないだろう(『グリーンフッィッシュ』は未見だが)。『バーニング 劇場版』も148分という長尺でも観るべき価値がある作品となっている。村上春樹の原作ということで、ジャズなど村上春樹っぽいテイストを交えたり、水の枯れた井戸などの村上春樹的アイテムを取り入れつつも、独自の作品に仕上がっていたと思う。夕暮れの庭でジャズ(マイルス・デイヴィスの曲とのこと)を聴きながらヘミが踊るシーンは特に印象深い。
 ただ、ちょっと気になってしまったのは村上春樹の選んだメタファーの部分。「納屋(ビニールハウス)を焼く」という行為が、なぜ殺人のメタファーになるんだろうか。私が昔この短編を読んだときには、まったくそうしたメタファーとは気がつかなかったような気がする。もともとはウィリアム・フォークナーの短編に「納屋を焼く」という意味の「Barn Burning」という作品があるらしいのだが、これは韻を踏んでいるからわかるのだけれど……。

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Date: 2019.02.11 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (0)

『七つの会議』 ゴジラの人が破壊したもの

 原作は『半沢直樹』『下町ロケット』などの池井戸潤
 監督は上記のテレビドラマを演出した福澤克雄
 キャストは野村萬斎香川照之及川光博片岡愛之助朝倉あきなどから始まって、ゲスト的な扱いで様々な大物も顔を見せる賑やかさ。
 主題歌はボブ・ディラン「Make You Feel My Love」

福澤克雄 『七つの会議』 野村萬斎以下豪華なキャスト陣。

 『半沢直樹』『下町ロケット』などのドラマは見てはいないし原作も読んでいないのだけれど、世間でやたらと流行っているくらいということくらいは聞こえてくる。本作もそうした人気コンテンツのひとつなんだろう。
 社会学者・大澤真幸がどこかで書いていたことには、『半沢直樹』はすべてがことごとくリアルなのだけれど、その主人公である半沢直樹という人物が例外的にリアリティを欠いているのだとか(どの本に書いてあったかも忘れたから、以下想像も交えて記す)。これは半沢直樹のキャラがリアルではないからダメだと言っているわけではない。というか誰もが半沢直樹のように会社で振舞ってみたい。しかし現実にはそんなことはもちろん無理。そんな気持ちがあるからこそ半沢直樹の倍返しに誰もが快哉を叫ぶことになる。

『七つの会議』 八角(野村萬斎)と対立する北川(香川照之)。

 これはそっくりそのまま『七つの会議』の主人公八角にも当てはまることのように思えた。八角を演じるのは野村萬斎である。野村萬斎は狂言師として知られ、あの『シン・ゴジラ』でゴジラを演じた人でもある。野村萬斎は八角という人物を単なるぐうたら社員ではなく、狂言のなかの登場人物として演じているようだ。立ち振る舞いは異様だし、漫画の擬音でもあるかような笑い方もおよそリアリティに欠ける。もちろんこれは演出なんだろう。
 というのも『七つの会議』で描かれるような日本の会社の実情は、まったく馬鹿げた話だけれどリアルな話だろう。部下が嘔吐するほどのパワハラ、ライバル同士での足の引っ張り合い、下請けへの無理強い、同業他社を出し抜くための偽装工作と隠蔽などなど。本作では滑稽なくらいにデフォルメされているようにも見えるけれど、会社の内部の人からすれば心情的にはリアルなものと言えるかもしれない。そんな馬鹿げた何かに日本の多くのサラリーマンが(つまりはほとんどすべての働く世代の人々が)苦しめられているということなのだろう。
 かつては日本のやり方が絶大な効果を生んだこともあった。それでもさすがに変えていったほうがいいだろうというのが誰もが心のなかでは思うこと。しかしそれが変えられないのが日本の企業ということでもあるのだろう。そこに登場するのはおよそリアリティを欠いた居眠り八角という主人公で、彼は会社の不正を暴くことになる。八角はクビを恐れないし、それでいて会社に対する忠義を忘れることもなく、最後の最後まであきらめることはない。
 そんな人物がどこに居るのだろうか。いや、居るわけがない。そんな反語的表現が最後の八角の独白だったようにも思えた。というのも、ここでの八角はそれまでとは一変するような語り口で、ここでは製作陣の気持ちが込められているようにも感じられたからだ。最後に八角は日本社会に不正も隠蔽もなくならないでしょうと語る。その理由として挙げられるのは武家社会の幕藩体制が今なお続いていること。藩から出て生きていくことは難しく、藩のなかにいれば守られる。そうした意識が会社組織のなかにも残っているからだと分析する。威勢のよかったキャラの突然の心変わりも、八角みたいな存在があり得ないということを示しているかのようだった。
 豪華キャスト陣の顔芸が楽しめる作品で、やはり香川照之のそれはわかっていても見てしまう。

七つの会議 (集英社文庫)


Date: 2019.02.10 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (4)

『赤い雪 Red Snow』 紅白だけどめでたくはない話

 映像作家・アートディレクターの甲斐さやかの脚本・監督作。

甲斐さやか 『赤い雪 Red Snow』 主演の永瀬正敏以下、出演陣は意外と豪華。

 ある雪の降る日、少年が行方不明になる。その少年の兄である白川一希(永瀬正敏)は、弟を追いかけていき見失ったということだけを覚えている。あの日、一体何があったのか?
 30年も前の出来事のことを追って記者の木立(井浦新)がその村にやってくる。木立はその出来事の目撃者である江藤早百合(菜葉菜)の居場所を見つけたらしく、その事実を持って白川のところにやってくる。
 白川の弟が行方不明となった日には火事も起きていて、そこからは少年の骨も出てきたという。その日を境に村から姿を消した早百合とその母親が、失踪と火事の両方に関わっているというのが木立の見立てなのだ。それに対し白川は、何も覚えていないし、目撃者にも会いたくないというのだが……。

 ※ 以下、ネタバレもあり!

『赤い雪 Red Snow』 弟が消えたアパート付近では雪に赤サビが交じり合って赤い雪になっている。

 冒頭、真っ白な雪のなかを赤いセーターを着た少年が駆けてゆく場面が印象的。兄である白川はその赤い点のような姿を追いかけていくのだが、曲がり角で見失ってしまう。弟はどこに消えたのか。
 これが本作の始まり部分なのだが、この部分はゲームの『サイレントヒル』の導入部とよく似ている。タイトルにもなっている“赤い雪”というのは、弟が消えたアパート付近で赤サビが雪に交じり合っている状態のことを指すのだろう。このあたりの雰囲気も『サイレントヒル』の裏世界を意識しているように感じられた。
 冒頭シーンでちょっと凝っているのは、弟を追って走っていく白川の姿は見えないのだが、息づかいが途中から変わるところ(記憶違いかもしれないが)。最初は永瀬正敏演じる大人になった白川のものだが、途中から少年時代のそれへと変化するのだ。これは大人になった白川がうなされるように見ている夢と、少年のときに体験した記憶の部分がつながっていくという演出だ。そして、ゲームというかアニメのようでもある夢の部分から、いつの間にかに写実的な映像へと変化していく。白川は未だにあの出来事に縛られているのだ。

 ちなみに白川は漆塗りの職人であり、何度も塗りなおしていく漆の赤と、降り積もっていく雪の白さのイメージは重なってもいる。共に下にあるものを隠してしまうという点で似通っているのだ。そこに何が隠れているかと言えば、あの出来事にまつわることになる。白川が漆を剥がして漆器の木目が露になり、白川と同様にあの出来事に執着する理由を持っている木立が雪を掘り下げていくと、隠されていたもの顔を出してしまうことになる。
 知らなければ済んでいたのに知ってしまうと耐えがたいというのは、オイディプスっぼいと言ったら言い過ぎだろうか。だから都合よく記憶喪失になって自分を守るという防衛規制もあったわけだが、妙な横槍が入って悲劇は拡大してしまう。

 悪女というよりは愛想のない荒んだ女を演じた菜葉菜の印象がこの『赤い雪 Red Snow』のトーンとなっていて、何とも陰鬱な作品となっている。母親役の夏川結衣もこれまでとはまったく違う役柄で、出番が少ないのがちょっと惜しいところ。佐藤浩市は普通のおじさんっぽく見えるのだが、実は諸悪の根源とも言うべき役柄で、これを楽しそうに演じている。
 すべては巡り合わせでひとつのピースでも違ったら、こんなことは起きなかった。そんなことを述べさせる物語は果敢に攻めている。そこは悪くはないのだが、正直なところ説得力には欠けるところがあるように感じられた。
Date: 2019.02.06 Category: 日本映画 Comments (0) Trackbacks (1)

『サスペリア』 ダンスが凶器?

 1977年の『サスペリア』(ダリオ・アルジェント監督)のリメイク。
 監督は『君の名前で僕を呼んで』などのルカ・グァダニーノ

サスペリア

 オリジナルの99分に対して本作は152分ということで1時間近くも長くなっていて、まったく別物に仕上がっている。オリジナル版では原色そのままのどぎつい色合いとゴブリンの音楽が強烈なインパクトだった(特にテーマ曲は一度聴いたら忘れられないほど)。一方の今回のリメイクは地味な色合いの重厚なつくりで、かなりのアート志向なのだ。似たようなリメイクをやっても意味はないわけで、これは正解だったんじゃないかと思う。
 ダリオ・アルジェント版の『サスペリア』は実は3部作となっているのだそうだ。『インフェルノ』(1980)『サスペリア・テルザ 最後の魔女』(1977)という続編があるようで、そちらも含めてのリメイクとなっている模様。

◆リメイク版に追加されたのは?
 152分という長尺となって付け加わったのは、1977年当時のドイツの政治的な状況だ。そのころはまだ東西ベルリンが分断中で、舞台となる舞踏団の学校もベルリンの壁のすぐ近くにある。そして、「ドイツの秋」などと呼ばれるバーダー/マインホフが起こしたテロ事件がニュースで取り上げられている。
 登場人物のひとりクレンペラー(ティルダ・スウィントン)という精神科医は、ナチスの第三帝国やバーダー/マインホフがやろうとしていることを妄想だと指摘する。舞踏団から逃げ出したパトリシア(クロエ・グレース・モレッツ)が、舞踏団が魔女に支配されていると語るのも、そうした妄想の一種だと考えている。人は妄想を抱くことで何とか生きていける場合がある。第一次大戦で敗れたドイツがナチスを政権に押し上げたように。
 それでは魔女というのは一体何か。“魔女狩り”という現象にも表れているように、魔女というのは社会から排除された存在だ。実際には魔女はいないのだが、その社会にとって耐え難い出来事があったとき、異端である人々がその元凶とされ、スケープゴートとしての魔女が生み出されることになる。そして、現実のドイツで排除されたのはユダヤ人たちだった(実はクレンペラーはユダヤ人)。人は妄想に頼ってしまう場合があるが、その妄想によって排除される人もいる。それが魔女であり、ユダヤ人だということだ。
 ただ、本作の魔女は比喩ではなくて本物である。魔術を操り多大な力を持つ存在だ。最後には魔女として覚醒した主人公スージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)は、事件の証人たるクレンペラーの記憶を消す。その時、スージーはこんなふうに語る。「私たちは恥と罪を必要としています。しかしあなたのものではありません」と。このスージーは神のような視点からドイツの歴史を見ているようにも思える。つまりはこの作品の魔女は、二種類いるということかもしれない。メタファーとしての魔女と、リアルな力を持つ魔女と。だから、何だかややこしい。それでもドイツ社会の縮図が表現されていることに間違いない。

サスペリア2

◆ダンスが凶器?
 オリジナルでは魔女の呪いによって、何者かがナイフを使ったり、犬が殺しを代行したりしていたわけだが、今回はもっと凝っている。『キネマ旬報』の「キネ旬レビュー」では、「常軌を逸したカットつなぎが連打され、しかもカット尻が全部少しずつ短い感じがあって、それだけでまず観る側の神経をおかしくする趣向」という評価がされていた。
 とにかく何か異様なものを見ているという感じがして、それがショッキングなシーンへと結びついていた。舞踏団のダンスやスージーの過去、性的なものや何だかわからない禍々しい映像、そうしたものが隣接するイメージでつらなっていくようでもあった(一度観ただけだから曖昧だが)。
 そのショッキングなシーンというのがダンスでの殺人シーンだ。マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)に術をかけたれたスージーが踊り出すと、別室に閉じ込められているオルガの身体もそれに合わせて動き出し、ダンスが殺人へとつながるのだ。
 ここはひとりでバックドロップをやってみせるオルガ役の女優さんの身体能力もすごかったのだが、最後はひとり卍固めのようになってしまう。しかもオルガは息も絶え絶えながら生きていて(だから殺人シーンではないのだが)、後の儀式に使われるという残酷さ。ラストの血みどろシーンはグチャグチャでもはや何だかよくわからなかったけれど、ダンスでの殺人シーンだけでも十分にスゴいものを観たという気がした。

 それからエンドクレジット後のスージーの仕草も謎めいている。公式サイトには町山智浩の推測も交えた解説動画がアップされている。それによればスージーが最後に手をかざしているのはベルリンの壁だとか。

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Date: 2019.02.02 Category: 外国映画 Comments (0) Trackbacks (2)
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新作映画(もしくは新作DVD)を中心に、週1本ペースでレビューします。

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